義歯（入れ歯）安定剤には練り状のチューブタイプ、粉末タイプ、シートタイプがある。洗ったあとの入れ歯を乾かしてから使うか、やや濡れた状態で使うかの違いはあれ、入れ歯そのものにそれをのせ、口に入れてかみ締め、はみ出た部分を手で取り除く。接着剤とは異なり入れ歯と歯茎の隙間を埋めるわけで、入れ歯の取り外しは可能。１日から３日くらいもつ。
ある日の閉店間際、オレは事務的な書類を整理しながら店頭に一人でいた。９割がた整理が進んでもう少しで終わりそうなその時、無愛想で頑固そうなオヤジさん（推定７０歳代）が来店した。
「入れ歯をくっつけるものをくれ」とのこと。初めて使うそうで、（もう少しで書類整理が終わるというのにタイミングが悪いなぁと内心思いつつ）それぞれの義歯安定剤の特徴を説明した。
「一番強いのはどれだ？」「そうですね、こちらのチューブタイプですと長く持ちますよ」 「粉のほうがいいって聞いたことがあるぞ」「初めての方は粉のほうが使いやすいと思いますが”もち”は比較的短いですね」「そうか？」「ええ」「・・・」黙ったままオヤジがこちらを睨む。
彼が決めかねているところに他の客が相次いで二人やってきた。で、そちらの応対（指名買い）を順番にしながらレジをこなしつつ、オヤジの質問にも答えつつという状況になった。
「どっちが得かな。臭いはないのか？」など聞いてくる。
やがて指名買いの二人が帰った頃に彼は買うものを決めた。
そこで、「入れ歯をよく洗ってから使ってくださいね」とオレ。
「どこに塗ればいいんだ？」とオヤジ。そこでオレはなにを思ったか、
「口の中です」と、きっぱり答えた。
「口の中？入れ歯にじゃないのか？」
「いや、口の中にですよ」 なんの迷いもなく断言した。
「そうか。。。」と言って彼は会計を済ませ、立ち去った。
それから２、３分後にハッっとした。入れ歯に塗るに決まっているじゃんか！！！！
あわてて店の外に出てあたりを見回したが、オヤジの姿はなかった。(ﾟoﾟ;;)
いったいオレはなぜ勘違いしたのだろう？自己嫌悪。鬱。
あえていえば、書類の整理と他の客に気をとられ、無愛想なオヤジさんに集中していなかったのかもしれない。
あれからそのオヤジさんが怒鳴り込んでくるんじゃないのかと不安が続いている。