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未だ届かざるものへ。

 2月の演奏会で、サンジュレ−の四重奏曲をすることになった。全楽章。僕らにしてみればかなりのチャレンジなのだが、同時にとても感慨深いものがある。

 2年ばかり前になる、クァルテットをはじめ、アンサンブルコンテストに出場するために選んだ曲が、サンジュレーの第1楽章だった。とりあえずオリジナルで、技術的にもそれほど(他の、たとえば「デ〜」や「ピ〜」や「シュ〜」と比べて)困難でないという理由で、加えてまだアンサンブルのはじめの時期だったので、サンジュレーを通してクァルテットのサウンドを作っていければいいね、ということだった。その時に言っていたのが、「クァルテットを終わるまでに、サンジュレーを全楽章、楽章毎でいいからできればいいね」ということだった。

 もうその時期なのかなと思った。

 もうすぐアンサンブルコンテストの東関東大会がある。そこで演奏するのがドゥビュッシーの『プレリュード』。この曲もかなり長い時間温めてきた。およそコンテストには不向きと思われるこの曲を選んだのも、自分達がやってきたことを、何処かでまとめておきたいと思ったからかも知れない。コンテストというものに固執したくないということもあったし、正直夢にも通るとは思っていなかった。

 県大会には、ある意味での「締めくくり」として望んだ。もちろん、自分達の音楽(のようなもの)が客観的にどう聴かれるのかということに興味はあった。だからといって、決して「外向きな」音楽はしたくなかったし、曲が曲だけに、そうなるべきではないと思っていた。

 だからこの機会は、ひとつの御褒美だと思っている。もしくは「もう少しおやんなさい。そのままで終わったらドゥビュッシー氏に失礼でしょうが」というかみさまのお達しかも知れない。

 ドゥビュッシーのプレリュード。それにしてもこの曲は難しい。なんでこんなのやっちゃったのかねというほどに。

 そこには、何らかの連関といったものが希薄なのだ。とても。文脈の流れというものが見えずらい。通奏低音的に奏でられる何かはあるのだが、その上に聴こえる情景は、いうなればsceneではなくshotの連続である。映画というより、連作絵画のように。それらの醸し出す印象というか匂いのようなものははっきりとした色彩というよりは、何処か曖昧な、たゆたっているような風景。そして、音楽自体の持っているベクトルの向きがない。

 つまり、何処にも行かないのである。そこには到達地点というものがない。音楽がそれだけで完結している。しかも、始まりと終わりが同じ瞬間にあるのだ。ジャン・ケレヴィッチの言を借りればそれは「正午」の瞬間である。最も明るい瞬間、絶頂でありながら衰退する始まり、その両義性、「永遠の現在」。

 言葉で表現できないもどかしさが、そこにはある。しかしそれは、音楽全般について言えることではないか? 逆説的にいえば、言葉で言い表せるものは音楽ではないのだろう。でなければもともとピアノの曲をわざわざサックスで演奏する意味などない。僕らが引き出さねばならないのは、サックスの音ではなく、楽曲のもつ音楽のはずである。プロフェッショナルな人間であるならばともかく、アマチュアである我々なら、まさに匿名希望的な、個を没した真にドゥビュッシーの音楽に自らを捧げることはなんら問題はない。もしもそのような「本当に望まれた音楽」ができるのであれば、の話だが。

 ドゥビュッシーで詰めてきた分だけ、サンジュレーは自由にやれたらいいなと思っている。優しいメロディー、軽やかなリズム、決して手の届かない憧憬、そういった様々な表情を、できるだけ自由に、即興的に、その時にしかできない音楽の喜びを歌えたら、そう思う。

 様々な音楽があるし、様々な音楽の楽しみ方があるのだなぁと思う。そしてその一端にでも触れていられることに、本当に幸せを感じている。

 ちなみに、サンジュレーを演奏する機会を与えて下さったクラリネットアンサンブル“Pantaleon”の演奏会は、2月7日(水)、場所はつくば市立図書館2階のアルスホール、18:40開場、19:00開演です。入場は無料。ゲストとして、筑波大学吹奏楽団クラリネットパートのトレーナーである佐藤育子先生をお呼びします。
是非足をお運びください。

01/01/19TSE 細越一平

TSUKUBA SAX.ENS.<saxkimmy@hotmail.com>