ベートーヴェンの曲というと,交響曲第5番のように激しいもの,交響曲第9番「合唱付」のように華麗なものを想像しがちであるが,交響曲以上にベートーヴェンが力を入れて作っていたのがピアノソナタである。そして,作品番号が100を超えた辺りのピアノソナタは,奥深さとともに流麗さを持ち合わせており,初めて聞いてもすんなりと耳に入るような曲が多い。
流麗さという点では,このピアノソナタ第28番の第1楽章はもっとも上かもしれない。ソナタ形式でありながら子守り歌のように優しく,静かに流れる。それでいて豊かな内容を持ち,大人の雰囲気を忘れない名曲だと思う。第2楽章以降は第1楽章に比べると角が立った曲であるが,内容が豊かであることには変わりがない。
なお,この曲の速度標語はドイツ語で表記されており,曲のより細かい感情を指示している。