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交響曲第5番ハ短調 作品67


概要

「運命」にとらわれすぎずに

 ベートーヴェン作曲の全曲の中で最も有名な曲といえば,恐らくこの曲(『運命』)か交響曲第9番ニ短調「合唱付」ということになるだろう。少なくともこの曲の最初の2小節 [♪] (いわゆる運命の動機)を知らないという人はほとんどいまい。
 ところで,日本国内ではこの曲が運命という愛称で広く知られているが,実はこの愛称もそう広く用いられているものではないらしい。たとえばヨーロッパでは,ハ短調交響曲第5交響曲といった呼び方が一般的だということである。なるほど,CDのケースの英語表記やドイツ語表記などを見ても,ほとんどの場合はSymphony No.5 c-minorとか,Symphonie Nr.5 c-mollとか書かれているのみで,運命に相当する言葉は見当たらない。ということは,この愛称がことさら強調されるべきものでもないということであろう。

 運命という愛称は,弟子に第1楽章の第一主題の意味を尋ねられたときに,ベートーヴェンが『運命がこのように扉を叩くのだ』と語ったという伝記によっているが。しかしベートーヴェン自身は,陽気な性格の人物だったようで,それは作曲した9曲の交響曲のうち実に7曲までが長調で書かれていることにも現れている。この言葉も案外と,軽い気持ちで発言されたものだったのかもしれない。

 日本国内では愛称のついた曲の方が受けが良いという事もあり,特に運命という愛称が結び付けて考えられているのではないだろうか。
 実際にそういう思いでこの曲を聞いてみると,第1楽章第一主題の動機には,運命という受動的・否定的な感覚ではなく,むしろ強い能動的・肯定的な意志さえ込められているようにも思える。

「ハ短調交響曲」

 前記のように,単に「ハ短調交響曲」といえば,この曲を指すことが多いようである。要するにハ短調交響曲の代名詞と言うべきか。
 ハイドン第95番メンデルスゾーンの第1番,ブラームスの第1番,ドヴォルザークの第1番,チャイコフスキーの第2番なども同じ調を採るが,この曲の有名さは別格である。

 ベートーヴェンはフラットが3つ付いた調,つまりハ短調と変ホ長調の曲に傑作を残している。有名なものだけでも,ハ短調ならばピアノ協奏曲第3番やピアノソナタ第8番「悲愴」,ピアノソナタ第32番など,変ホ長調ならば交響曲第3番「英雄」やピアノ協奏曲第5番「皇帝」など。ハ短調交響曲の代名詞になっているこの曲を作曲したベートーヴェンは,やはりこの調を好んでいたのだろうと推測できる。

聴きどころ

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