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(笑)。トニーはライヴでドラムを叩く時、おそらくは用意されているシーケンスのパターンをクリックガイドで聴きながら叩いていると思うんですが……

A.E.:いや違うよ。昔はヘッドフォンをつけてたんだけど、クリックを聴くためじゃなく、モニター代わりに鳴ってるサウンド全部をヘッドフォンで拾ってたんだ。そうした方が、シークエンスを追うのもずっと楽だしね。でも今はほとんど、適切なサウンドシステムやモニターを備えたヴェニューで演奏してるから、ヘッドフォンをつけたりクリックに合わせて叩いたりする必要がなくなったんだ。それに、ずっと昔からやってる曲がほとんどだから、今じゃ楽勝でシーケンサーに合わせることができるしね。

へーっ、それって結構スゴい技だと思うんですけど。

A.E.:サンキュー。基本的に曲の頭からシーケンサーが入ってて、それがずっと最後まで続くパターンなら、一定のポイントさえ外さずに押さえられれば自分がどこにいるか常に把握できるし、少なくとも僕にとってはそんなに扱いにくい問題じゃないんだ。確かに僕らのライヴを観て、もっと何か必要なんじゃないかと感じる人がいても、おかしくないとは思うよ。でも僕にはもうそれが普通の状態というか、シークエンスをフォローするのは今の僕には朝飯前のことなんだ。

わかりました。さて、先ほど、次のアルバム制作が始まっているという話でしたが、どんな作品になりそうですか? どういったヴィジョンを掲げで取り組んでいるのか、具体的な新機軸なども含めて現時点での情報を教えてもらえますか?

Steve:まず『Surface To Air』からの必然的な流れを汲んだトラックが幾つかあるのは確かだよ。そういうトラックでは、シーケンサーに重きを置いてて、シンセサイザーや変則的なリズムを多用してるんだ。でも一方ではもうちょっと、そう、ちょっとばかりヘヴィな感じになってるトラックもあって、ギターとベースも入って楽器を今まで以上にフルに使ってる感じなんだ。

それは来年のいつ頃に発売されそうですか?

A.E.:願わくば2008年の春には出したいんだけど、今の時点ではあまり締め切りめいたものは設定したくないんだ。ふたりとも満足できるような、すごくいいアルバムを必ず作りたいと思ってるんでね。現段階では、この後アメリカに戻ったらドラムのファイナル・トラックのレコーディングをして、それからスティーヴが残りのサウンドを重ねていって、レコーディングの最終作業に取り掛かる予定さ。だから近い内に出るのは間違いないよ。

トニーも作曲にかなり関わっているということですが、具体的にどういうふうにして曲ができていくのか、ソングライティングのプロセスについて教えてください。

A.E.:以前とは全く違っていて、昔は何もかもふたり一緒に同じ部屋でプレイしながら作ったり、お互いアイディアを持ち寄って一緒にまとめていくとかしていたんだ。でも今は、スティーヴがニューヨーク、僕はピッツバーグで暮らしてるから、最新作でもスティーヴはスティーヴでひとりで曲を書いて、僕も僕ひとりで曲を書いて、ファイルをお互いやり取りする形で作業したんだよね。それでも、すごく順調だったよ。要するにスティーヴから僕にデータが送られてきて、そこに僕がドラムを入れて、それをまたスティーヴに戻すと、スティーブがそこにアイディアを加えていくって感じで、だから、やってることは昔と同じと言えば同じなんだけど。ただ、プロセスを以前とは違う形に変えざるを得なかったということなんだ。でも実際には、うんと作業しやすくなったよ。

プログレッシヴ・ロックには必ず欠かせない要素として「即興演奏」というのがあるわけですが、あなたがたの場合、インプロヴィゼーションというのは、どのくらい重要な位置を占めているのでしょう?

Steve:たとえば昨日の夜の1曲目なんかは、かなりの部分、っていうか、ほとんど全て即興でやったよ。前もって設定が出来上がってる部分もあるにはあるけど、ひとつのセクションから次のセクションにどう進んでいくかに関しては、ほとんど縛りがないんだよね。でも、あの曲を除けば、今までに書いてレコーディングした曲はどれも、前もってしっかり組み立てられたものがほとんどで、インプロヴィゼーションができる余地はほとんど残ってないと言っていいんじゃじゃいかな。ただ、ライヴではいろいろ好きなようにいじったりもするけど。

A.E.:曲作りの作業はほとんど即興でやってるようなものだけど、レコーディングの段階では、それを聴き直してアイディアを取捨選択して曲をまとめていく作業だから、即興の余地はほとんどないね。それにライブの場でも、シークエンシングを使ったりコンピュータに入ったトラックに合わせてプレイしたりというライヴの性質上、ぴったりのタイミングで正確にプレイしていかないと曲自体がバラバラに崩壊してしまいかねない。でも最近それにも飽きてきたから、新しいマテリアルの中には、ライヴの中でもうちょっと自由にやれる余地のある曲が幾つかあるのは確かだよ。

わかりました。ところで今更なんですが、初来日ということで、このツアーの感想と、日本の印象を教えてください。

A.E.:これまでのキャリアで最高の時間を過ごしてるよ。スティーヴも同じはずさ。

Steve:ああ、その通り。ものすごく良くしてもらってるし、日本人のホスピタリティは素晴らしいね。

A.E.:本当に! どんなに楽しんでるか、言葉では表せないくらいさ。街も人も素晴らしいし、本当に、本当にワンダフルだよ。

Steve:オーディエンスも素晴らしいしね。

A.E.:アーティストとして、音楽をやるからにはある程度の待遇をしてもらいたい、と思うものなんだよね。ただ、アメリカやヨーロッパをツアーすると……特にアメリカが最悪で、ヨーロッパはアメリカよりわずかにマシなんだけど、日本でのもてなしときたらもう……こんな素晴らしい扱い、アメリカでもヨーロッパでも絶対に期待できないよ――レッド・ツェッペリンでもない限りはさ(苦笑)。こんなふうに高く評価されてリスペクトされて、しかもファンも大勢いてくれるし、本当に素晴らしい気分だよ。

そこまで言う(笑)。たとえば昨日のライヴで、曲の合間もお喋りなんかせずにじーっとステージ上に注目しているファンの姿を見て、無気味だなと思ったりしませんでした?

Steve:確かにあれはちょっと不思議な光景だったな(笑)。でも実は、あんなふうになるってことは前もって知らされていたんだ。「日本のオーディエンスはものすごく注意深くて拍手も短い」って。でも、そのほとんどは敬意の表れだと思うし、一瞬たりとも見逃したくないという熱意と、バンドのパフォーマンスの邪魔をしたくないという優しさの表れなんだろうね。

A.E.:あ、「アメリカは最悪」っていうのは、あくまでも会場側のことで、ファンや観客に関してはアメリカも素晴らしいし、一部のクラブは僕らのことを理解してすごくよくしてくれるよ。でも一般論としては、やっぱり扱いは最悪だし、それに比べたら日本の観客の曲間の沈黙なんてどうってことないでしょ。実際日本のファンは素晴らしいと思う。

日本にもあなた方と同じような非常にマニアックなプログレッシヴ・ロックのファンが大勢いて、リアルタイムでこういう音楽をやっているゾンビの存在を嬉しく感じながら、昨日のライヴに駆けつけたと思うんですね。で、日本にもプログレ・スポットみたいなところが幾つかあるんですが、足を運んだりしましたか?

A.E.:いや聞いたことないな。それってどういう場所なの?

たとえばレコードストアだったら、新宿のディスクユニオンのプログレッシヴ・ロック館とか……。

Steve:それって今ちょうど、レーベルの人間に行ってもらってるところだ!

A.E.:まあ、僕自身は、それほどコレクターではないんだよ。金は全部、機材とかスティックとかドラムヘッドとかに使ってしまうから、レコードを集める余裕はないっていうか。いろいろ聴きたいのはやまやまなんだけどね。そのレーベルの担当者はコレクターだから、どうしても新宿に行って買いたかったみたいだけど、僕は逆に、レコードをたくさんコレクションしてる友達を周りに置くようにして、面白いのがあったらそいつらに聴かせてもらってる。実際ラッキーだよ――色んな面白い音楽について教えてくれる友達が周りにいて、しかもいつも絶妙のタイミングで来てくれるんだ。

なるほど。あと、東京タワーというテレビ放送塔があるんですが、そこに蝋人形館があって、プログレ関係の蝋人形がいっぱいあるんです。

A.E.:あははは!

Steve:マジで!? それってスゴいね!

最初はビートルズとか普通な感じなんですけど、だんだんマニアックになっていって、マニュエル・ゲッチングとか、ファウストとか、アジテーション・フリーといったアーティストの蝋人形が、たくさん置いてあるんです。

A.E.:そのうちゾンビも飾ってもらおう(笑)。

そんなわけで、日本のマニアックなリスナーは、あなたがたの音楽と非常に相性がいいと思いますよ。

Steve:うん(笑)、実際おかしな話、昨日のショウの後みんなと食事に出かけたんだけど、レストランで別の部屋から、酔っ払った日本の若者の集団がキング・クリムゾンの曲を歌う声が、聞こえてきたんだよね。

A.E.:“21世紀の精神異常者”をね。

マジで(笑)。カラオケ店か何かだったんですか?

A.E.:いや、普通のレストランで、いきなり歌い出したんだ。

もしかしたら、あなた方のライヴに行ったお客さんが、帰りに同じレストランに寄ったのかもしれませんね。

Steve:アハハハ! かもね!

A.E.:あり得るかも!

さて最後に、将来どういった感じで音楽活動をしていきたいか、思い描いているヴィジョンを教えてもらえますか?

A.E.:いつの日か、他の人々をインスパイアするような存在になりたい――これまで他のバンドが僕をインスパイアしてくれたようにね。あとは、自分達の好きな音楽を作り続けたいな。僕達はリアリストだから、何もしなくても十分に暮らしていけるだけの金をいつか稼げるようになるなんて思ってないし、そもそも金銭的な成功って、僕らがやってるような音楽では達成できないと思うんだよね。だからみんなにリスペクトしてもらえて、他のバンドから僕らがしてもらったようにみんなにお返しができるような音楽を作るのが僕らのゴールなんだ。

Steve:僕も同感。トニーが言ったように、先達が僕らをインスパイアしてくれたように、僕らもみんなをインスパイアできるようになるっていうのが、音楽を作っていく上での究極の目標だね。

じゃあ、いつの日かタンジェリン・ドリームと共演したり、ダリオ・アルジェント映画のスコアを書ける日が来ることを願いつつ、インタビューを終わりにしたいと思います。

Steve:サンキュー。

A.E.:アリガトウ。

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