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そもそもギターで普通のロック・ソングを作って普通にレコーディングするだけじゃなくて、それをデジタル技術やサンプラーを駆使して編集するというアプローチに興味を持ったのは、どういうきっかけからなんですか?

James:レコーディング・ソフトを買った時に、「こういうこともできるんだ」って気がついた、というのかな。実はVersus時代も1人で曲を書いてたんだけど、使ってもらえなくて(笑)。当時はサンプラーを使ってただけで、いろんなパートをレコーディングしたのをプレイバックしてただけなんだけどね。で、Versusの最後のアルバムの時、遂にレコーディング・ソフトを買って、自分達だけでレコーディングして、ありとあらゆることができるんだってことに気がついたんだよ。だからきっかけは、そのソフトを買ったってことだけだと思うよ。

特定のアーティストの影響を受けたとか、そういったことはなかったんですか?

James:それは……そうだな……難しいけど、強いて言えば大学時代、デ・ラ・ソウルの『3フィート・ハイ・アンド・ライジング』をよく聴いてたね。サンプルから何から何まで、信じられないくらい素晴らしいアルバムだと思った。「他人の曲を使って丸々1曲書けちゃうんだ!」ってね。思うにそれで僕も、サンプラーを買ったんじゃないかな。それで色んなものを拾ってきてアレンジして……。いろんなところ、特定のアーティストの作品だったり単なるアイディアだったり、そういうところから引っ張ってきた、ちょっとしたパートを組み合わせて曲にしていったんだ。それを可能にしてくれたのがコンピューターというわけなんだよ。

その可能性を見出したことで、当初はこのバンドをソロ・プロジェクトとしてスタートさせたのだと思うんですが、それが、活動が活発になるにつれてメンバーが増えて、再びバンド志向になっていったというのは、どうしてなんですか?

James:1枚目のアルバムを作った後、ライヴをやらなきゃ!って思ったんだけど、僕自身、誰かのライヴを観に行った時に、ステージの上で男が1人座って機材をいじくったりラップトップとにらめっこしてたりすると、めちゃくちゃガッカリするんだよね。そんなの観ててもしょうがないっていうかさ。

(笑)。

James:だから、「僕はこんなライヴはやらない。こんな程度のライヴに金を払って観にきてもらうなんてイヤだ」って思ったんだよ。で、僕と同じものを目指してる仲間を探したんだ。だからそう、すごく自然な流れでこうなったわけ。3人とも年もほとんど同じだし、すごく楽だよ。しかも今じゃ一緒に曲も書くようになって、すごく喜んでる。今回のアルバムは、3人のそれぞれ違った曲作りの手法が生かされてて、ずっと強力な作品に仕上がってると思うし、それってバンドの形でやってないと絶対不可能なことだよね。あと、ライヴをやらないとレコードが売れない、っていう現実的な問題もあるんだ。レコードは出すけどライヴは絶対にやらない、っていうアーティストもいるけど、ライヴをやればもっと人気が出るかもしれないのに、って思っちゃうよね。

そうですね。

James:ライヴって重要な要素だと思うんだ。あと、願わくはバンドを作ったことで、ライヴの何かが変わった、と思いたいんだよね。例えば僕らは、ひとつ残らずライヴでプレイするようにしてる。サンプル音ですら実際にプレイするようにしてる。前もって録音しておいた音は使いたくないんだ。ライヴの臨場感に欠けてしまうと思うしね。ライヴ・ショウって、ひょっとしたら壊滅的な結果に終わるかもしれないし、素晴らしいショウになるかもしれないし、新しい世界が開けるかもしれないっていう、予測不可能なところこそがスリリングで面白いと思うんだよ。だから僕らの場合、ライヴ向けのアレンジの多くが、アルバムの音源とはかなり違ってて、実際そっちのアレンジの方が曲に合ってたりする場合があるんだ。単に変えてみたいっていう場合もあるけどね。もともとバンドがライヴでアレンジを変えてくのが好きなんだ。家で座ってレコード聴いてるだけじゃ得られない、ライヴを観に来た者にしか得られないものが得られるわけだから。

分かりました。さて、他のメンバーとは、どのようにして出会ったんですか?

James:パトリックは幼馴染の1人で、僕と同じ時期にVersusにいたんだよ。で、クリスとは共通の知り合いを介して知り会ったんだ。そういえば、あいつはテキサス出身なんだけど恋人がサンフランシスコに引っ越して、ちょうど僕の兄貴もその頃サンフランシスコに引っ越したばかりで、クリスがサンフランシスコの彼女を訪ねた時に、たまたまみんな同じパーティで出会ったんだよね。その時に、クリスがテキサスからニューヨークに引っ越そうとしてるって聞いて、兄貴がクリスに、僕へ電話するように言ったらしいんだ。結局やつは電話してこなかったんだけど、でも共通の友達に誘われて、プラス・マイナスのファースト・ライヴをたまたま観に来たんだよ。当時は別のドラマーがメンバーだったんだけど、その時に話しててウマが合っちゃったんだ。

あなた方の音楽には、ロックだけではなくて色んな要素が入っていますよね。例えば南米の音楽とか。そういうものはどのようにして入ってくるんでしょうか。

James:もともと南米の音楽が好きだったし、しばらく前にもウィリー・ネルソンの『ティアトロ』にハマってたんだ。ラテン系のドラミングが満載で、すごくクールなアルバムだって思ってたんだよね。あと、クリスもあの手のビートを熟知してて……僕自身は、ああいうビートが正確には何と呼ばれてるのかさえ知らないんだけど、クリスはそっち方面に精通してるから、スタジオでもいきなりプレイし始めたりなんかして、そこから面白いものが生まれてきたりするわけ。だからそう、すごく好きなんだ。ラテンのビートってすごくシンコペートしてて、あまり厳密じゃないし、とにかく面白いんだよね。だからしょっちゅう使いたくなるんだけど、その一方で、拍子記号通りにリズムを取ってる曲もある。クリスの叩いたドラム・ビートを取り出してきて、わざと拍子記号にぴったり合わせて別のドラム・ビートに変化させたりとかもするしね。

ウィリー・ネルソンの『ティアトロ』は、カントリーなのにちょっと違うサウンドにチャレンジしてる作品ですよね。

James:そう。曲自体はやっぱり基本的にカントリーで、何曲かは昔のレパートリーだったりもするんだけど、あのアルバムって古い劇場で、ドラムセットを2つ組んでレコーディングしてるんだよね。だから多くの曲で、2つのドラムセットが別々のビートを叩いてるわけ。強力なメロディがまさにウィリー・ネルソン節なのは間違いないんだけど、いきなり意外なビートが耳に飛び込んでくる瞬間がある、そういうアルバムなんだよ。本当に素晴らしいアルバムだと思う。あのビートだけでも、プラス・マイナスにとってとてつもなく重要な意味を持つアルバムの1枚といっていいんじゃないかな。

なるほど。他に何か最近のお気に入りのアルバムは?

James:しょっちゅう変わるんだけど……ん……いや、これっていうのが思い出せないなあ。僕もiPodを持ってるから、衝撃を受けたものは何でもそこに入れちゃってるんだけど、最近だと……そう、ブライアン・イーノとかデヴィッド・ボウイみたいな、70年代ものが気に入ってるよ。70年代って、音楽にとってかなり不思議な10年だったと思うんだよね。あと、ビートルズとELOはいつも聴いてるけど、最近ってことに特定するとなると難しいな。強いて言えば、ここにきてライドを改めて聴くようになったっていうのはあるかもしれない。

ライドって、あのライドですか?

James:そう、イギリスのライド。確か90年代初期のシューゲイザー・バンドだよね。友達の1人が、あのバンドは結構よかったってことを思い出させてくれて、最近また聴き始めたんだよ。だからその時々で違うっていうか、iPodを友達ん家に持っていって、色んなアルバムを入れさせてもらって聴き始めることもあるし……。あとそう言えば、Fridgeっていうバンドも気に入ってる。特にメンバーの1人のAdemが作った『Homesongs』っていうアルバムが、すごく好きなんだ。

分かりました。ところで、bloodthirsty butchersの吉村さんが、あなた達に注目した理由として「ギターの音色がスゴい」ということを言ってたんですが、ギターの音作りに関して、何か特に独自の考えのようなものを持っていますか? 機材はどんなものを使っているんでしょう。

James:スタジオでは、すごく小さなギター・アンプを使ってるんだ。フェンダーのプリンストン・リヴァーヴっていう、70年代の小型アンプとか、VOXの小型のAC15とか。というのも、僕のアパートでレコーディングしてるから、お隣さんに聞こえないように、アンプを物置に置いてプレイしてるんだよ。あと大事なのが、ギターを思い切り叩くように弾けばエッジの利いた歪んだ音を鳴らせるし、逆に優しく弾けばクリーンな表情が出せるっていう、そこが一番大事だね。ギターのそういうところが大好きだし、ギターという楽器を使って色んな表現ができる部分だと思うんだ。ギターを激しく叩くことによって、何ていうか……

つまりピッキングが何よりも重要だと?

James:そう、そういうことなんだよ。僕は最高に上手いギタリストでも何でもないけど、右手には自信があるんだ。

楽器や機材云々よりも、右手で表現するニュアンスの方が大事だっていうことなんですね。

James:そう、僕らはそこにこそ表現の豊かさを感じてるからね。ほとんどドラム・プレイに似てるというか、そもそも僕らは何に対してもリズムから入っていくんだよ。だからそれが僕のギター哲学とでもいうか……いつもドラムに夢中だし、パトリックもドラマーだったし……。でも吉村さんが、ギター・サウンドに注目してくれたっていうのは、面白いね。僕も彼と同じペダルを幾つか使ってるし……全部で5〜6個使ってるんだけど、メイン・ペダルは1個か2個だよ。

サウンドの加工よりも奏法に重点を置いている、と。

James:そう思うよ。もちろんアンプやなんかも大事だけど、でも……例えばスタジオでもイコライザーを使わないしね。単にマイクを置いて音を拾うだけで、後からそれを変えたりはあまりしないんだ。でも……何と答えればいいのかよく分かんないんだけど、僕も吉村さんのギター・サウンドが大好きだし、お互い同じような部分を認め合ってるって感じなんじゃないかな。

分かりました。では最後に、将来に向けてのヴィジョン、今後の目標を教えてください。

James:ゴールは常に同じで、キャッチーで面白くて、しかもある意味で破壊的な曲を書くことなんだ。基本はとにかくみんなに聴いてもらえて一緒に歌ってもらえるような曲で、でもじっくり聴き込むと実験的な部分がうっすら見えてくるような、そんな曲が書きたいんだよね。僕の最終目標は、つまり自分達の中にある音楽を変えていくことなんだ。どんなに小さな変化でもいいからね。たとえばマイ・ブラッディ・バレンタインの『ラブレス』なんかは、全てのリスナーにとって何もかも一変させてしまうようなショッキングなアルバムだよね。僕もゆくゆくはそんなアルバムを作るのが夢なんだ。実際に作れるかどうかはともかく、作れたら最高だろうね。まあ、あのアルバムはかなり劇的でスリリングだったけど、僕らはもうちょっと繊細だから、リスナーも聴いた途端にブッ飛ぶって感じにはならないと思う。でも、とにかくアルバムごとに少しずつでいいから前に進んでいきたいっていうか、自分達のやり方をちょっとずつ変えていって、願わくはリスナーの考え方も変えていければいいな。


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