ナキ


ナキは不思議な色のたてがみをもっていた。

空間がよじれ、生命が坩堝るつぼへと吸い込まれていくような色だ。



人々はナキのたてがみに恐怖をみた。



誰かは、

『ひとたび触れると指の先から粉塵のように解けてゆく』

といったし、


また誰かは、

『ひとたび触れると血という血が体から失せ、狂気をまとった骨だけの彷徨い人となる』

といった。



真偽問わず、危うきは罪となった。



人々はたてがみをもつ者への拒絶を因習とし、

世の果てへ最も近い場所に追放した。



ナキの生きる場所は誰よりも遠く、誰よりも冬に近かった。



偽善を気取る人のわずかなる慈悲で、

彼は白い漆喰しっくいの家に住んだ。



それはたてがみと反対の色をした、

美しい白のみで作られていたが、

彼のたてがみが触れるごとに、

その部分が鬣色たてがみいろに染まっていった。



その色はまるで、

周りのもの全てを遠ざけ、

誰よりも孤独な彼を決して許しはしない、

確たる意思のようだった。



ナキは己の忌みなる色に染まりゆく壁をみつめ、ナキだけの時間で生きていた。






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