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無限懲罰房 第6話 【TEXT TOP】

「無限懲罰房」の扉を掘り当てた2日後、金属切断用のバーナーを知り合いの関連業者から借り私は作業を再開した。
昨日、つまり私が下宿へ出向かなかった間は特に異変はなかったようだが、聞くと女将や住民のほぼ全員が下宿とは別の場所で夜を明かしたという。
私が穴を掘った事により音と振動がより間近で不気味に感じるような気がしたからだそうだ。
また女将はその間に元刑務所の職員の所在を探し当て「無限懲罰房」についての情報を得ようと試みたが、
調査を行うにはあまりにも時間が経ち過ぎており何の手掛かりも掴む事が出来なかったと渋い顔をした。

作業を開始して10分も経たないうちに扉の閂は切断された。
扉を蹴飛ばすと耳障りな音と共に開かれ、向こう側の闇の世界は外の世界と繋がった。

予想通り、更に地下へと続く階段が現れた。
明かりを点し私は野次馬として見に来ていた女将と何人かの住民の方を振り返ったが、やはり誰もついてくる者はいないようであった。
20メートルぐらい降りたところで、再び鉄の扉が現れた。
いかにも監獄の扉といった無愛想な作りで、備え付けられている錠は入り口の扉のそれよりも遥かに厳重であり
房に閉じ込められている化け物がいかに娑婆へ解き放たれる事を拒まれていたかが分かった。
錠にバーナーをあてがい切断作業を開始した途端、扉の向こうから野獣の咆哮のような声が聞こえてきた。バーナーの音に反応を示したようだ。
かくして錠が完全に切断され、私は扉をこじ開けた。

化け物。
背丈と同じくらいまで伸び、見るからに痛みきった灰色の汚い髪の毛。
ボロキレの腰巻一枚のみを纏いあらわとなっている、アカで黒ずんだ強固な肉体。
顔面の殆どを多い尽くした髭の向こうに微かにその存在が見受けられる、暗闇により退化しきって殆ど使い物にならなくなったであろう濁った眼球。
突然変異により邪悪さと獰猛さが増幅された原始人といった表現が適切な生き物が、その正体であった。

扉の向こうの「無限懲罰房」にいた化け物は私の姿を確認するや、必要以上に厳重に手足に縛られた鉄球つきの枷(かせ)を大きく振るい
房の中心辺りにそびえ立っているとても太く頑丈そうな木の柱に激しく打ちつけ、地鳴りのような音と振動を発生させた。
そして数メートル離れた位置からでも感じ取れるほどの臭気を伴った吐息と共に、ゆっくりと呻き声の様な言葉を吐き出した。

「シャ…シャ…バ……シャバニ………」

続く

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