いよいよ「Electric Ladyland」へ。この頃になると部外者とのセッションが増え、ノエル・レディングは離脱していく。
【通しNo./曲名/時間/収録アルバム名/録音日・場所(演奏者、ゲスト、オーバーダブなど)】
Little One / There Ain't Nothin' Wrong
トラフィックのデイヴ・メイソンがシタールで参加。かつてはローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズという説もあった。【No.99】は【No.97】と同じ演奏だがクリアなステレオで、フェイドアウトせずギター・ソロが少し余分に聴ける。【No.98】にはカウベルと掛け声が入っておらず、メイソンと思われるスライド・ギターがフィーチャーされている。ジミがスライドを弾くのは聴いたことないような… (もしかすると、take 1 のギター・ソロもメイソンかも?) 【No.97】【No.99】はイントロがフェイドインなのに対して【No.98】では出だしの最初から入ってる。
【No.100】はベースとなる take 1 に1987年(または1988年)のオーバーダブ・セッションで新たにドラムとベースを被せ、元のセッションには不参加のノエルが独自に(勝手に)歌詞を付けたヴォーカルを乗せたもの。ノエルの追悼編集盤「The Experience Sessions」で一応公式リリースされている。
Have You Ever Been (To Electric Ladyland)
この曲は演奏者・録音日・録音場所ともに謎。インストでさらっと流したような【No.101】【No.103】は68年1月(あるいは67年の暮れ)にロンドンで、デイヴ・メイソンがベースで参加したジャム・セッションとされている。確かに【No.101】はルーズなジャムのようではある。しかし【No.103】のギターは、68年6月ニューヨーク録音となってる【No.102】と同じに聞こえる。【No.102】に自分でドラムの音を重ねたのが【No.103】では? そこへさらにギター・ベース・ヴォーカルを重ねて全て一人で仕上げたのが本テイク【No.104】のように思えるのだが…
All Along The Watchtower
ディランを激しくロック化した名アレンジ。これを通過したのがXTCのカヴァー(デビュー・アルバム「White Music」所収)。カウントから始まる【No.105】はチャス・チャンドラーによる仮ミックス。盛り上がるところでギターやドラムが左右に揺れ動くものの、デイヴ・メイソンの12弦ギターが右にくっきりと定位し、ジミが弾くベースが目立つ比較的ストレートなミックス。さらに手を加えた完成版【No.106】では深みと広がりが増し、得体の知れない呪術性というかマジカルな雰囲気が醸し出されてくる。さすが。
Tax Free
【No.107】はカウベル入りで、3本のギターが左・中・右とはっきり別れて聞こえる。オルガンのような音のギターは左(【No.108】では右)、リード・ギターは中央(【No.108】では中央やや左寄り、途中で左右に動く)、3本目は右(【No.108】では中央やや右寄り、音量控えめ)。ベースを弾いてるのはノエルではなくジミかもしれない。1972年ミックスはミッチのドラムがクリア。新たに録音して差し替えたようだ。
Somewhere
これはやっかいだ。5種類ある音源どれも違いがある。【No.109】【No.110】はバディ・マイルスがドラムを叩くオリジナル・テイク(take 3)と思われるが、どちらもわざとらしく音が加工されていて、両者でミックスが大幅に違う。こもり気味な【No.109】は定位がゆらゆらと不安定。【No.110】ではヴォーカルに過剰なエコーが付けられ音質が劣悪だが、エンディングのギター・ソロが終わっても20秒以上バックの演奏が続く。
リズムのもたつきが目立つ【No.111】は1971年にミッチがドラムを差し替えたもの。エンディングでギター・ソロが終わってからボレロのようなビートを叩いているのが【No.110】と違う一つのポイント。
【No.112】はスタジオ・ミュージシャンがバックを差し替えた「Crash Landing」で最初に世に出たヴァージョン。ここでも(【No.110】よりは控えめだが)ヴォーカルにエコーが付けられている。左チャンネルのサイド・ギターはジェフ・ミロノフだろう。
“新作” を聴いて「どこかおかしい」と違和感を持った問題の一曲が【No.113】。上記4種とはかなり印象の違うテンポの早い演奏(take 6)だが、ヴォーカルと間奏のギター・ソロは5種類とも共通のものを使用しているようなのだ。パソコン技術の進歩により、異なるスピードのテープからでも望みの音を抜き出して、ピッチを変えずにシンクロさせることが可能になった、ということらしい。ビートルズの「Let It Be... Naked」あたりから始まり「People, Hell And Angels」など近年の発掘ものはその恩恵を大いに被っている。後からいくらでも別ヴァージョンを作れるようになったということだ。(良いことなのか悪いことなのか…)
Little Miss Strange
【No.114】はギターが全然違う初期ミックス(別テイク?)。音は良くないが演奏が終わった後のスタジオの様子が少し入ってる。
Gypsy Eyes
【No.116】はギターとドラムが異なる初期ミックス。位相をいじり倒したせいで耳がおかしくなるマスター・テイクよりタブル・トラックのヴォーカルが明確で、ドラムの音も大きく安定感がある。ヴォーカルがシングルの【No.117】はフランジャーが掛かって浮ついた感じ。強力にグルーヴするベースはノエルではなくジミかもしれない。
3 Little Bears / South Saturn Delta
【No.118】は1972年の編集盤「War Heroes」で初お目見えした、おふざけのような子供じみた曲。現在はシングル「Merry Christmas and Happy New Year」のカップリングで入手可能。そこでは「ストップ!」で切れていたが、【No.119】は止まらずにその後もまだまだ続いた(いつしか "South Saturn Delta" へ突入、ひとしきり盛り上がった後、8分過ぎあたりで3拍子になり沈静化、手探りで別の新しい曲が生まれそうになる)ジャム・セッションの生々しいドキュメンタリー。ジミがベースを重ねたのは "3 Little Bears" の部分だけで、その後はミッチとのデュオ。ハーフ・オフィシャル「Am I Blue」にも収録。
改めて取り組んだ【No.120】はホーン・セクションとギター・ソロがオーバーダブされる前の状態。ホーンを重ねてもこの曲には中途半端な物足りなさを感じてしまう、というのが正直なところ。
Voodoo Chile
"Catfish Blues" を元にしたスロー・ブルース・ジャム。約40分に及ぶセッションの全貌は裏音源で出回っている。【No.123】は take 3。【No.122】は3つのテイクを編集して繋げたもの。まず take 2 の冒頭部分から始め、2分後に take 3 から歌の部分(【No.123】2分48秒〜3分10秒)を挟み、後の大部分は take 1 から後半部分を使用、という具合に。ちなみに、観客の声や拍手はライヴの雰囲気を出すために後から被せたもの。
Voodoo Child (Slight Return)
"Voodoo Chile" から生まれ変わった奇跡のような名曲。これも失敗テイクまで含めた全容が流出してるが、ここでは別テイクを一つ挙げるに留める。【No.124】は歌い方が焦り気味ながら、演奏は本テイクに迫る出来。後半少し乱れがあり緊張の糸が切れてしまったか不意に終わる。【No.125】は完成テイクに後からパーカッションを被せて仕上げている。
Come On (Let The Good Times Roll)
【No.126】は短く終わる別テイク。とはいえモノラルという以外に聴いた印象はほとんど同じ。【No.127】のギターは、正しくセッティングされたスピーカーに相対すれば、頭の右後ろの方から聞こえてくるはず。
2013.4.7
Part 5 に続く
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