It's a poppin' Time について

 僕のアルバムもやっと3枚目になりました。今回は、ライブ・レコーディングを中心とした,しかも2枚組という,大変な(?)ものになってしまいました。本来僕にはライブ・アルバムという発想も,ましてやよほどの余裕が無い限り,2枚組などという恐ろしい(??)考えなどあるはずもなく,事の成り行きというのは,実に不思議だと言わざるを得ません。
 当初僕が考えていたのは,「一発録り」でアルバムを作る事でした。すなわち,現在普通のレコーディングでおこわなわれているのは、(勿論僕に関しても),始めにリズム・セクション,次にもろもろの装飾的楽器(例えばパーカッション),ストリングスにブラス,コーラス,そして最後に歌を録音するといったやり方ではなしに,リズム・セクションとコーラスと自分の歌を同時に録音し,それだけでいっちょうあがり,というアルバムを作りたかったのです。このことに関しての理由は色々あり,詳しくは述べませんが,早い話が”Circus Town","Spacy"と続いて,まだ少し違う事をやりたかったという,いつものへそまがり根性からだと思ってください。
 そんな訳で,初めはスタジオでレコーディングする予定だったのですが,誰かが,それならいっその事,観客を招んでスタジオ・ライブにすればいいじゃないか,と言い出し,今度は他の誰かが,ライブをやるんだったら,コンサート・ホールの方がいい,と言い,それじゃあ全部平行して打診してみて,いちばんやり易い方法でやってみようという事になり,最終的に六本木ピット・インでのライブ・レコーディングという結論に達するまでには,結構時間がかかってしまいました。この様な訳で,今回のアルバムは一般のライブ・アルバムとは少々違ったニュアンスを含んでいると言えます。
 普通日本で製作されるライブ・アルバムは,アーティストのエンターティンメント,すなわちステージでの躍動や観客の熱狂(ちょっと大げさかな?),レコードで出せない感じを求める為に作られます。もっとひどい時にはいわゆる枚数消化の為に作られる場合すらあります。
 僕の今回のアルバムは,先ほど述べた様な理由でそれらのどれにも当てはまりません。もちろんライブですから,来て頂いた人達が満足できる様な努力はしていますが,まず第一に違うのは,未発表曲に重点を置いた事です。
 前にも述べた様に,初めこのアルバムは一枚ものとして企画されました。僕はそれを殆ど新曲で固めるつもりでした。正確に申しますと新曲が6曲,今までのアルバムにはいっている曲が2曲,そしてスタジオ録音が1曲,計9曲入りのアルバムにしようというのが,当初の予定だったのです。
 ところが,全部終わって聞いてみると,演奏時間が,予定を大幅にオーバーして(まさか本番の時にストップ・ウオッチで計る訳にはいきませんから),とても9曲は入らない事が判りました。色々と相談した結果,予定に入っていない曲の中にも,出来の良いものが沢山あった事もあって,2枚組にしようじゃないか,という事になった次第なのです。
 ですから,このアルバムは全14曲中9曲が新曲です。うち1曲はアメリカの曲ですが。
 トラック・ダウンにあたっては,拍手その他を出来るだけ押さえる方針をとっています。たとえライブでも,レコードはレコードとして成立しなければならない,というのが僕の考えです。「ライブのためのレコード」ではなく「レコードのためのライブ」でなければならないと思うからです。コンサートの現場では,視覚的な部分も大きな比重を占めてしいます(あまり視覚的な部分の自信はないのですが?!)。しかし,レコードを作る作業にまで,それを持ち込んでは,至極自己満足的なものしか出来ません。従って,曲によってはフェイド・アウトしているものもありますし,1曲だけ歌を録り直しました。
 さて,僕のライブ・パフォーマンスについて少し触れておきましょう。今回のアルバムでバックを勤めてくれているミュージシャン達には,ここ一年程ずっと付き合ってもらっています。彼等は皆様良く御存知の,日本でも有数のセッション・マン達ですが,彼等とステージをやる時は,あまり色々と約束事をせずに,出来るだけ楽に演奏してもらう事にしています。そうした方が,彼ら一人一人の特色が自然に出てくると考えたからで,僕個人としては非常に満足した結果が得られています。従って僕のステージは,比較的地味な(渋い!),統一された色彩になりました。このアルバムのB面を貫いている感じが,僕のこのメンバーとのひとつの成果だと思っています。特に”Windy Lady”に関してひと言申し添えておけば,この曲はシュガー・ベイブ時代からのレパートリーですが,このメンバーで演奏されているヴァージョンが,最も僕の考えに近いものなのです!
 最後にもうひと言。アルバムの最初と最後に2曲のスタジオ録音が収められてあります。最後の曲は昨年の夏に資生堂のCMで使われたもので,アカペラ,つまり無伴奏のコーラスであり,自分一人でダビングしたものです。これらの2曲は次の,ひょっとするとその次になるかもしれませんが,来るべき僕の意欲作(自分で言ってるから世話はない)の予告編だと思ってください。内容は−それは出来てからの御楽しみ。
(山下達郎)

★1979年5月か6月に配られたプロモーション資料からの引用です。
現在というか当時でも一般には出回らなかったはず。
少なくても私の持っている同CD&レコードには、「なぜLIVEなのか」、「なぜ2枚組みなのか」の説明書きはないです。
これらの疑問は誰でももつはずです。
そのことの答えとして全文引用させていただきました。
そして、これを呼んでから同CD or レコードを聴きなおすと、よりいっそうこのアルバムの意味が理解できると思いました。
(LVUL8ER)

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