大滝詠一
ロング・バケイション
Niagara/Sony SRCL5000 (2001) (76'06")
[1]
君は天然色 (5'05")
作詞/松本隆 作曲/大瀧詠一
[2]
Velvet Motel (3'44")
作詞/松本隆 作曲/大瀧詠一
[3]
カナリア諸島にて (4'00")
作詞/松本隆 作曲/大瀧詠一
[4]
Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語 (3'15")
作詞・作曲/大瀧詠一
[5]
我が心のピンボール (4'26")
作詞/松本隆 作曲/大瀧詠一
[6]
雨のウェンズデイ (4'23")
作詞/松本隆 作曲/大瀧詠一
[7]
スピーチ・バルーン (3'55")
作詞/松本隆 作曲/大瀧詠一
[8]
恋するカレン (3'23")
作詞/松本隆 作曲/大瀧詠一
[9]
FUN×4 (3'26")
作詞/松本隆 作曲/大瀧詠一
[10]
さらばシベリア鉄道 (4'35")
作詞/松本隆 作曲/大瀧詠一
bonus tracks (Instrumental)
from「SING-ALONG-VACATION」
[11]
君は天然色 (4'41")
[12]
Velvet Motel (3'36")
[13]
カナリア諸島にて (4'00")
[14]
Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語 (3'14")
[15]
我が心のピンボール (4'23")
[16]
雨のウェンズデイ (4'22")
[17]
スピーチ・バルーン (3'55")
[18]
恋するカレン (3'22")
[19]
FUN×4 (3'15")
日本ポップス史上に燦然と輝く不滅の金字塔が、発表から20周年を記念して最新リマスター&ボーナス・トラック付きで発売された。
1981年3月21日発表のこのアルバムは、美しいメロディと磨き抜かれたアレンジが詰まった優れたポップスとしての作品性を持ちながら(あるいはそれゆえに)、ベストセラーとなって一般にも広く知られることになり、これ以後の日本における80年代のポップス/歌謡曲(J-POPではない)の方向性を決定づけたと言っても過言ではないだろう。当時のアダルト・オリエンテッド・ロックにも通じるリゾート感覚溢れるジャケットも強烈なインパクトを与え、誤解が多分にあるにせよ、結果的にバブル期の蕩尽ライフ・スタイルのイメージを形成する象徴的アルバムにもなった。
個人的にも、発表当時AMラジオで主要曲を聴いてその曲の良さに新鮮な感動を受けたこともあり、思い入れが強い。大瀧詠一が元はっぴいえんどであるとか、ナイアガラ・レーベルでマニアックなポップスをやっていたこと、山下達郎との繋がりなどを知るのはこの後のことだ。
以下は、それぞれの曲についての、今回改めて気づいたことや元ネタ探しも含めた聴取メモ。聴き所ガイドになれば幸いである。バックの演奏は匿名性が強く、誰がどこで演奏しているのかわからないところもあり、演奏者クレジットは割愛させて頂く。(打つのが面倒だからというのもあるが...)
各曲の最後には、個人的にグッとくる(身につまされる)歌詞の一節を。その明るくポップなサウンドとは裏腹に、一曲を除いて胸に染みる悲恋話ばかりなのである。
この後、佐野元春・杉真理との共同アルバム「ナイアガラ・トライアングル Vol.2」(1982) を経て、大滝のラスト・アルバムとなりそうな「イーチ・タイム」(1984) でこの路線をより濃密に突き進め、完成度をより一層高めていくことになる。("レイクサイド・ストーリー" がメチャクチャ好き。歌詞も最高!)
歌手としての大滝についても一言付け加えておく。山下達郎ほどの声量や派手な歌唱力はないが、一本調子ではない多彩な節回し・発音・声色、控えめながら複雑な感情の機微を滲ませたソフトな歌唱は技巧的にも見事なものではないだろうか。クルーナー唱法(ビング・クロスビーが代表的)とも言われるが、どことなくジョアン・ジルベルトにも通じるものがあると感じる。
君は天然色
一曲目にふさわしく超ポップで超キャッチー。何回聴いても最初にこの曲に出会った時の鮮烈な感覚を思い出す。
途中のリズム変化やステレオ感のある効果音も楽しい。
分厚い音の壁を形成するが、スペクターだけでなく、その影響下にある第二世代をも視野に入れた捻りが入っているように思う。決めの“ダッダッダダン”がロイ・ウッド/ウィザードの "See My Baby Jive" そっくりだったりして。(参考CD:Roy Wood & Wizzard - Singles A's & B's)
“渚を滑るディンギーで〜”の部分はCMに使われたことがある。
想い出はモノクローム 色を点(つ)けてくれ
色褪せていく過去への追憶
Velvet Motel
生ギター+チェンバロが刻むキラキラとオシャレで複雑なリズム。
男女で一言ずつ言葉を分け合うこれまたオシャレなサビ。
それに何と言っても新鮮に屈折したメロディが美味。
一度は愛しあえた
ふたりが石のように黙る
終わった後の虚無感
カナリア諸島にて
ジャケット通りリゾート感いっぱいの歌詞/サウンド。アルバム全体のイメージを作り出している代表曲と言えるだろう。これ以前に細野晴臣らが追及していたトロピカル・サウンドをぐっと洗練させたかのようでもある。
フルート、カスタネットが効果的。
リゾート路線は「イーチ・タイム」の "夏のペーパーバック"、"ペパーミント・ブルー" で突き詰められる。
もうあなたの表情の輪郭もうすれて
ぼくはぼくの岸辺で
生きていくだけ……それだけ……
痛い過去を通過した達観の境地
Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語
イントロのピアノがさりげなく歌のフレーズを先取りしているのだが、
FUN×4のフレーズをも先取りしているような気がするのは気のせいか?
"Love Potion No.9" はクローヴァーズ、サーチャーズ(リーバー&ストーラー作)、"Summer Kisses, Winter Tears" はエルヴィス・プレスリー、"Let's Go Steady Again" はニール・セダカ、どれもオールディーズの曲名。(参考CD:The Very Best of the Searchers、Elvis for Everyone、Real Neil Sedaka)
一言言った その日から
恋の花散る こともある
ふざけながらも心で泣いて(大瀧自身の作詞はこれ一曲のみ)
我が心のピンボール
複数の生ギターがかき鳴らす、気怠いイントロ。
出だしのギター・フレーズが何かの歌謡曲に似ているような気がするが、具体的に思い出せない。
上下動激しくひっくり返る、アルバム中でも異色と言えるワイルドなヴォーカルも聴き物。
ギターが活躍する8ビートのロックンロールの中で、サビ前のせつない転調、コーラス(ア〜、cry〜ing)がスパイスに。
サビの“心がカタカタ泣いてるよ”の後に律義にもカタカタいう音が入っている。
それは恋の TILT 忘れても
思い出せ〜、ば苦笑いヤイヤヤイヤ〜イ
爆(苦)笑
この主人公には親近感を覚えずにはいられない
雨のウェンズデイ
胸しめつけられる泣き泣きのバラード。
左右2台でチョロチョロと鳴るピアノがおいしい隠し味になっている。
サビ“wow wow Wednesday”の転調の後に出るピアノのフレーズは、はっぴいえんどの "風をあつめて" に似てるかな?(参考CD:風街ろまん)
哀愁の雨シリーズは「ナイアガラ・トライアングル Vol.2」の "Water Color" に引き継がれる。
さよならの風が君の心に吹き荒れても
ただぼくは知らん顔続けるさ
この部分がアルバムで最も泣ける箇所(個人的に)
スピーチ・バルーン
アコースティックで比較的シンプルなサウンド。
要所要所で入るエレキギターのフレーズ、一人多重コーラス(ン〜〜ア〜〜)が良い雰囲気を出している。
スピーチ・バルーンとはマンガの吹き出しのことか。
言いそびれて白抜きの言葉が
風に舞うよ
こういうのを“白抜き”と言います。(印刷業界用語?) |
恋するカレン
クリスマスのようなイントロも相まって、スペクター度はアルバム中最大。
女声コーラスのシャララ、華麗なピアノ、カスタネットが連打される50〜60年代アメリカン・ポップス黄金期を彷彿させるサビのゴージャスなこと。
“ふと眼があ、うたーび〜”の部分はロイ・オービソン "Oh, Pretty Woman"。(参考CD:For The Lonely: 18 Greatest Hits)
誰より君を愛していた
心を知りながら捨てる
振られた男の未練と負け惜しみ
FUN×4
Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語と共にふざけた言葉遊びに溢れた軽快な曲で、歌詞がハッピーなのはこの1曲だけ。
エンディングで出てくるのは当然ながらビーチ・ボーイズ "Fun, Fun, Fun"。(参考CD:Shut Down Volume 2)
スタンダード・ナンバー "Polka Dots and Moonbeams"(Burke-Van Heusen 作)のメロディを引用。(参考CD:The Essential Frank Sinatra with the Tommy Dorsey Orchestra、Bill Evans - Moon Beams)
(該当なし)
さらばシベリア鉄道
太田裕美へ提供した曲のセルフ・カヴァー。サビの歌い回しをそれとは少し変えている。
ロシア民謡風の異国情緒。ジョン・レイトンの "霧の中のジョニー" (Johnny Remember Me) にそっくり。(参考CD:Remembering: The Anthology)「ナイアガラ・カレンダー」の "想い出は霧の中" から繋がっているとも言えるが。
クリーンな音色のエレキギターは、"霧のカレリア" で有名な北欧の哀愁エレキギターインスト・バンド、スプートニクスを思わせる。(参考CD:霧のカレリア、多羅尾伴内楽團)
ぼくは照れて愛という言葉が言えず
君は近視まなざしを読みとれない
題材的にも手法的にも "木綿のハンカチーフ" の姉妹編のような趣き
以上の他にも、ナイアガラー(大瀧マニア)には常識の、君は天然色の元ネタは Pixies Three "Cold, Cold Winter" であるだとか(参考CD:Party with the Pixies Three)ほじくれば続々と出てくる重箱の隅。ここまでくるとマニアック過ぎてついていけない…。元ネタ探しもほどほどにしといた方がよさそうだ。
ボーナスで収録されているインスト・ヴァージョンは、81年7月に一万枚限定で発売された透明盤LP「SING-ALONG-VACATION」の全曲(初CD化)。純粋なバッキング・トラック(いわゆるオリジナル・カラオケ)ではなく、ヴォーカル・ラインをなぞったシンセ(曲によってはピアノ、ギター)が大きくミックスされたもの。ピアノやギターはまだ聴けるが、シンセが朗々と鳴る曲は時代を感じさせ、今となってはダサ恥ずかしい。ヴォーカルを除いた純粋なバッキング・トラックだけを聴きたかった気もする。
君は天然色イントロのノイズ〜カウントはカットされ、FUN×4も演奏終了直後の拍手でフェイド・アウト。さらばシベリア鉄道は未収録。
last updated: 2008.1.14