一年を振り返って年間ベスト・アルバムを選ぶ、という儀式。そんな、個人サイトをやってるくらいの音楽ファンならたいてい誰でもやってるであろう年中行事がある。ぼくもご多分に漏れず、数年前までは嬉々としてやっていた。しかし、このところ何故かそれがおっくうになってしまったのである。選べない。新譜を何回も聴き込むことが年々少なくなってきた、そもそも新譜をあんまり買わなくなった、最近のミュージック・シーン(使うのが恥ずかしい言葉だ)に関心が持てない、というのが主な理由だろうか。単純に聴いた回数の多いものから選ぼうとすると、どうしてもその年に出たもの以外になってしまう。例えば、2002年前半は 10cc - Bloody Tourists を聴きまくったし、自選オリジナル CD-R を聴くことが多かったりして。
ここでは、今年発売されたものの中から軽く選んだ3枚(現在のミュージック・シーンの潮流とは無縁なものばかりを楽曲重視で)と、再発・発掘(&箱)部門からひとつ挙げてみた。敢えてカンタベリー/プログレ関係は省いてある。このサイトをやるようになってからは、幸か不幸か少なからぬ義務感がつきまとってしまい、あれも入れなければとか考えてしまって、無心で選びにくいのだ。したがって、この3枚+1が「決定!これが HighField が選ぶ年間ベスト・アルバムだ!」というような大げさなものではない、と断っておく。
|
Anton Fig - Figments (Planula Records) -> amazon.co.jpへ
色々と有名どころのバックに名前を出してるセッション・ドラマー Anton Fig の初ソロ・アルバム。紛らわしいが Golden Palominos の Anton Fier とは全くの別人。"Hand On My Shoulder" 一曲に Brian Wilson がバックのコーラスを付けている(リード・ヴォーカルは Blondie Chaplin)という理由で購入したのだが、これが期待以上に良い曲。他にも良い曲が多い。ほとんどがオリジナルの歌もので、2曲のみインスト(メロウな "Tears" と、かなりヘヴィな "KWYG2" )。幅広いジャンルから総勢40名を越えるゲストが曲ごとに参加した企画色の強いアルバムにも関わらず、散漫にならず統一感がある。ロック/ポップスを中心としながらも、ジャズやワールド・ミュージックなど色んな要素が入り交じった、暖かい雰囲気のあるアルバムだ。
参加メンバーのめぼしいところ(ごく一部)を挙げると、ヴォーカルでは、数曲でリード・ヴォーカルをとる Blondie Chaplin 、他に Ivan Neville, Richie Havens, Chip Talor など各自一曲ずつ歌う。ジャズ関係では Randy Brecker, Adam Holzman, Will Lee, Lew Soloff など。他に Paul Shaffer, Donald 'Duck' Dan とか、Chris Spedding, Al Kooper といった大物、Bruford Levin Upper Extremities でトランペットを吹いてた Chris Botti もいる。
ボーナス(サービス)として "Hand On My Shoulder" からブライアンの一人多重コーラスの部分のみ抜き出したアカペラをCDの最後に収録してある。これがまた素晴らしい。ブライアン・マニア必聴。
オフィシャル・サイト
|
|
Carmen Cuesta-Loab - Dreams (Skip Records) -> amazon.co.jpへ
切なさを感じさせるキュート系の声がたまらない、魅惑の女性ヴォーカル・アルバム。ジャズというよりはポピュラー寄り。打ち込み(プログラミング)も含め演奏の大部分は旦那でギタリストの Chuck Loeb が手掛けている。竹内まりやをサポートする山下達郎みたいなものか? Micheal Brecker, Bob James, Will Lee, John Patitucci などが曲によってゲスト参加。
スタンダードの "Invitation", "Corcovado", "The Shadow Of Your Smile", "My Romance"、ビートルズ(George Harrison)の "Something" 以外の7曲は彼女自身のオリジナルで、スペイン語で歌われる曲が多い。これが良いメロディ満載で素晴らしいのだ。"Dreams", "Until", "The Garden" などどれも名曲と言っていい。
スタンダードの解釈にも工夫を凝らしている。"Invitation" は間奏部分で4ビートになり、酒場の(?)SEをバックにしたジャズギター・ソロが雰囲気を出す。"The Shadow Of Your Smile" には独自のイントロを付け、最後に収められた "My Romance" も印象的なフレーズの繰り返しが効いていて、聴いた後に心地よい余韻を残す。
ボサノバや穏やかなラテン風味のアレンジは統一感があり、全編ソフトな曲調が聴きやすく、なごめる。お休み前の一時にも最適。前年に出た「Peace of Mind」も同傾向の作品で良いのだが、楽曲が粒ぞろいの「Dreams」がより優れているように思う。
|
|
Soft Cell - Cruelty Without Beauty (Cooking Vinyl) -> amazon.co.jpへ
80年代エレポップ・デュオ、約18年振りの再結成アルバム。現役当時はヒットを連発し本国イギリスでは有名な存在らしく、復活ライヴ・ツアーも行われているが、日本での人気はいまひとつ。騒いでるのは大鷹俊一氏くらいなもの(笑)。来日は無理だろうな。
往年の Soft Cell を特徴づけていた毒々しさ(初期:エログロ Non-Stop Erotic Cabaret、中期:デカダンス The Art of Falling Apart、後期:カタルシス This Last Night in...Sodom)は薄れているものの、Marc Almond(ヴォーカル担当)近年のソロ作品の延長上にある豊潤なメロディと洗練された音づくりによって、落ち着いた大人の(?)ポップ・アルバムとなっている。ディスコちっくな電子ビート、Marc Almond の朗々と歌い上げるねっとり声、ヨーロッパ風の陰影。快楽の世界だ。
シングル・カット第2弾 "The Night" は70年代 Four Seasons のカヴァー 。この曲は日本ではあまり有名ではないが、欧米では評価が高いらしい。これが違和感なく溶け込んでいて、カヴァー とは思えないほど。
|
|
山下達郎 - The RCA/AIR Years LP Box 1976-1982 (BMGファンハウス) -> amazon.co.jpへ
ソロ・デビューの「Circus Town」から、大ヒットした「For You」まで、RCA/AIR 在籍時に残した7作品(ライヴ盤「It's A Poppin' Time」は2枚組)をまとめたアナログ・レコード9枚組のボックス・セット。スペシャル・ボーナス・ディスク1枚(写真右)を含む。これがお宝。リマスター再発されたCD(バラ売り)で追加されたボーナス・トラックとのダブリは5曲のみで、それ以外の6曲はここにしか入っていない。しかも、それらはCDのボーナス・トラック以上に貴重な音源なのだ。
"言えなかった言葉を" は「Circus Town」NYサイドのアウトテイクで、内省的だった「Spacy」ヴァージョンとは違いブラス・ロック的な開放感がある。"Ride On Time" は詞・曲が全く違う別ヴァージョン(というかタイトルが同じというだけで全然別の曲)。マクセルのコマーシャル用に2パターン作り、採用されたのがあのヒット曲となった訳で、こっちはいわばボツ曲。だからといって駄曲かと言えばそんなことはなく、埋もれさせるのは惜しかったのだろう、後に歌詞・タイトルを変えて近藤真彦に提供された。ぼくとしては、この曲がLPボックス最大の収穫だった。
ライヴ音源は "Sunshine -愛の金色- "(1980年5月3日、中野サンプラザ)と "愛を描いて -Let's Kiss The Sun-"(1980年8月2日、葉山マリーナ)の2曲を収録。特に、土砂降りの中で決行されたという伝説の葉山マリーナでのライヴがハイ・テンションで凄い。
ちなみに、今回のリマスターの中で繰り返し聴いたのは「Circus Town」LAサイドの "City Way", "迷い込んだ街と" の2曲 。以前は地味な存在だったのだが、そのカッコよさ、完成度の高さを再発見。ギター・ソロ、エレピ・ソロが絶品。スティーリー・ダンみたいだ。
|
|