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交響曲第3番イ短調「スコットランド」作品56


概要

古典的なロマン主義

 一般にこの曲はロマン主義の描写的な曲として知られているが,その中には古典派以来の原則――ソナタ形式の活用,第1楽章と第4楽章への重み付けなど――がよく守られている。たとえばこの曲は,4つの楽章がすべてソナタ形式で書かれているが,それぞれの楽章は,同じソナタ形式でもそれぞれ違った様式で書かれており,第1楽章と第4楽章に比べて,中間の第2楽章と第3楽章が比較的軽い造りになっている。
 一方で,実はこの曲にはあまりロマン的な要素が多く含まれていない。たとえば交響曲全体に「スコットランド」という題名が付いているが,曲の各旋律,各部,各楽章についての文章などによる説明(標題)はいっさい伝えられていない。ただ一つだけ暗示的なのが,初版の楽譜に指示された第4楽章のAllegro guerriro(攻撃的に速く)という速度標語のみである(但し,現在の楽譜にはこの記述はない)。にもかかわらず,各部の旋律は情緒にあふれており,感情に訴える度合いはロマン派の他の作曲家のものと変わらない。
 また,この曲はすべての楽章が連続して演奏されるように指示されているが,すべての楽章が完全終止で終わっていることから,シューマン交響曲第4番のように各曲を連結・融合する意図はなかったものとみられる。また,4つの楽章のうち3つまでが第二主題を短調にしている所も注目すべき点である(旧来から,短調の交響曲でも第二主題は長調になることが多かった)。

 出だしが悲しげな分,同じメンデルスゾーンの「イタリア交響曲」に比べると,国内での人気は低いようだが,私は詩情豊かで最後が爽やかなこの「スコットランド交響曲」の方が好きである。メンデルスゾーンはモーツァルトと同様,作曲が速いことで有名であったが,この曲は彼にしては珍しく,10年もかけて作曲されている。そして,これが彼の最後の交響曲となった(交響曲第4番「イタリア」,第5番「宗教改革」の両曲は,メンデルスゾーンの存命中に出版の機会を失ったため,この曲よりも後に出版されたにすぎない)。

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