King Crimson - Starless: 40th Anniversary Box
主に73年秋から74年春のヨーロッパでのライヴ音源を集めたボックス・セット 全27枚(20CD + 2DVD + 2Blu-ray + bonus 3CD)[曲目リスト

CD 1-6, 19 : Multitrack Recordings

アルバム「暗黒の世界」の素材となったマルチトラック録音3公演分(グラスゴー、チューリッヒ、アムステルダム)
3公演とも何らかの欠損部分がある。

グラスゴー"The Night Watch" は後半部分に問題があるらしく、詐欺師ボックスと同様にチューリッヒのテイクをつなげている。

チューリッヒでは、アルバムに使用された "The Mincer" の部分はオーバーダブして加工したものしか残っていない。元テープに直接ハサミが入ったため、詐欺師ボックスではインプロが分断されていたが、今回は "The Mincer" が所定の位置にスムーズに収まったのを聞ける。これは感動もの! インプロに歌詞付きヴォーカルを乗っけて曲にしてしまうウェットンの荒技はスゴイ(Henry Cow や This Heat がこうした手法を取っている)

アムステルダムは、冒頭に演奏したはずの "Larks Part 1" は録音されていなかった。オーディエンス録音も見つからなかったようだ。

CD 19 は、当時のエンジニア、ジョージ・チキアンツがラジオ放送用にミックスしたもの。ただしアナウンサーの声は入らない。スティーヴン・ウィルソンによる最新ミックス(CD 5-6)と比べると、各楽器の音が大きく、ステージ上で聞いてるような荒っぽい迫力がある。「21世紀〜」のヴォーカルをファズっぽく潰したりしてるし。

対して最新ミックスはコンサートホールの広い空間が感じられ、落ち着いた音になっている。「21世紀〜」のヴォーカルもクリアだ。97年に出た「The Night Watch」はまた別のミックス(本ボックスのブルーレイにハイレゾで収録)。これにアルバム「暗黒の世界」の新旧ミックス、さらに「紅伝説」の2曲も含めると多数のミックス違いが存在することになる。

CD 7-8, 10-18 : "The Blue Tapes"

PA直のオープンリール録音11公演分(全公演が不完全収録)
本ボックスの中心をなす「ブルー・テープス」はラフな簡易録音で、一応ステレオだが左右の幅が狭く、ほとんどモノラルに近い。ステレオの定位も不安定で、時折ギターが左から聞こえたりする。なぜか歓声は左右に広くキレイに入ってるが。

全部で14巻ある「ブルー・テープス」のうち、1(ウーディネの大部分)4(ブレシアの後半)5(マルセイユ)は行方不明とのこと。現存するテープはどれも頭が欠けたり尻切れだったりと中途半端なのが残念ではあるが、あるのは全部公開してくれたのだから感謝しないと。

マインツCD 15)はかつてコレクターズ・クラブから日本盤も出たことがあるが、今回はオーディエンス録音を組み合わせた新規ミックス。

ブレシアCD 8)の "Starless" はエンディングでギターとメロトロンが思いっきりズレている(苦笑)

ブザンソンCD 11)の "Improv I" は、後に "One More Red Nightmare" となるリフを元に展開していく。「Cirkus」に2分弱だけ収録された "Improv: Besancon" は、その直前までのいわばイントロ部分。当時は出し惜しみしたわけですな。"Improv II" は、"Trio" 風の静謐なギターソロがメイン。

ハイデルベルクCD 14)では "Starless" の前にフリップが "The Night Watch" のイントロを(間違えて?)弾いている。動揺したか、その後もミスタッチが散見され調子が悪い。さすがのフリップ先生でもこんな日はあるってことか。
この頃は "Easy Money" のエンディングから間髪を入れず "Fracture" のイントロに繋げるパターンがよくある。これがピタリとハマり、なかなかよろしい。

毎日のように曲順を変え、同じ曲でも日によってニュアンスが異なり、当然ながらインプロはそれぞれ全く違うものになる。これだからクリムゾンの(特にこの時期の)ライヴにはどれも価値があり、こういうボックスを出す意味もあるというものだ。

CD 25-27 : Bonus Discs

音質の劣るブートレグ音源2公演分+α(ダウンロード・オンリーで1公演分あり)
CD 25-26 : アメリカ・ツアーから唯一10月6日のテキサス公演をカセットのサウンドボード(?)音源で完全収録。皮肉なことにライヴの完全収録は本ボックス中これだけ。この時期の "Fracture" は中間部に "Starless" 後半部に似たリフで展開する部分が付いた長尺版。逆に "Larks Part 1" は中間部を省略した短縮版がこれ以降の標準となり、やがてセットリストから姿を消す。

73年6月アトランタからは1曲のみ収録。なぜに全部出さないのか…(サウンドボード音源のブートレグは存在する)

チューリッヒからは、"The Mincer" のオーバーダブがない本来のインプロ部分をブートレグを使用して可能な限り高音質で復元。音質の違いは避けられないものの、ここまでスムーズにつなげた労力を讃えたい。

さらに、マインツの「ブルー・テープス」から欠落していた終盤部分(3曲)をブートレグ音源で補完。

CD 27 : 行方不明の「ブルー・テープス」で大半が紛失していた3月19日のウーディネ公演をオーディエンス録音で収録。この時しか演奏していない "Guts On My Side"(後々 UK"Caesar's Palace Blues" に発展していくらしい)とか "Starless" の初演が聴ける貴重なもの。"Doctor Diamond" は以前と違って、スローで重い中間部が長く続く新アレンジになっている。

おまけとして、封入されたチケットに記載されたURLから、11月3日フランクフルト公演のオーディエンス録音(約61分)をダウンロード可能。

CD 9 : ORTF TV

TV用スタジオ・ライヴ(フランスORTF)→ 映像はブルーレイに収録
モノラル 29分。"The Night Watch" の前に付いてるインプロでは、"Trio" のような雰囲気のメローなギターソロが聴ける。

CD 20 : Album "Starless and Bible Black" 2011 Stereo Mix

スタジオのリハーサル音源やアウトテイクは一切なし。"Doctor Diamond" はアルバム用にスタジオで録音されることはなかったそうだ。ライヴ音源を補完するような作業がメインだったのかもしれない。

2011年ミックスは、以前との目立った違いはなさそうだが、クリアな高音質に生まれ変わっている。各楽器の音をいったんバラして磨き上げ、また元の通りに再構築したような感じ。

"The Mincer" も含め、ここに入ってるインプロはどれも素晴らしく、"We'll Let You Know" は何度聴いても飽きないし、中国の水墨画のように幻想的な "Trio" で湧き上がってくるメロディの美しさは神がかりと言うしかなく、"Starless and Bible Black" 終盤の爆発は四人がテレパシーで通じ合ってるかのようだ。ロックにおける即興演奏の最高峰がここにある。クリムゾンの中ではこのアルバムが昔から一番好きだったが、その思いが一層強まってくる。

DVDおよびブルーレイにはマルチトラック録音から作成されたハイレゾと一部サラウンド・ミックスを収録
1枚目のDVDは40周年エディション2枚組のDVDと同内容。アルバム「暗黒の世界」のサラウンド・ミックス、2011年リミックスとオリジナル・ミックスのハイレゾ等々。ボーナストラックの "The Mincer" はオーバーダブなしヴァージョン。

2枚目のDVDには、マインツアムステルダム(全曲ではない)、ピッツバーグ(4曲のみ)のサラウンド・ミックスを収録。

ピッツバーグは既に Red ボックスにも入っていたが、ここでは74年当時(!)G・チキアンツが作成していたという4chミックスで。どういう理由からこんなミックスが作られたのか分からないが、この4曲はラジオで放送されたため早くからブートでも出回っていた。ドラムが後方からも聞こえてくるトリッキーなサラウンド・ミックスになっている。

アムステルダムは奇をてらわないオーソドックスなサラウンド・ミックス。

マインツはオーディエンス録音も駆使して、重低音の響きわたるコンサートホールの雰囲気を醸し出している。

ブルーレイはプレイヤーがないので未確認。

last updated: 2014.11.24

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