ヘリ空母
ジャンヌ・ダルク(Porte-helicopteres Jeanne d'Arc (R97))は、
フランス海軍のヘリ空母。
起工・進水時の艦名は、ラ・レゾリューであったが、竣工時には退役する
練習巡洋艦ジャンヌ・ダルクからその名を引き継いだ。
ジャンヌ・ダルクはフランスの英雄の名前。
ヘリ空母ジャンヌ・ダルク
艦橋そばに駐機するシュペル・フルロン(1994年7月)
艦橋付近のクローズアップ(1999年7月)
平時は練習艦任務についており、外洋航海を行っている。
艦の後部がヘリ甲板となっており、中央部には艦上構造物がある。
搭載機はピューマやガゼルなど4〜6機であるが、最大8機搭載可能。
公式にはヘリ空母であるが、全通甲板は備えておらず搭載機も多くないことから、ヘリ巡洋艦に分類されることも多い。
戦時には、リンクスを搭載して対潜水艦戦に、あるいはフランス陸軍のヘリコプターと兵員を搭載してヘリコプターによる揚陸作戦に従事する。
新造時は艦尾に2基の100mm単装砲を装備していたが、2000年の改装により撤去されている。
イギリス海軍はV/STOL機運用能力を抑えヘリコプター運用能力を重視したLPHオーシャン(1998年、
満載排水量20,000t)を建造し、揚陸作戦能力を維持している。
イタリア海軍はV/STOL機運用能力の無いサン・ジョルジョ級強襲揚陸艦3隻(1987年、
満載排水量約8,000t、ヘリコプター3〜5機)を保有している。
2006年現在、フランスのミストラル級強襲揚陸艦、オーストラリアのキャンベラ級揚陸艦、
韓国の独島級揚陸艦など、この種の艦船は増加傾向にある。
1960年代に各国の海軍では、駆逐艦以上の戦闘艦艇にヘリコプターを搭載して対潜・対艦任務に用いることが始まっていたが、
その中で艦の後半分を広大な飛行甲板と格納庫に充当したヘリコプター巡洋艦・駆逐艦が建造されることとなった。
1964年にフランス海軍は、ヘリ空母ジャンヌ・ダルク(満載排水量12,000t、ヘリコプター8機)を建造しているが、
同艦の前半分は通常の巡洋艦スタイルであり、後年のヘリ空母・軽空母よりもヘリコプター巡洋艦に近いスタイルであった。
また同年イタリア海軍は、より小型のアンドレア・ドリア級ヘリコプター巡洋艦(満載排水量6,500t、ヘリコプター4機)を2隻建造している。
イギリス海軍もタイガー級巡洋艦(改装後、満載排水量12,800t、ヘリコプター4機)を改装し、
後部の砲を撤去してヘリコプターの格納庫を装備している。
この流れは一方では艦の拡大に繋がり、最大の艦であるソヴィエト海軍のモスクワ級ヘリコプター巡洋艦(1967年、
満載排水量14,000t、ヘリコプター14機)、イタリア海軍のヴィットリオ・ヴェネト(1969年、
満載排水量9,200t、ヘリコプター9機)に至るが、1980年に完成したイギリス海軍のインヴィンシブル級によって本格的なヘリ空母・軽空母へと移行した。
なお、これらの艦は公称がヘリ空母であるジャンヌ・ダルクを除き、通常ヘリ空母とは呼ばれない。
他方、コンパクト化への流れは、最小の艦であるカナダ海軍のイロクォイ級ミサイル駆逐艦(1972年、
満載排水量5,100t、ヘリコプター2機)、海上自衛隊のはるな型護衛艦(1973年、
基準排水量4,950t、推定満載排水量6,500t、ヘリコプター3機)を経て、しらね型護衛艦(1980年、
基準排水量5,200t、推定満載排水量6,800t、ヘリコプター3機)を最後に、
フリゲート以上の艦艇へのヘリコプター搭載の一般化に行き着くこととなる。
これらの艦は、ヘリコプター運用能力に注目されるものの、ヘリ空母と呼ばれることはない。
1998年に1番艦が竣工したおおすみ型輸送艦は、全通甲板をそなえた大型輸送艦(海外の分類では揚陸艦)である。
建造当初は、空母と形が似ていることからマスコミや一部世論で空母だと誤解され話題となった。
おおすみ型はヘリコプターの発着艦は可能であるが、ヘリ空母でもなければ軽空母でもない。[1][2]。
おおすみ型輸送艦という名称は、海上自衛隊としては、その初期に米海軍より貸与された初代おおすみ型に次ぐ2代目となる。
あつみ型輸送艦やみうら型輸送艦などこれまでの輸送艦は、
海上から陸上に物資を揚陸する際は直接砂浜に乗り上げるビーチングを使用していたが、
おおすみ型ではエアクッション艇1号型(LCACとも呼ばれるホバークラフト)を使用して陸上への輸送を行う方式になった。
LCACによる輸送にかわった理由としては、ビーチングの場合揚陸できる海岸は世界の海岸線の15%ほどしか無いのに対し、
ホバークラフトならば揚陸に使用できる海岸は世界の海岸線の70%程度と大幅に増えること。
ビーチングを行う場合、輸送船の船底の形状が制約されてしまい、
通常の航行速度を出すのに理想的な形状にすることができないことなどがあげられる。
おおすみ型は、艦橋等の構造物を右舷側に寄せ、全体を一枚の甲板で構成する全通甲板と呼ばれる形状をしている。
そのため、新造時には空母あるいは強襲揚陸艦導入かと話題になり、一般マスコミが軍事知識の無さを自ら露呈する格好になった。
実際には似ているのは形状だけでヘリコプターなどの航空機を整備する能力もなく、格納庫・エレベーターも車両用のものしかない。
また、甲板はハリアーなど垂直離着陸機のジェットエンジンが出す高熱の排気には耐えられない可能性が高いとされる。
実際に2005年のスマトラ沖地震の援助の際、3番艦くにさきが陸上自衛隊のヘリコプター5機を搭載し派遣されたが、
ヘリコプター運用にはかなり困難が伴った(例えば、ヘリコプターの整備能力がなかったため、
UH-60系ヘリの整備は護衛艦「くらま」内の整備施設で行い、陸自のCH-47ヘリは、点検以外の整備が出来なかった)。
能力的にはヘリコプター運用能力が低く、車両の運搬能力に長じた揚陸艦で、これは諸外国で言うドック型揚陸艦に近い。
また、1番艦「おおすみ」には、外洋航海やヘリ離発着には欠かせないフィンスタビライザー(横揺れ防止装置)が、
政治的判断から装備されなかった(2番艦以降には装備された)が、平成18年度防衛庁予算において、
国際緊急援助活動に対応するための大型輸送艦の改修費として予算化された。
また、同時に航空燃料の容量も増大される。
なお、就役当初にはなかったTACAN(戦術航法システム)が現在では搭載されており、
ヘリ運用において若干の改良は行われているようである。
スマトラ沖地震国際緊急援助隊派遣の後、2005年6月に「しもきた」の車両甲板上に
陸上自衛隊の「野外手術システム」を展開する技術試験を行った。
結果は上々であり、複数の「野外手術システム」の展開が可能とされ、
災害時には現地で医療機関の不足を代替する病院船としても活用されることとなった。
2006年度に、「野外手術システム」の電源を艦内から取るための艦内改装を順次行う予定。
なお、海上自衛隊では全通甲板のヘリコプター搭載護衛艦である13500トン型護衛艦(16DDH及び18DDH)の導入を計画しており、
これは本格的なヘリ空母となる見込みである。
おおすみ型の追加建造や改良・派生型(ヘリ整備の可能、重量増加型)が建造されるかは未だ未定。
13500トン型護衛艦
16DDH
日本の新型ヘリコプター搭載護衛艦で、実質的な戦後初のヘリ「空母」。
現在各護衛隊群の旗艦となっているヘリコプター搭載護衛艦DDHの内、「はるな」型の「はるな」は昭和48年、
「ひえい」は49年に竣工しFRAM(近代化改装・艦齢延長工事)も行われたが、既に艦齢は30年を過ぎており、
「はるな」は平成20年度に除籍が見込まれている。
その為代替艦として本級の建造が平成13年度からの中期防衛力整備計画に盛り込まれ、
16年度計画および17年度計画で2隻が建造されることとなっ ていた。
その後2番艦は18年度計画に盛り込まれたため、それぞれ計画年度から通称16DDH、18DDHと呼ばれている。
しかし日本の戦後初めてとなる、このヘリ「空母」建造までの道のりは極めて長いものだった。
戦後「空母」の再保有が最初に検討されたのは昭和27年、海上警備隊の発足した時
だった。
この空母保有の動きの元となったのはハンター・キラー(対潜掃討)構想である。
当時の海上警備隊や海自では将来原潜が潜水艦の主力となった時、低速の水上戦闘艦では対処不可能であるため、
対潜ヘリコプターで探知攻撃しようと考え、その為にヘリ空母などを保有しようとしたのである。
そして28年3月頃には実際に対潜空母や護衛空母を米海軍から貸与してもらうように米軍にも通達され了承が得られたが、
結局これは30年4月に断念される。
そして2次防前の32〜33年ごろ再度空母の保有を検討、対潜空母やヘリ空母、商船改造ヘリ空母などが提案され、
この内のヘリ18機を搭載するヘリ空母の建造が35年7月に庁議で決まったものの、
当時は日米安保問題による政局混乱などがありまたも実現しなかった。
3次防においてもヘリ空母の建造要求が出てきたものの、この頃になるとヘリコプター着艦拘束装置やフィン・スタビライザーなども登場し、
小型の水上戦闘艦でもヘリの安全運用が可能となった。
これが現在の「はるな」型 と「しらね」型の誕生を可能とし、結局このDDH4隻が整ったことにより空母保有の大きな動きは当分無くなる事となる。
再び空母保有の動きが出たのは冷戦末期のシーレーン防衛における洋上防空であった。
当時はシーレーン1,000浬防衛構想においてソ連のバックファイヤー爆撃機などの脅威が叫ばれていた。
折りしも82年のフォークランド紛争では軽空母が活躍しており、83年ごろ日本でも洋上防空のために20,000トンぐらいの軽空母を建造し、
それにハリアー戦闘機や対潜ヘリを搭載しようという案が出て、防衛力整備計画に盛り込むところまでいった。
しかし財政的、政治的事情や、ハリアーの性能が低いことAEW機が搭載できないこと等防空能力が低いことに加え、
軽空母保有による海自の自立を恐れた米海軍も反対したらしく、またしても実現には至らなかった。
こうして再び「空母」保有の動きは断たれる。
90年代に入ると「はるな」型後継艦が意識され始め、この後継艦を 「空母」にするための布石だったのか、
「おおすみ」型輸送艦が ドック型揚陸艦としての合理性に反し空母艦型を採用している。
そして平成12年12月15日に本級の建造を盛り込んだ中期防衛力整備計画が決定、ついに戦後初のヘリ空母が実現することとなった。
「13,500」トン型の開発設計においては「はるな」型を上回る高い航空機運用能力と、護衛隊群旗艦としての指揮管制能力だけではなく、
冷戦後の新しい任務に対応するための能力が求められた。
航空機運用能力については、既存のDDHは他の護衛艦に比べ秀でているものの
同時発着数やヘリ整備能力面で完全ではなく、
16DDHでは必要に応じ1個護衛隊群のヘリコプター8機を運用可能、全天候整備を可能とする広い格納庫、
2機同時発着艦が可能で、4機の同時運用が可能であることが求められた。
指揮管制能力については、護衛隊群旗艦として海上自衛隊の海上作戦 部隊全般にかかわるC4ISRシステムであるMOFシステムの
洋上端末であるC2Tの搭載だけでなく、冷戦後の新しい任務である
災害派遣、邦人救出、平和維持活動などにおける司令部的な機能を果たすための能力も求められている。
これらの要求性能を実現するために3つ艦型が検討されることとなった。
1つ目は従来のDDHを発展させたもので、
艦の前半分に艦砲とVLS、艦橋構造物があり、艦後半分が飛行甲板で、その下が格納庫となっている。
2つ目は艦の前後が飛行甲板で甲板下には格納庫があり、艦中央に艦橋構造物があるというもので、
艦橋構造物右舷側に煙突とマスト、左舷側に格納庫があり、最上部に両舷に跨る艦橋
、
そして格納庫の前後はシャッターになっていて前後の飛行甲板に通じていると言う、極めて常識はずれな艦型であった。
3つ目の案がいよいよ全通甲板の空母艦型である。
中期防衛力整備計画決定時はまだ艦型が決定しておらず、この3案の中から2つ目の案のイメージ図が発表されたが、
これがかなり議論を呼ぶこととなる。
しかし3つ目の案が最も航空機運用能力が優れており、この艦型が採用されることは明白であったため、
後からしてみればこの2つ目の案の発表は世論の動向を探るためか、空母との批判を避けるためとも言われる。
その後も専門家の論評やマニアの議論をよそに、艦型の選定や開発設計が行われ、
15年8月末に平成16年度概算要求と共に16DDHの新しいイメージ図と詳細が公表された。
艦型はヘリの同時発着艦数、着艦時における安全性などから空母艦型に決定した。
この時発表された「はるな」型からの基準排水量の増加理由は、情報・指揮通信能力の向上の為の
多目的エリアなどの設置等で約480トン増、ヘリコプター運用能力の向上の為の
格納/整備スペースの増設、昇降機2基の搭載などで約3,230トン増、装備武器の能力向上の為の
水上艦用ソナー、射撃指揮装置の装備等で約830トン増、機関、発電能力の向上為のエンジン、
発電機の重量増等で約1,120トン増、抗湛性、居住性の向上の為の機関区画の2重構造化、
2段ベッド化、レストランエリア追加などで約2,940トン増 で、合計8,600トンの増加である。
ちなみに計画当初では基準排水量20,000トン以上の大型化も検討されていたらしい。
そして言うまでもなく船体はステルス性を考慮した設計となっており、船体、アイランドは傾斜、
マストもステルス化するほかに、内火艇や魚雷発射管搭載部分 など船体の開口部もシャッターで覆われる。
空母艦型の採用により16DDHは一般的な軽空母の外見 へと変化し、上甲板は全長195m幅33mの全通甲板となり、
その全通甲板の右舷中部にはアイランド型の艦橋、艦の前後には2基の航空機用エレベーター
と弾薬・物資用小型エレベーター、甲板周りにはキャットウォークがある。
飛行甲板には発着艦スポットが4箇所あるため、4機のヘリを同時に発着艦させることが可能であ
り、
発着艦スポット以外の甲板でも強度的に発着艦可能である。エレベーターは艦橋横に約20×約10m、
アイランド後方中央に約20×約13mのエレベーターがあり、 揚降能力はともに30トン以上なためMH−53Eを運用可能で、
特に後部エレベーターはSH−60Kを折り畳まずに昇降することができる。
格納庫は一般的な空母と同様ギャラリー・デッキとなっており、飛行甲板の 下の第2甲板を挟んだ下に
第3、第4甲板の2層分の高さが確保され、全長は前部と後部エレベータの間のみで約60m
になり
幅は約19m、その格納庫は防火シャッターで前後に区切れるようになっており、前部が第1、後部が第2格納庫となる。
また格納庫には航空機移送装置や中間フラットなどが装備されしている。
さらに後部エレベーターの後方は 第2、3、4甲板の3層分を使った各種ヘリの整備スペースがあり、
ここではローターの展張整備も可能で天井にはエンジン交換用のクレーンなどがある。
これら前部エレベータから後部整備スペースを含めた全長は約125mとなっている。
艦内から航空機用の弾薬や物資を搬送する小型エレベーターは4m×2mで揚降能力は1.5トン。搭載機の関連機材として
ヘリ用牽引車、牽引機、救難作業車(消防車)、自走式クレーン、高所作業車、フォークリフトなども
新規に導入される。ちなみに自走式クレーンはアスロック予備弾の装填にも使用される。
搭載機ついては当初護衛隊群が八八艦隊編成のため、通常は哨戒ヘリコプターSH−60K3機と
掃海・輸送ヘリコプターMCH−101が1機、必要に応じて各種ヘリコプターが搭載可能として
いたが、
平成16年12月に策定された新防衛計画の大綱により、八八艦隊編成と、哨戒ヘリの艦載・陸上の区分が廃止された
で、柔軟なヘリの運用が可能となったことにより、本艦も4機以上のヘリが搭載されるものと思われる。
ちなみに本艦は最大で11機ほどまで搭載できるという。
VTOL機については防衛庁では軽空母と非難されるのを避けるためか、飛行甲板は耐熱構造でなく
スキージャンプ台も無いため運用不可と説明しており、導入計画も無い。
しかし飛行甲板はMH−53Eの重量に耐える構造になっており耐熱塗装も施すことも可能で、
軽空母に改造することも可能だとする声もあるが、実際にVTOL機運用が可能かどうかの真偽は不明である。
また将来的には広域哨戒、早期警戒、攻撃評価 に活用きるヘリUAVの導入と搭載も検討されているとも言われる。
兵装は「はるな」型では5インチ砲を搭載していたが、本艦では艦載砲は無く短SAM、アスロック、
短魚雷発射管とCIWSのみが搭載される。
短SAMは米国製の 発展型シー・スパローESSMが装備されるが、将来的には国産のAAM−4艦載型も装備され、
その場合大幅に多目標対処能力が向上することとなる。
アスロックは国産の新アスロックの予定だったが開発遅延により当分は従来型のアスロックとなる。
これら短SAMとアスロックの発射機であるMk41VLSは艦尾右舷に搭載され、
16セルの内、4セルに短SAM16発が、
12セルにアスロックが装填される。
さらにアスロックについては艦内に4セル分の予備弾が搭載される。
3連装短魚雷発射管は97式魚雷も発射できる新型のHOS−303が装備されるが、
この3連装短魚雷発射管は自艦の航跡を視認できる艦尾両舷船体内に装備されているため、
将来的には対魚雷魚雷の装備も考えられると言われる。
CIWSは新型のファランクスブロック1Bが 搭載され、位置は当初アイランドの前後だったが、
後に艦首右舷と艦尾左舷に変更された。小型舟艇攻撃用として は各種機銃が装備できるマウントが艦首と艦尾の両舷に計4基搭載される。
チャフ発射機は両舷の張り出し部に新型国産の旋回俯仰式が搭載が予定されていると言われるが、
場合によっては従来型のMk36になるかもしれない。対魚雷装備について詳細は不明だが、
技研が開発している対魚雷デコイであるTCM(TorpedoCounterMeasure)を将来装備することが可能だと言われる。
センサー類としてはレーダー、ソナーとも今まで鋭意開発されてきた新型が装備される一方、
従来の護衛艦では搭載されていたレーダーの一部には搭載されないものも見られる。
その例が対空レーダーで、代わりにその機能を担う多機能レーダーのFCS−3改が搭載される。
FCS−3改は極めて高い 捜索探知能力と多目標追尾能力を誇るアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーで、
4面あるアンテナにはイルミネーターも付随しておりESSMの射撃指揮も行う。
このFCS−3改については当初はアイランドに塔状構造物を設け、そこに取り付けられる予定だったが、
アイランドが縦長く視界確保が難しいため、結局艦橋上に前面と左面、航空管制室上に後面と右面が装着されている。
対水上レーダーも従来的なものは装備されず、OPS−20航海レーダーの 発展型であるOPS−20改が対水上レーダーとして装備される。
このレーダーは従来の対水上レーダーに比較して探知距離が短いものの、ESMなどで発見が難しい性能を持っている。
艦首バウ・ソナーも新型のOQS−XXが装備され、このソナーは低周波を使用することにより探知距離よりが長く、浅海域での能力にも優れていると言う。
一方で多くの護衛艦に装備されている曳航ソナーについては装備されないこととなった。
これらセンサーやデータリンクからの情報を処理し各種兵器を管制するのが、新開発の
水上艦用新戦術情報処理システムATECS (AdvancedTechnologyCombatSystem)である。
これは戦闘指揮装置ACDS(AdvancedCombatDirectionSystem)、対潜情報処理装置ASWCS(AntiSubmarineWarfareSystem)、
電子戦管制装置EWCS(ElectronicWarfareControlSystem)やデータリンクなどをネットワーク化したものであり、
ACDSが各種レーダーやデータリンクからの情報を基にFCS−3改、短SAMを管制するだけでなく、
ASWCSやEWCSも指揮し各種戦闘を調整する役割を担っている。
ASWCSは各種ソナーや哨戒ヘリからの情報を基に新アスロックや短魚雷などを管制、
EWCSはESM/ECMやチャフなどを管制している。
このATECSのソフトウェアは独自に開発されたものだが、
コンピューターやディスプレイ・コンソールについてはCOTS(民需品)を多用したUYQ−70シリーズが採用されている。
そしてATECSもSWAN( ShipWideAreaNetwork)により、航海や機関制御などの艦制御系やC2Tなどの情報系のシステムと連接される。
これによりSWANで得た情報を戦闘に供したり、艦内各部からこれらの情報にアクセスすることも可能となるといわれる。
本級は護衛艦隊旗艦としての司令部機能も充実しており、艦内には従来どおりの個艦CICのほか
司令部用CICである司令部作戦室FICも設置される。
さらに指揮管制機能を強化するため、現在整備が進められている
海上作戦部隊全般に関わるC4ISR(指揮、統制、通信、コンピューター、
情報、監視、偵察)システムであるMOF(MaritimeOperationForce)システムの洋上端末C2T(Command and Control Terminal)を装備する。
また指揮・管制能力充実のため衛星通信アンテナも多数搭載されており、
アイランド前後には広帯域衛星通信装置(Xバンド)用の大型ドームと「こんごう」型も搭載しているUSC−22のドームがあり、
ほかにもマストにも衛星通信装置が設置され、就役後にはKuバンド衛星通信装置も追加されるという。
さらに護衛隊群旗艦としてだけでなく 、陸海空の統合作戦時には統合部隊司令部として、
大規模災害時には洋上対策本部としての機能を担えるようにするため、第2甲板には多目的室も
設けられている。
この多目的室は必要に応じて室内を細かく区切ることもでき、床面には電源やネットワークハブを備えたOAフロアとなる。
推進システムについては従来どおりのCOGAGが採用されており、ガスタービン4基で2軸推進となる。
ガスタービンの機種についてはLM2500 が採用された。
機械室の配置は抗堪性に配慮した、いわゆるシフト配置で第1機械室と第2機械室の間に補機室を設けている。
馬力は100,000馬力と排水量が半分近くの「こんごう」型と同程度だが、速力は同じ30ノットとなっているほか、
航続距離は従来の護衛艦と同程度の20ノットで6,000浬と言われる。
主発電機は2,400キロワットのものが4基でガスタービンが使用されている。
また護衛艦としては18DDHが初めて他艦に対する洋上補給装置を備え 、16DDHも後日装備されるといわれる。
これらを制御する機関操縦室兼応急指揮所は格納庫の下、第5甲板中部にある。
こうして長い道のりを経てようやく誕生することになった戦後初の「空母」であるが、
今までの空母保有の動きが起きた時とは政治情勢が大きく変わっていたため、大した政治的論議も経る事も無く
予定通り16DDHが平成16年度計画で予算が計上され、無事承認された。
2番艦については17年度計画で建造される予定だったが、防衛計画の大綱の見直しなどでミサイル防衛が優先されるほか、
衛星通信ネットワーク等の情報通信事業等を最重視することにより17年度は護衛艦は調達されないこととなり、
18年度計画で予算が計上された。
それと同時にインドネシア国際緊急援助活動での教訓を踏まえ洋上補給装置の追加、飛行甲板の形状などの設計変更が行われている。
竣工は16DDHが平成20年度、 2番艦は先の理由により不明で、それぞれ第1護衛隊群と第2護衛隊群に護衛隊群旗艦として
配備されるものと予想されている。
ちなみに本級の建造費は中期防決定時では2隻で1,900億円だったが、
結局16DDHが 1,057億円で、18DDHが975億円で2隻あわせて2032億円だった。
その内訳は16DDHで、船体が472億円、主機が64億円となっている。
本級は軽空母に発展する可能性を秘めているためその将来が注目されているものの、
実際に今後どうなるかは不明だが、いずれにしろ高い航空機運用能力と指揮能力を持つ本級は
今後30年以上、護衛隊群旗艦としてだけでなくさまざまな任務で活躍することが期待されている。