アポロの光
人々は皆、
褐色かそれ以上の濃さをもった肌色をしていた。
眠りを知らず、人々は光の世界に生きていた。
その世界は滲ませた筆から落ちる水滴のように生まれた。
そこに光を生みだすもの『アポロ』が大気の波紋となり、
熱が生まれ、
風が生まれ、
螺旋状に交じり合い、
生きとし生けるものの全てのエネルギーが生まれた。
その光は世界の隅という隅にいきわたり、
いつしか世界から『瞼』を消し去った。
人々はアポロという光の中に生き、
己の眼がやかれて朽ちてゆくことを当然の理だと、
その光に対して、
疑いを抱くことは己が生を否定することだと、
脈々とたなびく血に教わっていた。
アポロがいるからこその恩恵、
アポロの光の世界である。
だが、ナキはその世界の住人ではなかった。
世界が産声を上げたときのように、
彼も突然存在した。
しかし、
彼の容姿は、
精神は、
存在してはいけない、忌むべきものだ。
ナキは人々に不安を産み落とす。
ナキを忌むことでアポロを愛すことができる。
ナキはアポロの子ではない。
ナキは本当のアポロを感じたことが無いまま、
この世界で呼吸をしている。
ナキは全てを塗りつぶすもの。
鬣はナキに与えられた。
アポロではなかったのだ。