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無限懲罰房 第5話 【TEXT TOP】

獄中にて不慮の死を遂げた囚人の亡霊。
「無限懲罰房」の札を目にした瞬間、その場に居合わせた誰もが地響きを起こす化け物の正体を想像した。

「無限、懲罰…か」
その言葉は、この地下牢への投獄の対象となっていた者が 無期懲役の刑罰を受けたとりわけ悪質な凶悪犯罪者であると連想させるに十分事足りた。

扉の奥に眠りしは果たして連続殺人依存症による禁断症状の念か、
凶悪犯罪者の濡れ衣を着せられ投獄された事に対する無実の訴えか、
あるいは被害者の亡霊に取り付かれた事による恐怖と絶望の叫びか…地響きの実態はいかようにも解釈する事は可能であったが
この時点でただ一つハッキリ分かっているのは、地響きを起こしている者の正体は
少なくとも一般人の常識的観点から見て人間ではないという事である。

集まってきた住民の殆どはわずか数秒であらかた同様な想像を張り巡らせ、
自分の顔が恐怖で引きつるのを必死で隠しながらその場を離れた。
「神主さんに…頼んだ方がええんだろうか?」
女将はその場にとどまったが、さすがに声が恐怖で震えていた。
私は扉に巻きつけられている鎖に手をかけて答えた。
「…いや。まだ、その必要はない」
便利屋としてこの手のいわく付きの仕事に幾度となく関わってきた私は、心霊的恐怖心という感情は一切感じなかった。
この一件に関して私の中で敢えて持ち得た感情を挙げるとすれば、正常に恐怖心を有する下宿の住民に対する同情、そして羨望の念であった。
私は霊的媒体に恐怖出来る人達が、羨ましかった。

一見しただけでは頑丈に縛られている鎖は意外とあっけなく解く事が出来たが、
閂(かんぬき)には錠が付いていた為切断せねばならず、金属切断用のバーナーを調達しなければならなかった。
私は女将に告げた。
「見ての通り、扉を開けるには閂の錠を切断しなければならない。再び道具を揃える必要があるから続きの作業はまた日を改めてという事に…」
しかし、全て言い終わらないうちにそれはやってきた。

扉の真下あたりから、突然地響きが起こった。
硬いものを何かの鈍器で殴りつけるような、重い音だ。

数秒置きに何度となく、何かが何かに叩きつけられ鈍い振動が伝わってくる。地震と言われれば確かにそう感じ取る事も出来なくはなかったが、
私がこの場で体感した限り、明らかにこの「無限懲罰房」に棲む何かが発しているものであった。
そして土が払いのけられ寄り近くでこの地響きを聞き取る事が出来た女将は、
地下から発せられる音の中におぼろげながら混ざっている動物のような声が
実体ある生物により発せられる「人間の言葉」である事を、この時初めて確信したようだった。

続く

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