TOPM MEMBERT ACTIVITYF INTERVIEWM MUSICT TEXTF BLOGM LINKST MAIL
無限懲罰房 第1話 【TEXT TOP】

その昔は刑務所だったという下宿に行く。建物は老朽化が激しく、近付くだけで建物自体独特の臭いを放っている事が分かる。
刑務所だというのに木造である箇所がいくつか見られ、そこからはコケや虫の卵などが所狭しとへばりついている。
共同の浴室は中々広く銭湯として一般開放もされているのだが、果たしてこんな陰気くさい風呂場など一体誰が利用しに来るのか。
公園の噴水で身体を洗う方がマシだと言われても何ら不思議ではない。

狭い玄関に入り、廊下を歩く。すぐ左手には浴室があり、中から激しく怒鳴り声で言い争っている男数名の声が聞こえる。
恐らくヤクザや暴走族のメンバーでもある、この下宿の住民だろう。しかしこれは極めて日常的に繰り返されている事であり、
刑務所だった頃から全く何も変わっていない。否、何も知らぬ一般客がごくたまに混ざり込んでいるという点で相違はあるのだが、
終始肩を震わせ入浴中のガラの悪い連中に気付かれぬよう一刻も早く出たがっている彼らの怯えきった顔は想像に難くない。

浴室からガラスが割れる音がした。住民の誰かが相手の身体を窓へ突き飛ばしたようだ。その音をかき消すようにまた別な者の怒声が響き渡るが、
次の瞬間台所から放たれた女の怒声によりそれも更にかき消される。下宿の管理人の女将だ。決して身体が強いようには見えないが、
数十年もの間この下宿に住むろくでなしどもを纏め上げてきた呆れる程気丈な「飼い主」だ。

時刻は23:23。私はその女将がいる台所へ着いた。
共同スペースだというのにその辺に住民の服やら本やら楽器やらが汚らしく散乱している。
「ん、あんたか」
女将は私の方をチラリと見て、無愛想に言った。

続く

Copyright © 2006 MTF All rights reserved. Webmaster by Daichi Hiroi