この交響曲は,交響曲第5番ハ短調と同時に作曲され,同時に初演されている。当初はこちらの曲が第5番と名づけられ,ハ短調交響曲の方が第6番とされていたようであるが,出版時には今の番号になっている。その辺りの事情はよく分からない。
一人の作曲家が,同時期に正反対の傾向を持つ曲を作曲するということは,極端に珍しいという訳でもないらしい。ベートーヴェン自身にも,この曲に続く壮大な第7番イ長調と小柄な第8番へ長調との組み合わせがあるし,のちにもブラームスが交響曲第1番と第2番の組み合わせを書いている。
この曲には,楽章ごとにベートーヴェン自身による標題が付けられている。ベートーヴェン自身が楽章に標題をつけた例は非常に珍しく,他にはピアノソナタ第26番「告別」,弦楽四重奏曲第16番などにしか見られない。それらの曲も,この曲ほど具体的な標題を付けている訳ではない。
しかしこの曲の表題は,いわゆる「標題音楽」を重視した作曲家のものとは異なり,必ずしも具体的な情景や場面ばかりを描いている訳ではない。例えば第1楽章の標題は「田舎に到着した時の嬉しい気分」となっており,かなり抽象的な言い方である。第2〜4楽章については,具体性のある標題になっているが,第5楽章はまた「牧人の歌――嵐の後の感謝の念」となっており,また具体性を欠いた標題となっている。
なお,この曲は楽器編成にも特徴がある。金管楽器で全曲を通して使用されるのはホルンだけで,トランペットは第4楽章のみ,トロンボーンは第4楽章と第5楽章のみで使用される。その他,ピッコロやティンパニなどの楽器も第4楽章のみで使用されている。この辺りの考え方は,第4楽章のみピッコロやコントラファゴットを使用した交響曲第5番とも共通するところがある。
また,この曲は各楽章でそれぞれ違った拍子が使われているのも興味深い。第1楽章は2/4拍子,第2楽章は12/8拍子,第3楽章は(主部は)3/4拍子,第4楽章は4/4拍子,第5楽章は6/8拍子といった具合である。