Big Time

16 Shells From A Thirty-Ought-Six
Red Shoes
Underground
Cold Cold Ground
Straight To The Top
Yesterday Is Here
Way Down In The Hole
Falling Down
Strange Weather
Big Black Mariah
Rain Dogs
Train Song
Johnsburg, Illinois
Ruby's Arms
Telephone Call From Istanbul
Clap Hands
Gun Street Girl
Time


"Frank's Wild Years"ツアーは、1987年10月から12月にかけて行われた。
この間にもトムに関連した作品が発表され、インタビューも多数行われた。
アイランドからは12インチシングルの"16 Shells/ Black Mariah/ Ruby's Arms"、"16 Shells/ Black Mariah (ライヴ)"、"Hang On St. Christopher/ Hang On St. Christopher (instrumental)"がリリースされ、RhinoからはMTVの"The Best of the Cutting Edge, Volume II"が撮影、リリースされた(トムは"Limo interview"で出演)
Clive GrayとJurgen Dierkingによる、初のトムのバイオグラフィー"Wilde Jahre"(ドイツ版)が出版されたのもこの時期だ。
トム自身はといえば、3月24日には、サンタモニカのKCRWで、"Snap"にラジオ出演し、4月から5月にかけて、アメリカのノースハンプトンで、アカデミー・オブ・ミュージックに出演した。
続いて6月から7月には、ニューヨークのAlbanyで、Jack NicholsonやMeryl Streepと共に映画"Ironweed"の撮影を行った。
この映画の撮影は1月から開始されており、トムは"Rudy the Kraut"という役だ。

"俺はルディーという役をやった。列車の構内で襲撃されて頭を棒で殴られるんだ。 出血多量やら、内出血、脳をやられたんだかで、結局、救急病棟で死んじまう。 つまり・・アルコールと神の洗礼、贖罪の話だってことさ。 良い経験だった。素晴らしい人々と仕事をする機会だったんだから。それに、今回は演じる都合上、自分の意志に反して、飲まなきゃならなかった。みんなこう言ってたよ「役柄なんだから飲まないと仕方が無いな」ってね。 ・・・だから、沢山飲み続けたんだよ"


この後、いくつかのコンサートに出演し(その中には、ハリウッドのCoconut Groveで行われた"A Black and White Night (Roy Orbisonトリビュート)"も含まれる)、雑誌のインタビュー等にも応えたトムは、10月から"Frank's Wild Years"ツアーを開始した。
これは、12月まで続き、バンドの編成は以下の通りだ。
Tom Waits: vocals, piano, bullhorn
Marc Ribot: guitars, banjos, trumpet
Willie Schwarz (11月1日から参加。Willie 'the squeeze'と紹介された): accordion, organ, keyboards
Ralph Carney: saxophones, clarinet, bass clarinet, marimba, violin, baritone horn, harmonica
Greg Cohen: upright/ electric bass, box electric (= basstarda)
Michael Blair: drums, percussion

さて、この間にもトムは"Late Night With David Letterman"をはじめとする多数のテレビ出演などを果たした。
インタビューに応え、時には歌う。
その巧妙な語り口が観客を魅了したことは言うまでもない。

尚、12月には、Hector Babenco監督の映画"Ironweed"がリリースされた。
William KennedyのAlbany三部作を原作としたこの作品は、1987年に撮影され、トムとKennedyは、"The Cotton club"の撮影中に会い、トムは、演技のレッスンを受けたと語っている。

年が明けて1988年。
前半は、それほど目立った動きが無かったトムだが、9月に入り、1枚のアルバム(そしてビデオ)をリリースした。
それが本作"Big Time"だ。(評論等はこちら

映画版の"Big Time"は、スタジオ・ヴァージョンの"Just Another Sucker On The Vine"が流れ、"さぁ、これはFrank O'Brien.という男のストーリーだ・・"というイントロでスタート。

ちっともセクシーでないエロティックな生々しい絶叫の"Shore Leave"。
そこにはトム・ウェイツの世界・・いや、フランクの世界が広がっており、嫌が上にも引きずり込まれる。

そして、ますます夢と現実の境界が薄くなりつつある"Way Down In The Hole"。
手振り足振りを交えての熱演。ここには彼が"壁を通り抜けるスーパーマン"と評したプリンスの影響もあるのだろうか。
そういえば、プリンスもまたトムと同様に・・あるいはそれ以上に自己演出の天才なのだ。

だが、"Hang On St.Christopher"での痙攣とも思える仕草、そして拡声器を持ち出しての叫び声を聴けば、ここにいるのは紛れも無くフランク・オー・ブライエン(あるいは、トム・ウェイツ)その人なのだということに気付かないわけにはいかないだろう。

マラカスと電球を手に歌われる"Telephone Call From Istanbul"では、トイレの片隅(?)に座り込み、置いたシルクハットに向かいトランプを投げ入れるフランクも登場。どちらが本物なのだろうか?恐らく両方だろう。

まるでチンピラ・ヤクザのような格好でアコースティック・ギターを抱えたフランクが、「次は小さな男についての歌だ」と言って歌うのが、"Cold Cold Ground"。
C-Am・・・と、無難にコードを演奏しながら顔をしかめ、アコーディオンに乗せて歌っている。

白い上着に黒のサングラス。前曲と同様に、書かれた(?)口ひげがペテン師じみているトムが「株ですっちまい行き着く所は1つだけさ・・」と言って始まるのが"Straight To The Top"。
ここでメンバー紹介も行われている。

いつもの田舎風の服装で、帽子も変えて登場したトムが腰をかがめてアコースティックを弾く"Strange Weather"は、まさにフランク(トム)の1つのキャラクターイメージではないだろうか。

拡声器を脇に挟んで、さして白くもない・・だが並びは良い歯を見せつけニヤリと笑顔になる"Gun Street Girl"はハイライトの1つ。
ストーリーテラーとして生命線の1つとも言える表情の豊かさを、トムが十二分に持っていることがよく分かる。
実際に、本作でストーリー・・それもフランクに基づくストーリーやMCを重要視していたのは明らかで、曲間に散りばめられている観客とのコミュニケーション(と言っても、フランクがでっち上げた話に、観客が笑うというパターンが大半だが)の多さからも、それは分かる。
だが、傘が火で燃えてしまう"9th and Hennepin"、"Clap Hands"、そして優しき"Time"・・・。
そうした楽曲の演奏が、しっかりと見せ場になっているのは、この作品が"Un Operachi Romantico"と名づけられた由縁だろう。

その"Time"の余韻も残さずにチケット売場のフランクが現れ、再び映像はステージへ。
犬の鳴き真似から始まる"Rain Dogs"、"Train Song"の演奏シーンや、トムが性行為をやらずに孕ませる方法について"南北戦争の頃のあの寸法さ・・"と語った後、"16 Shells From a 30.6"となり、この後、眠りについていたトムは目を覚ます。
その頃、ステージ上のフランクは羽毛(?)をばら撒きながら"I'll Take New York"を情感たっぷりに歌う。もっともマイクの感度には何の情感も無い。
その姿は、まるでフランクの夢に痙攣しているかのようだ。

ツイていない日々を箱詰めにして卵のように孵したら、日が週、週が月、挙句の果てには年に膨れ上がっちまったという秀逸なMCがあり、"More Then Rain"があり・・・マイク・スタンドを抱いてフランクは社交ダンスまがいにフラフラとしている。
ピアノの弾き語り"Johnsburg, Illinois"の後は、バスタブから登場したフランクによる"Innocent When You Dream"。
周囲には泡が立ち込めている。バブルは弾けて飛んでいく。この曲はライヴではなく、オーディエンスのいない中で撮影されたものだ。夢の跡ということだろうか?

ともかく、フランクのショーはこれで終わり。ラストで"Big Black Mariah"が流れ、フランクのストーリーはひとまずの決着をみるのだった。

尚、アイランドからリリースされたCD版は、トムとキャスリーンによってプロデュースされたライヴ作品で、Los Angeles、Dublin、Stockholm、Berlin等でレコーディングされた。
そして、スタジオ・レコーディングによる新曲"Falling Down"も収録されている。


トムは"Big Time"という作品についてこう語っている。

"俺達は、剥製の鳥みたいなコンサート・フィルムだけは避けようとした。
空調管理の効いたコンサート映像じゃなくて、メキシコの闘鶏試合みたいな熱気あるフィルムを作りたかったのさ。
映像のいくつかは、サファリ・ライフルで撮ったみたいなのさ。
観る方が、カメラ越しだということも忘れる・・・それこそが俺がやりたかったことなんだ。
でも、コンサートでの自分の姿を見てると、自分で思ってたようなイメージじゃないんだよな。
俺はもっと背が高くってRobert Wagnerに似てるつもりだったんだが。
・・・もし金がもっとあれば、Rangoonのプロボクサーのシークエンスを入れるのも悪くはなかった。
マッチを掲げているオーディエンスなんかもね。水中バレーのシークエンスもいいけど、それまで入れたら別物の映画になっちゃうからなぁ。出来上がってから観ると、ズボンからパンツを出さなきゃ良かったなとか、色々と反省点が出てくるもんさ。必ずどこかしら変えたくなるんだ"

"一旦、映画が完成すれば、後は映画に巡業させて俺自身はずっと家に入れると思ってたんだ。ところが、いざ公開してみると、今度は色んなインタビューを受けに行かなきゃならなくなった。
(Big Timeは)様々な評価を受けた。
おおよそ、見当はついていたんだがね。
あるレビューにこうあった。"ピアノの教師はショックを受けるだろう"ってね。
俺のお気に入りのレビューだ。
他には、"重病の動物の胃の中で撮影されたみたいだ"って言ってる奴もいたな。
これ等は、良いレビューだよ。俺のお気に入りだ"