この交響曲は,ザロモン・セットに含まれる1作であるが,ザロモン・セット内の他の交響曲とは異なる面も多い。
まず,ザロモン・セット内では唯一の短調の交響曲である。ほかにもたとえば,ザロモン・セット内の交響曲にはほぼ全てに第1楽章の序奏があるが,この交響曲だけはそれがない。また,ザロモン・セット内の交響曲では第1楽章は第一主題が偏重され,第二主題の比重がきわめて軽くなっているが,この曲はしっかりした第二主題を用意している。第2楽章,第3楽章にチェロの独奏を置いているあたりも,交響曲と協奏曲が完全に分離されていなかった頃の名残だと言われている。また,第4楽章はロンド形式,ロンドソナタ形式,ソナタ形式のいずれかで構成されていることが多いが,この曲は全く独自の形式になっている。
どちらかと言うとハイドンの古い様式に通じることの多い曲なので,中途半端な曲として位置づけられ,あまり積極的に評価されることは多くないようである。
しかし,この曲には革新的な部分もある。終楽章に積極的に対位法を用いているのは,この後にはベートーヴェンの後期の曲まで現れなかったことであるし,第1楽章の第二主題がしっかりしていることも,のちのソナタ形式の曲では必須事項なのである。第1楽章の展開部が完全休止せず,続く再現部になだれ込むようになっているのも,当時としては比較的珍しいことであった(ベートーヴェンでは当たり前のことであるが)。第2楽章の終わりのリズムが第3楽章の主題になるように,楽章間の関連が試みられているような面も面白い。しかし,のちに「ハ短調交響曲」の代名詞ともなったベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調が発表されてしまったのは,この曲にとってマイナスになってしまったのかもしれない。
全体的には無駄のない緊密な構成で,聞き手を充分に楽しませてくれる曲だと思うのだが……。