マウスピースの構造

 いわゆる音源(唇の振動)を増幅させ楽器を共鳴させるために必要なパートです。もちろんすべての目的に対して最も重要かつ繊細な部分でもあります。そのためトランペットのパーツの中でも最も多種多様な製品が市販されています。それだけに演奏者サイドの立場から見ると大変都合が良いのですが、反面それらの選択において混乱を生じさせられるのも事実です。特に初心者は当然のこと楽器経験の豊富な中上級者でさえも情報に振り回され何をどうして良いのか分からないという意見や相談をよく耳にします。僕自身かつてはそのような状況下にありましたが、自分の目指すサウンド(ラッパ)のイメージをある程度明確に感じられればその選択範囲が視野に入って来ます。ただしほとんどの場合はいくらかのリスクを背負うことを覚悟し割り切って選択肢を選ぶことになるでしょう。逆に見ればオール・ラウンドなプレーヤーを目標にするならリスクが少なくなりますが強力な個性的サウンドをかもし出すのは困難かも知れません。

 それではまずマウスピースの物理的な構造を見てみましょう
まあマニアックな方や職人さん方にはもっと細かく分類されるでしょうが、とりあえず大まかに見れば次のようになると思います。

カップ径
(内径)
 大体16.3mmから17.3mmあたりが標準サイズだと思いますが一般的に大きい程ボリューム感も持久性もあるようです。それ以上もそれ以下も使うのにはそれなりの覚悟が必要です。しかし具体的に、何が標準で何が一般的かを答えられる人はいないです。何となくです。
リム厚  厚ければそれだけ唇への負担は軽減するようですが唇が触れる範囲が広いだけやや窮屈になります。よくカタログにあるリムの厚いものは唇の分厚い人や弱い人むけという表現はあまり信ぴょう性はないと思います。あくまでトータルな判断が必要です。錯覚ですが、同じ内径であればリムが厚い方が小さく感じます。あと、内側のエッジが鋭ければ唇は中に入りにくく、丸ければ入りやすくなります。形状は、丸ければリムの頂点がカップ中のスロートまで遠くなるので、唇や歯の形状にもよりますが、物理的には遠く(深く)なります。
カップ深さ  実用音域においては、深ければダークな音が出しやすくコントロールしやすいです。浅ければ明るい音が出しやすくコントロールがやや困難です。ただし極めて高い音域やとてつもない大音量を出すときは例外です。また、カップの内径との因果関係がとても強く、同じ深さなら内径の大きいものの方が浅く感じます。というより、浅いです。また、内側のエッジが鋭ければ深く、丸ければ唇が中に入るので浅く感じます。
セカンド
カップ
 同じような大きさ深さのカップでもここの形状によってかなり吹いた感じが違います。唇に直接触れないので軽視されがちですが要注意ですよ。僕はここに最もこだわりがあります。一般に言われるダブルカップはこの部分が独立したもう一つのマウスピースになっている状態をさします。このカップの入口はショルダーと言います。
スロート  ここはマウスピースの命です。僕は欲を出してここを太く拡張することにより地獄を何度も味わっています。くれぐれも控えめに。物理的には太ければ息の抜けがよくなるということです。音の抜けではないですよ。
バック・ボア  カップやスロートが決まっている人はここで好みの音色や感触に調整するのですがワンピース物ではなかなか選択に困ります。交換出来るタイプのものを試してみれば分かりますが、簡単に音色や感覚が変わってしまいます。
バック・ボア内径  この部分が狭ければ音の芯をとらえることが容易になります。広ければ音に輪郭がつきピアニシモで演奏するときなど音に広がりが持てます。ただしバック・ボア全体の形も考慮すべきです。
バック・ボア外枠  「」と反比例するので同一メーカーのものであればこれで内径を判断します。

 マウスピースの選択はある部分だけではなくトータルに判断すべきです。たとえば径の小さいものが大きい物より音量があったりコントロールし易いこともあるし、カップの深いものが浅いものより明るい音色を出すこともありまた逆もあるのです。これは同一メーカーの中でも言えます。マウスピースはそれぞれが自己主張していると考えれば良いのです。それに最も大切なのは個々の唇や歯との相性です。決してカタログやマニュアルでは判断しきれないものがあります。

 たとえば昔からバックの「7C」を標準とよく言われますが、仮に僕の置かれてきた環境だけを見ますと「3C」から「1 1/2C」が標準で「3C」は小さくて浅いというのが全般的評価です。それにトータルな面から見れば口径の小さい「7C」の方が大きい「3C」よりダークで、「3C」の方がフルバンドのリードに向いているようです。

 参考までに僕の知る限りの著名なトランペッターたちのマウスピースのサイズを記しておきます。もちろんこれらの中には現在別のモデルを主に使用しているひとも含まれます。あくまで流動的ですから。(以下有名人のマウスピースに関してはその真意を含め賛否両論ですが、ほとんどの人が生涯同じものを使わないことを考慮に入れれば、その件に関してマニアックにあれこれ論じるのは僕の本意ではなく、あくまで参考ということにしておいてください。混乱を避けるため、僕自身が現物を確認するか製造者に直接聞いたものを記入しました。)また、クリフォード・ブラウンについて諸説がいろいろあるみたいなので削除させていただきました。謎のままでいいのかも知れません。

 バックのサイズ表示についてはすべて旧刻印以前(マウント・バーノンを含む)のものです。ルイ・アームストロングのものに関しては実際に使っている写真や映像を見たことがないのですが、ジャルディネリ本人がそう言っていたし販売もしていたのでとりあえずコピーということにしておいて下さい。

 赤い字の表記は実際自分で確認したものやメーカー(ジャルディネリ本人)が直接僕に伝えたものです。
マイルス・ディビス ジャルディネリ7V(コピー)
ランディー・ブレッカー バック3C、10 1/2C
トム・ハレール バック1 1/4C
サンドバル ジャルディネリ3C
ルー・ソロフ バック3C他多種
ウイントン・マルサリス バック1 1/2B、モネ2B
ウォーレス・ルーニー ワーバートン2Dストーク(?)
ルイ・アームストロング ジャルディネリ1D(コピー)
テレンス・ブランチャード バック1/2B、5C、モネ(2B?)
ニコラス・ペイトン バック1 1/4C
ハンニバル・M・P シルキー 6 
大野 俊三 シルキー 11
ウディー・ショウ バック 7C
*ジェリー・ワイズ バック 2 1/2C 
フレディー・ハバード バックの3Cぐらいのカリキオカスタム
ケニー・ドーハム ジャルディネリ6C

のトランペッターたちはリードでハイトーンを得意としますが決して小さいものを使ってはいません。特にサンドバルのジャルディネリ3Cは少し抵抗があり音も明るめですがバックでいえば1Cぐらいです。

ウォーレス・ルーニーのストーク・モデルは実際現物を吹かせてもらったことがありますが、直径はバックの1CぐらいでカップはジャルディネリのVカップに似ていました。

 最後に僕自身のマウスピース履歴を述べさせていただくと次のようになります。最低1年以上使ったものを中心に記します。

パービィアンス
4☆D4
 最初に師事した村田浩氏が使っていたため。小さく浅いですがその割にはしっかりした音がすると思います。結局僕には小さ過ぎました。僕の唇は氏のそれよりはかなり分厚く大きく、歯も僕の方が出っ歯で大きかったです。
ジャルディネリ 3C  全体のバランスが良かったのですが大きさの割にちょっと軽めです。ただ昔のモデルは同じモデルでも一本一本かなり違っていました。僕の使っていたものは他のものと比べて若干スロートが大きめで2NDカップも大き目でした。要するに失敗作ということですか。
シルキー16  造りは最高だと思います、マイクのりも最高でしたが結局このブランドのリムが僕には妙に合わないみたいです。
バック1C(旧)  ジャルディネリの3Cとほぼ同じ大きさですがカップのえぐりも大きくコントロールをつけるのが容易でした。ブラック&ヒルで見てもらったら当時のバックの規格よりカップの径が若干小さくえぐりは大き目でした。要するに失敗作ということですか。
バック 1 1/2B(旧)  全体のバランスはとても僕にあってましたが、やや径が小さかったのとエッジが鋭利過ぎたみたいです。
バック 1X(旧)  大きさの割に非常に楽でしたが、やはりエッジが鋭利過ぎて血が止まりやすくので、ばてると高音がかすれぎみになりました。気に入っていたのですがスロートを広げて過ぎて(4mm)失敗してしまいました。
ブラック&ヒル
特注
 バック1C(旧)のコピーでやや径が大きくカップのえぐりも大きくしてボディーはスーパー・ヘビーです。素晴らしいマウスピースでしたが楽器が変わったこともあり体力的にきつくなったのでMOMOさんに新しいのを作って頂きました。10年程前まで”TAKAYA モデル”が購入できたみたいなので興味ある方はどうぞ。まだ型があればですけど。

MOMO
特注

 バック 1Bのコピーでバック・ボアがやや広がりぎみです。ボディーはメガトーンよりひとまわり大き目です。

MOMO
特注

 バック 1Xのコピーですが少し径が大きく重めです。楽器の重量を増やしたのでどうしても反応がにぶくなるので作ってもらいました。高音域は限りなくきついです。2年ほど使用しました。

バック 1X(現)

 何故かスランプに突入してしまいやけくそで使っていました。旧モデルより少し口径が小さく感じられ音色も明る目ですが、僕にとっては駆け込み寺的かも・・・。

バック 1B
メガトーン

 カップはもともと使っていたものですが、メガトーンをUSAから取り寄せました(現在どこにも置いていないので・・・輸入してないのかな?)。スランプも抜けつつあるようです。今度はマウスピースより自分を変えるべきでしょうか。何か同じところをぐるぐる廻っているように感じるのは僕だけでしょうか。

MONETTE
STC−3・B1-5
 楽器をコルトアのEVOLUTIONに変えたのでなかなかバランスの合うものが見つからず結局このMONETTEを使っていました。 一応カタログではバックの1Cぐらいとなっていますが、スロート・サイズがやたらと大きく(4mm以上)息が抜けてしまうので悪戦苦闘しています。他のマウスピースのように楽器を上下させて音域をコントロールすることが極めて困難です。息は常に真っ直ぐといった感じです。

シルキー24

 MONETTEによって吹き方が大分変わった(矯正?)せいか、楽器を固定したぶん低音域が鳴りにくくなり窮屈になったので(17mmはもともと僕には少し小さいから)コルネットのと同じシルキー(18.29mm)のに変えてみたところ大当たりで、目からウロコではなく涙がでてきたほどでした。MONETTEに感謝です。マウスピースに対する概念が大きく変わりそうです。
・・・・・ということで以下の次第となりました。

Momo特注
(シルキー24拡大コピー)
 口径19mm カップはバックのBよりやや深め、スロート3.8mm強、バックボアはほぼ標準。
・耐久力は以前と変わらず。
・ばてぎみになるとピッチコントロールはやや難。
・ハイトーン(ハイCより上)はやや難。
・ボリューム(音量)はやや押さえないとうるさくなる。
・シングルタンギングは今までで最速。
・固定感は最高(無理してもほとんど動かない)。
・アンブッシュアが今までに比べて「素」の状態に近い。
 総合的にはかなり感触は良いです。
しかし軽く吹いても全体的に音が大き(重)過ぎて、特にブロウしたときに周りの音が聞こえにくくなったので。楽器を鳴らないように調整したりしましたが叶わないので泣く泣く下の通りとなりました。
シルキー24(改) リム内径とショルダー(セカンドカップの入口)から出口まではいじってませんが、リムをややフラットにしたのとリムエッジの少し下からかなりのえぐりが他にないぐらい入っています。最終手段で毎日吹きながら少しづつ400番のサンドペーパーで削って1ヶ月かかりました。爪は2枚剥がれるし血豆は何個もできましたが何とかほぼ完成しました。やり過ぎて何本もダメにしているので、もう少しという感じで止めました。リム内径はやや小さいと感じるのですがえぐりを入れたので窮屈感は少ないです。メッキは簡易のものを使いました。
当分これでやってみます。マウスピースを削る機械を使いながら練習出来れば最高なんですけど。

「管楽器工房MOMO」管楽器リンク参照

ブラック&ヒルは現在は元々ジャルディネリ がマンハッタンにあったときにいた2人の若い職人さんが開いた工房で現在ブラックの方はニュージャージーの方で独立しています。サンドバルもここで自分のモデルを作ってました。

1982年の暮に僕がジャルディネリで楽器を試奏していたらウイントン・マルサリスが現れてバック の1 1/2Bを店員の前に差し出しスロートの部分を大きく広げてくれるように依頼していました。デビュー当時に比べるとそれ以後モネに変えるまで比較的音色がダークになったのはそのせいかも知れません。それに関連してかどうか分かりませんがその後若い黒人達の間でスロートを広げるのが流行りました。当然?僕もその後約20年4mmにはまりました。