歌について2

 で、その転機が何かっちゅうとね…。まぁ簡単に言うと、いきなり高音
がでるようになっちゃったって事なんだけどさ…。当時すんげー流行って
たグレイのハウエバーって曲があるんだけど、この曲も結構高くて歌うの
にかなり苦労してたワケなんだ。特に、サビの最後の方ですごく高くなる
ところがあって、いつもそこが歌えないって嘆いていたんだ。でも、いつ
だったか、すんなりそこが歌えちゃった時があって。あれれ?って(笑)。
それで、これはもしやって思ってエックスのダリアを歌ったら…やっぱり
昨日よりはるかに声出てて。そこから、高音を出す楽しさに取り付かれた
よ。え?なんで高い声が出るようになったかって?んー…なんつうのかな
…。腹を締めるっちゅうか…腹で支えるというか…うまく説明できないの
がボーカルの難しいところだぁね。
 とにかく、高い声が出せるようになって有頂天になったよ(笑)。ただキ
ンキン高い声が出てるだけで、ウンコみてぇな声だったのにね。勘違いは
まだまだ続くわけだね(笑)。でも、この頃からテープレコーダーを使って
自分の声を録音するようになって…。自分の歌声をはじめて聞いたときは
衝撃だったね。「これが自分の声?こんなの自分の歌じゃねぇ!」ってさ
(笑)。自分がこんな声なのはテープレコーダーのせいだと思いこんでた。
でも…録音した友達の歌や声って、自分が普段聞いてる友達の歌、声と変
わらなくて…。っていうことは、友達にも自分の声や歌は、テープレコー
ダーに録音されているそのままの音で聞こえるっていうことで…。自分の
歌の現状を認めざるを得なくなったわけなんだ。
 …リズムはバラバラ、音程は適当。ただただキンキンやかましい声が繰
り返されるばかり。自分が漠然と理想としている声からは程遠い自分の歌
声は、本当に酷かったよ。
 そこから続いた日々は、人に聞かせるためじゃなく、自分の理想の歌声
に近づけさせるための日々だった。もちろん、キンキンやかましい声のま
までも、友達やみんなは褒めてくれた。でも、僕が求めていたものはそん
なもんじゃない。もっと、僕の理想の声になりたかった。酷い自分の声を
捨て去りたかった。
 その頃から僕は本格的にヘビメタの世界にはまっていく事になるんだ。
セックスマシンガンズ、インペリテリ、ストラトヴァリウス、ハロウィン
等など。みんな、僕の理想に近いヴォーカリストがいるバンドだった。特
にマシンガンズ、インペリテリは歌いまくった。あの、天まで届けと言わ
んばかりのハイトーンヴォーカル。感動だった。あんちゃんとロブロック
は僕を本格的にメタルヴォーカルとしての道に導いてくれたヴォーカリス
ト。なぜかって、彼らの歌声を真似したら結構声が出せたからなんだ。音
符的にそれほど難しくないなんて当時は気づかなかったけど、とにかく二
人の真似を続ける日々が続いたよ。そうやって夢中になることで現実世界
の苦しみから逃げ出そうともしていたんだと思う。…みんな同じ風に経験
している苦しみから逃げようとしていたんだ。ちょうど、大学受験に失敗
して浪人してた時だと思う(笑)。
 それで、予備校に行ってない事がバレて(爆)、どうしようかと悩んでい
る時に友達からsalvationな言葉をもらうんだ。
 「一緒に音楽の専門イかねぇ?」
 そこで首を横に振っていたらどうなっていただろう。勢いで首を縦に振
ってしまった事で、僕はさらに歌にのめりこんでいく事になるんだ。

〜vol3に続く