低賃金環境を求め中国に大挙して進出した韓国の製造業者が、正式な会社清算手続きを経ずに、無断で撤収するケースが急増している。賃金が年15%以上のペースで上昇していることに加え、中国政府のさまざまな規制措置で経営環境が悪化し、累積赤字に耐え切れず、生産設備まで放棄する企業が相次いでいるためだ。
中国・山東省煙台市で先月12日、工業団地に進出していた韓国系繊維会社S社の韓国人役員10人余りが夜逃げ同様に姿をくらました。経営難から従業員3000人余りと生産設備を置き去りにした格好だ。同社は下請け会社に3000万元(約4億4700万円)の債務があり、従業員に対する賃金支払いが滞っているという。
韓国輸出入銀行が12日に発表した報告書によると、同省青島地区には2000年から昨年までに8344社の韓国企業が進出したが、うち2.5%に当たる206社が無断撤退したことが分かった。中国進出企業の無断撤退は00−02年には1件もなかったが、03年の21件以降年々増え続け、昨年には87件に達した。
無断撤退が多いのは低賃金で労働集約的な業種で、アクセサリー生産業者が63社で最多だった。このほか、縫製(33社)、皮革(28社)、かばん(14社)、靴(13件)などが続いた。
報告書は「従業員の賃金が年15%を超える上昇を示し、中国政府が環境汚染防止という名目で外資系企業の加工貿易禁止品目を拡大したことで、輸出ルートが断たれ、経営難にあえぐ企業が急増している」と分析した。
無断撤退
海外進出企業が撤退する場合、進出国の法律に従い会社清算手続きを進める必要がある。無断撤退はこうした手続きを踏まずに操業を中止すること。
中国から撤退するには、五つの官庁から承認を受けなければならない。
過去に適用を受けた税制優遇分の税金を納付しなければならないなど厳しい条件には企業の不満が根強い。
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中国山東省即墨市にある韓国系皮革工場H社で責任者を務めるC部長は昨年12月末、帰宅直前に10人ほどの集団に取り囲まれ、そのまま事務室内に監禁された。
ドアは施錠され「抵抗すれば殺す」などと脅された。
工場の建物の所有主が送った暴力グループの犯行だった。C部長は3日間にわたり、「滞納している賃貸料を払え」と脅迫され続けた。
H社は2005年8月に中国へ進出し、工場の建物は5年間契約で賃借した。
しかし、昨年になって本社は、人件費上昇など採算性の悪化を理由に工場の撤収を決定した。
建物の所有主とは賃貸料に関して適当な水準で話をつけるよう指示があった。
しかし、所有主は賃貸料全額を要求し、交渉を拒否。暴力組織を動員する実力行使に出た。
C部長は携帯電話で家族に連絡し、半年分の賃貸料を支払い、やっと解放された。
暴力グループはC部長を解放する際、「おまえの家がどこにあり、子どもがどの学校に通っているか全て知っている。
韓国に逃げようなどと考えるな」などと家族の安全に対する脅迫まで口にした。
C部長が監禁されている間、家族は韓国領事館に連絡し、警察が出動したが事態解決の役には立たなかった。
警察官は会社の正門までやって来たが、所有主と短い会話を交わすとすぐに帰ってしまったという。
C部長は「生命の危険を感じる。中国に来たことを後悔している」と話した。
◆韓国人に対する暴行・監禁、1週間に4−5件
C部長のケースはほんの一例にすぎない。山東省では最近、中国人が韓国人を監禁、拉致、暴行する事件が急増している。
背景には韓国企業が夜逃げ同然で無断撤退するケースが増えていることがある。
在青島韓国総領事館のキム・チャンウォン領事(事件担当)は、「この地域では韓国人が取引先への代金未払いや債務問題などで暴行を受けたり、
拉致される事件が1週間に4−5件起きている。
取引先の社員が韓国企業の社長を拉致し、『帰国しない』との覚書と引き換えに解放されたケースもある」と説明した。
昨年12月、青島に近い平島地区の電子部品メーカーでは、社長が従業員と夕食を取り、食堂から出てきたところを自動車で拉致された。
警察が2時間後に救出したが、犯人はこの企業に対する債権があった。
青島・威海(中国山東省)=池海範(チ・ヘボム)記者
◆法律に頼らず暴力で解決
中国では時間がかかる法的手段ではなく、暴力で問題を解決しようとするケースが多い。
同省威海市では昨年、サムスン電子の下請け業者の社長が食堂のトイレで暴漢二人に襲われ、凶器で指を切断される重傷を負った。
事件発生後、サムスン電子は現地政府に強く抗議し、警察が捜査した結果、犯人は会社の構内食堂を契約運営していた飲食店の経営者だった。
会社側は料理の質が悪かったためこの業者を交代させたが、それが原因で恨みを買い、中国東北部の暴力組織が犯行に及んだ。
企業だけではなく、飲食店やサウナ、美容室など韓国系の個人経営者にまで暴力組織の手が伸びている。
青島市城陽区で食堂を経営する韓国人は「暴力組織のメンバーが毎月一定額を奪っていき、無銭飲食までしていく」と話した。
直接利害関係のない住民にも危害が及んでいることになる。
平島の食品(コチュジャン〈唐辛子味噌〉)メーカーで働く韓国人管理職(42)は工場への出入りに使用料を払えという現地住民らの脅迫に耐え切れず、
昨年末自ら命を絶った。
◆今年上期に最大の危機
今年は北京五輪が開かれる年だが、企業にとっては最悪の年だ。今年から労働者の権利を強化した労働契約法が施行されたほか、
国内企業と外資系企業の法人所得税率が25%に統一され、外資系企業の税負担が増えた。
また、外資系企業に対する土地使用税の徴収も重なった。
青島地区に進出した韓国企業は約5000社。このうち、誠実経営や構造調整で危機を乗り切った企業もあるが、
繊維、縫製、アクセサリー、皮革など労働集約型産業を中心に経営が行き詰まった企業は少なくない。
青島韓国人商工会のソン・ジョンハン事務局長は「中国での経営環境の変化に適応できず、閉鎖に追い込まれる企業が旧正月前に10%(500社)、
上期中に20%(1000社)に上るとの悲観的観測が有力だ。
この過程で韓国人に対する人権侵害や健全な企業にまで倒産が拡大することが懸念される」と話した。
青島市城陽区でアクセサリー生産を行う企業の社長は「このままでは経営危機の企業で中国人従業員が韓国人が旧正月に帰国するのを阻止したり、
家族を人質に取る事件が起きたりする可能性がある。
問題なく経営している企業にも無断撤退の疑いがかかり、注文キャンセルや原料の供給中断、従業員による設備売却などで倒産する可能性がある」と懸念した。
大韓貿易投資振興公社(KOTRA)青島貿易館のファン・ジェウォン副館長は「韓国企業の無断撤退や韓国人に対する拉致暴行行為に関し、
両国政府は対策を講じるべきだ」と指摘した。
中国で起こった韓国人暴行・拉致事件について、中国人だけが非難を受けるべきなのか。
現地の韓国人社会では「韓国企業にも問題が多い」と指摘した。
昨年両国を騒がせた山東省膠州市のS皮革会社夜逃げ事件がその典型的な事例だ。
S社の韓国人社員たちは本社の経営難から、故意に2億人民元(約29億円)の不良債権を中国銀行に残し、
また600人の現地社員への給料も滞納した、と大韓貿易投資振興公社(KOTRA)青島貿易館が明らかにした。
現地の韓国人会関係者は、「中国側に最大の被害を負わせたまま逃げ出したという事実が知られるようになり、
中国人の感情は非常に怒りに満ちている」と述べた。
今年初めに現地社員3000人を残したまま韓国人社員6人が一度に逃げ出した、山東省煙台のS社のケースも同様だ。
煙台の韓国人会関係者は、「経営が困難な状況にあるといいながら、高級住宅に住んで高級車にばかり乗っていた。
ある社員の妻はゴルフ場に住んでいるようなものだった」と指摘した。
青島市対外貿易経済合作局の孫恒勤副局長は、「自分が知っている青島のあるカバン工場の社長は、
数千万ウォン(1000万ウォン=約112万円)の最高級の本間製ゴルフクラブを持ち、
最高級乗用車に乗りながら、150万人民元(約2180万円)の借金を返さぬまま韓国に逃げ出した」と語った。
経営難を克服しようともせずゴルフと酒に溺れた末に、結局は周りのせいにばかりする企業経営者が少なくないということだ。
そのため「韓国企業はなぜ甘い汁ばかり吸って逃げてしまうのか」という非難が中国人の間で広まっている。
それでも債務問題は暴力ではなく合法的に解決すべきだろう。
中国人による暴行の背景には、一部韓国人の責任も少なくないというのが、現地の韓国人社会からの指摘だ。
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