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無限懲罰房 第3話 【TEXT TOP】

虚弱体質の少年のギターの弾き語りの音に引き続いて、今度は食堂のすぐ隣の部屋からジャラジャラという音が聞こえてきた。
麻雀牌をかき回す音だ。時刻は23:59をまわっていた。

「それで、その3ヶ月前から聞こえるようになった正体不明の音と振動がここの下宿の人間が発しているという事で
苦情が周り近所から来るというわけなんだな?」
「ああ、そのとおりだ。ただし知っての通りウチはチンピラやろくでなしどもの巣窟だから正面切ってまともに怒鳴り込んでくるヤツなんかいねえ。
イタズラ電話をよこしてきたり名無しで文句を書きなぐった手紙を縛り付けた石を投げてガラスを割られるといった事が殆どだ」
「陰湿だな」
「そもそもは町内をあげてこの下宿の立ち退きを迫られたのが始まりだったんだが、ウチの住民の血の気の多いヤツらが町内会の責任者たちに
闇討ちを仕掛けて病院送りにしちまってな。それ以来表立った抗議行動がパタリと止んで、今の有様ってワケだ」
「闇討ちか…」
私は何とも言えない面持ちで呟いた。どちらに正義があるのかは私には判断しかねた。

「しかし近所の連中を黙らせたからといって例の音と振動が消えてなくなるってワケじゃねえ。
あれ以来殆ど毎日のように鳴り響いている。耳を澄ましてよく聞いてみれば、何やら生き物のうめき声みたいにも聞こえるんだ」
「なるほど、それで“化け物が住んでいる”と。…事情は概ね理解した。
そこで私の力を借りて大本の原因である地価の地響きの正体を突き止めて何とかして欲しいという話なんだな」
「そうだ。“何でも屋”は他にも何人か顔見知りはいるけど、こんな事頼めるのは正直あんたしかいねえ。
一度下水道業者に来てもらった事があったけど、調べてる最中に例の音と地響きが聞こえてきた途端
ワケの分からねえ言い訳してとっとと帰りやがった。住民連中も普段は偉そうにしているのに
この話になると揃いに揃って腰抜けになりやがって全く関わろうとしねえ」
「腰抜けの割には随分と楽しそうにやっているようだが」
麻雀をやっている隣の部屋で歓声が沸き上がり、虚弱体質少年の一人よがりの弾き語りの盛り上がりは最高潮に達していた。
「なるべく考えないようにしているのさ。引越しったってあのバカどもにそう易々と出来るもんじゃねえ。
ヤツらにとって結局ここに住む事が一番楽なんだ」
女将は2本目のタバコに火をつけた。
「そうか。まあ…私も力になれるかどうかは正直分からないが、とにかくやるだけやってみよう。
音と振動が響く具体的な場所を教えてくれ」

私は作業に取り掛かった。
音と地鳴りが最も大きい場所は、下宿の管理人部屋の中心から少し離れた場所だった。女将は普段ここで寝泊りしているようだが、
音と地鳴りがするようになってからは隣町に住んでいる親戚の家へ泊まりに行く事が多くなったらしい。
私は女将に了承を得て床に敷いてある畳をはがすと、そこに頑丈に固められたコンクリートがあらわれた。
元々は刑務所であったという本来の姿といったところだ。手で軽くコンクリートを叩いてみたがそれだけではさすがにその奥深くの様子までは分からない。
この狭い部屋でコンクリートを砕いて穴を掘っていくという作業は何かと面倒になると感じた私は、庭先から横穴を掘って床下の様子を探る事にした。

囚人が小さな道具で途方もない時間をかけて掘り出す、脱獄用通路のような穴を。

続く

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