** アセやん奮戦記




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大不評のアセやんが独立w!
知ってる人も知らない人も今すぐ“アセやんワールド”に飛び込め!




そいつは小太りですぐ汗をかく小学4年生(現在、奇跡的に5年生に進級)。
ピチピチの短パンを1年中愛用。
目立たない存在であり、クラスの連中からは「アセやん」というあだ名で呼ばれている。
すぐに汗をかく事から付けられたあだ名だ。「やん」の部分は「パーやん」みたいな感じで付けられた意味の無いもの。
みんなあだ名で覚えているために、本名を知る者は少ない。
先生にも「アセやん」と呼ばれる始末。



アセやん 第1話 アセやん 第2話 アセやん 第3話 アセやん 第4話 アセやん 第5話
アセやん 第6話 アセやん 第7話 アセやん 第8話 アセやん 第9話 アセやん 第10話
アセやん 第11話 アセやん 第12話 アセやん 第13話 アセやん 第14話 アセやん 第15話
アセやん 第16話 アセやん 第17話 アセやん 第18話 アセやん 第19話 アセやん 第20話
アセやん 第21話 アセやん 第22話 アセやん 第23話 アセやん 第24話 アセやん 第25話
アセやん 第26話 アセやん 第27話 アセやん 第28話 アセやん 第29話 アセやん 第30話
アセやん 第31話 アセやん 第32話 アセやん 第33話 アセやん 第34話 アセやん 第35話





アセやん 第1話

ある日、クラスで給食費が盗まれる事件が起こった。…アセやんは犯人を偶然目撃していた。
ガキ大将の遠藤君だ。
帰りの学級会で先生が言う。「みんな目を閉じろ。今日、給食費が盗まれた。正直に手を上げれば許してやる。犯人探しをするのが目的じゃないからな」。
(遠藤君、怒られるな…)
アセやんは目を閉じてその時を待った。
次の瞬間、先生は「…みんな目を開けろ。犯人はアセやんだ」とだけ言った。
後のアセやんの卒業文集には「権力」の文字が50回も書き殴られていた。




アセやん 第2話

放課後。
クラスのみんなは友達と一緒に帰ったりしているが、アセやんはいつも1人で家路につく。
校門を出ていつものように1人で歩いていると、前方にクラスの女の子たちが見えた。
その中の1人、アセやんが密かに思いを寄せる美香ちゃんが「アセやん!一緒に帰ろうよー」と声をかけてくれた。
夢のような出来事にアセやんは走って女子に近付いた。
女子軍団まであと1歩というところで美香ちゃんたちは走って逃げた。
「バーカ!一緒に帰りたかったらここまでおいでー!」

好きな子のワラ人形を作成したのはこの日が初めてだった。




アセやん 第3話

その日、アセやんは誰よりも早く登校していた。
いつもアセやんをいじめる遠藤君にいたずらしてやろうと思ったからだ。
彫刻刀を取り出して、遠藤君の机に『お前はクラスの嫌われ者だ』と彫ってやった。
陰険な仕返しではあるが、アセやんの心は少し晴れた。やがて、みんなが登校し、遠藤君も自分の机の落書きに気付いた。
「何だよ?これ!?」焦る遠藤君。(いつもぼくをいじめるからいい気味だ…)

警視庁の科学捜査班が来るまでそう時間はかからなかった。




アセやん 第4話(野球中継延長の場合、休止)

雨の日の下校途中、アセやんは道ばたに捨て犬を見付けた。
ずぶ濡れで「クゥーン、クゥーン…」と鳴く犬。通りすがりの人たちも頭を撫でたり、ご飯をあげたりしている。
(確か給食の残りのパンがあったな)アセやんがその犬に近付いてパンをあげようとすると
「ガルルルル…!」と犬の表情が一変し、鋭い牙を剥き出しにした。

アセやんが病院のベッドで目覚める前日の話だ。




アセやん 第5話

この季節、放火が多発している。
アセやんは刑事ドラマが好きだった。
小学4年生にも関わらず「あぶない刑事」や「太陽のほえろ」は全てビデオで網羅している。
(早く捕まらないかなぁ…。ぼくに聞き込みに来たら面白いんだけど…)
アセやんは妄想を膨らませた。
その時、玄関のチャイムが鳴った。アセやんは2階から身を乗り出した。
「連続放火の件でお宅の息子さんにちょっと…」

アセやんが取調室でカツ丼を頬張る最初の体験だった。




アセやん 第6話

今日はクリスマス。
アセやんは両親に頼まれてクリスマスケーキの受け取りに来ていた。
(この日ばかりはぼくもいい気分になれるんだ)アセやんはケーキを大事に持って人込みをかき分けた。
途中で「その筋」の人とぶつかってケーキは台無しになってしまった。
「その筋」の男の人の腕にはケーキがベッタリ。
「坊や、大丈夫か?」
「大丈夫だよ!世の中にはケーキよりも大事なものがあるもん!」
アセやんは精一杯の笑顔で答えた。
「そうか。それじゃワシのロレックスを弁償してもらおうか」

アセやんの両親がヤミ金に手を出すきっかけとなった話だ。




アセやん 第7話

遅ればせながら「ロングヴァケーション」にいたく感動したアセやん。
(あぁ…ぼくにも綺麗なお姉さんが現れないかなぁ…)
そんな妄想を抱きながら、今日も放課後は1人で繁華街に繰り出す。
両親からのお小遣いは小学4年生にとっては破格の月1万円だ。
「その願い叶えてあげようか?」
透き通るような声でアセやんは前を向いた。
(これは夢だろうか…)
前方にはボディコンの女性が立っていた。
(今時…?)
そんな考えも吹き飛んでその女性に近付くアセやん。
「アソビ。1万円デ、イイヨ!」

アセやんがフィリピンに移住を考える事になるのはこの10年後の話だ。




アセやん 第8話

いつものように繁華街を1人で歩いてるアセやん。
前方にテレビクルーが目に入った。(街頭インタビューかな?)
アセやんはそのまま通り過ぎようとしたが「坊や、インタビューに答えてくれるかな?」女性インタビュアーは優しい声で言った。
「ハイ!」こんな事は一生に一度あるか無いかだ。アセやんは一生懸命に答えた。
「じゃあオンエアを楽しみにね」

オンエア当日には「容疑者の男性」のテロップが踊っていた。




アセやん 第9話(生放送SP)

今日は運動会。
アセやんは小太りなので勿論運動は苦手だ。
クラスでの発言権もあまりないアセやんは、最も厄介な「借り物競走」に無理矢理抜擢されてしまった。
運動会当日、腹をくくったアセやんは思った。
(足は遅いけど借りる物の内容によっては勝てるはずさ)
…「誰か腕時計貸してくださーい!」「カメラ持ってる人いますかー?」様々な内容の紙にみんなが声を上げる。
アセやんが息を切らしながら紙を開けると、そこには「オープンフィンガーグローブ」の文字が…。




アセやん 第10話(NHK教育)

その日アセやんは唯一の友達である田島君の家にいた。
田島君はアセやんよりも太っていて、クラスでも、より目立たない存在である。
アセやんが優越感を感じる事が出来るたった1人の友達だった。
いつもなら田島君はアセやんとゲームをして遊ぶのだが、この日だけは何故か大相撲の録画テープを無言で延々と見せるのみ。
さすがに不信感を抱いたアセやんは田島君に「何かして遊ばない?」と切り出す。
しかし田島君の眼光は鋭く「今、いいところだから待って!」と目も合わさずに言う。
3倍速で録画した6時間にも及ぶ大相撲のテープが終わり、テレビ画面には砂嵐。
…ザーザー。
「…ぼく、ホモでデブ専なんだ…」
田島君がポツリと言った。
アセやんは身の危険を感じた。
…相撲を別の意味で凝視していた田島君の目は絶滅した日本オオカミよりも鋭かった。




アセやん 第11話

その日、いじめっ子の遠藤君の取り巻きの一人である松嶋君が、いつものようにアセやんをからかってくる。
「何だよコレー?誰だよー」
「あっ!」
ファンクラブにも入会しているマルシアのブロマイドを取られてしまった。
「遠藤君!見てよー。アセやん、こんなの持ってたぜー」アセやんをからかっては遠藤君の機嫌を取る松嶋君。
(フン。ぼくはあんなザクレロみたいな生き方はしないんだ)アセやんは心の中で思った。
「アレ?アセやん何か落ちたよ」憧れの美香ちゃんがそれを拾う。
「あ!それは…!」
密かにファンであった市原悦子の生写真を見られたアセやんは美香ちゃん暗殺を目論むが…。




アセやん 第12話

アセやんは小学4年生ながら携帯電話を所有していた。
勿論料金は両親が支払っている。
友達の少ないアセやんには必要無いと思われがちだが、出会い系サイトで知り合った「42歳、主人が単身赴任の主婦」とメールを続けている。
ある日『今日は娘が修学旅行に行っているから自宅に来て…』とのメールを受信した。
アセやんは「30歳実業家」と偽ってメル友になっていた為だ。
メル友と言っても週に1、2回のやり取りであったのだが、緊張したアセやんは何度もメールを繰り返し、主婦の住所や時間帯などを確認する為にメールを送った。
いざ、その住所に繰り出してみるとそこにはドンキホーテが…。

次回の利用料金が10万を超える事をこの時のアセやんはまだ知らない。




アセやん 第13話(K-1と二元中継)

「おばあちゃん!来たよ!」アセやんは身寄りも無く一人暮らしのお年寄りの家に通っていた。
それは小学生の純粋な衝動からでは無く、大好きな美香ちゃんに気に入られる為の行動だった。
「おぉ…。また来てくれたのかね。友達と遊びたいだろうに…。いつもありがとね」
おばあちゃんはアセやんを動かす腹黒い動機を知らない。
…そんなある日、そのおばあちゃんが急死した。
お葬式にも参列し
(ゴメンね、おばあちゃん。美香ちゃんに気に入られようとして、偽善で動いていたぼくを許してね…)
アセやんは祈った。

遺言状には「あの子を裁判に!」と毛筆で書かれていた。




アセやん 第14話

休み時間。
アセやんは久々に沢山の友達とゲームをして楽しんでいた。
そのゲームには勿論罰ゲームが存在する。
が、みんなで書いた罰ゲームの内容を自分で引くというものであるので平等である。
「あ、アセやんの負けだよぉ〜」最愛の美香ちゃんが言った。「罰ゲーム引いて!」
アセやんは箱の中に手を入れ、ガサガサと探った。
(…!これだっ!)ニュータイプとも言える感覚がアセやんを包んだ。
(見える…!私にも見えるぞ!)
アセやんは心の中でつぶやき罰ゲームの紙を取り出した。
その瞬間、アセやんの顔面は蒼白となった。「早く読んでよぉ〜」美香ちゃんが急かす。

その内容は「谷亮子を素手で触る」という過激極まりないものであった。




『春だ一番!アセやん祭り』 アセやん 第15話

無事に5年生に進級出来たアセやん。
アセやんは人一倍勉強をしているが、いつも成績の悪い「生まれついてのバカ」だ。
義務教育で落第など有り得ない小学生ながらも、先生に「お前、5年生になるの難しいぞ」と言われたほどであった。
それだけに喜びもひとしおのアセやん。
(ぼくもとうとう5年生だ。高学年として年下の子の面倒を見るいい先輩になるぞ)と心に誓っていた。
そんなある日、アセやんは本屋で万引きをする子を目撃してしまった。
(あれは確か3年生の子だ)
正義感の強いアセやんは、その子に近付き小声で「今取った物をお兄ちゃんに出して。大丈夫。お店の人にバレないようにこっそり返しておくから」とつぶやいた。
その子から万引きした本を受け取り、元の場所に返そうとすると店のおじさんが「コラッ!何してる!」と走ってきた。
オロオロするアセやんをよそに、その子は「このお兄ちゃんが万引きしろって脅したぁ!」と泣き出した。
「小さい子供を使って万引きなんざ、ふてぇ野郎だ!警察に突き出してやる!」鼻息荒く言う店主。

数日後、子供電話相談室に「人間のカルマについて教えて下さい」という質問が小学5年生から寄せられた。




アセやん 第16話

今日はハリウッド映画「笑っていいとも!」が全世界同時公開される日だ。アセやんは興奮を隠せずにいた。
あらすじを書くと『タモリ役の森田一義がお昼に番組を持ち、若手お笑い芸人のボケにも対応出来ず、手前の雑学を発表する』というものだ。
…映画を見終え、帰路につくアセやん。
(あぁ、これがフィクションで良かった。現実だったら劇中の「ガレッジセール」や「爆笑問題」もヤバかったよ…)
明くる日、アセやんは新聞のテレビ欄に「笑っていいとも!」の文字を目にする。




アセやん 第17話

アセやんは意外にも「町内少年野球チーム」に所属している。
と、いっても毎回試合の時はベンチウォーマーなわけだが、この日の試合は15対2。
負けは目に見えている。
既に7回の裏。最終回である。
アセやんの属する「元祖おきゃんぴーズ」の監督は(どうせ負けるなら)との事でアセやんを代打として送った。
勿論、試合に出るのは初めてである。
負けると分かっている試合だから代打に指名されたのだ。
アセやんは自らのバットを握り締め、そこに描いてある「時代はパーシャル」の文字と「アグネス・チャンの肖像画」を見つめる。
(ここで打たなきゃ男じゃない!代打サヨナラ男になるんだ!)
…例え満塁であってもサヨナラは有り得ないのだが、気持ちはサヨナラのつもりだ。
第一球が投じられた。
100kmの直球。
アセやんはバットを思い切り振る。
するとすっぽ抜けたアセやんのバットが敵チームの監督の顔面を直撃した。

アセやんが慰謝料の書物を読み漁る前日の出来事だ。




アセやん 第18話

今日の5時間授業のうち、3時間は廊下に立たされるという、今季初の「5打数3安打」の猛打賞(自身5度目)を記録したアセやん。
昨日の「レフトゴロ」という前人未到の大記録にも、大した動揺を見せない。
今日も今日とて「お待っとさん!」のかけ声高らかに「忍法、後家殺し」を繁華街で披露するも、
アセやんの後ろには警棒をパシパシ鳴らすアメリカンポリスが2名近付いてくるが…。




アセやん 第19話

「今日も穏やかに過ごせますように…」
パンパン!
自室にある『風船おじさん』の抽象画に手を合わせる事から、アセやんの一日は始まる。
その後、いつものように5時間に渡り「ドラクエ2の復活の呪文を復唱する」儀式を済ませ、
自室のドアの前に無造作に置かれた曙の踏み絵を躊躇無く踏み潰しダイニングへ向かった。
そこで、アセやん宛に来ていた一通のハガキを目にする。
『20歳前後の女性の集いです。貴方のお電話待ってます』とあり、電話番号も書かれていた。
…アセやんは、何の疑いも無く電話をした。
ピンポ〜ン♪
1時間後に玄関先に現れた女性は、古代化石と見紛う程。

アセやんはヒマな夏休みの午後を、その墓石(ぼせき)のような身体に託すが…。




アセやん 第20話

友達のいないアセやんは、夏休みも独りぼっち。全く予定の無い1ヶ月半である。
仕方なく、夏休みの自由研究の題材を探して街に繰り出すも、目にするのはフィリピン女性ばかり。
そこで、アセやんは「フィリピン女性における出稼ぎ風俗に対し、ダンサーと名乗るフィリピン人の生態に対する若干の考察」という論文に決めた。
街頭インタビューでフィリピン女性に意見を求めるも「アソビ」や「サンマンエン」という言葉しか耳に出来ず、
諦めかけて帰宅しようと思ったところで「その筋のお兄さん」に肩を叩かれ、アセやんは自由研究を「ぼくのお母さん」という真逆な方向に転換せざるを得なくなるが…。




アセやん 第21話

夏休みも終わり、元気に登校するアセやん。
勿論、友達がいないアセやんはヒマな夏休みだったので、宿題は全て休みの前半に終わらせた。
そう、アセやんにとって夏休みの宿題は『最高の暇潰しであると同時に、友達がいない事に対する唯一の言い訳』なのだ。
更に、意外にも古風なアセやんは、今日も登校中に近所の飼い犬を次々と野に放つという凄まじい『武士道っぷり』を発揮。
その都度、飼い主に『小学生にやるとは思えない渾身のビンタ(たまにグー)』を喰らい、顔面を腫らして登校。
(ぼくは間違ってなんかない!)
そう言い聞かせるアセやんだが、自由にしてあげたハズの犬たちが野犬化し、アセやんの家の周りをグルリと取り囲んだ。




アセやん 第22話

学校では、みんな真っ黒に日焼けしており、夏休みを充分に堪能した模様が伺える。
愛しの美香ちゃんの日焼け姿も眩しく、男子の注目を集めていた。
「ねぇ、どこ行った?」というお決まりの会話が飛び交う。
「私、ハワイ!」「俺、じいちゃん家!」
勿論、会話に入る事の出来ないアセやんだが、美香ちゃんはただ一人日焼けしていないアセやんを見て声をかけてくれた。
「ねぇ、アセやんはどこか行ったの?」美香ちゃんの好意は嬉しいのだが、この時ばかりは辛い。
アセやんは蚊の鳴くような声でウソを言った。
「ボ…ボスニア・ヘルツェゴヴィナ…」




アセやん 第23話

以前にも書いたが、アセやんの家は意外にも裕福である。
アセやんの二学期の目標は「学校に一番に行く」というものであった為、いつも通りの時間にダイニングへ向かい、学校へ行く準備をする。
しかし、そこは友達のいないアセやん。
一番に学校に行ってする事と言えば「一人こっくりさん」くらいしか無い。
9月から毎日続けている「一人こっくりさん」記録に泥を塗るわけにいかないアセやんは、いつも通り、朝早くにダイニングに降りた。
すると父親が、何やら興奮気味に母親に事業の事を語っていた。
断片的にしか聞いていないが「月に100万…!」「友達を紹介すると…!」「このストーンの力は…!」等といった言葉が飛び交っていた。
「ねぇ、“うまい儲け話がある”って言ってたアセやんのお父さんが、公園のブランコで大量の石ころを抱えてうなだれてたよ」という同級生の言葉を聞いたアセやん。
放課後、帰宅途中にある公園のブランコにいた父親の足下には「原色に塗られただけの」石ころが散乱していた。




アセやん 第24話

学校では「空気同然」のアセやん。
男子の中ではアセやんがターゲットにされているが、女子では渡辺さんが標的だ。
小学五年生とは思えないほどの「老け顔」で、パッと見ると30代の雰囲気さえある。
しかし、渡辺さんより、吉村さんの方が標的になってもおかしくない「堂々たる風格」がある。
(今日は渡辺さんか…)
クラスのいじめっ子を見て、ホッとするアセやん。
「やーい!このブス!」男子が渡辺さんを執拗にいじめる。
(全く、どうしてイジメなんて起きるんだ!)
心の中では憤慨していたアセやんだが、渡辺さんの次の言葉を聞いて愕然とする。

「私がブスなら、吉村さんは何なのよ!」

…クラス中が、妙な一体感に包まれた。




アセやん 第25話

屋外での体育授業も寒く感じる今日この頃。
アセやんは今日も、両親指に穴のあいた“館ひろしのサイン入り靴下”をはいて元気に学校へ向かった。
登校途中に“バレバレの宣教師”から「アナタハ、カミヲ、シンジマスカ?」とアグネスチャンばりの流暢な日本語で言い寄られるアセやん。
急いでいるのだが、そこは内気な彼の事。素直に立ち止まり
「…いや、あの…ぼくは…」何とかやり過ごそうとすると、
その“バレバレの宣教師”はアセやんの靴下に目をとめた。
「オー、アナタノクツシタ、ミレバワカリマス。“ポッポ”ト、カイテアリマース。ニホンゴデ、ハト…。ヘイワノ、ショウチョウネ!」
アセやんは「いや…ポッポっていうのは、西部署での愛称で…団長は“ハト”って呼ぶんですけど…。でも…」
と身振り手振りを加えて説明するが、勿論、宣教師には分かるハズも無い。

…アセやんが学校に辿り着いたのは、木枯らしの吹く放課後だった。




アセやん 第26話

大概、クラスで目立たない存在という者は、相手にもされないのだが、アセやんは違っていた。
彼はクラスのターゲットとしての確固たる地位があった。
小学五年生にして“パシリ道”を極めたアセやんは、いじめっ子の注文通りの品を確実に届ける事が出来る。
(どんなもんだい!ぼくに買ってこられない物なんて存在しないんだ!そこらのパシリと一緒にすんない!)
そう、彼は上等なパシリなのだ。
「アセやん、この紙に書いてあるもの買ってきてよ」ガキ大将の遠藤君から声がかかった。遠藤君の取り巻きは含み笑いをして視線は外した。
(…ぼくを試そうっていうんだな。そうはいくもんか!たかがお菓子やジュースに負けるぼくじゃないんだ!)
遠藤君から紙を受け取り、颯爽と教室を出るアセやん。
走りながら紙を開くと、そこにはメローイエロー、サスケ、メッコール、ドーナッチョの文字。

この日、彼は初めて人生の壁にぶつかった。




アセやん 第27話

今日は新学期、初めてのテストの日だ。
マメなアセやんは、前日に教科書をランドセルに入れ、テストへの準備は万端だ。
いつも通り、飼い犬を野に放つという犯罪行為を正義と信じて疑わないアセやんは、登校時間ギリギリであった。
事前にトイレで用を足し、テストに備えて、復習をするべく教科書を出したアセやんであったが、いじめっ子の手によって教科書は全て
『ちょっと一言よろしいかしら?(デヴィ・スカルノ著)』にすり替えられていた。
…小学生とは思えぬ常軌を逸したイタズラである。
(この本から、何を学べって言うんだよ…)目の前が真っ暗になるアセやん。


以下がアセやんの解答だ。
問題:フランシスコ・ザビエルが、日本に伝えたものは?
解答:朝青龍
問題:H2Oは何の化学式?
解答:ナムル
…テスト開始とともに、アセやんは知ってる単語を並べるしか無かった。




アセやん 第28話

今日は卒業式。
アセやんの学校では、最近流行りの「独唱」から卒業式を始める事になり、何故かアセやんが代表に選ばれた。
しかもアセやんをプッシュしたのは、いじめっ子の遠藤君だったのだ。
「曲目は相応しいヤツを用意してやるからな!」と、アセやんの肩をポンと叩く。
(遠藤君ってホントはいい人なのかも…)
アセやんは指名された日から、ボイスクラブに通い、卒業生の為に汗を流した。

…当日。
在校生で司会を買って出た遠藤君の言葉から式は始まる。
「それでは、卒業式を始めます。
まずは在校生代表、アセやんによるパラダイス銀河、独唱です

「え?」

アセやんの素っ頓狂な声がマイクを通じて館内に響いた…。




アセやん 第29話(プロレス入門編・1)

ある日、アセやん宅にビラが入っていた。
“入会金、年会費無料!キミも男なら道場へ!”
この謳い文句にノックアウトされたアセやんは早速道場に赴いた。
そこでは練習生のかけ声勇ましく、男と男が汗を流していた。
(これだ!ぼくの求めていたものは!強くなって遠藤君からスリーカウントを奪ってやるっ!)
アセやんは、蚊の鳴くような声で「た…たのもぉ〜…。すいません、あの、たのもぉ〜…。あ、あの頼みます…。あ、あの…頼み事があるんですが…」と繰り返し、やっと師範が出てきた。
いかにもレスラーという風格の巨体だ。アセやんは気後れした。
「ん?キミは入門生かな?早速ビラの効果があったな!ハッハッハ!」と笑う師範を見て、今一度気持ちを引き締めた。
「よ…よろしく、お願いします…あ、あの…押忍…」と言い放ち、空手と混同したのはご愛敬
すると、師範はアセやんの言葉を聞き終わらないうちに言った。「じゃあ、テキスト代として20万出して」
よくよく見ると、ビラの下段には顕微鏡でしか確認出来ないほどの大きさで“ただし、テキスト代金20万円をもらい受けます”の文字。
(仕方ない、強くなる為だ!)
腹を決めたアセやんは、家が裕福なのも手伝い小学生の身分で小切手をきった
「ハハハ!その意気や良し!これがテキストだ!来週までに読破してこい!」

キン肉マン全36巻(初版)を受け取った。




アセやん 第30話(プロレス入門編・2)

前回、とんでもない価格で、キン肉マン全巻を買わされたアセやんだが精神的にも経済的にも全く問題無い。
今日はキン肉マンを読破して、道場にやってきた。どうしても、遠藤君からスリーカウントを奪いたい。
アセやんは小脇に抱えたキン肉マン全巻(抱えられる量ではない)を、
気にもしない様子で(多分これは入門時の試練なんだ!)と、相変わらずのスットコドッコイっぷり。
程なくして、師範が「おう!キミは以前の入門希望者じゃないか!ん?読破したか!ワッハッハ!キミはみどころがあるぞ!」
どう考えても、この道場はおかしいのだが、今のアセやんには前しか見えない。
「俺は師範の『悪魔将軍』だ。よろしくな!」
差し出された手に応じるアセやん。
しかし、よくよく見ると、名前が書かれた木の札には、みんな、超人の名前が付けられていた。

「今日から宜しくな!ジェロニモ」
…アセやんだけ、超人に憧れた人間のネーミングを付けられた。




アセやん 第31話(プロレス入門編・3)

あれから1ヶ月。
アセやんは、未だにプロレス道場に通い続けている。常人なら一発で気付くおかしな道場に、だ。
週1の練習とは言え、アセやんが道場の隅でやらされる練習と言えば、
ウォーズマンの「コーホー」という呼吸練習ばかり。
今のところ、実生活には何の役にも立っていない。
就寝中に無呼吸になる以外は。
アセやんは勇気を出して、師範に申し出をする事にした。
「あ、あの、師範。ぼくにも技を教えて欲しいんですけど…」帰り際に師範を呼び止めた。
「ん?ジェロニモ(アセやんの道場での呼び名)じゃないか。
…そうか、お前もようやく巣立つ時が来たか…。待っていたよ、その時を!」
この師範も相当おかしいのだが、アセやんは歓喜した。
(やった!ぼくにもとうとう遠藤君《いじめっ子》を倒す技が伝授されるんだ!)
しかし、師範(悪魔将軍)は、道場の隅に砂山を作り、
「…よし!お前はジェロニモだな!?間違いないな!?」と言う。
…師範が名付け親だから、ほぼ間違いないだろう。
「は、はい…」と力なく答えるアセやん。
「じゃあ、次回からはこの砂山に向かって『ウララァ〜』と叫べ!
砂山が吹き飛んだら、次の技を教えよう!この砂山をサンシャインだと思えよ!」

のちに逮捕される師範の言葉を鵜呑みにするしかなかった。




アセやん 第32話(プロレス入門編・4)

プロレス道場入門するも、
エキセントリックな師範(自称・悪魔将軍)に振り回されるばかりのアセやん。
新しい練習アパッチの雄叫びに挑んだものの、
受け取った教材は所詮マンガの世界。しかも偏差値の極めて低い“ゆでたまご”原作のものだ。
無論、連日、砂山に向かって「ウララァ〜!」と叫んでみても、砂は崩れるはずもなく、時折、吐息で砂塵が舞うのみ。
アセやんだからこそ、こなせる練習だと言えよう。
だが、無尽蔵と言われるアセやんの堪忍袋も限界に達した。
「師範…いや!悪魔将軍!実戦で役立つ技の伝授をお願いしますっ!」
アセやんが生きてきた負け犬人生での初めての大音声だった。
「…さすがかな、ジェロニモ。
この短期間で、よくぞそこまで成長したな。これが、お前に教えられる最高の技だ」
そう言って、師範(悪魔将軍)は無造作にキン肉マンの単行本を取り出し、パラパラとめくりだした。
「お前に是非ともマスターして欲しいのは、これだ。この技はジェロニモ!お前にしか出来ん!!」
師範の瞳は輝いていた。
それに感動するアセやん。
常人が見れば犯罪者の目であるのにも関わらず、だ。
「ハイ!が、頑張りますっ!」
鼻息荒く単行本を受け取るアセやん。
「これだ!出来るな?ジェロニモ!」
「改良阿修羅バスターだけど」
…腕が6本無いと出来ない。
アセやんが、自分の愚かさに気付いたのは、練習中に踏み込まれた後の取調室だった。




お前らが嫌いでもいい!アセやん最新号!

今日は修学旅行。
何と担任からも集合場所を知らされていないアセやん。
しかも、アセやんの修学旅行のしおりは特別製で
現地集合、現地解散としか書かれていない。
現地も分からず、内容も不明。
しかし、そこはアセやん。
今、流行りのルンルン気分でもって
見事、ダウジングで現地に辿り着くという荒技を見せる。

担任の 「え?来れたの?」
なんて、無視。
いじめっ子・遠藤君の
「アセやん、何で来るんだよぉ〜」
という、辛辣な言葉も
見事なM字開脚で乗り切った。
どうやら、旅行は京都・奈良という王道コースみたいだ。
さて、どんな珍道中が待ち受けているやら…。




アセやん 第34話

(※都合により修学旅行続編は割愛します)

今日は家庭訪問の日。
本気でバカのアセやんは両親に知らせずに担任とのタイマン勝負となった。
人気のないアセやん宅に担任が不信感を抱く。
「今日、ご両親は?」
「あ、あの…ネズミ講の会合で不在です…」
「不在?家庭訪問の通知は見せたのか?」
核心をついた質問にそそくさと席を立ち、応答せずに飲み物を用意して担任に差し出した。
「お口にあうかどうか…
粗ミロですが…」
(※どうやら“粗茶”の意味合いらしい。
へりくだったミロの言い回しであろう。
そもそもミロにへりくだる必要があるか否か、詳細はアセやんでないと定かではない)

「まだ残暑厳しいのにホットミロかよ!」
…アセやんの作戦とは裏腹に、担任は気分を害したようだ。
アセやんは心の中で(アイスクリープのほうが勝算はあったか!?)と悔いる。
「通知は見せたんですが…今日のネズミ講の会合は全員参加らしくて…」アセやんは何とか誤魔化し、今日を無かった事にしようと試みる。
しかし、アセやんの担任は度を超したS(アセやんにのみ)なので、教員免許を取得したのか怪しいほどのトドメを刺す暴言を吐く。
「あーあ…折角お前がどれだけ必要ない存在かご両親に伝えるつもりだったのに」
一般の小学生なら自殺モンの嫌味である。
が、天性のMキャラのアセやんはその嫌味に気付く事な
見事にスルーする始末だ。
「あ…あの、ぼく学校でいじめられてるみたいなんですけど…」
勇気を振り絞って、いじめっ子“遠藤君”の事をカミングアウトした。
…しかし、担任から返ってきた言葉は想像を絶するものだった。

「知ってるよ。
首謀者オレだもん」

クラスでの立ち位置がハッキリとした瞬間だった。




アセやん 第35話

小学5年の割にマセたアセやんは、数日前から通常の数倍に値する加齢臭により体調を崩していた。
それでも無理をして通学していたのだが、とうとう大幅に口臭をこじらせて入院を余儀なくされた。
同時に鼻の穴からプルトニウムまで検出された
アセやんは、長期にわたり学校を休む事になる。人類史上初の出来事であるので、当然と言えば当然の結果であるが。
しかし、そこは遊び盛りの小学生。
大人しく病室にいるのは退屈極まりない。
21世紀になって初とも言えるファミコンとバンゲリングベイの抱き合わせ
近所のバッタ屋で(強引に)買わされて
ツーコンのマイクに向かって空しく「ハドソン!ハドソン!」と叫ぶ毎日。

騙されてクソゲーを掴まされた事に気付くのはアセやんが日本国籍を捨てる前日だった。