●OTIS RUSH
別に年食ったからって訳じゃなく、結構昔から涙もろい方かもしれません。
けど意外とブルースで涙した事ってあんまりなく、
理由は様々だけど今まで涙したコンサートというとマッカートニー、クラプトン、ルース竹内、金子マリ、なんぶや、TDLのブラスバンド、・・・etc.
そして今回のオーティス・ラッシュ。
何だか最近は、特にこういう所で人の批評をするなんてとてもおこがましい事に感じられて書いてませんでしたが超久しぶりにライブレポを書きたくなりました。 では・・・
オーティス・ラッシュ 2004.May 18th
最後に観たのはちょうど三年前、同じジャパン・ブルースカーニバルの日比谷野音だった。
オーティス・ラッシュの経歴だとか、ギタープレイだとか、ちゃんとした事は他にいくらも書かれた物があるので書かないし書けるほど詳しいわけでもない。
前にどこかで言われたように「こうじはよほどラッシュに思い入れがある」とか「ラッシュのレコードは100枚くらい持っとる」という訳でもない。
僕の思い入れなんて、フェイバリット・ブルースシンガーを問われて迷わずラッシュと答え、好きな曲3曲と問われたらDouble Troubleを入れる程度のものだ。
今回、「本人は体調が良くないらしい。しかし前日の大阪公演は素晴らしかった。サイドのカルロス・ジョンソンが凄かった」という話だけは公演直前に聞いていた。
しかしまさかあれほどとは。
彼は2ヶ月前に脳梗塞を発症、両脇を支えてもらわなければ歩く事さえままならず、話す言葉も殆どが聞き取れない。
もちろんギターの演奏などまともに出来るわけもなく、ギターを抱えさせてもらってはいるが両手がモヤモヤと動いているだけだ。
これは事実。
往年のラッシュの演奏だけを期待して会場に向かった人にとっては「金返せライブナンバーワン」だったかも知れない。
しかし僕を含めて、会場では多くの知人にも会ったが少なくとも周囲にはそういう人はいなかった。
この日までラッシュの名前も聞いた事もない人もいたのにだ。
何故か。
カルロス・ジョンソンやバンドの演奏自体も素晴らしかった。
実は僕はジョンソンの事は知らなかったし、知っている人によると
今回のツアーでは随分気を遣った「ラッシュ風のスタイル」で演奏していたという話もある
(もともと知らないので僕には関係ない)が感じとしてはラッシュとアルバート・コリンズの中間くらいの感じに思えた。
そしてマサキ夫人に支えられてラッシュが登場してからは隣の椅子に座って常にラッシュの意思を汲み取ろうとし、
それをバンドのメンバーに伝えていた。
メンバーもラッシュのサポートに全神経を集中させていながらそれでも演奏には全然嫌味なところがない。
そういえばドラマーも感動的なことを言ってたし彼自身演奏しながら涙を流していた(顔はメチャメチャ恐いんだが)。
彼の、そしてジョンソンやマサキ夫人の涙は悲嘆ではなくラッシュを称え、
こうしてまた一緒にステージに立てた喜びの涙であることははっきりと見て取れた。
当のラッシュはというと、客観的に見てかなり辛い状況であるはずなのに終始おだやかに、ニコニコと歌っているのだ。
なんと言ってもこれが最重要ポイントだろう。
しかも不思議な事に語りが殆ど言葉になっていないのに歌うとその声は何倍も響きを増して、
いつものラッシュの声でその歌詞もしっかり聞き取れるくらいになっていたのだ。
脳梗塞を起こしてある日突然思うように手足が動かなくなる。
自分にはそんな経験はないが職業柄そんな人をたくさん見てはきた。大抵の人は悲嘆に暮れ、正気を保つのが精一杯。
ましてショウとして人前に出ようなどとは到底思えないものだ。完全復帰を心から望む反面、それが殆ど無理であろう事も知っている。
今回、発症から来日までに組んであった欧米でのツアーは全てキャンセルしてリハビリに没頭していたという。
あの状態でステージに立つラッシュにその魂、生き様をまざまざと見せつけられた。
そしてその周囲、(バックではなく)バンドにはとても暖かいものを感じた。
かつてないほど辛いライブであったと同時に今まで観た中で最高に感動し、ブルースの、音楽の、人間の素晴らしさを感じさせてくれたライブだった。
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