●エフェクターと私(講師:大脇裕一) |
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■はじめに
EWI始め沢山の電子楽器、録音作品において思い通りの音を作り上げるには、音源のエディットや奏法の習得も勿論の事、”音の仕上げ”の部分で重要な要素である”エフェクター”についての知識も併せて知っておくとちょっと便利です。このコーナーではその”エフェクター”の個別の中身や効果についてちょっと”深めに”お話ししましょう。
一口に”エフェクター”といってもいささか多いもので、前半では予め”効果別”に幾つかのグループに分けておき、それぞれについて話を進めて行きましょう。
それぞれ仮に”残響系”、”変調系”、”補正系”、”加工系”と言う呼び方をする事にします。一般的な呼称とは異なる場合もありますが、このコーナーでは便宜上これで進めさせて戴きます。(各パラメータの呼称、内容に関しては各メーカー、ブランド毎に違いがあります。予めご了承下さい)後半では実際のセッティングの中での知識的な部分をお話ししたいと思います。
ACT1:エフェクター解説(1)残響系
通常空間の中に音が鳴っていれば(日常の中でも)特別な施設を除き必ずそこには”残響”が存在する筈です。つまり耳にしている音の殆どが残響を含んだ状態である、と言えますし、音の「印象」「表情」には多大な影響を及ぼします。残響が存在しなければ空間そのものを認識する事は(少なくとも聴覚に寄る部分は)音の大小による部分でしか可能にならない、と思われますし実際そんな状況は皆無と言っても良いでしょう。
音楽表現では”音が置かれた空間”を「用意する」事で、その世界感を演出する事も普通に行われています。オーケストラやピアノ独奏など生楽器の録音などでホールが使われる場合であれば、”音楽表現上”音に必要な「自然な残響」が欲しい為とも言え、この事からも残響が如何に重要かが判ります。電子楽器の場合、集音の際にはケーブル等で直接する事が殆どですから、残響を”電気的”に付加する事は日常的に行われています。そんな時には残響系エフェクターを用います(近年のシンセサイザーの場合は予め内臓されている物が殆どです)。つまり電子楽器の”空間演出”には残響系のエフェクトは必須であると言えます。
■残響系の代表はなんと言っても「リバーブ」です。(別名”お風呂場エコー”)一般的なデジタルリバーブでは殆どが「ホール」「チャーチ」と言った室内空間(の残響パターン)を模したプログラムや「プレート」、「スプリング」と言った過去の録音技術のシミュレーション(実際にはありえない空間を感じさせます)のプログラムも持っています。
■次の代表は、所謂「エコー」と呼ばれるもので”山びこ”の様に元の音が繰り返しながら遠ざかって聞こえるものです。リバーブ、エコー共にエフェクターとして見た場合、殆どが「ディレイ」と呼ばれる”遅れ”を生み出すエフェクターに集約されます。ですから”残響系=ディレイ系”と呼ぶ事もあります。ディレイはこの後紹介する「変調系」のエフェクターにも応用されているものなので、全てのエフェクターの中でも中心的な存在です。又、ディレイなどと後述の”変調系”「コーラス」「フランジャ−」などを総称して「空間系」と呼ぶ事も多くあります。
1-1-1. ディレイとエコー
■「ディレイ」直訳すれば”遅れ”です。元の音(”原音”と呼ぶ事にします)と同じ物が、ある一定時間置いて聞こえてくる、これがディレイの効果です(送れてくる方を”エフェクト音”と呼ぶ事にします)。「ディレイ」では、ただ“遅れ”だけを作る事も出来ますし、エフェクト音の音質や音量の調整が出来るものも多くあります。実はこのエフェクト音の”音質”や”音量”、これが重要な要素になるのです。
原音とエフェクト音が全く同じ音量、音質であった場合(自然界ではまずあり得ない!)これはいわゆる「オウム返し」の状態です。ところが、エフェクト音が原音よりも多少小さい音だったりこもった音であったりした場合、そこには”時間差”だけでなく”距離感”を感じる事が出来る筈です。遠くで鳴っている音は”音量”は小さく”音質”も高音域が無くなっている事を思い出して下さい。つまりディレイを始めとする残響系エフェクターは”時間差”、”距離感”を作り出すものだと言えますし、ひいては”空間演出”が出来る、と考えて頂いて宜しいでしょう。
通常「ディレイ」の場合、原音に対してエフェクト音は原則一つなんですが(単に遅れて出ている状態)一般的にはエフェクト音が小さくなりながら”繰り返し”出ている、とお気づきになると思います。この”小さくなりながら繰り返し”ている事により、空間の感じ方がより具体的になると言えるでしょう。この”繰り返し”の事を”フィードバック”と言い、フィードバックを持っているディレイの事を「フィードバックディレイ」と呼ぶ事があります。大概の場合ディレイにはフィードバックが付随するものですから特殊な呼び方とも言えますね。”小さくなる・・・減衰”の仕方も調整が可能なものでは、減衰が少なければエフェクテイブな、スムーズに減衰すれば自然な空間演出が可能です。
■さて「ディレイ」の場合はあくまで”一つのエフェクト音およびそれに付随するフィードバック”で構成されていますが、幾つものディレイが同時に存在する時、その状態(またはそのエフェクト)を「エコー」と呼びます(これはあくまでディレイ、リバーブとの比較を基にした場合と考えて頂けると宜しいでしょう。実際エコー程認識が様々なエフェクターもありません)。よく「ディレイ」の数を「本数」で言う事がありますので、「エコー」は「本数が極端に多いディレイ」と考えても良いでしょう。遅れの時間やフィードバックの回数の異なるランダムな(場合により、計算され組み合わされた)何本ものディレイが集まったもの、であると言えるでしょう。
1-1-2. ディレイおよびエコーのパラメータと効果
■ どちらにも共通してあるパラメータ(設定の要素)としては
等があります。
■ なおディレイタイムの違いにより効果や音の印象が著しく変わる為、呼び方を変える事が一般的です。
以上の数字はあくまで目安として捉えて下さい(厳密な規定はありません)。
尚、ディレイの場合、音楽のテンポと密接な関係があります。(曲のテンポとずれているディレイは聴いていてかなり気持ち悪いものです)ですので、「ロングディレイ」などでは”拍数”からタイムを割り出し設定する事も日常的に行われます(半拍ディレイ、1拍半ディレイなど)。
■ディレイ・エコーの”肝”としては・・・
残響を演出する為のエフェクターとしては”リバーブ”も勿論ありますが、リバーブの場合”空間”の残響そのものをシミュレートする事になり、それ故、場合によっては原音が空間に「溶けて」しまい、抜けてこなくなる場合もあります。その様な場合にはリバーブだけでは無くディレイを併用すると解決できる事が多いようです。
”奥行き感”や”広がり感”の部分を予めディレイで作っておき、原音はしっかり音量や音のエッジを確保し音像全体の中での存在感を保持します。その上で空間のシミュレートをリバーブで行い、原音に(ディレイ音にも)リバーブを掛けバランスを整え、全体の”響き感”を整えます。一度は自分の欲しいセッティングを作ってみる事も重要です。
■”フィードバック”について・・・
ディレイの本数、フィードバックの回数共にエフェクトの重要な要素となります。 ウルトラマンとゾフィーの会話[by the courtesy
of デーモン小暮閣下]で、以下フィードバックを文字で再現してみます。
いずれにしても「エフェクター」としては究極ともいえる残響系、その代表であるディレイ、エコーは奥が深い反面、その効果は絶大です。是非マスターしたいエフェクトですね。
1-1-3. リバーブ
■リバーブにも種類がある事は先程書いた通りです。大きく分けて次の2種類です。
●シミュレート系
いわゆる「ホール」や「チャーチ」など、実在の空間の内部で得られるで有ろう残響のパターンを持つタイプ。多くは予め実際に測定した残響パターンを元に「データ上の空間」内の「データ上の残響」を再現するもので、リアルな空間表現には不可欠です。所謂デジタルリバーブの登場により可能になった種類のものですね。又、「スプリング」「ルーム」等擬似的に残響を作り出していた頃の装置の特性をシミュレートしたものです。(レコーディングスタジオに「エコールーム」なんていう施設もあった程ですから)
●ノンリニア系
”シミュレート”系が実在する空間を基にした残響を作るのに対して、それ以外をこう呼ぶ事があります。デジタルリバーブが一般化する以前に、物理的な方法で擬似的に作りだしていた頃の残響もしくはそれらのシミュレートを指します。具体的には「プレート」などです。
”シミュレート”系と”ノンリニア”系、どちらの場合にも重要な要素として「初期反射音」が挙げられます。
例えば「ホールの残響だなぁ」とか「風呂場っぽいなぁ」と認識する要素の大半が初期反射音の中に含まれる、と言う事です。ではその「初期反射音」とはなんぞや、と言う事になりますが・・・。
■リバーブの”理屈”・・・
先述の「ディレイ」「エコー」と徐々に”ディレイの本数”が増えていってる事にお気付きの方はもうお判りかと思いますが「リバーブ」の場合は最も”本数”が多いと言えます。「リバーブは結局、沢山のディレイの集合体なのか??」との御質問には「どうやらそうらしい」とお答えしましょう。
ある空間の中に音の発生源があるとすると、発せられた音はその空間の壁、床、天井などに跳ね返って発生源に戻って来ようとします。当然、壁も天井も「一つの点」では無く「ある面積(つまり距離)を持った平面」ですから、音もあらゆる場所に跳ね返って来る訳ですね(つまり同時に無数のディレイが発生すると言える訳です)。実際には、跳ね返った音は何度もランダムに空間の中を反射する訳なんですが、最初に音の発生源の所に帰って来る無数の反射音にはその空間の形、容積等による特徴的な反射のパターンが含まれている訳です。(空間そのものの形や壁の材質、形、向こう側の壁までの距離等による)これを「初期反射音」と呼びます。ですから”シミュレート”系で実在の空間を模したプログラムでは、この初期反射音の設定(主に量と音質なんですが)が重要になります。
それに対して「初期反射」以降に帰って来た残響を「後部残響音」と呼びまして、こちらがメインの残響音になります。密度や長さと言った「残響音」そのものの要素は主にこちらで設定する事になります。この初期反射音と後部残響音はあくまで残響全体からみた要素の一つな訳で、それぞれが独立して存在する、と言う事は自然界ではあり得ません。「プレート」、「スプリング」と言った過去にあったリバーブ装置は、この”後部残響”を作りだそうとしていた、と言えるでしょう。ですので空間を限定しない、ある意味純粋な(理想の、しかし架空の)残響が得られる、とも言えるかも知れません(勿論本来の”残響”ではありません)
とは言うものの、「プレート」、「スプリング」は元々の装置の構造上の問題で特有の倍音の混ざり方をしてしまうので、ある意味独立したエフェクトとしてその”味”を求めて使う事もしばしばです。
1-1-4. リバーブの代表的なパラメータ
尚、リバーブを掛ける事により”響きが持続する”事から、原音に含まれる本来減衰すべき高次倍音(高音域の成分)が強調されてくるので、イコライザ等で音質の調整を併行して行う事が一般的です。シンセサイザーなどの場合エディットの際のローパスフィルターの設定も重要なポイントになります。又、「初期反射」だけを抜き出した「E/R」といったプログラムやノイズゲートと組み合わせた効果を持つ「ゲートリバーブ」(まんまな名前!)等もリバーブ系の一種です。
:エフェクター解説(2)補正系
便宜上”補正系”とくくらせて戴きます。そもそも基本は”補正”ですので”エフェクター(特殊効果)”と言えるかどうか、と言う部分もありますが、極端な、あるいは多重に使用する事で”特殊効果・・・エフェクト”として用いられる事も多くありますので、悪しからず。こちらに分類されるものとして、大きく
の2つに分けて話を進めたいと思います。実はどちらの場合でも結局の処”音量”の調整をするものですので”ダイナミック系”と呼ぶ事が一般的ですが、感覚として”補正するもの”と覚えて頂くと話が進め易いもので悪しからず。そもそもウィンドシンセ的にはあまり縁の無い部分も多いので、参考程度に留めたいと思いますので予めご了承下さい。
1-2-1. イコライザ(EQ)
■「イコライザ」=”平均化するもの”とでもムリヤリ訳しましょうか。何を?と言えば”低域から高域までの音質の聴感上のレベル(音量)”と言う事になります(ですから”音量補正”とも言えなくも無い)。例えば「とてもキンキンして耳障りな音をなんとかしたい」とか、「低音域が多すぎて音が重すぎる」とか言う場合、逆に「どうも音が細くて”立って”来ない」と言う場合、「いらない部分(周波数成分)を削り(カット)、欲しい部分を持ち上げる(ブースト)」事で音質を整えたり、過激に設定して積極的に音質を加工する事が出来ます。ここに必須なのが”イコライザ”です。
■イコライザには一般的に2種類存在しまして、目的に応じて使い分けます。
●グラフィックイコライザ(グラ・イコ)、G−EQ
文字どおり「視覚的」な操作が出来るイコライザです。あらかじめ調整可能な周波数帯(バンド)が設定されていて、それに対応したヴォリュームスライダが並んでいるのが一般的です。通常7〜15バンド程度、プロ向けの音響設備用では31バンドの物もあります。それぞれレベルを調整していくとスライダの”位置”がそのまま音の周波数の補正の形を示す事になり、一目で(グラフィカルに)音の特性が判り大変便利です。
などから,主にPAのメイン出力など「音場の総合的な音作り」に用いられます。
●パラメトリックイコライザ(パラ・イコ)、P−EQ
「グラフィック」に対し、調整出来る周波数帯が可変出来る(パラメトリック)ものです。通常3〜4バンドですが、かなりの幅で周波数帯を変える(選べる)事が出来る為、ポイントを絞った音作りに向いています。
・楽器に直結する等、主に「音源個別の音作り」に用いられます。
イコライザでは、調整する周波数帯の1つの幅を”Q”と呼びます。大概グラ・イコではそれぞれのバンドの”Q”は固定になっていますので、設定した周波数帯とQでしか調整が出来ず概略的な補正に向いている訳です。換わってパラ・イコの場合は多くはQが変えられる様になっています。広くも狭くも出来るので、楽音本来のキャラクターを保ちつつ狙った周波数帯だけを補正でき”かゆい処に手が届く”調整が可能になります。とは言いつつも、グライコ、パライコ共に”音域に寄る音量”を補正するものですから、極端に設定した場合音域によって音楽の中の音量バランスが崩れる事があります(特定の音域だけ大きいor小さい)。それも”特殊効果”と言えなくもないですが、イコライザの使い方としては割と恥ずかしい処です。
■イコライザの”理屈”
身の周りにある様々な音、実はどんな音でも2つの要素に分解する事が出来ます。それは「基音(きおん)」と「倍音(ばいおん)」。「基音」は基本的な”音程”として認識出来る成分。「倍音」はそれ以外の音のキャラクターに関わる成分です。基音を含まない音は無く、全く倍音を含まない音は人口的につくる以外存在しません。「倍音」は異なる周波数を持った無数の音の集合体(或いは特定の周波数の音)と言えるんですが、イコライザはこの「倍音」に含まれる特定の周波数の物に対し、音量レベルの増減を行うものだ、と言えます。(レベルを下げる事・・・カットに関してはシンセのローパスフィルタの親戚みたいなものだ、と言う認識でも良いでしょう)
1-2-2. コンプレッサ(略称:コンプ)
ス○ルのスポーツカーでは無く、”ダイナミックレンジ=音量差”を調整する道具の事です。直訳すれば「圧縮器」となり、プラモのペイントの際のエアブラシに使うものも、エアコンのものも同じ意味になります。エアブラシの場合は「空気圧」を圧縮しますが、エフェクターの場合はダイナミックレンジになります。
■通常どんな音にも”音量”は存在しますし、小さいままの音、大きいままの音というのは自然界では基本的に存在しません(ブザーやオルガンなど電気的に作るしか方法はありません)。自然の中で持続している様に聞こえる音でも微妙に音量の差はある訳です。特に生楽器や声などは音量の差が大きく(だからこその抑揚であり表現力でもあるんですが)録音時やステージPAなどでエンジニアが”信号”として扱う場合その”音量差”が大変扱い辛いものになってしまう事があります。例えばエレキベースでスラッピングをふんだんに取り入れた奏法などでは音量差が大きくなってしまい、結果大変聞き辛い状態にもなりますし機器にも負担を掛ける事にもなります。又エレキギターのカッティング奏法やアルペジオ奏法などでも、音量の差があっては却って”音楽的”に不自然になる場合など、生楽器と言えど音量差が邪魔になる事もあります(勿論ある程度までは「奏者の技量」が必須な訳ですが)。
そんな時に、その”差”(幅)を”圧縮”して均一に近い状態に持っていき、演奏とは別な方法で抑揚をつけられる様に、或いは奏法をフォローする形で信号を加工するものが”コンプレッサ”と言う訳です(管楽器奏者にはおそらく一番縁の無いエフェクトですね)。具体的には、入力される信号の中で大きめの音量の部分を抑える事で全体的に幅が整った音を作る、と言えます。この”抑え方”の度合いを「圧縮比」と呼びます。
■圧縮比を高めに取れば音量は安定しますが、逆に抑揚まで抑えてしまう事に繋がるのでセンスが要求される処です(特殊奏法重視や技量の乏しいギタリストなどは多用する傾向あり)
尚「リミッタ」と呼ばれるものはレンジ、圧縮比共に大きく取り、ピークレベルに達した信号だけを圧縮するものと言えます(単に圧縮比の大きいコンプレッサ効果をリミッタと呼ぶケースも多いですし、民生用のMDなどには普通に入っています)。
■概ねどのコンプレッサにも以下のパラメータは用意されていると思います(呼称もほぼ統一されている様です)。また、機種によってはそれぞれの設定がプリセットされて(固定されて)います。
キーボーディストなどで、サブミキサーの出力にコンプレッサを”かまして”(その場合、圧縮比を低めに取り全体の幅を気持ち抑える)「音の粒を揃え」たりする事があります。又CD制作の際など最終ミックスにコンプレッサを入れる事で、曲ごとの音量差を抑えたり、全体の音量を稼いだり(ピークを抑えられるので、底上げが出来る)という事をやります。結果として大変巧く聞こえたり、バランスが整って非常にまとまりの良い音場を作る事が出来るのですが、それを「トータルコンプ」と呼んでいます。便利な反面”誤解”を生む事もしばしば。後述のエンハンサもそうなんですが、使い過ぎは宜しくありません。一般的に”補正系”は使い方にセンスを要求される割合が大きい様に思います。
1-2-3. エキスパンダー/ノイズゲート
音圧を”圧縮−押さえつける”のがコンプレッサならば、足りない部分に”下駄を履かせる”のがエキスパンダーだと言えます。こちらも”スレッショルド”があり、ここのレベルに達した信号を比率に基づき増幅します。一方その”スレッショルド”に達しない信号を”遮断”するのがゲート(ノイズゲート)になります。(レベルの増幅は基本的にはありません)古い機材の出力や、ゲインが上がらないもの、あるいは多量のエフェクターを直列に繋いだ後には、相当のノイズが乗りがちです。そんな場合にはノイズゲートが有効でしょう。
とは言え、聴感上すべてのノイズを除去出来る訳ではありません。一般的に”ノイズゲート”はローパスフィルターと組み合わせる事で、ヒスノイズを代表とする高周波ノイズをカットするものが多いように思います。低周波ノイズ、ハムノイズに関しては、電源系に起因する事が多いので、先に配線チェックをすべきでしょう。エフェクターには楽音とノイズの違いは判る訳ありませんから、どれをカットするのか、は人間にしか判断出来ません。
ゲートの場合も”リリースタイム”の設定があるのが一般的でして、スレッショルド以下になった信号の”切り方”の速さを設定します(”足切り”みたいなものですね)。
:エフェクター解説(3)変調系
”特殊効果”としてのエフェクターの真髄とも言える”変調系”ですが、やはり幾つかに分類して解説していきましょう。
この内、「コーラス」「フランジャー」「ピッチシフター」についてお話しして行きたいと思います。
1-3-1.コーラスとフランジャー
■”合唱”と言う名前がついている、日本生まれのエフェクターです(元祖はRolandさん)。
原音に極短いディレイ音を付け、更にそのディレイ音の”音程”を周期的に変え(変調して)原音に混ぜます。すると原音があたかも同時に複数ある様な広がりのある音が作れます。
■概ねパラメータは以下の通りです。
基本的には原音に対してエフェクト音は1こですが(”単層”と呼びます)複数もっているものも多く(”多層”と呼びます)あります。多層のものは単層のものに比べ、1層あたりの変調感を狭くしても充分な広がり効果が得られるのでよく用いられます。単独のエフェクターとして”ディメンション”(これも実はRolandさん)が有名。
尚、どちらの場合でもどうしても音像が広がる傾向にあるので音の輪郭が薄らぐ場合が多く、それ故、後ろでなにげに鳴っているロングトーン系(いわゆる”白玉系””パッド系”)にはとても有効です。反面、リード系に掛けすぎると音像が”ボケ”る事もあるので、逆効果にもなり得ます。
■「フランジャー」・・・原音に、極短いディレイを掛け、それに対し音程を変調し・・・とここまではコーラスに非常に似ていますが、そのディ レイ音にフィードバックが掛かっており、独特のうねり感を伴った、広がりを作り出せるエフェクターです。一見コーラスに似ていますが、フランジャーの場合(ディレイ系全体にも言える部分なんですが)重要な要素があります。それが”コムフィルター効果”と呼ばれるものです。コムフィルターの”コム”とは・・・?
■コムフィルター効果・・・
コム(Comb)・・・「櫛」という意味なんですが、周波数の分布(特性)が櫛型に見える為、こう呼びます。極短いディレイタイムを設定した際に、エフェクト音を原音に混ぜた時に発生する現象なんですが、具体的にはディレイ音と混ぜた時、ある特定の周波数域(ディレイタイムにより変化)に極端なレベルの”谷間(ディップ)”が発生します。(どの周波数域に発生するかはディレイタイムから割り出せるらしいのです)このエフェクト音を原音に混ぜる事で、あたかもフィルターで削りだしたような周波数特性を持った音が出来る、と。これがコムフィルター効果です(因みに、普通のディレイでもこの”コムフィルター効果”は作れます。お試し下さい)。
又、ディレイタイムを変調し(長くしたり短くしたり)位相のずれたエフェクト音を作り出しドップラー効果を得るものが”フェイザー”と呼ばれるエフェクターでして、こちらでも同様にコムフィルター効果を得る事が出来ます。
■フランジャーの場合は1〜10ms程度のディレイが元になっています。このディレイ音を混ぜた状態では”しゅわぁ”と言うちょっと癖のある音が作れる筈なんですが、フィードバックを加える事で更に”しゅわしゅわっしゅわしゅわ”と変調感が出て来ます。コーラスが”広がり”感だったのに対し、フランジャーは”うねり”感と捕らえる事が出来るでしょう。一時代のエレキギターには必須のエフェクターで、特に歪んだ音には絶妙なマッチングを見せるものなんですが(”ジェットサウンド”として有名)、シンセリード系にもかなり相性が良くかつてはかなり流行りました。(プロフェット5のポリモジュレーション系には最高に合います)最近あまり聞かないのでウィンドシンセ系にも新しい色合いをもたらす可能性は大でしょう。
ちなみにコムフィルター効果を使う事で、特定の倍音にピークを持たせる事も出来ます。(ディレイ音のレベルを上げておけば、ディップ以外は純粋に足される訳ですから、相対的にピークが生まれますよね)かなりの裏技ですが、うまく設定出来れば効果は期待出来ます。
1-3-2.ピッチシフター
「音程」を「ずらして」しまう魔法みたいなエフェクターですね。これもディレイを応用しているものの1つです。ちょっと前は「ハーモナイザー」と言う呼ばれ方をしていましたが、これはEVENTIDE社の”商標”でして一般的な呼称は「ピッチシフター」です。
■「ピッチシフター」の理屈・・・
原音に極短いディレイを掛け・・・・と全くコーラスと同じ展開で実は中身も良く似て います。「原音を一度メモリーに取り込み、時間差を置いて読み出して付加する」これが現在の一般的なデジタルディレイの仕組みなんですが、読み出す際に読み出す”速さ”を変えてあげると(テープの速回し遅回しの理屈です)音程が変わります。この変わった音程のディレイ音を原音に付加する事で、(しかもある一定の音程差をつけて)あたかも”ハモって”いる状態を作り出すのが「ピッチシフター」です(コーラスは読み出した音の音程を周期的に変えてあげている訳です)。
既にお気づきの方もいらっしゃるでしょう。「音程が変わったら、再生の速さも変わるでしょ ?」!するどい!実はここにピッチシフターの「魔術」があります。アナログ的発想ならば、当然の事ながら読み出す速さを変えれば、音程と同時に再生スピード も変わります。で、ピッチシフターはそれでは困るのである工夫をしています。原音の波形から元々の音長を割り出し、シフトしたエフェクト音の短くなったり長くなったり している”差”の部分を、エフェクト音の波形からデータを間引いたり、埋めたりする事で音長の調整をしています(非常に乱暴な説明で恐縮です)。なお、言葉では簡単そうですが実際の処はとても難しい処理を行っているので、一昔前は安価 なもの使い物にならない事は良くありました。(そもそもエフェクト音がかなり遅れてしまったり、って言うのはディレイ音の読み出し以降の処理が遅かった、と言う事です)このテクノロジーはカナダのIVL社が秀逸でして、Digitechはじめ他のメーカーに技術や部品の供給を行っています(昔PITCH-MIDIコンバータで有名)。
■ピッチシフター上で、「何声でハモるか?」はイコール、ディレイの本数 。「どれ位ずらすか?」はコーラスで言う”DEPTH”の設定、と考えれば、効果は特殊でも扱いそのものはよくあるものとそうは変わりない訳です。コーラスの様な、いかにもの”変調感”が無いので自然な広がり感を出すには大変有効です。あくまで音質が最優先のエフェクターの中でも、最も厳しい条件をクリアしなければならないエフェクターの一つでしょう。
:エフェクター解説(4)加工系
”補正”もせず”変調”もせず、ただ原音を加工する事にのみ特化したグループです。そもそもエフェクターとは音を加工するものなのですが、これも便宜上の呼称と言う事でご了承下さい。
ここでは「オーバードライブ」「ディストーション」「エンハンサ」「ワウワウ」についてお話ししましょう。
1-4-1.オーバードライブ・ディストーション
「オーバードライブ・・・”過入力”」、「ディストーション・・・ずばり”歪み”」と言う意味でして、所謂「歪み(ひずみ)系」の代表ですね。エレキギターには必須のエフェクターですが果たしてウィンドシンセには??何に対しての「過入力」か、と言えば”電気回路”に、と言う事になります。
■通常、電気楽器・電子楽器の”音(音声信号)”は、再生されるまでは全て電気信号な訳ですね。(至極当たり前なんですが)で、そこには電気信号が流れる”回路”と言うものがあります。回路には、それ自身が正当に動作する上で予め決められた(設計された)電気の量(電流)があります。時として、その回路には想定以上の電流が流れる時があります。ボーカルががなった!とか、突然強烈なノイズが乗った、とか。その時、音声信号=電気信号はどうなるか、と言えば・・・。
その量があまりに大きければ回路そのものが壊れてしまう訳ですが、ある程度まではなんとか信号を流そう、と努力してくれます。その時流れる信号は元々流れている”形”を崩してしまいます。電気信号は波を形作って流れて行きますが、その”波の形(波形)”が”歪んで”しまう訳です。結果出てくる音は非常にノイジーでかつ刺激的な、倍音を沢山含んだ独特のキャラクターを伴います。
■ギターの世界では、元々は大きな出力を得ようとして本来の音量レベルを上げようとした「ブースター」が基本にあり、それにより自然発生的に出来た過入力を「オーバードライブ」とし、電気的な回路で歪みを作ろうとしたのが「ディストーション」という事になります。前者は比較的マイルドな、後者はより激しい歪みが得られます。電気回路的にはどちらも”本来あってはいけない”ものですから、回路設計者は日夜”歪み”と戦っている訳ですね。その苦労を”無”にしてしまうような、ある意味非道な(?)エフェクターとも言えますが。とはいえ完全に歪みの無い設計と言うのも難しいらしく、逆にその回路が僅かに持っている独特の”歪み”が回路そのものの含有ノイズと相まって、出音に対して”性格付け”を行っているとも言えます。実は自然界にあるどの音でもそれ特有のノイズの含み方をしているとも言え、微弱な歪みを伴った音は電気回路にとってはある意味”自然な”音なのかも知れません。
主なパラメータとしては
等があります。
これらを用いた代表的な音としては、Micheal Breckerの「SONG FOR BARRY」で聞かれるEWIによるエレキギターのシミュレートでしょうか。いずれにしても音にハードな味わいを付加してくれる有効なエフェクターだと言えますね。
1-4-2. エンハンサ
実はよく「エキサイタ」として知られているものでして、本当は「エンハンサ」と呼ぶのが一般的です(「エキサイタ」はAPHEX社の商標なので)。
■効果としては「埋もれてる音を目立たせる」、「パキパキさせる」など、音の高域(高周波)を付加するものだ、と言えます。通常、高域を補う場合はイコライザでブースト(レベルを持ち上げる事)しがちですがその場合、先述の通り特定の音域だけがレベルが上がってしまうので、場合により演奏が音域でデコボコしてしまいます(余程極端な設定をしない限りは、大丈夫だとは思いますが)し、又その周辺のノイズ成分まで一緒に増えてしまいますし、イコライザは原音に含まれていない周波数成分は足してあげる事は出来ません。そこで原音を元に(なんらかの加工を施して)耳につき易い付近の高周波成分(倍音)を足してあげる事で、比較的自然なニュアンスを保ったまま「音を目立たせる」のがエンハンサです。
「自然に」倍音を足す為に、主に2つの手法が取られています。
素材がどちらもリアルタイムな原音を素材とする為に結果出てくる音は比較的自然に仕上がる、訳です。
■「歪み」を利用したタイプ(”ハーモニックエンハンサ”と呼ばれる場合があるとか)にしても「位相差」を使ったもの(”フェイズエンハンサ”と呼ばれる場合がたまに)でも、パラメータについては以下のものが概ね共通している筈です。
*名称はメーカー、ブランド、機種により異なります
私見ですが、”エンハンサ”と言うエフェクトの性格上どうしても「気持ち良過ぎて」設定がオーバーになってしまう傾向が強く、結果かなりキツめの音作りになってしまう様に思います(奏者の性格も加味されれば、それはもうとんでもない状態に・・・)。あくまで全体のバランスの中での判断で、必要な場合にのみ、可能な限り薄く掛けてあげるのが宜しいかと思います。
ちなみに某”BBE”は低域の位相補正も同時に行ってしまう為、幾つかあるエンハンサの中では聴感上最も自然なものになり扱い易いものでしょうが、これも”掛け過ぎ”る傾向にあります(これも私見ですが、旧機種の方が掛かり方が自然な気がします。最近の物はどうも”圧縮”っぽく聞こえてしまいます)。
余程の効果を狙わない限り、掛かっている事が判らない程度が何よりなエフェクターだと思います。
*尚、この”エンハンサ”の項目では一部下記URLの記事を参考にさせて戴きました。
http://www.ottotto.com/sound/index.html
1-4-3.ワウワウ
略して”ワウ”と呼ばれるエフェクターです。通す事で”音をこもらせたり明るくしたり”するものですが実の処シンセサイザーに内蔵されている”フィルター”と同じ効果のものです。ワウに乗っているフィルターは”バンドパスフィルター”と呼ばれるもので、特定域(カットオフフリケンシ)周辺の周波数成分のみを通すものです。(ベース用などでは一部ローパスフィルターを使用したものあり)シンセのフィルターの場合、カットオフフリケンシをエンベロープジェネレータで動かしたりしますが、ワウの場合は(バンドパスフィルターのものは)ほぼ固定で、カットする割合を人力や(”ワウペダル”)入力レベル(”タッチワウ”)、LFO(”オートワウ”)などで動かします。概ね300〜400Hz以下の中低域と2〜3KHz以上の高域をカットするようです。(電話の音質をイメージして頂くと判り易いでしょう)その為”ワウ”を通した段階で既に出音が細くなる傾向があります。幾つかのメーカーで出ているワウはこの時点での音質が様々で(所謂”レゾナンス”)、加えて”効き方”のカーブも異なる事からかなり好みが分かれます。
又、ワウは歪み系のエフェクターと組み合わされて使われる事が多く、お互いのキャラクターと楽器との相性がまた複雑です。ウィンドシンセの場合、音色プログラム上でフィルターの設定でほぼ同じ事が可能ですから改めて外部に接続する事は希だとは思いますが、音作りのアプローチとしては試してみる価値はありそうですね。サックスでは既に幾つかの例があります。
以上が極簡単ではありますが、幾つかあるエフェクターを種類別に説明させて戴きました。
ACT2:エフェクター解説:接続について
数あるエフェクター、「じゃあどうやって接続すればどうなるの?」と疑問に思われるでしょうが、敢えて言います。
「エフェクターの接続順は”セオリー在ってルール無し!”」
つまりセッティングそのものは、まず欲しい音優先で作って良いんじゃないか、と言う事なんです。欲しい音を充分にイメージする事から始めましょう。
2-1.直列と並列
ここでは簡単に接続についてお話しします。小学校の理科でお馴染みのフレーズですが、エフェクターの接続の場合にも同じ事が言えます。
・直列・・・・・
原音に、純粋にエフェクトの効果が足されて行きます。
・並列・・・・・
原音に、それとは別にエフェクト音が一種類ずつ独立して出て来ます。最終的にそれらを”混ぜる”作業が発生します。
前者の代表はギター、ベースのコンパクトエフェクターやマルチエフェクター中心のセッティング、後者ではミキシングコンソールの”SEND/RETURN”を使ったセッティングです。
自分が欲しい音はどちらが楽に作れるか?この見極めが出来れば、もう後の作業は速くなります。それぞれの場合のセッティングのポイントをお話ししましょう。
2-2.直列
おそらく一番最初はここから、でしょう。なにせセッティングが楽ですし、コスト的にも低く抑える事も可能ですから、まずは”直”から、というのは至極当然ですね。コンパクトエフェクターの場合必要なものだけを揃えられますから、判り易い事この上無しです。また、音の出口までを最短で結ぶ事も可能な訳で音質の向上にも繋がります。
とはいいつつ、幾つか注意すべきポイントはあります。
「単体機」で見ていった場合、コンパクトエフェクターはギター・ベース系に特化した部分を多く持っていますので、イコライザでは修正周波数の制限が大きく出ますし、ギター・ベースの音質に合わせた設計も多くある様ですので、ハイファイなセッティングをしたい場合はネックになり得る処です。又、接続数が多くなれば音痩せやノイズ、接点不良の原因にもなりますし、最終的なバランスを取るのも意外に厄介になりがちです。又一度に全部の設定を切り替えるのは物理的に不可能です。さらに直列接続の場合、エフェクター全体のクオリティ=出音のクオリティとなりますので”音質重視”の方はそれなりのグレードの物が必要になりますので、場合により少々勇気がいるセットですね。ラックマウントタイプの「リバーブ単体機」などでは出音のクオリティはほぼ心配要らないでしょうが、幾つもセッティングするのはあまり現実的ではありません。(一度やってみたいとは思いますが)
マルチエフェクターでは様々なエフェクトが同時に何種類も使えるメリットはありますが、同時に音作りそのものが難解で煩雑になりがちです。ウィンドシンセでは主に”残響系”を使う事が多くあると思いますが、ギター用などのマルチエフェクター(同時に幾つものエフェクターが使える意味での”マルチ”)では残響系は普通一番後段になっていますので、それまでにあるもの(コンプレッサや歪み系など)は無駄になる事も多くあります。予め組み込んである為外す事も出来ず、ものによってはいちいち全部のプログラムをしなくてはならない場合もあり”直感的な音作り”とは行かず、実は意外に初心者の方が挫折するポイントになりがちです。ラックマウントタイプのマルチ(色々入っている、という意味合いの”マルチ”なんでしょうから)では同時に使えるエフェクトの数そのものが制約が多い為、結局単体機として使う事も多いでしょう。
そこで、”直列”の場合の肝です。
・とにかく”必要なものを必要なだけ集中!”
・出口までは最短距離!
エフェクターセッティングの基本、エフェクター選びの基本でもあります。”余計な物は挟まない”と言い換えても良いでしょう。”ディレイとディレイとリバーブとEQだけ欲しい”場合は、それだけを集めれば良い訳です。又”このディレイとこのリバーブと”と言う様に、好みのキャラクターのもの同士を組み合わせるのも楽ですのでよりマニアックなアプローチも出来ます。(個人的にはフロントパネル上で「原音」と「エフェクト音」の混ぜ具合が直接操作出来るものの方が便利だと思います)。汎用のマルチエフェクターでは接続するエフェクターと接続順を選んでプログラム出来るものも多いと思いますので、好みのセッティングを作るのも可能です。
又”ギター・ベース用に特化した音”と書きましたが、逆に特有のキャラクターとも言える訳でそこが好きならばガンガン使って行けば良い、という事です。エフェクターにルールはありません。好きならばそれで良いんです。
2-3. 並列 ・ SEND/RETURN
「原音にショートディレイを掛けつつ、それにロングディレイを掛け、かつ両方にリバーブを掛けたいんだけど、原音+ショートディレイのほうにちょっとだけ多めに掛けたい」
「これにはコーラス、こっちはディレイ掛けて、でドライ含めて全部に同時にリバーブ掛けたい!でもそれぞれバランスは変えてね!」
「ディレイ、最初これ位のレベルなんだけど、曲の終わりで徐々に大きく掛けたい。ドライの方はそのままでね。」
流石に”直列”では難しいセッティングですね。音源もエフェクターも複数存在する時、必要になるのはミキシングコンソール(以下ミキサー)です。ミキサーを使う場合”SEND/RETURN”を覚えていると便利ですね。
ミキサーには同時に幾つもの入力信号が来ます。それぞれに同じエフェクターを違うバランスで掛けたい、なんて言う時が”SEND/RETURN”の出番です。
ミキサーのチャンネル(以下Ch)入力に入ってきた信号を途中で分岐して、メイン出力とは別のルートで出力し、それをエフェクターに入力。エフェクターの出力をCh入力とは別のルートで入力し混ぜる。これが”SEND/RETURN”の段取りです。この際ミキサーの「外部入・出力回路」を使う事になるんですが、それが”AUX””AUXIARY”(オークス、オグジュアリと読みます)。モノにより”FX””ECHO”(まんま)などと表記されています。各Ch入力にはそれぞれ途中分岐用のボリュームがあり、入力レベル(実際はチャンネルフェーダのレベル)に従って信号を分岐出力へ出す事が出来ます。これがAUX SEND(単に”送り”なんて言う時もあります)となり、また外に出た信号が戻って来る処にもボリュームがありまして、戻って来た信号のレベルを変える事が出来ます。ここがAUX RETURN(”戻り”です)となります。(ちなみにフェーダーレベルに従って分岐出力する事を”ポストフェーダ”と言います)
一番便利な点は各Chごとに”送り”レベルを変えられる事で、別々なバランスでエフェクトが掛かる、という事になります。又、エフェクターからの”戻り”を「Ch入力」に入れる事で、エフェクト音に別エフェクトが掛けられる(直列みたいな)事も出来ます。
又ミキサーの入力部のヘッドアンプは普通、原音の音質を損なう事無くかつ幅広いダイナミックレンジに対応出きるようになっており、エフェクターの入力部よりもフレキシブルに色々な信号に対応出来ますので、入力信号をある程度選ばずにセッティングが出来ます。とにかく掛け方やバランスなど、エフェクトのプログラムでなくミキサー上で直感的に操作出来る点、しかも複数を同時に扱える点など、有利な点は大変多いです。
反面、システムそのものが大掛かりになる事、それに伴いコストも掛かる事、出音の出来上がり方がミキサーのスペックによる部分が大きい(音質やAUX回路の仕様、数など)事が大きなネックになりうる点です。また演奏中に演奏者自身が直接操作するのは相当に難しいので、ある程度「掛けっぱなし」なセッティングに向いている、と言えます。
2-4.「ロー出し・ハイ受け」
「セオリーあってルール無し!」のエフェクターですが、数少ない(?)セオリーの部分のお話しです。
どんなエフェクターであっても電気的な要素は外せませんね。と、言う事はある提度は電気回路の”お約束”は知っておいた方が有利でしょう。その、いくつかある”お約束”の中で最も大事な事が「ロー出し・ハイ受け」です。
どの様な電気回路(電子回路)であっても、その回路そのものが持つ”電気抵抗”はありまして、信号が流れる場所全てに存在します。これを”インピーダンス”と呼びます。(電気抵抗ですのでオーム Ωという単位になります)。
大変おおざっぱな言い方になりますが”抵抗”は主に、流れる電力(W)に対する”電流”の量(A・・・アンペアなんて言う言葉、ご存知ですか?)と相関関係にあります。
つまり、ある電力を得ようとした場合、電圧と電流の関係は
例えば 同じ100Wが欲しいとき 100W : 1)100V×1A(高い電圧で少し流れる・・・抵抗が大きい)
: 2)10V×10A(低い電圧で沢山流れる・・・抵抗が小さい)
と言う事になり、1)よりも2)の方が多く電流が流れます。この場合、1)の回路の方が2)よりも”インピーダンスが高い”と言う事になります。(注:この式はあくまでイメージ上のものです)
仮に、信号の送り手の方がインピーダンスが高く(その回路上の電流量が大きく)受け手の方が小さい(電流量が小さい)場合、受け手の方に通常よりも余計な電流が流れてしまい、音声信号においては少量ならば高域の損失、大量ならば回路が破壊されてしまいます。(燃えます!)
なので”信号の送り手は常にローインピーダンス””信号の受け手は常にハイインピーダンス”である事が求められます。
この関係は音響機器にも言え、特にプロの現場ではかなりシビアにマッチングを取る必要に迫られます。当然エフェクターについても言える訳なんですが、通常エフェクターのインプット部分は大概ハイインピーダンスになっていますし、出力部はローインピーダンスになっていますので、改めてインピーダンスのマッチングを取る必要はそうそう無い、と思います。ではありますが様々なセッティングが想定されるエフェクターの世界、とりあえず知っておいて損は無いですね。
(このセクション・・・special thanks to Bunmei Ishii@NABI for recturing)
2-5.独断!メーカー別エフェクター選び
ここでは、筆者の全くの”私見”によるおすすめのエフェクターのメーカーを紹介したいと思います。いささか異論はおありでしょうがひとまずお読み頂ければ、と思います。
■残響系・変調系
・国産ではやはりSONY、YAMAHAを挙げたいと思います。基本性能の高さ、出音のクオリティ、どちらも大変優れたものが多いと思います(SONYは現在コンシューマー向けの音響機器の生産を止めてしまっている為、デッドストックもしくは中古のみでの入手が可能)。どちらのメーカーも”フラットな音質で広い周波数レンジ”が特徴です。パラメータは多めですが、得られる音は国産機では随一と言えるでしょう。
安価なものではZOOMの一連の製品群はコストパフォーマンスに優れたものが多いと感じています。又Rolandの”RSS(3d)”技術を応用した独自のアプローチも興味深いものです。RolandはBOSSブランドのコンパクトエフェクターやエレキギター用マルチエフェクターのシリーズも大変有名かつ高性能のものが多く、沢山のプレイヤーに愛用されています。
・海外ものではLexicon、T.C.electronic、ALESISを挙げたいと思います。前者2つはどちらもプロの現場では長年定番となっている高級機メーカーですが、この数年安価なシリーズを精力的にリリースしており元々の高い基本性能もあいまって大変魅力的だと思います。ALESISは昔からコンシューマー向けの製品群が充実しており、海外ブランドではありますがコストパフォーマンスの点でも国産機を凌ぐ部分が大きいように感じます。国産エフェクターに比べ”個性的なキャラクターと実用的・音楽的な音質”のものが多いと言えるでしょう。Lexicon、T.C.electronicの製品でも近年かなり安価な製品が登場しているようですので、以前よりも比較的導入し易くなって来ているのは確かです。
■補正系・加工系
大概のマルチエフェクターでは内蔵されていますが、単体でみた場合海外メーカーのものが充実しているように感じます。特にBEHRINGERの各ラインナップは安価である程度のクオリティを持っている為、かなりの割合で普及しているようです。コンプレッサー、エンハンサなど、現在は安価な単体機自体減っている中、充実の一途をたどっているようです。又、エフェクターの範疇には入れ辛いですが”プリアンプ”系でARTのラインナップは注目に値するでしょう。
■全く個人的な話ですが
・筆者が現在EWIのシステムに使用中のエフェクターを紹介します。古いものばかりです。
○SONY HR−MP5・・・主にメインのリバーブとして使用。フラットな音質。広いレンジ。ほぼ”掛けっぱなし”状態。若干ノイジーではあるが実用十分。
○ALESIS QUADRAVERB・・・”リリコン”シミュレート時に”直”で使用。いい感じのローファイ・ロービット感。時代を感じさせる。
○ALESIS MICRO ENHANCER・・・どうしても音が立たない時や録音時に使用。簡単過激な乾燥感。良い”荒れ方”。
○TONEWORKS AM4000R・・・ディレイやコーラス、サブのリバーブとして使用。1Uの為”出張セット”の中に常駐。良い意味で主張が無く使い易い。ディスプレイが蛍光管の為、ステージ映えする。
これらを組み合わせて使っております。
・今後導入してみたいエフェクターとしては海外ブランドのものが多いです。(国産の新機種がほぼ皆無な為)
○Lexicon MPX−200・・・なにはともあれLexiconの最新コンシューマー向け。取説必要なさそう。安い!
○Lexicon MPX−1・・・ほぼプロ向けと言えるスペック。やはり一度はLexiconユーザーになりたい。
○T.C.electronic M300・・・あのT・Cのエンジンがこんなに安く!!シックな音質。キャラクター重視。
■おわりにーエフェクターの必然性ー
のっけからこのコーナーのテーマを否定するようなタイトルですが、実の処エフェクターを扱う上で、その「必然性」についてはいつも考える必要がある事でしょう。実際「エフェクターでどうにかする」より先に、電源やケーブル等先に解決すべき問題も多いですし結局”音”そのものは耳に届く段階ではアクースティックなものですから、電気的要素であるエフェクターが介在出来ない部分も実際には発生するでしょう。エフェクターが電気的要素であれば、それ自体が「抵抗」になり得る可能性も大きく実際は”素”の方が良かった、などと言う状況はままあります。エフェクターは絶対必要なもの、と言う位置付けではありません。しかし”音”が電気信号である状態であればこそ、色々な要素を付加する事で元々持っている以上のエナジーを持たせる事もまた可能な訳です。より「生きた音」の為にこそエフェクターは有効でしょうし、なにより扱うユーザーの”音”に対する”欲求”に対して、速くて判り易く有効な手段である、と言えるでしょう。
SPECIAL THANX to Mr.Kirino and Mr. K.K. for checking and sudjestion.
●エフェクターと私(講師:大脇裕一) |
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