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それも素晴らしい考え方だと思います。では次に、最新アルバム『ワン・ビート』についても少し話を聞かせてください。聴いてみて、これまでの作品に比べてさらにじっくりと練り上げてあるような印象を受けたのですが、あなた方自身もこれまでとは違う創作モードを意識していましたか?

Janet:そうね。これまで作ったアルバムを全部チャラにして、何もないゼロの状態になって、フレッシュなスタートを切ることができた、という感じよ。それまでオリンピアに住んでいたキャリーがポートランドに引っ越してきて、メンバー全員が同じ街に住むようになったおかげで、3人がクリエイティヴなモードに入ってる時にはすぐに集まったりできるようになったし、練習や曲作りのスケジュールも立てやすくなったことも大きいわね。

ゲストも多く参加していますし、キーボードやストリングスやホーンを使ったアレンジも耳を引きます。こうしたアイディアを試してみた理由は?

Janet:今回書いた曲がどれもそういうアレンジを求めてきた感じで、プロデューサーのジョン・グッドマンソンと一緒に「これだ!」って思うサウンドにぶつかるまで、曲を突き詰めていったの。時間をかけて、じっくりと1曲1曲を掘り下げてみたのよ。ゲスト・ミュージシャンに関しては、すごくラッキーだったと思う。ある種、奇跡が起きたみたいで(笑)。今回はアイディアも音楽もいつもより広げていこうとしてたことは確かね。私たちが作曲する場合、普段は割とすぐに出来上がるんだけど、例えば今回“ワン・ビート”なんかは1週間もかかって……そこに何かがあるのはわかってたんだけど、曲の個性というか、それが一体どういうものなのかが、なかなか掴みきれなかったの。ちなみに、突破口が見つかる時って、車の運転中だったり、シャワーを浴びてる最中だったり(笑)……答って、そんな時に潜在意識の中からふっと湧いてくるものなのよね。

じゃあ、今作の制作作業は、これまでとはかなり違ったというわけですね?

Janet:曲作りの部分はね。レコーディング自体にかけた時間はこれまでと変わってないわ。ただ、アルバムを1枚作るごとにレコーディングについていろいろ学んできたと思うし……それはジョンにも言えることで。今回はジョンも私たちも「何か新しいことをやろう。何か面白いことを試してみよう」っていう気持ちで臨んだのよ。だから、どうやったら新しいサウンドにできるかってことを、自分なりにいろいろ考えなきゃいけなかった。最終的には頭の中で聞こえてきたものを鳴らせば、たいていはそれでいいんだけどね。

そして今作は、2001年9月11日に例の同時多発テロ事件が起きた前後に作られたわけですよね? あの事件の衝撃が今作の方向性を変えたということはありますか?

Janet:曲によってはね。でも、そういうのって分からないから。あの事件が起きなかったらどうなってたかなんて、誰にも分からないでしょ(笑)? でも、あれだけ大きなことだから、何らかの影響を受けてるとは思うわ。2001年はいろんな人にとって、すごく暗い1年だった。個人的にもそうだったし、もちろん政治的にもね。でも、傷ついたり、嫌な気分になったり、不安になったりすると、誰でもどこかに何かいいものを見つけ出そうとするから、音楽そのもの、自分達が音楽を演奏できること、音楽を通じてみんなを1つの場所に集めて毎晩ポジティヴな体験をしてもらえること――こういったことをものすごく大切に思えるようになったわ。「今、目の前にいる観客の人達とこういうポジティヴな体験をできるのは一生に一度のことなんだ」っていう事実を改めて感じたというか。全く同じ体験はこれから先2度とありえないんだって思うと、生きてる実感が湧いてくるしね(照笑)。それもあって、あの事件以降、私達にとってはライヴがこれまで以上に大切なものになってきているの。特にこんな時代には、お互いとの繋がりを感じさせてくれて、生きている実感を与えてくれるものって本当に貴重だと思う。

なるほど。もうひとつ、コリンに子供が生まれたこともバンドにとって大きな出来事ですよね。ラジカルな主張を持った女性アーティストと母親としての役割の両立は大変ではないかと勝手に想像していますが、一番近くにいる人間の一人として、彼女の様子はどんな感じでしょう? また、バンドにはどう影響を与えたと思いますか?

Janet:うーん……子供が生まれたことで、コリンの物の考え方、見方って確実に変わったと思う。もう自分だけの人生じゃないというか。決断を下す時は何度も考え直してるし、決めることは自分の家族のために決めてるの。あと、アーティストとしての時間をものすごく大切に捉えるようになったみたいね。前よりも忙しくなった分、ミュージシャンとしての達成感はもっと感じるようになったみたいで、というのも、まず音楽に取り組む時間を作ることから始めなきゃいけないわけだから。小さな子供がいると、自分の時間もすべて家族のためになってしまいがちだけど、逆にだからこれまで以上に、自分ができることに意味を込めるようになったんじゃないかな。

テロ事件について直接的に言及した歌の中でも、母親としての視点が出てきた点で“ファー・アウェイ”は大きな説得力を持ったナンバーだと思います。あなたは、コリンが書いたこの歌詞に、どんな感想を持ちましたか?

Janet:コリンは、母親・主婦の視点から書くことが大切だと思った、って言ってたわ。あの日感じたこととかをね。コリンがあの曲で書いてることって、いろんな人に通じる内容で……テレビであの様子を見て、親戚と電話で話をしてとか、とにかく大きなショックを受けてて……ものすごくパワフルな歌詞よね。誰にでも通じることだし、ここにいる人達はみんな共感できると思う。あと、ああいう視点から書かれた政治的な曲っていう意味でも、かなり興味深いんじゃないかな。他じゃあまりないから。

その通りだと思います。ところで、“プリスティーナ”という別の収録曲には、ものすごい勉強家の女の子が主人公として登場しますが、この人物には特定のモデルとかいるんでしょうか?

Janet:えーっと、確か映画の主人公をモデルにしたのよ。どんなキャラクターかは私もよく知らないんだけど(笑)……ロックンロールの魅力に取りつかれてしまった女の子で、コリンはそれを元にしてあの曲を書いたの。

そうなんですか、メンバー3人のうちの誰かかなと思ったりもしたんですが。

Janet:違う、違う! 完全にフィクションだから(笑)。

(笑)わかりました。では最後に、近年のアメリカン・インディー・シーンについて、あなたがどう見ているかを教えてください。

Janet:(数秒考えてから)インディー・シーンっていつも何かしら危機に直面してると思う。たとえば資金的なことだったり、メジャー・レーベルの介入とか……要はいいインディー・バンドをどんどん引き抜かれていってしまうってことなんだけど。それって、やっぱりインディー・レーベルにはかなり大きな脅威だから。メジャーからのオファーがないわけじゃないけど、あえて自分達の意志でインディー・シーンに残ってるバンドってそんなにいないのよね。でも、そういうバンドも自分達が次に進むときがきたって感じたら、別のレーベルに移っていくわけで。その一方で、いつの時代にもいいインディー・レーベルっていうのは存在するのよ。タッチ・アンド・ゴーやドラッグ・シティみたいに、一握りかもしれないけど、自分達の理念を守り続けて成功を収めているレーベルもあるし。やっぱり、いちインディ・バンドとして他のインディー・バンドとそれなりの連帯感を感じるわ。でも、いちばん共感が持てるのは、自分達の意志でインディー・バンドであり続けてるバンドね。本当はメジャー・レーベルに行きたいんだけど、行けないっていうんじゃなくて……たとえば、フガジとか。自分達が正しいと思うことに対して、あれだけ誠実でいられるなんて、本当にすごいことだと思う。あとオリンピアにも確固たるインディペンデント精神を持って活動してるバンドがたくさんいるけど、そういうバンドもね。

なるほど。その他に、あなたが共感を持てるアーティストといったらどんな人がいるでしょう?

Janet:やっぱり女性ミュージシャンに共感を持つわね。マリー・ティモニーにゴシップ、キャット・パワー、ジーン・スミス……言いたいことをはっきり口にして、音楽面でもリスクを恐れていない人。そういう人達とは強い繋がりを感じるわ。

それと最近お気に入りの、よく聴く音楽も教えてください。

Janet:ブリジット・フォンテーヌとブライト・アイズの新譜ね。コップ・キルズっていうイギリスのバンド、そしてマリー・ティモニーの作品もすごく好きでよく聴いてるわ。

どうもありがとうございました!

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