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クローン



 ある若い天才医学者が、こう考えた。

 今のうちに自分のクローンを作っておけば、30年ほどして自分が年老いたときに、そいつの脳だけを自分のものと入れ替えれば、30才若返ることが出来る。

 秘密裏のうちに計画は実行され、30年経ち、そして30才の若い肉体を手に入れた。
 


 そして、もっと長い年月が過ぎた・・・。

 今は閉鎖された一つの町を、老年の生命科学者が訪れ、そしてつぶさに観察したあと、ひとりごちた。

 「ああ、なんておぞましい光景だ。歳こそ違うが、同じ肉体が毎日のように互いの脳の入れ替えをやっている。女性の若さに対する執着とは、かくも凄まじいものなのか」

 クローンはやはりクローン。クローンも彼女と同じことを考え、そして不慮の事故でクローンが亡くなっては困ると、予備をたくさん作っておいたものだから、いつしか一つの町になるほどの人口になった。