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Los Angels, 2001.8
text by Yoshiyuki Szuki


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 99年のフジロックに出演したリンプ・ビズキットは、満員のグリーン・ステージで、いかにも彼ららしい余興を披露した。フレッド・ダーストが「お前らコーンは好きかー!」とか「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンは好きかー!」とか問いかけておいて、そのバンドの曲をちょこっと演奏するというベタな盛り上げ技だ(※オンエア・ウェストでの初来日公演でも同じことをやっていた)。その時、フレッドを少なからず困惑させる現象が起きた。「ドゥ・ユー・ライク・トゥール?」のかけ声に対し、日本のオーディエンスは完全に無反応だったのだ。結局、リンプは仕込んでおいたトゥールの曲を演奏しなかった。ちなみに、フレッド・ダーストはその経験を踏まえて、次の来日時にはMCの同時通訳を雇うことにしたらしい(?)。
 翌00年のフジロックには、メイナード・ジェームズ・キーナンが新しく組んだサイド・プロジェクト=ア・パーフェクト・サークルが出演した。前日になって急遽エラスティカと出演順を入れ替えたものの、それでもまだ周囲が明るいうちにステージに上がらされた海パン姿のメイナードは、およそ盛況とは言い難い観衆を前に、なんとも所在なさげな印象だった。結局APCは、当初予定していたセットリストをその場で縮小し、そそくさと最後の曲に突入したのだが、その“ジュディス”を力いっぱい歌い切ったメイナードは、最後の最後にそれまでずっと被っていた金髪ロンゲのカツラを外してみせた。その時の彼の目には、一転して何か力強い意志が漲っていることが感じられた。
 そして01年のフジロック、トゥールとしての初来日が実現。つめかけたオーディエンスの期待と興味が渦巻く中、ついに彼らは我々の眼前に姿を現わした。1時間という短い枠ながら、その圧倒的なパフォーマンスが観た者の多くを震撼させたことは間違いない。しかし、このフジでのライヴについて何か書こうとしても、自分には何も言葉が思い浮かんでこないのだ。ただただ呆然と見てしまったために、メンバーがどうだったとか、演奏がどうだったとか、評論の材料となるような細かい部分の記憶がほとんどないのである。メイナードが全身を青く塗っていたことにすら気づかなかった。それなりに長い間ロックについての文章を書き続けてきて、こんなことは初めてだ。とにかく「これはそう簡単に咀嚼し切れるもんじゃない」という感覚だけが、ハッキリと頭の中に尾を引いていた。
 そんなわけで、フジロック以降「トゥールというバンドはまだまだ計り知れない」という気持ちがいっそう強くなっていったのだが、その半月後、思いもかけずトゥールのライヴを再体験するチャンスが巡ってきた。8月13〜14日のロサンゼルスでのライヴが見れるというのだ。しかもその公演は、米西海岸7カ所で10回だけしか行なわれないキング・クリムゾンとの共同ツアーなのである。たいへん貴重な機会を与えてくださったMさんに、ここで改めて感謝の意を示しておきたい。
 トゥール=プログレ説も囁かれはじめた中(?)いきなり実現した本ツアーの特殊性はもうひとつあって、それは今や当然のようにアリーナ・クラスのキャパを対象とするべきトゥールが、なぜか今回に限って遥かに容量の小さなホールを廻るということだ。現にLA公演の会場となったウィルターン・シアターは、渋谷公会堂をひとまわり小さくしたようなところである。同じ月に行なわれる他の公演の告知として、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ、ベル&セバスチャン、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツといった名前が掲示されていたことからも規模のギャップは実感してもらえるだろう。このサイズの箱でトゥールを観られる機会も、今後は滅多にないはずだ。ちなみに、LA公演のチケットは当然のごとく5分もしないうちに完売してしまったという。
 チケットを求める人々から向けられる羨望の眼差しを背中に感じながら会場に足を踏み入れると、ゲストパスをもらうために並ぶ人の列の中に、メルヴィンズのバズ・オズボーンの姿を見つけた。あのデカい元祖アフロ頭はすぐに分かる。そう言えば、バズは『SARIVAL』のライヴCDにゲストとしてクレジットされていたし(逆にアダム・ジョーンズが参加したメルヴィンズの作品もある)、彼がマイク・パットンとやっているファントマズは、トゥールの9月からのアリーナ・ツアーでオープニング・アクトを務めている(※ファントマズの次はトリッキーが前座に起用されるようだ)。他にも、自分は気づけなかったが、APCの美人ベーシスト=パズ・レンチャンティン(現ズワン)や、レッチリのジョン・フルシアンテも観に来ていたらしい。

 キング・クリムゾンの演奏開始時刻は通常より少し早め。当日の昼、ホテルの近所で偶然エイドリアン・ブリューに会ったのだが、その時もエイドリアンは「僕らの出番は7時半きっかりだから、早くヴェニューに来た方がいいよ」と言っていた。当然クリムゾンも単なる前座扱いではなく、きっちり1時間はプレイするので、その分ライヴ全体は大変な長丁場になりそうだ。
 それにしても……開演10分前になっても、会場内に人の姿はまばらだ。今回の2つのバンドの組み合わせに反応して、どのような客層が集まるのか興味深かったのだが、やはりプラチナ・チケットを手にした人の多くは、単純に熱狂的なトゥール・ファンがほとんどのようで、そういう人達にとってはキング・クリムゾンでさえも他の前座といっしょなのか?と、少しガッカリする。それならそれで、メイナードが「他のバンドとはひと味ちがうぜ」と自慢していた、現地のトゥール・ファンの独自性を観察してみたが、なんとも実体がつかみにくい感じだ。ゴス風の格好をした女子もいれば、パンテラのT−シャツを着たメタル野郎もいる。やや年輩の人達はクリムゾン・ファンだろうか。全体的にバラバラなうえ、トータルで普通っぽい人々という印象を受けた。それと、ナードというかジークというか、リバース・クオモ風のメガネ君ルックスの男子がチラホラ混じっているのが面白かった。
 まだ外でたむろってる連中が大勢いる状態で定刻を迎えると、「いつのまにやら……」という感じでクリムゾンの演奏がスタート。場内の照明は一気にバンと落ちるのではなく、少しずつ少しずつ暗くなっていき、そこにロバート・フリップ御大が登場、それまでずっと会場に流れていたアンビエントな音に合わせてお得意のサウンドスケープギターを鳴らし始め、客電が完全に落ち切った時点で他の3人のメンバーが揃うのだが、この極めてゆっくりとした立ち上がりの1曲目は、まさに形になりつつある新曲のようだ。もう一つ“レベル5”と紹介された新曲も披露されたが、そちらはおそらく“太陽と戦慄パート5”としてまとめられることになるのだろう。他には、最新作から“コンストラクション・オブ・ライト”や“イントゥ・ザ・フライング・パン”、さらにファンにはお馴染みプロジェクト・シリーズからのレパートリー“ディセプション・オブ・ザ・スラッシュ”などが演奏され、最後は“セラ・ハン・ジンジート”(※2日目は“フレイム・バイ・フレイム”に変わった)に続けて“レッド”でしめるというセットリスト。コア・ファンには物足りないが、初心者にはちょうどいいコンパクトさだったと思う。
 初日には“レッド”、2日目は“フレイム・バイ・フレイム”の途中でパット・マステロットがこっそり退場して、ダニー・ケアリーと入れ代わるサプライズ・アトラクションがあり、これはフリップ先生とエイドリアンにも知らされずにいたらしい。ニュー・スーパー・ドラマーとして評価が急上昇中のダニーは、もはやヴィンテージとなった、あのシモンズの6角形シンセ・ドラムを自らのドラムキットに組み込んだりしているところを見ても、熱烈なビル・ブルッフォード・ファンであることは隠しようがなく、大好きなクリムゾンの曲を楽しそうに叩きこなしていた。そんなダニーの飛び入り効果もあり、その頃にはちゃんと埋まっていた客席から大きな拍手を浴びて(特に2日目はスタンディング・オベージョンだった)キング・クリムゾンはそのステージを終えた。しかし、それで「偉大なる先達」の出番が全て終了したわけではなかった。トゥールのショウの途中で挟まれるインターミッションのところでロバート・フリップが再度登場し、さらにサウンドスケープ・ギターを弾きまくるという珍しい(?)サービスぶりを見せたのだ。特に2日目の14日には、インターミッション直前に演奏された“リフレクション”の最後のリフを延々と引っぱる形で、アダムがしばらくステージに残り、2世代ギタリストの共演が実現した。
 全体的にクリムゾンのライヴは、音量のレベルがやや低いという不満を除けば、昨年の来日公演に比べて遥かにこなれた印象で、演奏時間が短く、基本的にはトゥールが主役だという意識もあったのか、リラックスしつつも充実した内容だったと思う。個人的にはトニー・レビンのバック・ボーカルを懐かしむ気持ちもなくはないが、現在のメンツになったことで、バンドにかつてない安定感がもたらされていることは間違いない。フリップ御大は、トゥールのようにクリムゾンの影響下にあることを公言してはばからない(※メイナードは別の公演のMCで、「僕らがクリムゾンといっしょにやるのは、レニー・クラヴィッツがレッド・ツェッペリンと、ブリットニー・スピアーズがデビー・ギブソンと同じステージに立つようなものだ」と言ったとか?)若手のリアルタイムな成功に刺激されたのか、「NUOVO METAL」という新たなキーワード(およびガスマスクの新キャラ)を掲げ、クリムゾンの再活性化に意欲的な様子を見せている。スタジオ・レコーディング作品も含めて、次なる展開が今から非常に楽しみである。そして、この日までクリムゾンのことを知らなかった若いアメリカ人のトゥール・ファンの中にも、温故知新的な発見をした人間の数は少なくなかったと思う。


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