・「リミックス」という言葉は一般的に広まり、音楽業界ではもはやマイナーな存在ではなくなりました。しかし・・・現在リミックスを収録した作品は減少の一途をたどり、かつての多彩性あふれる音を聴く機会がめっきり減ってしまっています。今回はこのような現在の状況だからこそ、リミックスを改めて見直してみよう!ということで、倉木麻衣や小松未歩、愛内里菜などのリミックス・アレンジでお馴染みのME-YAさんにリミックスについていろいろ伺ってみました!

Interview to DJ ME-YA

DJ ME-YA
DJ、サウンドプロデューサー。次世代ヒップホップレーベル「DAY TRACK」の総帥を務める。トラックメーカーとしてリミックス、アレンジを始め、倉木麻衣、愛内里奈、小松未歩などメジャーアーティスト達のサウンドを数多く手掛けてきた。打ち込み作業からディレクション、レコーディング、そしてミックスまで一貫した制作工程を一人でこなし、スタジオミュージシャンとしては"スクラッチャー"の顔も持つ。近年は滴草由実、BON BON BRANCOなどのライブにも参加。'03年にはレーベル「DAY TRACK」を設立。ヒップホップシーンの底上げに貢献する一方、現在アンダーグラウンドで活動する次世代のラッパー、シンガー、DJ、トラックメーカー達の育成、支援に尽力を注いでいる。

このページはME-YAさんの承諾を得て制作・公開させていただいています。
無断での転用・複写はご遠慮ください。

具体的なリミックス制作作業について──────

 

最後に完成したリミックスとオリジナルを聞き比べて密かに楽しみます。

──今まで倉木麻衣さんや小松未歩さんなどのリミックスされてきたME-YAさんですが、リミックスを作ると決まるまでは、どのような経緯があるのですか?

【ME-YA】プロデューサーやディレクターからのオファーが多いです。製品にヒップホップやR&Bテイストが求められている時、よく発注してもらっています。リミックスの場合は、あまり具体的なオーダーはありません。「好きなようにやってください」っていうケースが多いですね。リミックスワークは楽しい仕事なので、断ったことはないです。

──リミックスを作ることが決まり、作業を始める前にオリジナルを聴き込んだり、ネタを探したり・・・などあると思うんですが、リミックス製作前にME-YAさんが意識することはどんなことがありましたか?

【ME-YA】求められている作品に特別なオーダーがない限り、オリジナルはほとんど聴きませんね。依頼を受けた後、一度だけ聴くことが多いですが、その時も「どこの部分が使える」みたいな聴き方をしています。J-popの場合、コード進行が複雑なケースが多いので、リフが効いたようなダンスミュージックになり難いのです。だから最初からBメロのカットを前提とすることも多いです。私はボーカルもメロディーも、「私が採用する楽器の一部」として取り扱っています。私の想定する作品イメージにそぐわない歌やメロディーは容赦なく切り捨てます(笑)。

またネタ探しにも時間をかけません。というより、普段から次のリミックスワークのヒントになるようなサウンドを日常的に聴いているので、アイディアに詰まることはありません。まずは多くの人がどこかで聴いたことがあるであろう「大ネタ」を中心に検討します。結構直感でやりきっちゃいますね。

リミックスが完成した後、ゆっくりオリジナル曲と聞き比べて密かに楽しみます()

──オリジナルをほとんど聴かない、というのは意外ですね!日頃からのネタ探しが充実してないと、ME-YAさんのような音はなかなか直感ではできないですよね。ME-YAさんがリミックス作業によく使う機材はどんなものがありますか?

【ME-YA】レコーディング&オーディオ編集に「PROTOOLS HD」、シーケンサーに「Digital Performer」、音源は「S1100」、「Triton Rack」、「JV2080」、「Mo phatt」を主に使用しています。リミックスの場合、まずはボーカル素材をPROTOOLS上に貼り付け、そのエディト作業と平行してトラックを作り込んでいきます。時にはギターなどオリジナル素材の一部を加工して、新たなフレーズを生み出すこともあります。マックはオーディオ用とMIDI用の2台をシンクさせ、編集と打ち込みを平行作業的に進めます。

 

──実際に製作し始めると平均でどれくらいの時間がかかりましたか?その間方向転換や作り直しなんてこともたびたびあるのですか?

【ME-YA】納品できる状態まで仕上げるまでに、平均2日を要します。時間に換算すると12時間くらいです。1日目でトラックメイキング、2日目でレコーディング&ミックスというパターンが多いです。ただしミックス段階でオーディオ素材を大胆に切り貼りしたり、構成を変えたり、新たな音色を足したりしますので、完全に工程を分けているわけではないです。トラックが完成したとき、すなわちミックスも完成しています。方向転換や作り直しもありますが、大抵1日目に決め込みます。

 

アレンジはクライアントの意向を忠実に再現、リミックスは自分の作品

 

──ところで、アレンジとリミックスはなかなか見極めがつきにくいものですが、ME-YAさんにとってこの2つの相違点とはどんなものがあるでしょう?リミックスを作るときにはアレンジとの違いを意識したりしますか?

【ME-YA】クリエーターの私にとって、アレンジとリミックスの違いは一点に尽きます。アレンジはクライアントの意向を忠実に再現する、リミックスは自分の作品を作る、ということです。だからアレンジ作業はOKが取れるまで何度でもやり直します。自分の感性からすると疑問に思うようなオーダーでも、プロの仕事としてきちんと実現します。その代わり、これまで行ってきたアレンジの中で、残念ながら気に入っている作品はほとんどないのが実情です。

対してリミックス作業は「やり直し」という概念はありません。目の前にある作品を持って、採用か不採用かをこちらから問います。自分のオリジナル作品なので文句を言われる筋合いはない、っていう理屈ですね。だからアグレッシブなサウンドが創れる。そのようなスタンスだから、リミックスに関してはあまり直しの要望は入りませんね。たまに要望があった時、自分的に納得できるオーダーに関しては柔軟に対応しています。

 

──音を作ってみて自分が表現したい音に満足しても、受注先の要望と若干食い違う時があると思ってたんですが、リミックスではそういう概念がないんですね。つまりリミックスこそが「純粋なリミキサーの音」なんですね。

リミックスの現状とこれからの動き──────

 

「この人たちは一括りにしている」このときから危機感を感じていました。

──以前「J-popしか聞かない人にもHIPHOPを体感してもらう、その逆も然り…。あらゆるリスナーの耳が肥えることによって、日本の音楽文化のレベルを引き上げる。リミックスってそれを実現する最適な方法だと思うのだ。」とおっしゃっていたME-YAさん。この言葉に僕はすごく共感しているのですが、最近のJ-POPCDにはそのリミックスはほとんど収録されなくなってしまいました。このようになったのはどうしてだとMEYAさんは感じていますか?

【ME-YA】私もリミックスの仕事が減って残念です()。「リミックス」という言葉の響き自体が飽きられているのではないか、と感じています。それってリミックス作品が一括りにされちゃっている、と言えるのではないでしょうか。

リミックスがJ-POPにも浸透してきた頃、私はクライアントから次のようなオーダーをよく受けました。

「リミックスっぽいのを頼むよ」

…意味が分かりませんでした。「ヒップホップっぽいサウンド」でも「ハウスっぽいサウンド」でもないんです。この時点から私は危機感を感じていました。あぁ、この人たちは一括りにしている、と。リミックスに関する価値観が全く違っていたのです。つまり彼らにとってリミックスという言葉自体が流行語だったのです。リミックスであればなんでもよかったんですね。流行っているものは必ず廃れるのが世の常。J-POPを世の中に送り出す音楽業界の人間がそのように低レベルな認識だったのだから、そのうちリミックス作品の収録が激減してもおかしくなかったわけです。

もちろん旬なサウンドは時代によって移り変わって当然だと思います。今更聴きたくないジャンルもあるでしょう。しかしリミックスの存在意義に関しては、流行に左右されるべきものではないと思います。作品やリミキサーが飽きられるのは致し方ないことですが、リミックスという概念自体が衰退していることが嘆かわしい。

 

時代を先取る有効なツールがリミックス

 

──では、そういう音楽業界の経営陣はリミックスに対してどのような考えなのでしょう。

【ME-YA】レコード会社の立場からすると次のような言い分になります。

「リミックスを収録しても売り上げが変わるわけじゃない」

確かにそうです。ほとんどの人はタイアップなどで耳にしたオリジナル曲を聴きたくて購入するわけですから。しかし別の角度からお気に入りの曲を聴くことで、リスナーの新たな興味を開拓することに繋がる効果もあります。合理的にリミックスを切り捨てることで、次世代の感性を犠牲にしている気がします。時代を先取る有効なツールがリミックスなのです。

 

──まさにその通りです!常に先の音楽を探し続けるにはリミックスが最も有効なんですよね。作る側も・・・聴く方も!

【ME-YA】もっと単純な話、購入したCDに別バージョンが収録されていれば、単純に嬉しいじゃないですか!お得な気がするじゃないですか!(リミックスが邪魔なら聴かんでよろしい!)

私はこれからもリミックスを推奨します!

 

そう、リミキサーはアーティストなんです。

 

──リミックス衰退の1つの理由として個人的には、2,3年前リミックスがJ-POPCDにかなりの割合で収録されていた頃第一線で活躍していたリミキサーが、ME-YAさんのように現在は若手の育成やマネージメント側の仕事に移行されているので、現在はちょうど「世代の移行期間」に入ってきているのかなっと思っているのですが、そうなると今の若手アーティストさんに期待がふくらみますよね。ME-YAさんは若手にどのような音作り、リミックスを期待していますか?

【ME-YA】若手にはこれまで聴いたことのないようなサプライズを感じさせてくれる作品を期待しています。まあ、これはリミックスに限ったことではないですが、アーティストたるもの人に感動を与える作品を創るべきですよね。そう、リミキサーはアーティストなんです。編曲家ではないんです。だからこそリスナーからシビアなレスポンスが返ってきます。リミックスが衰退している理由の一つに、「目新しいリミックス」が少なくなっている、というクリエーターサイドの問題もあります。今はヒップホップやハウスやトランスなどというサウンドは目新しいものではありません。ジャンル自体が新鮮だった時代とは違うのです。

「アーティストを名乗るなら文化を創れ」

これは私の運営しているレーベル「DAY TRACK」に所属している若手ラッパーに説いている言葉の一つです。既存の固定観念に縛られた「ありきたりのサウンド」は誰も求めていませんよね。リミキサーも同じ。リミキサーのキャラクターやオリジナリティーを、リスナーが作品を通して感じ取れるようなリミックスを期待しています。

 

──目新しいが少なくなってきた・・・となると、リミックスが存在するためにはリミキサーが変わらないといけないですよね。今まではリミキサーが得意分野のジャンルにリミックスするスタイルがほとんどでしたが、今後はジャンル関係なしのオールラウンドリミキサーとか、従来のオリジナル曲あってのリミキサーではなくて、自らからリミックス付きのオリジナル曲を提供していくクリエーターなどなどいたらおもしろいのではと個人的に思っているのですが、今後のリミキサーどうあるべきだと考えていますか?

【ME-YA】リミックスはダンスミュージックに限る必要もありません。DJである必要もありません。ダンス系は「リミックス」、アコースティック系は「リアレンジ」などと勝手な定義を決めているレコード会社の人間は多いですが、別の解釈で再構築された楽曲すべてを「リミックス」と呼んでいいと思います。リミックスに必要な要素はジャンルではなく、リミキサーの個性です。前述したようにリミキサーはアーティストですから、自由に音楽を生み出す権利と義務があります。自ら表現に制約を設けるのではなく、ジャンルに縛られずに新たなサウンドを提案すべきですね。

私なども「ヒップホップ系」というイメージがあると思いますが、作品にヒップホップを意識したことはありません。たまたまヒップホップで育ってきたので、そこからインスパイアされたアイディアをDJ ME-YAの作品に盛り込んでいるだけです。

 

リミックスは「ひとつの文化」、全てのリスナーはリミキサー

 

 ──ジャンルなんて関係ない自由な表現と制限を設けない発想こそがリミキサーの条件、というわけですね。ME-YAさんにとってリミックスとはどんな存在ですか?

【ME-YA】音楽家として唯一の自己実現の場です。

 

──最後にリミックスファン(?)に一言お願いします。

【ME-YA】リミックスは身近で遊び心溢れる「ひとつの文化」です。特別なものではありません。風呂場で好きな曲のメロディーを口ずさみながら風呂桶を叩く、これだって立派なリミックスです。楽曲は、生み出したアーティストだけのものではなく、全てリスナーが共有する権利があります。シングル曲のA面に収録されているオリジナル曲は、無限の可能性を秘めた楽曲の魅力における一解釈に過ぎません。全てのリスナーは、すなわちリミキサーなのです。リミックスを楽しんでください。

──ME-YAさん、ありがとうございました!

・今回初めてプロのリミキサー(プロデューサー)さんにインタビューさせていただいて、改めてリミックスの持つ素晴らしさとその可能性に惹かれています。リミックスはすべてにおいて自由・・・・なにも制限がかからないそんな世界だからこそ、きっとそこには新しい自分が見え隠れするはず。リミックスが衰退しつつある今だからこそ、この企画がもう一度リミックスと向かい合うきっかけになってくれればと思います。
 
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DJ ME-YA 最新プロデュース作品リリース情報
KEN-RYW 1st ALBUM:Sympathy
2005.04.21 ON SALE
01.NEW TYPE
02.DIAMOND pt.V Feat. NA
03.Candy Luv Feat. MICHI
04.UNFINISHED MUSIC
05.出会い Feat. CIMBAVery Phat Soul
06. ~SKIT~
07. AFTER VISION Feat. SI-RUDE, NA
08.アソビチューン Feat. NARU
09.GAMBLER
10.過ぎたあの日… Feat. Can’no
11.永遠家族 Feat. SI-RUDE
12.ROOTS
倉木麻衣、愛内里菜などメジャーアーティストのアレンジで知られるDJ ME-YAや、湘南乃風のREMIXなどで活躍中のXtra Jamらが楽曲を提供。参加アーティストは、2003年度ITF日本チャンピオンのDJ 1,2、BLACK MOONの前座を務めたこともある三沢のカリスマSI-RUDE(KEN-RYWの実兄)、DJとしては青森NO.1の知名度を誇るDJ SONIC、BLACK EYED PEASとも親交の深いCan'noなど、強力なサポートを受けた注目の楽曲が目白押しである。問い掛けるような柔らかいリリックの世界は、聞き手を自然に前向きにさせ、勇気づけてくれる。(実際ライブを見て涙を流している客もいる)。日常をラップするKEN-RYWだから提示できる、共感を呼ぶヒップホップ。これこそ、まさに現代社会において必要とされている1枚である。

 

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