~第二十二章 オリジナル~
P.10
何度も何度も読み返す。いつきも何も言わず、読み続けている。
「・・・なぁ。」
「・・・なに?」
「これ・・・すっげぇ・・・」
「うん・・・」
歌詞にもあったけど、僕らはカンナの歌詞を見て、どう思ったのか、どう言っていいのか、僕といつきはその言葉を知らなかった。ただの文字が並んでいるだけなのに、景色が見える。読んでいると、その景色が見える。きっといつきもそうだったと思う。
世界が終わる日、夏の入道雲に包まれたような濃い灰色が町を急に包む。逃げるように山に駆け登った一人の男。息が続かない状態で町の方を振り返って見ると、方舟が今まさに飛び去ろうとしてる。ゆっくりとゆっくりと浮き上がっていく。その瞬間、大地が割れて町が飲まれていく。いつも見ていたあぜ道、田んぼ、家、大きな神社のご神木、学校。全て一瞬でグシャグシャに飲まれていく。そして目の前を、巨大な白い方舟が、通り過ぎていく。男はまるで見送るように、ただ見上げている。すると、甲板であの人を見つける。隣りにはアイツがいる。
そう、僕にとっては、男が自分。アイツはいつき。そして君はカンナ。
二人が僕を見ている。目が合う、けど、二人はどんどんと遠く、遠くに消えていく。息を飲んで何か伝えたいのに言葉が出てこない。そして世界の向こう側に飛び去っていく方舟が小さく小さくどんどんと小さくなっていく。そして音が無い世界が崩れ去る、僕を一瞬で飲み込みながら。