自 転 車


昨日までは学祭で、今日から授業が始まったのに午後は休講だった。

暇だし天気もいいし、ということで、
自転車を真ん中にはさんで、二人は行く場所を決めた。

cicle2.jpg

歩道をよろけながら君をうしろに乗せて左手で運転、
右手は僕のジャケットのポケットにある君の右手を握りしめて。

10分も走ったろうか…汗ばんだ頃に大きな公園に到着。

ジョギングの人、芝生でギターを弾く人、遠くで雑誌の写真会。
スケートボードの少年が通り過ぎる。

サイクリングコースを見つけた。

二人乗りは禁止なので、ジャンケンをして君が先に行く。

僕の方を振り返りながら、見られているのをはにかみながら…
やがて、君はみえなくなった。

このまま帰ってこなかったら−と、あるはずのないことを考える。

しばらくして、息を切らせながら君が帰ってきた。

「早かったね」
君の汗のついたハンドルを握り、
おどけて荷台に座ったままでのろのろと走り出す。
コースをはみ出し倒れそうになりながら。

君は手を振って笑っている。

やがて君がみえなくなる。

僕は遠くを見渡し、君の知らない歌を口ずさむ。

3年前の田舎を想いだした。

明日のことを考える。

3年後を考える。

サドルに乗り移り全速力で坂を昇る。

S字型のカーブをすいすい走って坂を下る。

はみ出さぬようブレーキをかけながら。

ジョギングの人、芝生でギターを弾く人、遠くで雑誌の写真会。
スケートボードの少年が通り過ぎる。

僕はどこを走っているのだろう?僕はなにを見ているのだろう?

この公園の名前は、いったいナンだったっけ?

やがて、君が遠くにみえてきた。

ジョギングの人、芝生でギターを弾く人、遠くで雑誌の写真会。
スケートボードの少年が通り過ぎる。

そんな景色を君は無表情で見ていた。
そして僕に気づき、「オソカッタァー」とつぶやいた。

夕暮れになる頃、
君を後ろに乗せ、タイヤをきしませながらキャンパスに戻ってきた。

「どこ行ってたんだよ〜」と、サークル仲間に声をかけられた。

「さあね」という顔をしながら、二人で顔を見合わせる。

そして、僕は… “別れ”を考えていた。


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