●EWI3020mアドバンスドエディット(講師:大脇裕一) |
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1.はじめに
1-1.ステップアップのポイント
現在までの処シリーズ中最もフレキシブルな音作りが可能なシステムを持っているEWI3020m。大変優秀なプリセット音色のおかげで通常の演奏にはほぼ問題ありませんが、いざオリジナル音色作りに挑んだ時、多少複雑な内部構成の為に本意では無い「プリセットユーザー」を生み続けている現状は認めざるを得ず、同じユーザーとしては歯がゆい思いです。そこで、3020mの構造を今一度検証した上で、音作りのポイントとなるパラメータの設定や特有の機能、アプローチについて研究して見たいと思います。尚、部分的には一般的なシンセサイザーの音作りにも応用できる内容も含んでいますので、他機種・旧機種の音作りにも活用して頂けるでしょう。
このコーナーではEWI3020mの音色作り・データの修正・編集→EDIT(エディット)を2つのポイントについて、お話しして行きます。初心者の方は取説を、中・上級者の方はJWSAメンバーKirino氏作成のパラメータシート(http://jazz.page.ne.jp/wx/pages/c010_040prlist.htmlで入手可能)を片手にお読み頂けると尚一層ご理解頂けるでしょう。
尚、基本的な操作部分の解説は割愛させて戴きます。また各パラメータの解説については別項”サルでも判るアナログシンセ初級講座”をご参照下さい。
■1つめは演奏中の音色コントロールに関する部分
例えば「ベンダーで波形を変えてみたい!」など音色コントロールに関する設定をする上で外せない”モジュレーションアサイン”も含め、各パラメータの再確認をしながら深みにはまって行きたいと思います。前半部分でお話し致します
■2つめは一歩進んだ音色作りに関する部分
”あの音はどうやって作るんだ!?””音作りって何がなんだか良く判らない!?”などと悩みは尽きないものです。スペック上の制限はありますが3020mの”シンセサイズ能力”を充分に引き出す為の”きっかけ”として幾つかのアイディアを紹介したいと思います。後半でじっくりお話し致します。
*尚、実際にEDITの実験をする場合、プリセットのデータについてはプリセットサウンドバンク(No.1〜50)からユーザーサウンドバンク(No.51〜99)に移された状態でなさるか、音色データのバックアップを取る事をお奨めします。プリセットデータでも一部の設定に関しては書き換えられた状態で保存されますので、全くの”初期状態”を保存なさりたい場合に関しては、予め保存を前提とされる事をお奨め致します。又、オリジナル音色についてはバンク内の別の番号に予めコピーしてからのEDITをお奨めします。
*EDITについてはユーザー個人の責任において実効される事を確認したいと思います。当サイト、並びに執筆者は何らの責を負うものではありません。
1-2. ”EDIT”の方向性を確かめて見ましょう
■先にも書きましたが”方向性”は2つあります!
EWI3020mのEDIT、それは大きく分けて2つある”信号”の流れる道筋を把握する事から始まるとも言えます。
・1つめは”コントロール信号”の流れ。その音をあやつる為の仕組みのお話しです。音色コントロールに関する部分ですね。
・もう1つは”音声信号”の流れ。どんな段取りで音が出て行くのか?と言う仕組みのお話しです。音色作りに関する部分です。
ある音色プログラムをEDITしたい時
1)その音をどのようにコントロールしたいのか?・・・音色コントロール、演奏に直接関係する設定
2)その音がどんな性格の音色であって欲しいのか?・・・音色作り(仕組みの部分)
どちらに関係するEDITをしたいか・・・この見極めが出来れば後は相当楽です。しかしながら、音色作りと言うのはあくまで総合的なものです。2つのどちらにも深く関わる事が寛容、と言う事ですね。とてつもなく難しそう、とお思いになるのは無理も無いことですが、一つ一つじっくり眺めてみる事から始めましょう。
プリセットデータに限らず、現状の設定を修正する為には”EDIT”モードに入ります。フロントパネルの”EDIT”ボタンを押しましょう。その”EDITモード”の中でも特に音色コントロールに関する事柄の設定は”MOD”ボタンを押し、設定します。「モジュレーションアサインって??」「何が何するとそーなんの?」と言う声が沢山聞こえて来るようです。次の章からは本格的なEDITに必要であろう、色々な事についてお話しして行きましょう。
2.まずは”CONTROL”3020m
2-1.コントロールの仕組みを見る
■前半では演奏中の音色コントロールに関するEDITのお話しです。
音色をコントロールする・・・それは VCO→VCF→VCAと言う音声信号の流れの”どこに”対して”何を”施すか、と言う事になります。EWIにおいては奏法が出音の印象に対して及ぼす効果というのは顕著な事であり、ある意味”音色コントロール=奏法作り=音色作り”とも言えるのではないでしょうか?その為にコントロールの仕組みそのものを知っておいても損は無いとおもいます。一所懸命セッティングを作った音、作っただけではどうしてみようもありません。その音を表情豊かに演奏に使ってこそ初めてセッティングの努力が報われる、訳ですね。
コントローラーであるEWI3020は”ブレスセンサー””マウスピース(ビブラート)センサー””ピッチベンドセンサー””グライドセンサー”などを備えていますが、実は以下の様に各センサーによって操作され実際に出音そのものをコントロールする”元”になるものが構造そのものの中にあります。
・代表的なコントロール信号の流れ(尚、各効果に一般的な名称がある場合は併記してあります)
BREATH →VCO(ピッチ) ・・・音の高さが息圧で変わる →VCO(パルスウィズ) ・・・パルス波の幅が息圧で変わる →VCO BALANCE ・・・2つのVCOの出力バランスが息圧で変わる →VCF(カットオフフリケンシ) ・・・音の明るさが息圧で変わる* →VCA(ボリューム) ・・・音量が息圧で変わる
LFO →VCO(ピッチ) ・・・「ビブラート」(音程が周期的に変化する) →VCO(パルスウィズ) ・・・「パルスウィズモジュレーション」 →VCF(カットオフフリケンシ) ・・・「グロウル」 →VCA(ボリューム) ・・・「トレモロ」(音量が周期的に変わる)
EG(ENV) →VCO(ピッチ) ・・・「ピッチエンベロープ」(音程が経時的に変わる) →VCF(カットオフフリケンシ) ・・・音の明るさが経時的に変わる* →VCA(ボリューム) ・・・音量が経時的に変わる
KEY →VCO ・・・音程が音域によって変わる(至極普通ですが) →VCF(カットオフフリケンシ) ・・・音の明るさが音域によって変わる* →VCA(ボリューム) ・・・音量が音域によって変わる *・・・ 一般的なシンセサイザーではVCF(フィルター)がローパスフィルターの場合
”LFO”というのは繰り返しの変化を作り出す回路、”EG(ENV)”は発音から消音までの時間内の変化を作り出す回路、”KEY(運指キー)”はズバリ音域です。これらを組み合わせリアルタイムに操る事で音に様々な表情を持たせる事が出来ます。
2-3.2つの”相互関係”
■一つの音色はこのような各パラメータの相互関係で出来上がっています。EWIの場合は、これらのコントロール”元”に「信号を出せ!」と言う命令を各センサーから出す事になります。それがブレスセンサーであったり、リップセンサーであったりベンドプレートであったりする訳ですね。
これらコントロールする”元”になっている回路やコントローラーを「SOURCE(ソース)」と呼び、コントロールされる”相手側”の回路のパラメータを「DESTINETION(デスティネーション)」と呼びます。
極初期の外部接続(パッチ)式や現在の一部のものを除き、これらは予めシンセサイザー内部で接続されているので、普段は殆ど接続を意識する事はありませんが、EWI3020mの場合「どのセンサーにどのコントロール信号を割り当てるか?(どのコントロール信号でどのパラメータを制御するか?)」を「ある程度自由に振り分け(アサイン)出来る」ようになっています。このようなシステムを”アサイナブルモジュレーション”と呼び、設定そのものを”モジュレーションアサイン”と呼びます。(一部のメーカーで”マトリックスモジュレーション”と呼ばれているものとほぼ同義です)「何で何をどの様にコントロールするか?」「その為に何をどう設定するか?」これがモジュレーションアサインの「鍵」となりEWI3020mを自在に操る上での一つのポイントになります。次の章ではモジュレーションアサインについてもっと深い処をお話し致しましょう。
3.モジュレーションアサインを理解する
3-1.EWI3020mのモジュレーション環境
■EWI3020mでは
○コントロール・モジュレーションの”ソース”(〜する方)として
の7個が用意されています。
○又”デスティネーション”(〜される方)として
の10個が用意されています。
このソースとデスティネーションの接続はほぼ自由になっており「息圧で音程を変える」事も「ベンドプレートでレゾナンスを変える」事も可能、な訳です。そのコントロール量も0〜99または−99〜+99の範囲内で設定出来ます。
■このモジュレーションアサイン、難しく考えてしまうとこの先身もふたも無いんですが次の例をご覧ください。”息を使って音量を変えたい場合”の”段取り”を示してみます。
● 息圧で音量を変えたい→
・ブレスセンサーをVCA(音量)コントロール用にアサイン(接続)
→モジュレーションアサイン
”BREATH→ VCA=○○”(数値・・・コントロールされる量を設定する事で接続した事になります)
*この場合、ブレスセンサーの感度はフロントパネル上の”BREATH”ノブで調整
この場合コントロールの”ソース”はブレス、”デスティネーション”はVCAのレベル、と言う事になります。出力先がVCF(カットオフ)ならば音の明るさが変えられます。「ブレスコントロールひとつでなんでこんなに厄介なのか?」と思われるでしょう。しかしブレスコントロールに限らず最低限自分がコントロールしたい”段取り”を把握しておけば益々自由な設定が可能になります。そしてそのコントロールの手段を自分の好きな設定が選べたとしたら・・・(たまにはベンドプレートでビブラートが掛かったら・・・とか)。3020mのモジュレーションアサインは先に挙げた7個のソースと10個のデスティネーションの殆どに対して設定が可能です。ひとつのソースで複数のデスティネーションをコントロール出来ますし、幾つものソースでひとつのデスティネーションをコントロールする事も可能です。
実はEWI3020mはとてつもない程音色のコントロールが自由に出来そうだ、というのは御判り頂けたと思います。とは言いつつも流石に全部のモジュレーションを検証するのは難しいので、この次の章では幾つかある”ソース”のうちエンベロープジェネレーター(EG・・・ENV)を使ったサンプルを紹介しながら更にお話しして行きます。
4.モジュレーションアサインの実際
4-1.エンベロープジェネレータ(EG・・・ ENV)を使ったモジュレーションアサイン例(1)
有名な”JUDD”系音色の肝である”ピッチエンベロープ”や”だんだん掛かるビブラート””パキッと立ち上がる音量”など、経時的な音色変化には欠かす事が出来ない、それがエンベロープジェネレータ(EG・・・ENV)です。アサイナブルモジュレーション環境ではどう効果的に使えば良いのでしょうか?
■エンベロープジェネレータ(EG・・・EWIでは”ENV1or2”)とは
”発音から消音までの経時的な量的変化を生み出す回路”の事で、通常キーボードタイプのシンセサイザーでは、”鍵盤を押してから離して音が無くなるまでの”様々な変化を作りだすものとして、音量や音の明るさなどをコントロールするのに用います。
通常「アタックタイム(音の出だし)」「ディケイタイム(減衰する時間)」「サスティンレベル(持続する量)」「リリースタイム(音の消え際)」(A・D・S・R)の4つのポイントの数値(量や時間)を設定する事が出来ます。
ウィンドシンセの場合はその”経時的”な部分を息圧でリアルタイムにコントロール出来る事が最大の特徴なのですが、3020mには2つもEGが装備されています。・・・”何故?”と考える前に、勿体無いので使ってしまいましょう。
■ではEGを使った”自動ビブラート”の作り方を考えてみます。(実際に設定して試す場合、No.29「Simple」やNo.43「Axis」のようなストレートな音をお奨めします)
この一つ一つの要素を各パラメータにあてはめて考えて行きましょう。
→モジュレーションアサイン ”LFO(ソース) →VCO−A(orB)(デスティネーション)=○○”(数値・・・ビブラートが掛かる幅)
の数値を設定します(ここが0以上でないと、ビブラートそのものが掛かりません。)
→モジュレーションアサイン ”ENV1(or2)(ソース)→LFO(LFO AMOUNT)(デスティネーション)=○○” の数値でビブラートが掛かる量を調整
*なお
**この場合、ビブラートの速さ=LFOの周期はEDITモード”LFO SPEED”で調整
■”ピッチエンべロープ(ピッチEG)”について
ピッチ(音程)がEGによってコントロールされている状態、又音程コントロール専用のEGをこう呼びます。かつてのオーバーハイムに代表されるシンセブラス系の音色には絶大な効果をもたらすピッチEG。音の出だし(アタック)に独特の音に”滲み””厚み”を演出出来るものなのですが、3020mのプリセットでは前半50個のプリセット音色の大半に組み込まれています。
ピッチEGについてソースとデスティネーションの関係を先程の様に書き出せば、以下の様になります。
→モジュレーションアサイン ”ENV1(or2)(ソース)→VCO−A(orB)(デスティネーション) =○○”で○○”の数値で音程のずれ幅を調整(+ or −)
また、音程を動かしたくなければ”ENV1(or2)→VCO−A(orB)=0”にすれば良い訳ですね。
*EDITモード”ENV1(or2)”の”□□・□□・00・00”(アタックタイム・ディケイタイム)の数値によって”音程の動く速さ”(ずれ方)を調整します(サンプルとしてはプリセットNo.8「JUDD3020」での設定”00.40.00.00”を基本に考えれば宜しいでしょう)
EGの使い方、なんとなくイメージ出来ましたでしょうか?如何でした?ちょっと複雑だったでしょうか?勿論1つのEGを複数のデスティネーションへアサインする事も出来ますし、VCF、VCA共にEGで制御出来るセッティングであればMIDIのスレーブとしても使う事が可能になります(普通のキーボードシンセと同じ!別項「ウィンドシンセ音源をキーボード用に使う!」を参照)。
これらの様に”時間に沿った”変化に関しては、EG(ENV1or2)が強力な武器になります。
4-2.他のソースによるモジュレーションアサイン例
■ここまでの処で”モジュレーションアサイン”のおおまかな部分はお判り頂けましたでしょうか?引き続き幾つかの例を挙げながら、更に見ていく事にします。
●ベンドプレートについて
BEND →VCF ・・・ベンダーを操作する度に音の明るさが変わる(+ or −) →PW A(orB) ・・・ベンダーを操作する度にパルス波の幅・・・デューティー比が変わり、波形そのものが変わる(+ or −) →BALANCE ・・・ベンダーを操作する度にVCO出力の割合が変わる(+ or −) 通常音程コントロールにしか使わない「ピッチベンドプレート」も、このような設定でドラスティックな音色変化に用いる事が可能です。(音程が変わって欲しくない場合、予めEDITモードで”BEND UP/DOWN”の設定が”0”になっている必要があります)
●グライドセンサーについて
GLIDE →RESONANCE ・・・グライドセンサーを操作する度に音の”癖の付き方”が変わる(+ or −) →FM ・・・グライドセンサーを操作する度にVCOに寄る変調の掛かり方が変わり音色そのものが変わる(+ or −) →BALANCE ・・・グライドセンサーを操作する度にVCO出力の割合が変わる(+ or −) *OSC−FM(VCO−B→FM→○○)については後述します。
ベンドセンサーも、人によっては全く使わないグライドセンサーも「一時的に触るコントローラ」と捕らえる事で、このように使う”発想”が生まれます。
電子楽器である事、それは既存楽器では不可能な事、困難だった奏法もアプローチも実現可能ですし、逆に既存楽器の奏法やノウハウも充分に活かし発展させる事も可能です。「どんな風にしたいのか?」が最も優先される事柄でしょう。自由であれば”有効に使う”事も”全く使わない”事も選べる訳です。
5. "MAKE ME A STAR"3020m
5-1.EWI3020mの構造−VCOセクションでの”可能性”
EWI3020mでは先に挙げた”コントロール”機能を充分に発揮出来るシンセサイズ能力を持っています。このコーナーでは3020mならではのアプローチとして、VCOセクションでの可能性を研究してみたい、と思います。
■ここで再度EWI3020mの構造を確認してみます。
これらが”アサイナブルモジュレーション”により単純にも複雑にも接続・操作が可能である、訳ですね。
5-2."OSC SYNC”
■EWI3020mでは2つのVCOの音程を強制的に同調させるOSC SYNCという機能を備えています。
・・・1)2つのVCOの”音程”を完全に同調させる事が出来、”音程の揺らぎ”の無い音を作る事が出来る。
通常アナログシンセサイザーというのは電圧で殆どのパラメータがコントロールされている関係上、完全に全てが安定する状態というのは厳密に言えば無く、たえず微妙に何かが動いている、と言えます。VCOにおいては、その”音程”が顕著です。微妙に”揺らぎ”のある音程、これがアナログシンセ特有の”音の滲み”に繋がる部分もあるんですが反面、それが要らない事もあります。そのような時には”いくつかあるVCOのそれぞれの音程を、そのうちのどれか1つに強制的に合わせる”事で、とりあえずその”滲み”を取ってしまうという手段を取ります(勿論その機能を持っているものだけ、になります)。それがOSC−SYNCと言う訳です。
EWI3020mの場合はVCO−Aの音程をVCO−Bの音程に合わせる事が出来ます。揺らぎの極少ない、非常に太い線の音を作る事が出来ます。この事を応用し、次の様な効果を得る事も出来ます。
・・・2)2つのVCOが違う音程だった場合、強制的に音程を合わせられる事からVCO−Aの出力波形のサイクルが変わり、波の形が本来の形を崩されるので原波形に含まれない倍音が発生したり、特徴的な倍音構成になる事があり、その要素を付加する事が出来る。
VCOでは2つともそれぞれの音程が設定出来ます。その音程(ピッチ)→周波数に従って波形が出力される訳ですが、微妙に(或いは大幅に)2つのVCO間で音程の違いがある場合、強制的に同調させられる側(3020mでは”VCO−A”)の波形のサイクルが影響され波形が歪んでしまいます。その事により本来含まれている倍音の構造が変わってきて、新たに高次倍音が加わったり倍音の分布が変わったりします。音のキャラクターそのものが変わってしまう訳ですね。
つまり、OSC SYNCはONにした段階で揺らぎの極少ない基本波形以外の波形を作り出す事が出来ると考えていいでしょう。
*Aの周波数>Bの周波数 | 倍音の含み方に特定のピークを発生させます(特定の倍音成分が強調されます) |
**Aの周波数=Bの周波数 | 音程のずれが無くなる |
***Aの周波数<Bの周波数 | 金属的な高次倍音を発生させます |
例えばVCO−BをVCO−Aより1オクターブ高く設定(VCO−Aよりも+12)し、OSC−SYNCを掛けると変調が綺麗に掛かりより高次倍音を含んだ基本波形が作れる様です。SYNC ONの状態でVCO−A,Bとも周波数の数値の設定を色々変えてみて様々なキャラクターの音が作れる事を試してみて下さい。
5-3."OSC FM”
■FM・・・FREQUENCY MODULATION”周波数変調”と訳しますが「強烈なビブラートを掛ける事で、相手側に何かしらの変化を与える」というものです。これを応用したものがDX7を始めとするYAMAHAのFM音源ですが(詳細は別項 ”FM音源講座”をご参照下さい)EWI3020mでは以下の様な効果が得られます。
1)VCO−Aを変調出来る→VCO−Aの出力波形が歪み、音程、倍音共に本来の設定範囲以外の変化を持たせる事が出来る。
2)VCFのカットオフ周波数を変調出来る→フィルター部で信号が歪み、VCOの出力波形に含まれない倍音を付加する事が出来る。
・OSC−FM→VCO−A・・・VCO−Bの出力を使い→オシレータAの波形を変調します
*SYNC OFF の場合・・・
強烈なビブラートが掛かった様なもの凄い音になります
*SYNC ON の場合・・・
変調のレベルにより、倍音の含み方に特徴がある変わった波形になります・OSC−FM→VCF・・・VCO−Bの出力を使い→VCFのカットオフ周波数を変調します(CUT OFF<99の場合有効)
*聴感上、原波形のニュアンスが生かされた状態で、若干ノイジーに高次倍音が
発生している状態に出来ます。(SYNC ON/OFF両方の場合)
どちらの場合でも、VCOの出力波形に何らかの”歪み”を発生させる事で倍音を発生させ、結果基本波形以外の波形を作り出す事が出来る事になります。
OSC SYNC,OSC−FMどちらの場合でも3020mの様な、フィルタを使った”減算方式”のシンセサイザーでは基本的にオシレータの出力波形に含まれる以上の倍音を作る事は出来ない訳で、この事からしても3020mのシンセサイザーとしての実力を垣間見る事が出来ます(Sequencial Circuit PROPHET5で有名な”ポリモジュレーション”をご存知であれば、同様の事が出来ると考えて良いでしょう)。
次に実際のEDITを想定しながらVCOセクションの機能を検証して行きたいと思います。
6. いよいよEDIT実践編・・・”み゛ー”
■EDIT例・・・”み゛ー”へのアプローチ
ここでは”み゛ー”と言う音色を作る段取りを考えたいと思います。
例えば貴方が”み゛ー”と言う音色が欲しい、とします。ただ単に”み゛ー”ではニュアンスは伝わり辛いですよね?色々な”み゛ー”があるはずです。
■アプローチとして、次の例を挙げたいと思います。
「じゃあ、どうすれば良いのか!?」。ごもっとも。しかし、残念ながら欲しい音のイメージは貴方の中にしかありません。トライ&エラーで探すより他に無い!と言ってしまえばそれ迄ですが、取り付く島も無い状態でそれはあまりに過酷ですね。
ではその”プロセス”を探ってみましょう。
*ここでは前提として以下のセッティングで実験してみましょう。
●例えばPWを変えてみる場合、PWを変えるニュアンスというのは、声に出してみると良く判りますが口の形を「オー」から「エー」「イー」に変えて行くニュアンスにとてもよく似ていると思います。
試しにVCOーAの波形で””を選びPWの数値を変えてみて下さい。”50”を中心に”み゛ー”の加減が変わると思います。どこかで望みのニュアンスは得られますか?得られれば、このアプローチは正解ですね。
●次にOSC SYNCを使って見ましょう。ここではVCO−A,Bともに”FREQ = 00”にしておき、VCO−Aで”SYNC”を”ON”にします。
その次にVCO−Bの”FREQ”で欲しいオクターブ(C管ならば−12、0、+12とかですね)に設定します。音が出ない設定になってますから予め調べて置きます。
そうしたらVCO−Aの”FREQ”を、音を出しながら変えていきます。おそらく劇的に音色が変わったでしょう。欲しい”み゛ー”になりましたか?
●3つめのアプローチは2つめの続きです。VCO−Bで”OSC−FM = VCO−A”に設定します。数値を上げていくと更に更に劇的に音が変わるはずです。その上でVCO−Aの波形を切り換えてあげます。”””””+”・・・一気に世界が変わるはずです。欲しい”み゛ー”は出ましたか?(試しにこの状態でSYNCをOFFにすると、とてつもないヒップな音になるはずです)
●最後に2つのVCOの音を混ぜてみます。VCO BALANCEを”50−50”にしてみます。VCO−Bの出力が混ざった状態で、どうですか?VCO−Bの波形も切り換えたり、PWも変えたりして見ましょう。
いかがでしょう?
ここまでのアプローチを幾つかのプリセット音色で試してみて下さい。波形を入れ換えたり、SYNCを入れたりするだけで相当なバリエーションの音色が出来上がるはずです。勿論、好みの音が作れるか?は別問題です。
7. 敢えて言いますEDITの”こつ”
7-1. ”音”や”演奏”をイメージ→エディットの”段取り”を付ける
■実際にエディットを始める前に、ちょっと準備をしてみましょう。ただやみくもにエディットモードに入って”こういう風にならないかなぁ”といじり始めても、すぐに行き詰まってしまうでしょう。そこで、次の作業をお勧めします。
1)とりあえず欲しい音をイメージします→「その音はどんな音なのか?」分析してみましょう。
音の一つ一つの”要素”を挙げて行って下さい。
2)ではその音を吹く時にどんな吹き方をしてみたいですか?
- 例えば「音量は息で変えるけど、音の明るさは手元で変えてみたい」とか
- 「ビブラートは、吹いてると自動的に掛かって欲しい」とか
- 「小さく吹くとこんな音で大きく吹くとこんな音」とか
- 「音程が変わる時繋がってる感じにしたい」とか・・・
「その時、○○で○○を○○したい!」という形で、それぞれの「○○」を考えてみて下さい。
3)次の作業は、それぞれの”要素””○○”に関係するパラメータを選び出し、設定を考えます。音色作り、音色コントロールそれぞれについて、です。
(なお各パラメータの解説については、別項”サルでも判るアナログシンセ初級講座”をご参照下さい)
7-2. エディットの”極意”
■本腰を入れてEDITに臨む際、最終的に判り易いパラメータの設定をする為の”極意”をお話し致します。
それは・・・・・・「とりあえず”0”にしてみる」
「このパラメータは一体何に関係しているのか?」がよく判らない場合は多いでしょう。「この数値は何の設定なんだろう??」最初の内は頻繁に疑問に思う事でしょう。
吹きながら、色々な数値を”0”にしてみて下さい。徐々に「出来なくなる事」が判ってきます。
困ってしまうパラメータに関しては是非覚えておかれると宜しいでしょう。逆に”0”になっていても”自分の演奏に支障が無い”ならば、そのパラメータはこの先しばらくは関係無いはずです。
「自分にとって必要なパラメータを見つける為に、とりあえず他を”0”にしてみる」
EDITをしていて、最終的に”保存”しなければ元の音色はそのままです。一見荒っぽく見えますがパラメータの機能を把握するにはおそらく最適な方法でしょう。
■次に・・・・・・「とりあえず”素”を知る」
元々持っている波形の性格を把握したり、フィルターの効き方を把握したりする事は本格的にEDITする際にはかなり重要な事でしょう。丁度料理する上で素材を知る事と同じですね。意外に手をいれず”素”の方が良かった!なんて事もしばしば。EDITそのものも最小限でいければ楽ですし、それに越した事は無いでしょう。
■3020mの場合「足して”100”になる」のが目安
例えばVCF カットオフをブレスとベンドプレートとENVで動かしたい場合「メインのコントローラーはどれか?」という処で優先順位をつけてしまいます。それぞれでの変化の幅を設定する訳ですが、その数値の合計を”100以内”にするのを一つの目安にしてるとよろしいでしょう。複数のソースで一つのデスティネーションをコントロールする場合、決してそれ以上設定してはいけない訳ではありませんが、コントローラー同士の優先順位がついていれば判り易くなるのではないか、という老婆心からのご意見でした。
8. おわりに・・・でも、基本はプリセット
EDITに行き詰まったら・・・迷わずプリセットデータに戻る事をお奨めします。プリセットデータは音作りのノウハウがふんだんに盛り込まれています。そのプリセットデータを修正する事(モディファイ)はテクニック・ノウハウを身に付ける上で大変有効な手段です。これまでにお話しして来ました
・VCO、VCF、VCA各セクション、EG、LFOの設定
・モジュレーションアサイン上の設定
・VCOセクションでの”SYNC””OSC−FM”の設定
この3つの事柄について、プリセット音色の”お気に入り”のもの、”イマイチ”のものを分析してみて下さい。「自分にとっての有益な設定」さえ見つかってしまえば、あとは正に”自由”な音色作りが待っています。
さあ、ここまでの内容、全て把握していなければ本当に音作りは出来ないんでしょうか??答えは”否”です。
結局”自分が欲しい設定をするには何をすればいいのか?”それだけが判ってしまえば、良い訳です。
「必要な内容」を「必要な分だけ」知っていて、その上で「必要な処だけ」を「必要な量」設定する。最小限の操作で最大限の効果を得る、これが出来れば何も言う事はありませんね。
「皆さんにとって”使える音”」を得る為のノウハウ、このコーナーの中にもしあったとしたら幸いです。
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