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音楽雑感その2

 サークルを引退して、もう一ヶ月になる。「悔いの残らないように」全力を注いだつもりだったが、当然のように、今になって思うことは多い。技術的なこと然り、構成に関して然り、表現に関して然り。来て下さった方々はどう思われただろうか、演奏した人間は何を感じただろうか、
そして、自分は?

 正直なところ、本番の、特にメインの『トリティコ』は自分が振ったにもかかわらず良く憶えていない。それまで漠然と思っていた「捉えきれない何者か」について、最初の音が出た瞬間に、イメージが怒濤のように沸き上がってきて、それを伝えよう、演奏してくれている人に、聴いて下さっている人に、そんな想いで、僕は無我夢中に、形を取りつつある何者かを表現しようとしていた気がする。
それは果たして伝わったのだろうか? 幾ばくでも伝わっていたのなら、本当に幸せだと思う。

 この頃、音楽を楽しんでいる人達と演奏する機会があった。邦楽部の人達と、学類の友人、接点は『戦場のメリークリスマス』。

 常々うちのクァルテットで演奏しているこの曲を今度邦楽部が演奏するというので、無法マネージャーと化した杉森が共演する企画をいきなり取り付けてきた。自分はしないのに。正直、そういうぶっつけなものはあまり好きではないので、最初は駄々をこねていたのだが、邦楽部の人の熱意のある話を聞いているうちに、それなら、という気にさせられた。

 その邦楽部の後輩は、一時吹奏に来てくれていたこともあって多少の縁があったのだ が、まさかこういう形で再会するとは思わなかった。とても熱いなと感じた。邦楽部のこの頃の「勢い」というものを気にかけていて、その魅力を壊さないように、新しいものを取り入れたいという彼の話を聞いていて、最初に思ったのが「楽しそう」ということだった。

 この前に一度合わせたのだが、やはり楽しかった。そういう感情は、上手く言葉にできない。何か、エネルギーをもらっている気がして、本当に素敵だった。初対面の人に囲まれるのはとても緊張したけれど。

 琴の響きは斬新で、それでいて曲の雰囲気に良くマッチしている。2、3技術的な話もしたが、とても新鮮な感覚があった。本番は、できるだけそれを壊さないように頑張ろうと思う。よろしくお願いします。

 もうひとりの学類の友達は、坂本龍一が大好きで、ファッションショーで使われた彼の曲を耳コピしてやろうという気概があり、他にも幅広い関心を持った人。大学の講議のあと、練習していてたまたま一緒に『戦メリ』を合わせてみた。僕がサックスで、彼がピアノ。楽しかった。お互いに聴きあって、次第にまとまっていくのがわかった気がした。彼は愛でるようにピアノを弾き、本当にいきいきと音楽をしていた。羨ましいな、と思った。

 自分は考えすぎていたな、肩を張って音楽をしていたなと思う。この音楽をこう表現したいと思うと、自分の感覚というものだけではどうにも不安になって、その拙い直感的なものを拙い理論に置き換えて当て嵌めるという作業をしないと(自分なりの)本当だと思えなかった。特に、人に伝えるときにはそれが更に強くなる。そんな妄想にがんじがらめになっていた。お前は本当に音楽を楽しめていたのかと聞かれたら、僕は答えに窮してしまう。

 9年近くやってきた吹奏楽から抜けて、「もっと自由に(な)音楽がしたい」とずっと考えていた。そんなときにちょうど、こういった本当に音楽を楽しんでいる人達と出会えたのは幸せだったと思う。多くの素敵な人から、いろいろなちからをもらっている気がする。

 そういえば、初めて音楽の楽しさを教えてくれた人も、本当に楽しそうに音楽をしていた。全身で音楽を表現しようとして、そして音楽の素晴らしさを全身で受けようとしていた。彼はこの前の定期をどう聴いてくれただろうと思うと少し感傷的になる。僕はどれくらい彼に近付けただろう、もう、決して手が届かないにせよ。そう思うと、彼が本番、僕を導いてくれた気がしてならない。

 改めて(遅れてしまいましたが)、11月11日、ノバホールに来てくださった方々に、一緒に音楽を共有できた仲間に、感謝します。

00/12/07TSE 細越一平

TSUKUBA SAX.ENS.<saxkimmy@hotmail.com>