R&R Fragments

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自爆シリーズ@

第5回
Re:
Satisfaction
From:
mack
Dated:
'01/05/25

〜ちょっと村上春樹を意識しました

この頃のキースが実は一番好きだそれはちょうどStonesが『刺青の男』をリリースしてツアーに出た年だった。

僕は高校に入って、新しい生活が始まった。
既にビートルズとジョンレノンの何枚かのアルバムや
ニール・ダイアモンドの"Jazz Singer"という映画
(特にそのなかで夜中 曲想が湧いた主人公が台所でギターでコードを鳴らしつつ曲を書き留めていくシーン)
にハートを震わせられた僕はとりあえず生ギターは持っていた。

指にできたタコが固くなるにつれて知ってるコードの数も多くなっていったし、それは全寮制の男だけのあまり面白みのない生活のなかで
僕の心のなかでひとつの支柱になっていった。
自分探しの旅の始まりにあたって、音楽をdig(つきつめて)いくことは
同時に自分のアイデンティティを確立させることだった。面白かった。
新しいバンドや新しいジャンルの楽曲を同年代のいろんな友人達に教わって知るたびにワクワクした。

僕の居た1-C組はあまり出来のよい奴はいない
(入試のときの成績順にクラス分けがされたという噂がまことしやかに流れた)かわりに、
既にエレキギターを持ってる奴が23人いた。
最初に僕に接近してきたのは リッチー・ブラックモアを神と崇めているキクチ(仮)だった。
何でも幼稚園のころからバイオリンの英才教育を受けていたとかで、
その結果、絶対音感と楽器に対する鋭敏な感覚は研ぎ澄まされたものの、
反動で中学の後半から見事にグレてしまいその全寮制の学校に放りこまれたらしい、
とクラスの事情通の奴が教えてくれた。
キクチは僕が生ギターを持っているを知って自分のバンドでサイドギターとして使おうと思っていたようだ。

僕は、リッチー、というかディープ・パープルというバンドにも興味を覚えていたが
なにぶんバレーコードがやっと押さえられるようになった初心者には
あまりにも高いハードルのように思えた。
それにまだバンドなんて不良のすること、という前時代的な先入観を両親から植え付けられていた僕には兎に角キクチが怖かったのだ。

そんなときに出席番号が僕のすぐ前だったカヅミ(仮)は
「キ、キクチなんかとつきあうの辞めて、オ、オレとロックンロールやろう」
と誘ってきた。奴はちょっとドモリ癖があって、僕と同様海外生活の経験があり、
なんかトボケたところがあって憎めなかった。
ビートルズが好きだと言う僕に奴は
「オ、オレも好きさ、特にジョンの R&R MUSIC』とかブッとんじゃうよな、FUCKIN' GOOD
と片言英語を交えて語り、なんとなく僕はカヅミとバンドをやることになった。

カヅミはそのあくなきロックンロールに対する情熱と憎めないキャラクターとで
あっという間にC組のなかでバンドをつくった。
ベースは「剛毛オールバック・チ●ポも既にオトナ」のマツ(仮)で
ドラムは「気は優しくて力持ち」を絵に描いたようなヒデ(仮)だった。

僕は両親に手紙を書いて新しいギターをねだった
それがエレキだとは敢えて言わなかった)。
そして一学期の期末テストが終わって夏休みに入り僕ははじめてのエレキを手に入れた。
嬉しかった。
二学期が始まって寮に戻ると僕らは放課後や早朝の体育館に機材を集め練習を始めた。
学祭が迫っていた。早朝の体育館の乾いて冷たい空気のなかで僕らは音を出した。
その年の秋に練習した曲はこんな感じだった。

♪ Satisfaction (The Rolling Stones
♪ Start Me Up (The Rolling Stones
♪ Under My Thumb (The Rolling Stones
♪ Money (The Beatles
♪ Day Tripper (The Beatles
♪ 渚のシンドバッド(Southern All Stars
♪ メインストリート(オフコース -

カヅミはとぼけた奴だった割りにはバンドの音にはなかなかうるさくて、僕もマツもよく怒られた。
マツは「ビル・ワイマンの(ベースの)音がレコードからなかなか聴きとれない」と僕にこぼした。
僕は僕で、ビートルズがやってるR&Rの解釈と Stonesのそれとの差異に戸惑っていた。
正直に言うと"Satisfaction"のギターリフは Bから始まるのに何でコードがEなのかさっぱりわかってなかった。試しにBのパワーコードを弾いては、カヅミによく睨まれた。
"Start Me Up”はキースのパートを2人で弾いてしまい(僕にはロン・ウッドの弾いているファンキーなバッキングが全く聴こえていなかったのだ)カヅミはバンドの音がまとまらないのに苛立っているようだった。

でも兎に角僕らは練習した。
練習の後で寮の裏庭で缶コーヒーで暖をとりながらカヅミが勧めるマイルドセブンに手を出したのも何か不良になったみたいでドキドキした。
バンド(それは単純にリーダーのカヅミの名前をとってカヅミバンド、と名付けられた)の連中と一緒に駄弁っているだけで楽しかったし、何かオトナに少し近づいたような気がした。

2学期の中間試験が終わると短い休みがあり、その時にそれぞれの家に帰省していた僕らは都内のスタジオで3時間の強化練習に入った。
「音が軽い」と言われた僕はまたもや両親に金をせびりオーバードライブを手に入れていた。
カヅミと一緒にまだまだ僕にはブライアン・ジョーンズの聞こえるか聞こえないか、という流麗なバッキングは理解できてなかった"Satisfaction"のリフを延々と弾いた。
その力強いリフは僕にあらたな可能性を与えてくれているようだった。
同時に優しかった。初期衝動だった。

そしてそのリフには僕のそれからの人生を変えてしまうような力が、確かに、その時あったのだ。


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