台湾

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台湾島は太平洋西部に位置し、東海岸は太平洋に面している。
日本与那国島から約107kmの距離である。
西海岸は台湾海峡を隔てて中国大陸を臨み、その距離は約150kmである。
南はバシー海峡を隔てフィリピンまで約300km、北海岸は東シナ海に接している。
全島面積は35,915平方km、南北に長く東西が狭い形状となっている。
地勢は東高西低であり、地形は山地丘陵地盆地台地平野により構成されるが、
山地、丘陵地が全島面積の2/3を占めている山岳中心の地形である。

台湾島はユーラシアプレートフィリピン海プレートが交差する地点に位置し、地層の隆起活動により山脈が形成され、
南北に台湾島を縦断している中央山脈を中心に山脈が形成され、
その東西両端に比較的平緩な丘陵地、台地、そして河川の沖積により形成された平野が分布している。
平坦な地勢の大部分は西部地区に集中している。

地政学的には台湾はアジア島弧の中央に位置し、また台湾海峡が国際的に重要な航路であることより戦略的に重要な価値を有している。

3万6千平方キロメートル(九州よりやや小)

総人口

日本の国益と台湾

(財)DRC研究委員

古 澤  忠 彦

まえがき

 2004年7月、奇しくも、ほぼ同時期に西太平洋で中華人民共和国(以下、中国という)、台湾及び米国がそれぞれに大きな軍事演習を実施したことが報道された。中国は、福建省東山島において、台湾上陸作戦を想定した陸海空軍の統合演習を実施し、統合作戦の指揮通信及び部隊間の連携を訓練した。中華民国(以下、台湾という)は、「漢光20号」と銘打った上陸阻止、制空権確保、指揮通信の演習を実施し、高速道路で戦闘機が離発着する演習も実施された。米軍は、世界規模の演習の一環として、7個空母機動部隊が参加した「サマーパルス2004」演習を実施、7月下旬には、西太平洋に重点を移し、台湾有事における中国への牽制を狙いとした艦隊即応演習を実施した。世界の眼が、イラクに集中している時、東アジアにおいて、北朝鮮及び台湾問題が、重大な方向に向かって動いていることに注目し、特に、台湾問題は、日本の安全保障にも大きく影響する事柄であることを認識しなければならない。

1.中国の台湾統一攻勢

(1)中国の統一攻勢

1995年1月中国の江沢民国家主席は、台湾問題に関した提案を行った。その概要は@一つの中国の原則堅持、A台湾独立を目指した国際活動に反対、B中国人は中国人を攻撃しない。武力行使は、台湾同胞に対するものではなく、外国勢力による「台湾独立」陰謀に対するもの、C三通の実現、D台湾の指導者、政治家、財界人の中国訪問歓迎、E中国の問題解決に外国の手を借りる事はしない等である。「中国人は中国人を攻撃しない」は、独立して「台湾人」になれば別と解される。

1996年、李統輝総統は初の総統民主選挙を行うに当たって「台湾のアイデンテイテーの確立」を訴えた。これに対して、中国は、台湾海峡で軍事演習を行い、台湾を威嚇した。また、李統輝総統の「特殊な国と国の関係」論に対しても軍事演習で対応する中国に対する台湾人の世論は、却って中国に反発をし、一層の台湾アイデテイテーの醸成定着に繋がった。この流れは、陳水扁政権に成って政治的発言は穏やかであるが、政権内に本省人が増えるに従って独立指向の傾向を強くしている。また、返還後の香港の「一国二制度」の実体が、見えて来るに従い台湾の警戒心は一層深まったと言える。それだけに中国の焦りは大きく、早急に台湾統一を成し遂げないと、永久に統一の機会を逸する焦慮感が、頻繁に繰り返される軍事演習の恫喝と政権非難として表れている。陳水扁総統の二期目就任前後に、中国軍内には、江沢民中共党軍事委員会主席の「台海必有一戦(台湾海峡は一戦を避けられない)」の檄が飛び、引き締めと武力行使へのステップを進めている。

(2)中国の台湾武力侵攻の戦略

江沢民の中央軍事委員会主席継任は、香港、マカオに次いで台湾の中国統一を自己の手で行うことへの固執と焦りが伺える。中国の急速な経済発展を背景に軍事力の近代化は、中台の軍事バランスを着実に中国有利に向かわせている。

中国は、湾岸戦争、コソボ紛争、イラク戦争等の教訓から現代戦における近代化の遅れた軍隊の脆さとRMA軍隊のあり方を学び、兵力の大幅削減と併行して人民解放軍の近代化を急速に促進してきた。軍の近代化を背景に、政治、軍事、経済、技術、社会・マスコミ、文化等を総動員した戦略をもって台湾の統一を企図している。孫子の言う「戦わずして人の兵を屈する」の通り、台湾の戦意を武力威嚇によって予め挫き、中国の意に添わせる戦略を遂行しようとしている。そのためには「武力を何時でも投入し、戦争も辞さない」という決意を、内外に顕示しなければならない。同時に、台湾の独立への意志が強いと判断した場合には、何時でも武力侵攻をする準備を進めている。これは即ち、中国の台湾統一は、平和統一か武力統一かの、二者択一ではなく、「文攻武威」戦略であると考えられる。

南京軍区における短距離弾道ミサイルSRBMの配備、海峡における航空優勢獲得のための航空兵力の増強近代化、C4Iシステムを含む情報指揮通信の近代化とネットワーク化、民間輸送機関の動員による海上作戦輸送と上陸作戦能力の向上等は、度々の台湾対岸の地域、海域で実施される軍事演習からも、中国軍の統合作戦能力が、速戦即決の侮れない域に達していることを物語っている。

台湾に対する武力侵攻の最大最強の障害である米軍の介入を阻止するために、米空母機動部隊、米軍海外基地、米国本土を目標にした核弾道ミサイル、巡航ミサイル、原子力潜水艦、機雷及びサイバー戦能力の駆使と国際世論への広報心理戦、更に外交戦略によって、介入を躊躇させ、決断の遅延を狙いとしていると考えられる。

2.中国にとっての台湾の価値

(1)国際新秩序形成の要  

中国は、@中国中心の中華帝国の統一完成のため、A中国の安全保障の完成のため、B南シナ海、東シナ海の海洋資源専有と海洋進出の足がかりの確保のために、台湾の中国化が絶対に必要である。

1988年、ケ小平によって提唱されて「国際新秩序」は、中華帝国の再興を狙ったものであった。アヘン戦争以来の屈辱を「中国を中心とした世界」構築で晴らすために、対外政策の基本原則である相互内政不干渉、互恵平等を強調することで発展途上国等の国際世論に訴えて「国際新秩序」形成を目指している。これは中国に対する外国の干渉を排除しつつ、経済成長とそれを基盤にした軍事力増強近代化を図り、世界の大国としての地位を築く事である。1988年の中国海軍力を展開して南沙諸島の実効支配し、南シナ海の占有の事実に象徴されるように、「国際新秩序」形成が確実に成されている。「国際新秩序」を人民解放軍は、「国防発展戦略」で支えている。その中でも「戦略的境界」の概念の提起は、中国の安全保障戦略の根幹を成すものである。領土、領海、領空の範囲である「地理的境界」に対して、「戦略的境界」は国家の軍事力が実際的に支配している国益と関係する地理的範囲である。大陸国家中国にとって、常に自国の国益と安全を地理的境界の外に求めておかないと安心できない、いわば地理的境界の「安全」のために、戦略的境界の「安心」を確保しておかなければ気が済まない。

21世紀が開けると、中国は日本及び台湾周辺の太平洋海域で、海洋調査を活動を拡大してきた。これまでの千島列島・日本列島・琉球列島・台湾・フイリッピン群島の東海域に及ぶ第1列島線を越えて、千島列島・小笠原諸島・硫黄島・マリアナ諸島・ニューギニアの東海域の第2列島線内の西太平洋海域全域に、中国海軍の活動範囲が進出してきた。この中国の国際新秩序と安全保障の中心として要衝を占めるのが台湾である。

(2)中国の海洋進出の要

中国の海洋への進出には、経済的狙いと軍事的狙いがある。中華帝国を再興して、中国の安全保障体制の確立と海洋資源・海底資源の確保並びに台湾の統一の達成にある。同時に、米国、日本等の海洋国家による海洋の自由な活用に対して、戦略的干渉を行使できる立場を確立することである。

ア.南シナ海、東シナ海占有の要

中国の南シナ海、東シナ海の海洋進出は、海底資源・海洋資源の専有及び同海域の軍事的に支配して台湾統一を目的にしたものである。そのためのステップとして、同海域内に点在する無人島や領有が明確でないとされる島嶼を、占有して実効支配の実績を積み上げて、領土・領海及び排他的経済水域EEZの拡張を図ってきた。 中国の海洋進出、島嶼占有は、@領有宣言・A民間漁船等の進出・B民間人上陸・C施設建設・D軍事力警備・E軍事力常駐の段階を、関係国の反応を見ながら進めて行き、実効支配を定着させていく。

島嶼を占有し、海域を領有して軍事力をプレゼンスすることで実効支配の実績を作り上げていくことで、着実に南シナ海、東シナ海は「中国の海」に成りつつある。エネルギー問題で国内に課題を抱える中国にとって、石油、天然ガスの大量埋蔵の可能性があるとされる南シナ海、東シナ海の占有は、将来の中国の発展を約束するものであるだけに、周辺国との協調よりも自国専有が優先する。

南シナ海及び東シナ海の占有は、台湾の封鎖を容易にし、直接的な軍事力を行使しなくても「平和的」に台湾が降伏し、「平和的統一」が完成することを狙っているものと考えられる。同時に、台湾を統一し、中国の支配下に置くことで南シナ海及び東シナ海を占有し、台湾海峡、バシー海峡を中国の自由に管理することが出来る。

イ.西太平洋への進出の要

中国海軍が、第1列島線を超えて第2列島線、更には西太平洋まで進出してきた。日本周辺海域及び西太平洋に潜水艦を中心とする海空軍兵力を展開することで、米軍、特に米空母機動部隊の近接を妨害阻止し、戦略弾道ミサイル潜水艦による米本土攻撃を示唆することで、台湾武力統一に対する米軍の介入を牽制する狙いがある。最近、日本の沖ノ鳥島周辺のEEZ海域において不法な中国海軍の調査艦艇が海洋調査に従事している。潜水艦作戦に必要なデータ収集であることは容易に想像できる。沖の鳥島周辺の海域が、台湾と米海軍グアム基地の中間に位置することからも、中国の拘りが感知される。

特にバシー海峡、台湾東海域及び南西諸島海域での中国艦艇による海洋調査や電子情報の収集が、2000年以降頻度を増してきている。中国は、水上艦艇、潜水艦の外洋進出に際し、バシー海峡及び台湾・与那国島間、宮古島・沖縄間等の南西諸島海域を通狭しなければならない。台湾の帰趨は、中国の外洋における活躍を左右する。   

(3)シーレーン支配の要

米国を始め貿易立国の海洋国家は、海洋の自由な航行を保障することで国家の繁栄を享受している。「海洋の占有」と「海洋の自由」がせめぎ合うのが、東アジア海域である。

バシー海峡は、台湾最南端ガランピン岬とフイリッピン最北端アランに挟まれた海峡で、台湾海峡と並んで北東アジアと東南アジア、インド洋を結ぶシーレーンのチョークポイントである。日本のみならず、台湾、韓国、米国等各国向けの船舶の行き交う常用海域である。太平洋戦争においては「魔の海峡」と言われて、米海軍潜水艦の餌食になった日本船舶は数知れない。石油の95%以上を中東に依存し、資源輸入の99%以上を海上輸送頼っている日本は、その船舶の殆どが、マラッカ海峡またはスンダ海峡を経由してバシー海峡を通過して、台湾海峡もしくは台湾東海域から琉球列島線沿いの航路を生命線としている。日本、台湾、韓国、フイリッピン及び米国、カナダ等関係するあらゆる国にとって、南シナ海、バシー海峡、台湾海峡、東シナ海の海洋の自由は重大であり、中国にとっては、これら海域のシーレーンに依存しながらも海域のコントロールに主導権をとる意義を重視していることが予想される。

3.日本の国益と台湾の戦略的価値

台湾の現状維持は、中国統一後の台湾に比較して、日本に計り知れない国益をもたらしている。 また、台湾の行方は、東アジアの情勢にも極めて大きな影響を与えるであろう。台湾にとっても、自国の帰趨は、台湾人のアイデンテイー、台湾人の主権、台湾の民主主義の維持・定着の可能性にかかっている。日本も台湾も海洋国家である。海外との自由な貿易、それを支えるシーレーンの安定的な安全確保によって立国している。

(1)台湾の戦略的価値

台湾は、殆どの世界の国家と正式な外交関係がないにもかかわらず、異質の共産主義国家中国に隣接して自由と民主主義を維持し続け、地域の力の均衡と安定に寄与している意味で、重要な位置づけを保っている。現状が安定しているだけに、台湾の価値が認識されにくく、中国の経済的発展にのみ注目と関心が集中している。現体制の中国に統一された場合を考慮し、台湾の戦略的価値を考察する。

ア.東アジア海域の航海の自由と「中国の海」の占有阻止

南シナ海、東シナ海が中国に占有された場合は、同時に台湾が封鎖されたも同然であるが、反対に、台湾が封鎖に屈することによって統一されて、南シナ海、東シナ海は確実に中国の海になることは明確である。中国の大陸国家的性格は、地域海域の独占専有を本質としており、自国の主権、権益の及ぶ範囲をより広く、より確実に明確にすることを求めている。これは両海域の資源の専有のみならず、海洋の自由に依存する海洋国家の活動に著しく制約を科すことになり、両海域の周辺国の国益には重大な脅威になる。台湾が、南シナ海、東シナ海の中間に位置し、かつ、海洋立国としての価値観を共有することで、関係する各国の東アジアにおける政治活動、経済活動、文化活動の自由が確保されている。

イ.中国のシーパワーの牽制

台湾の存在は、中国軍の海洋覇権の行使を牽制している。台湾の統一は、軍事力、特に海軍及び空軍の展開を容易にし、台湾における海空軍の基地の拡充による対日対米前線基地化で東アジアの緊張は一層高まる可能性がある。当然、バシー海峡、台湾海峡及び台湾東海域の交通は大きな制約を受けて、日本のシーレーンは脅威にさらされることになろう。

中国の急速に肥大化し近代化する海空軍力は、米国の海空軍力への対抗を意図したものであり、周辺国にとっては明らかに大きな脅威になる。中国のシーパワーの進出を牽制し、抑止するに効果的な海域を占める台湾の軍事的価値は大きい。

ウ.アジア連携の鎖の位置

海洋国家として、民主主義国家として価値観を共有した諸国の連鎖が台湾の部分で断ち切られることで、日本とアジアの関係は急速に希薄になり日本の孤立化が進むことになろう。経済的、文化的に密接な関係にある日本とアジアの関係が、中国の制約と影響下におかれ、緊密な関係醸成を大きく阻害することになろう。台湾は、日本とアジアを結ぶ鎖の役割を果たしている。台湾は、政治的には孤立化しているが、経済的、文化的な面では、日本はじめアジア各国との密接な関係を促進発展させている。

エ.アジアの民主主義発展の象徴 

中国統一による一国二制度下の台湾の主権は、大きく制約されるとともに、現在の香港の例に見られるように中国共産党監視下の形式的な民主主義制度となり、自由民主主義の真の味を知る多くの国民の難民化を生むことになろう。それは日本の他、アジア諸国にも少なからず影響し、アジアの不安定化に繋がる可能性を含んでいる。アジアの民主主義発展を目指している国々の象徴的存在として台湾の行く末が注目されている。

(2)日本の国益と台湾

日本にとっての望ましい台湾との関係は、当面は、現状の緊張関係の下で台湾が民主主義の価値観を日本と共有することで徐々に実質的に日台関係を緊密化していくことである。日中関係は、重要な関係であることは変わりがないが、日本の立国条件、安全保障から見れば、日台関係も劣らず重要な関係であることは先の検討からも明らかである。日本の国益と戦略的関心から見た台湾の重要性をまとめる。

  ア 自由民主主義の堅持と価値観の共有

  イ 海洋国家として海洋の自由の確保 シーレーンの安全

  ウ 東シナ海海洋・海底資源の確保  領域警備の確立

  エ 東南アジア諸国との連携維持

日本の国益と安全保障は、南西諸島・沖縄、台湾、フイリッピン、東南アジア各国、南西アジア各国の安全と連携に依存し、その周辺海域の自由な活用を保障することから成り立っている。そして台湾の安全保障も、日本の安全と同様に南シナ海、東シナ海の安定的な安全に依存している。このためには、沖縄を中心とする南西諸島の戦略的価値が大きく、軍事的役割が重視される。

日台関係は、安全保障面では地理的に密接な影響関係を持っている。緊密な日米関係を通じての間接的な安全保障関係を維持していかなけれ間柄にある。台湾海峡問題は、もはや台中間の問題に止まらず、日本を始め周辺国の問題でもある。日米が中心となりアジア各国が、中国の動静を監視し、牽制して、台湾侵攻の阻止の国際世論を形成していく必要がある。

しかしながら、我が国の安全保障は、台湾の現状維持と安定した情勢に依存することだけでは済まされない。我が国が、日米同盟を堅持しながらも独自の国防戦略を確立し、当面の脅威に成りつつある中国に対して如何に毅然とした外交・軍事戦略を行使できるかに、東アジアの平和と安定が掛かっている。その中に、台湾の安全保障も組み込まれる。

中国は、軍事力をもって戦う準備を整えつつ政治、経済、社会、文化面の総合的戦力で攻勢を台湾および周辺国に及ぼしながら、台湾の戦意を挫き、自ら中国の傘下に入ることを狙いとしている。孫子に言う「戦わずして勝つ」ために、いっそうの軍事力近代化と威嚇を続けることになろう。台湾が自ら求めていかない限り、中国には、我々民主主義国家で言う「平和統一」の選択は無い。何れの手段も強大な軍事力を準備し、直接間接に武力を行使する統一であることには変わりはない。

台湾の安全保障は、台湾のみの安全ではなく、日本の安全保障でもある。台湾が、どのような手段であれ、共産体制の中国に統一されることは、日本の国益に沿うものではない。沖縄は、そのような台湾海峡の情勢に機敏に対応できる地理的位置と機能を有している。

むすび

  現実の日本の政治情勢は、台湾の安全保障に直接的にコミットメントする手段は、殆ど無い。しかし、日本が、国益保護と主権の行使に毅然たる国家戦略を持ち、均衡のとれた適正な機能と兵力量をもって日本及び周辺海域の領域を防衛することが、米国との同盟関係をより強固にし、コミットメントを確実なものにすると同時に、中国の軍事行動を牽制・抑止する。そのことが間接的には、中国の台湾統一への軍事的威嚇や武力行使の牽制抑止に繋がると考える。日本の国益のためには、日中友好は目的ではなく手段である。同時に台湾の安全保障も、我が国の国益に直結している。





台湾高速鉄道桃園駅

日台関係

(1)1972年の日中国交正常化に伴い、日台関係は日中共同声明に従い非政府間の実務関係として維持されている。

(2)2006年の日台貿易総額は約644億ドル(台湾への輸出:約441億ドル、台湾からの輸入:約203億ドル)となり(JETRO)、日本の貿易相手先として台湾は、米国、中国、韓国に次いで第4位。

(3)2006年の日台間の人的往来については、日本からの訪台者数は約116万人、台湾からの訪日者数は約135万人となった。なお、2005年8月、台湾住民への査証免除を可能とする議員立法が成立し、査証免除となっている。

(4)台北-高雄間(334キロメートル)を結ぶ台湾高速鉄道計画について、事業主体の「台湾高鉄」と日本企業からなる「日本連合」は2000年12月、新幹線システム導入のための契約を締結、2007年3月に全線開通した。

(5)中台関係についての日本の立場は、台湾を巡る問題が当事者間の直接の話し合いにより平和的に解決されることを強く希望するというもの。日本政府は中国の反国家分裂法制定に関し、武力行使には一貫して反対しており、平和的解決以外のいかなる解決方法にも反対である旨の外務報道官談話を発出した。また、台湾側の「国家統一委員会の運用停止、国家統一綱領の適用停止」の表明について、我が国は、当事者間の直接の対話により平和的に解決されることを強く希望すること、いずれかの側によるいかなる一方的な現状変更の試みも支持できないこと、台湾側が「現状を変更する意思はない」と表明したことに留意することを内容とする外務報道官談話を発表。



シーレーン防衛の要に位置する台湾


台湾の軍事力など

 台湾では、00(同12)年1月に「国防法」が制定され、02(同14)年3月に施行された。同法では、軍政・軍令の一元化、すなわち、総統と文民である国防部長による統帥や軍の政治的中立などを明確にした。
 台湾は、防衛政策として、民間の能力も防衛に活用した総合的な防衛力の増強を行うことで台湾の平和と安定を維持するとの「全民防衛」をとっている50。また、台湾人民や財産への被害を局限化するために、台湾領域での戦争、紛争を防止することを原則とした「有効抑止、防衛固守」戦略をとっている。
 台湾は97(同9)年から02(同14)年にかけて「精実案」と称する防衛力の見直しを行った。その主な内容は、総兵力を45万人から40万人まで削減し、陸軍については、従来の師団編成から、火力と機動力を強化した諸兵種旅団に変更し、海軍も新鋭艦の導入に伴い艦隊編成を変更することなどである。また、湯曜明国防部長(当時)は02(同14)年2月、「精進案」と称する新たな見直しを行うことを表明した。同案によれば、11(同23)年までに総兵力を30万人に削減することとされている51
 台湾軍の勢力は、現在、陸上戦力が12個師団と陸戦隊2個旅団合わせて約21.5万人、海上戦力が約340隻約20万7,000トン、航空戦力が空軍、海軍を合わせて作戦機約530機である。
 現在、台湾は、陸軍を中心とした兵員の削減とともに、装備の近代化に努めている52。米国は、01(同13)年、台湾関係法に基づき、キッド級駆逐艦4隻、ディーゼル型潜水艦8隻、哨戒機(P-3C)12機などを含む売却可能な武器のリストを台湾に提示し、昨年、キッド級駆逐艦4隻の売却交渉が合意に達した。また、本年3月に米国防省は早期警戒レーダー装置を台湾に売却する計画を米議会に通告したと発表したほか、ペトリオット・ミサイルシステムの最新型であるPAC-3の導入についても検討が進められている。
 こうした装備の近代化にもかかわらず、台湾は、大幅な近代化を進める人民解放軍の脅威は、単純な数量的優勢にとどまらず、質的な競争へと変化しつつあると評価している。
 また、02(同14)年2月の米中首脳会談でブッシュ大統領が台湾関係法を堅持するとの発言を行い、同年3月には台湾の湯曜明国防部長(当時)が訪米53したほか、国防部副部長がワシントンを訪問するなどの動き54がみられる。
 なお、中台の軍事力については単なる量的比較だけではなく、様々な要素から判断されるべきであるが、一般的特徴としては、次のように考えられる。
1) 陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているが、台湾本島への着上陸侵攻能力は限定的である。
2) 海・空軍力については、中国が量的には圧倒しているが、質では台湾が優位である。
3) ミサイル攻撃力については、中国は台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルを保有している。
 いずれにせよ、軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、運用態勢、要員の練度、後方支援体制など様々な要素から判断されるべきものであり、このような観点から、今後の中台の軍事力の近代化や米国による台湾への武器売却などの動向に注目していく必要がある。特に、中国の軍事力の近代化は急速に進んでおり、近い将来にも中台の軍事バランスにおける台湾の質的優位に大きな変化を生じさせる可能性もある。

中国の戦略的な意図を知るべし



≪前原発言に足りないもの≫
 前原誠司民主党代表の米国と中国における発言が「中国脅威論」として問題になった。
前原氏の発言をここで詳論することは避けるが、近年の中国の軍事力増強とそれを可能にしている軍事支出の増加の現実を指摘した。
具体的には近年急速に現実となってきている東アジア周辺海域における中国の海洋活動、
とくに南シナ海のシーレーンへの影響に関心を向け、米国で「現実的脅威」、中国で「日本国民は脅威と感じている」と率直に述べた。

 前原氏が持論とはいえ、民主党代表として、わが国にとって最も重要な「友好国家である」米国と中国で発言したことに敬意を表したい。
だが、発言ではシーレーンのカナメの位置にある台湾の重要性について、何も言及されていないことに歯がゆさを覚える。

 中国の軍事力構築の目的は戦略的には米国だが、戦術的には台湾にある。
中国は建国以来、米国に届く水爆弾頭搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)の保有を最大の国家目標に掲げ
、国家の総力をあげてその開発に集中してきた。核兵器を頂点とする米国の世界支配体制に挑戦することが目的である。

 そして近年成功した有人宇宙船打ち上げによって、中国の目的はようやく達成されようとしている。

≪避けがたい軍事統一行動≫

 中国はそれほど遠くない将来、北京オリンピックと上海万博が終わった二〇一〇年代になると、台湾の軍事統一を断行する可能性が大きい。
その場合、米国が台湾を軍事支援するならば、中国はワシントンやニューヨーク、あるいはロサンゼルスを核攻撃すると威嚇して、
米国の台湾軍事支援を断念させるだろう。

 あるいは横須賀の米海軍基地から空母が出航したり、沖縄の米軍基地から攻撃機が出撃すれば、
東京を核攻撃すると威嚇して、わが政府に手を引かせるであろう。
そうなると間違いなく、わが国はパニックになる。

 昨年、中国軍の最高教育機関である国防大学の幹部が、米国が台湾に軍事介入するならば、
中国は米国に数百発の核兵器で攻撃すると発言した。
この発言に対して、中国軍の跳ね上がりの軍人の発言との見方があったようだが、見当違いもはなはだしい。
彼の発言は少なくとも中共政権の総意である。

 中国は建国以来五十年間営々として米国に届く核兵器を開発してきたのだ。
何のための米国に届く核兵器開発なのか。繰り返すが、米国を台湾から手を引かせるためである。
それは五八年の金門砲撃以来の悲願である。
それがようやく完成したのに、使わないとどうしていえるのか。
使うために、攻撃すると威嚇して手を引かせるために作ってきたのだ。

≪目を向ける方向違う日本≫

 ではそこまでして台湾を軍事統一する目的は何か。それは東アジアに占める台湾の戦略的地政的位置にある。
地図を見れば分かるように、台湾は東アジアの中枢を占める位置にある。

 台湾を支配するものは、南シナ海とその周辺の東南アジア諸国に影響力を行使することができる。
南シナ海はバシー海峡で太平洋、マラッカ海峡でインド洋に繋がっており、中東と東アジア諸国を結ぶシーレーンが通っている。
このシーレーンは米海軍により守られてきたが、台湾が中国に統一されると、中国はシーレーンを「人質」にとることができるようになる。

 さらに台湾は太平洋に面しているから、台湾を支配下に治めた中国は、これまでのように沖縄本島と宮古島の間の海域、台湾とフィリピンの間のバシー海峡を通ることなく、太平洋に直接出ることができる。
二十世紀末までに中国の周辺海域での海洋活動は基本的に終わり、中国の関心は西太平洋あるいはインド洋に広がってきている。

 日本、台湾、フィリピン、カリマンタン島(ボルネオ)にいたる第一列島線が中国の強い影響下に入れば、朝鮮半島はおのずから中国の影響下に入る。

 こうした中国の海洋活動をみれば、中国の関心がどこにあるか分かるだろう。
わが国では朝鮮半島や北朝鮮の動向に過敏に反応するが、肝心の台湾にはほとんど無関心である。
前原氏の今回の発言も残念ながら台湾について何も触れていない。
シーレーン防衛で一番重要な位置にあるのが台湾である。

 台湾を抜きにしてシーレーンはもとより東アジアの安全を語っても意味がない。
わが国の政府もマスコミも国民も台湾にもっと関心を持つ必要がある。(

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 「中国が台湾に侵攻する」という仮定が一人歩きしている。これはあらゆる報道機関が中国側の恫喝を誇大に論じ、報道してきたことに一因がある。しかしながら台湾の現政権、ならびに関係者は「新憲法制定」と「台湾独立」に向けて進んでいる。

 中国は「ウソも100回言えば本当になる」という言語手段で世界を翻弄してきた。それを現実化するため「台湾を武力侵攻する」と威嚇し、理屈の通らない主張を繰り広げてきたものだ。昔から“負け犬は吠える”という言葉がある。中国人の国民性は根拠のないことをあるかのように大声で喚き続けるものである。

 このことについて、台湾の李登輝前総統は「中国の台湾圧力は口先だけなんですよ。過去3回の台湾総選挙は1996年と2000年、そして2004年に行われましたが、1996年の時、中国は『台湾を武力攻撃する』と明言した。しかし中国は一度も実行せず、台湾は主権独立国となった」と話されたことがある。“負け犬は吠える”ではなく “負け犬は人を噛まない”に訂正したいと思う。

胡錦濤体制の維持は経済次第

 中国は世界の経済大国だと騒がれている。今後中国が現政治体制で存続していくためには、他国とのさらなる深い関わりが不可欠である。中国は70%以上の資本や技術を他国に依存し、「投資、合弁、合作」など、他国からの協力によって経済が成り立ってきた。このような現実を無視して「世界経済の下請け工場」が戦争をすることなど考えられようか。

 一方、中国国内では失業、貧困、環境、食糧、エネルギーなどの深刻な不安と矛盾が高まっている。国内事情と経済発展を交差させながら、中国は経済膨張主義を止めることはできない。

 中国国内の富裕層と貧困層の格差はますます拡大するばかりである。その反動として年間1000万人以上の貧困層が暴動に参加している。さらに1%の富裕層が50%以上の国民の富を保有しているのである。

 中国は軍も国民も経済に目を奪われ、国を挙げて金儲けだけに走っている。中国の経済発展が止まれば中国共産党もなくなるのである。それゆえ、中国政府にとって一番恐いのはバブル経済が崩壊することである。そうなれば国民感情はナショナリズムや台湾問題、靖国参拝問題どころではなくなり、全ての不満は一気に中国政府に向けられる。

第二期ブッシュ政権は台湾を守る

 ここにきて米国を取り巻く環境は変わりつつある。まず「イラク」の問題が終わりを迎えつつあるからだ。これまで米国は、冷戦・湾岸戦争・アフガニスタン、そしてイラクを含めて連戦連勝のひとり勝ちを演じてきた。
 米国はこのような状況変化に伴い、自国の強力な軍事力を背景に「台湾海峡問題」に本格的に取り組むことを考えている。中国の軍事力は2010年を境に台湾より優位に立つと見られてきた。しかし第二期ブッシュ政権は「台湾関係法」にもとづき、台湾を守り、中国の武力行使を許さないという姿勢がより鮮明になっている。

 台湾の軍事的強化対策について、陳水扁総統に対し、米国防総省はあらゆる角度から助言を行っている。それに対して台湾政府は、6108億元(約1兆8000億円)を特別予算として立法院に提出した。

 内訳はパトリオット3型ミサイル、ディーゼル潜水艦8隻、P3C哨戒機12機ほかである。台湾陳政権は野党の反対で購入できるか否かの課題が残るが、決まらなければ長期化する。

 台湾が米台共同の軍事体制を築き、また独自の軍事力増強を行えば、中国の北京・上海の沿海地域ならびに中国各地の重要拠点を標的に打撃を加えることができる。さらに中国の攻撃発射地点・軍事基地への探知を瞬間的に終了させ、台湾が中国の拠点を殲滅する軍事行動も可能となる。中国の覇権主義パワーはパワーでしか制御できないのだ。

 本連載では何度となく「中国が台湾に侵攻するのは不可能な状況が作られつつある」と指摘してきた。

 私は、2008年に台湾の「新憲法制定」が実行されねばならないと考えている。その背景として@アメリカの戦略・標的が中国に向けられるA今後台湾は巨大な軍事力で中国に対応するB中国が経済大国となり、逆に軍事行動ができなくなるC台湾国民の独立への意識がどうかD陳政権の任期中・李登輝前総統の存命中、などが挙げられる。

台湾ビジネスが独立にブレーキ

 しかしながら台湾にも深刻な国内事情がある。100万人近い台湾人ビジネスマンが中国本土で働いており、現状維持派が圧倒的に多いということだ。次の選挙で、中国系の総統候補に票が流れる可能性がある。

 世界がグローバルスタンダード化する中で、中国が生産拠点の中心的役割を果たすようになった。つまり「人、モノ、金、情報」が国境を越えて一人歩きしている。中国の影響で世界経済は「原料高、製品安」の構造となり、また中国の消費増大で需要過剰状態となっている。台湾企業にとっても、低賃金で質の高い労働力を持つ中国は実に魅力的だ。

 その安い労働力に加え、さらに中国人口13億人という魅力的な巨大市場が待ち受けている。中国本土に展開する台湾人の大方が「台中戦争」などまっぴら御免だと考えるのは当たり前のことだ。

東アジアの軍事動向と日本の役割

 総合的に見て、中国は経済発展と共に軍事拡大化を進めてきた。とくに台湾海峡をめぐる軍事的な脅威には近年著しいものがある。

 ブッシュ政権は近い将来米国と中国の利益が対立すると考え、軍事的には「先制攻撃」の戦略理念に基づく防衛能力と情報収集能力の向上が検討されている。

 一方、台湾は中国が軍事拡張を続ける限り、台湾存続のために自国を防衛するのに必要な防衛体制、テロ対策など相応の役割と責任を果たさなければならない。

 米国は戦略的な中心を欧州から東アジアに移し、軍事政策も大幅な見直しがなされている。それには世界第二位の軍事力と経済力を持つ日本との同盟関係をさらに強化する必要がある。

 米国は日本の「憲法改正」と「軍事力の増強」に期待している。それが米国にとって最大の防御力となり、また軍事的負担を軽減する方法である。今後ブッシュ・小泉の合意次第で、日本が東アジアの台風の目となるかも知れない。

台湾に対する米国の見方考え方

なぜブッシュ再選だったのか

 11月2日に行われた米国大統領選は、接戦の末ブッシュ氏が再選された。ブッシュ氏の再選は世界的に見てあまり歓迎されるものではなかったようだ。

 しかしながら日本と台湾の政府、軍関係者、経済界など、本音ではほっとした人が多いのではないかと思う。日台両国にとって強い米国、強い大統領は不可欠の条件だからである。

 この選挙戦を振り返ってみると、当初「NYタイムス」「ワシントンポスト」と日本の一部マスメディアはケリー候補が優勢とし、ブッシュ氏は敗北するがごとき記事が目立った。しかし実際は、米国のローカル新聞、テレビ、特にラジオなどによるブッシュ候補のテロ撲滅と対テロ戦争を正当化するキャンペーンは効果的で、根強く票に結びついていたようだ。

 今後は過去4年間に培った全世界への安全保障体制と戦略がより一層強く打ち出されることになろう。特に中国の台湾侵攻に備えて米国の対中軍事戦略は急ピッチで進められていくだろう。

中国側の意向を代弁する米国の要人

 これまでの米国の台湾問題に対する姿勢を振り返ってみると、中国側の意向に沿った発言や考え方が多く、台湾問題の本質を見誤ってきたように思われる。

 特にカーター政権下のブレジンスキー元大統領補佐官は「世界全体から見れば小さな台湾は重要でなく、放っておけばよい」などと暴言を吐いている。また「上海コミュニケ」は「ニクソン元大統領が中国訪問後に『台湾海峡の両岸にいる中国人たちが“中国は一つの中国である”と主張しあっている』と述べた」とするなど、まるで他人事のようだった。

 さらにクリントン元大統領は「3つのノー」という見解を示した。1は「台湾を独立させない」、2は「一つの中国、一つの台湾という考えを持たない」、3は「国際機関に台湾を加盟させない」というものであった。

 さらにブッシュ政権下のパウエル国務長官は北京で「台湾は国家としての主権を享受しない」「(台湾と中国)双方が平和的統一に向け、道を探るべき」と表明した。このように一部米国要人による発言はあくまでも中国側を利するもので、さらに中国の主張を正当化させることに他ならない。

米国は台湾を守る立場にある

 台湾は日米の影響によって自由と民主化、人権という価値観を共有している。さらに同じ「組織とシステム」によって政治やビジネスを行い、近代海洋国家として成長してきた同盟関係である。

 台湾は自由主義国家であり、中国は共産主義国家であることを忘れてはなるまい。台湾は米国にとって同志であり、西側陣営を守る巨大な砦に他ならない。さらに台湾は米国との間に1979年「台湾関係法」を有している。台湾という小さな島を米国が守るという約束事である。

 中国軍の武力による台湾侵攻には米軍が介入するという国際公約がある。米国は台湾に対して軍事的、道義的な責任を持っている。選挙前の本年9月、「安保・防衛懇談会」の報告によると、ブッシュ政権は非公開の部分で「中国は脅威」と定義している。

台湾海峡は西側陣営の命綱

 もし米軍が台湾を守らずに放棄したならば、同時に「日米安保体制」は崩壊し、東アジア内における西側陣営諸国は米国への不信感を増大させることになろう。

 事実上アメリカの影響力は衰退し、変わって中国の台頭による東アジア支配体制が形成されることになる。ブレジンスキー氏は「小さな台湾」と無視したが、日本列島、台湾海峡に連なるフィリッピン、インドネシアなど太平洋の国々との関係において、重要な西側陣営の拠点となっている。

 これは中国軍にとっては大きな障害だ。台湾は中国にとって瓶のふたみたいなものだ。日本にとっては東シナ海、南シナ海の輸送ルート、石油資源、漁業資源、軍事拠点などどれをとっても重要な戦略的位置を占めている。ブレジンスキー博士やパウエル国務長官などの中台発言は米国の一部の意見を代表するものであろう。

 しかしながらブッシュ政権は「台湾独立に反対である」と表明しながら、本音では中国の台湾侵略を想定した戦闘態勢を着々と整えている。

中国は台湾を狙う侵略国家

 かつて中国は執拗に台湾へのミサイル発射演習をしただけでなく、大掛かりな軍事演習の様子を世界のテレビに流して台湾を恫喝した。マスメディアを通して非難し「いつでも軍事行動はありえる」などと威嚇してきた。このように中国はあらゆる手段と恫喝をもっていかに台湾を取得するかと考えてきた。

 米国CIAの調査報告によると、中国政府は2020年以内を目標に台湾侵略を計画しているという。弊誌による情報収集ならびに中国情報を分析した見解は、「近い将来に米中軍事衝突の時が来る可能性が高いという見方は否定できない」というものだ。

 最近、米軍がグアム島を中心に米中対立を想定して着々と再編成を進めているというのも一つの根拠である。米国CIAのホームページによると、台湾から300q離れた「塩路島」という小島に米国の海兵隊と日本の自衛隊が入陸した。ここにはジェット旅客機用の3000m滑走路がある。

 ここが日米の軍事協力による台湾防衛の拠点となる。ブッシュ政権の再選によって、今後の台湾を取り巻く国際情勢は大きく変わろうとしている。

アメリカは台湾を守る

ブッシュ再選でタカ派台頭

 最近、米国政府が派遣する6者協議の代表団には国防総省の意向を色濃く反映する国務省高官が登用されている。とくにブッシュ大統領の再選により、対北朝鮮政策について米政府内でも強硬派が主導権を握りつつあるようだ。

 なぜなら米代表団を率いるケリー国務次官補(東アジア・太平洋担当)、統合参謀本部のノース准将、最近急浮上してきたタカ派の実力者、国防総省のローレス次官補代理(アジア・太平洋担当)が新たなメンバーに加わったからである。

 リチャード・P・ローレス次官補代理は、20年前からブッシュファミリーとは家族同然の間柄にあり、ブッシュ大統領の信頼が厚い人物である。かつて、彼はアジア・ヨーロッパに20年間(韓国に5年間)滞在し、その間日本の在京米国大使館にて3年間勤務していた。

東アジア政策に影響力を持つ人物

 ローレス次官補代理は日本語、とくに韓国語が堪能で、日本国内に多くの友人知人がおり、日本通である。この夏、日米地位協定下の米兵容疑者の司法手続きをめぐる日米協議において、日本政府関係者の間では「考え方が厳しく譲歩を見せず、強硬姿勢で押し切ろうとする人物だ」との評判だ。

 現在ローレス氏は次官補代理であるが、彼の部下にあたる部長級が東アジア・太平洋担当として第一線の現場で活躍している。ローレス次官補代理はブッシュ大統領はもちろん、ラムズフェルド国防長官と直接電話で話せる人物であり、日台両国にとっては重要な存在である。

ローレス次官補代理との交流

 私はこのローレス氏と1990年、友人の太田氏を通じて面識を得た。とくに彼が在京米国大使館の科学補佐官として勤務していた頃には何回か会合、会食を重ねた間柄だった。それゆえ、彼の性格や考え方は熟知しているつもりである。

 1990年6月20日、「キャピタル東急ホテル」にてジェブ・ブッシュ氏、現フロリダ州知事を囲む弊会主催の懇親パーティが行われた。これはローレス氏から依頼されたものだ。

 当日は250名近い参加者で賑わった。当時のジェブ・ブッシュ氏はブッシュ・クライン不動産有限会社の会長をしていた。ローレス氏から「ジェブは次期大統領候補であり、テキサス大学の優等生で人物も確かである」と聞かされていた。しかし結果は兄のジョージ・ブッシュ氏が大統領になった。

中国の軍事施設に照準

 ローレス国防総省次官補代理は、米政府内の防衛会議では穏健派のケリー国務次官補とたびたび意見の衝突があると聞いている。彼は今後の対中政策について危機感を持っている。

 現在米国防総省内では、中国政府が北京オリンピック後に台湾を攻撃、侵略するのではないかという意見もある。ブッシュ政権は中国の武力行使に断固として反対している。米国政府は台湾の独立宣言に反対しているが、一方ではミサイルや航空機、防衛網など新兵器を台湾に供給し、中国に勝手な軍事行動をとらせないよう牽制している。

 一方、台湾軍は中国軍の軍事攻撃があれば報復攻撃をすべきだと考えており、中国が現在工事を進行している「三峡ダム」を台湾戦闘機が爆撃することもある。さらに、中国が台湾に対して軍事行動を起こせば、世界最大の軍事力を持つ米軍が台湾の後ろ盾となる。

 米国は今後も台湾政府に対してあらゆる兵器を売却する準備を進めている。アメリカ型新兵器は、沿岸地域に配備されている中国のミサイル基地やあらゆる軍事基地を徹底的に壊滅させる能力を有している。いまや米軍の近代兵器はアフガニスタンやイラクで使った兵器よりさらに高性能で、破壊力のある兵器に変わっている。

米軍、中国包囲網を実戦配備

 11月10日、中国海軍の潜水艦が沖縄の先島諸島を北上しながら、日本の領海を侵犯した。これは台湾の総選挙を念頭においた威嚇活動だと見られている。

 中国海軍は2000年以降、旧ソ連製のミサイル攻撃用駆逐艦、潜水艦、新鋭攻撃機を大量に購入して台湾への攻撃体制を強化している。一方ブッシュ政権も第1期後半より中国の軍拡に対して、軍事的な対応策をとっている。

 東京新聞11日付朝刊によると「米軍はアジア・太平洋における再編を計画、第5空軍司令部を東京の横田基地からグアム島に移転させ、陸軍第一軍団指令部隊を米本土から神奈川のキャンプ座間に移し、中国包囲網をつくろうとしている」と報じた。さらにグアム島は中国向けの海軍重要拠点となり、中台紛争に備えて海軍力や航空機、ミサイルなどの軍事増強を急ピッチで進めている。

 このように、この2年ほどの間に米軍の東アジア実戦配備は着々と進められている。今後、ブッシュ大統領に直接提言できる強硬派ローレス次官補代理の登場によって、さらに強力な米軍による武力衝突を想定した戦闘態勢が描かれていくことになろう。 


中国(特亜3国)包囲網

(特亜3国)とは?

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ニュージランド



参考

尖閣諸島
南沙諸島
マラッカ海峡