昭和48年に失跡した渡辺秀子さん=当時(32)=の2児拉致事件で、
犯行グループが所属した北朝鮮の秘密工作組織「ユニバース・トレイディング」(東京都品川区、解散)が、
万景峰号や貨物船で、日本人や在日朝鮮人を北に拉致していたことが分かった。
北朝鮮に戻った組織所属の工作員の男(53)が警察当局に証言していた。
昨年のミサイル発射や核実験に対し政府は北朝鮮籍船舶の入港禁止の措置を取り、今月、半年間延長を決定したが、
万景峰号が拉致にも使われていた実態が初めて判明したことで、今後の制裁にも影響を与えそうだ。
総連首脳に出頭要請
警視庁公安部などの捜査本部は25日、2児の拉致事件で、ユニ社の内情を知る立場にあった可能性があるとして、
事件当時も在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)幹部だった徐万述議長や
許宗万責任副議長、南昇祐副議長の3首脳に参考人聴取に応じるよう出頭要請。
総連傘下の団体や関連先など4カ所を、国外移送目的略取容疑などで強制捜査した。
拉致事件で総連首脳に説明を求めるのは初めて。
工作員の男は昭和47年から52年ごろまでユニ社に在籍。
「三十数人を北に無理やり送り出した」との男の証言が既に判明しているが、
男は、工作船ではなく、貨客船の万景峰号や通常の貨物船で北に移送したと詳細に証言していた。
それによると、拉致したのは、在日朝鮮人と結婚した日本人や、
両親のどちらかが日本人で日本国籍を取得した在日朝鮮人で、
東京都東部や千葉、埼玉両県の顔見知りだった。
「新潟と舞鶴(京都府)の港から乗せた」「車に袋詰めにして、荷物を装って船に運び込んだ」としている。
移送に使ったのは46〜54年まで運航した初代万景峰号などとみられ、
平成14年まで、積み荷検査も乗下船者もノーチェックだったという。
警察当局によると、ユニ社は、朝鮮労働党の工作機関「統一戦線部」の指示で、
当時の金炳植・総連第1副議長が昭和46年に設立。
万景峰号も同部の管理下にある。
男に拉致された被害者は、対韓国テロで「日本人の犯行」などと装うために集められたとみられる。
捜査本部が文書で出頭を求めた徐議長は当時の総連で組織指導統括の組織局局長、
許責任副議長は対外活動担当の国際局で部長職を務めていた。