「この人たちは一括りにしている」このときから危機感を感じていました。
──以前「J-popしか聞かない人にもHIPHOPを体感してもらう、その逆も然り…。あらゆるリスナーの耳が肥えることによって、日本の音楽文化のレベルを引き上げる。リミックスってそれを実現する最適な方法だと思うのだ。」とおっしゃっていたME-YAさん。この言葉に僕はすごく共感しているのですが、最近のJ-POPCDにはそのリミックスはほとんど収録されなくなってしまいました。このようになったのはどうしてだとME−YAさんは感じていますか?
【ME-YA】私もリミックスの仕事が減って残念です(笑)。「リミックス」という言葉の響き自体が飽きられているのではないか、と感じています。それってリミックス作品が一括りにされちゃっている、と言えるのではないでしょうか。
リミックスがJ-POPにも浸透してきた頃、私はクライアントから次のようなオーダーをよく受けました。
「リミックスっぽいのを頼むよ」
…意味が分かりませんでした。「ヒップホップっぽいサウンド」でも「ハウスっぽいサウンド」でもないんです。この時点から私は危機感を感じていました。あぁ、この人たちは一括りにしている、と。リミックスに関する価値観が全く違っていたのです。つまり彼らにとってリミックスという言葉自体が流行語だったのです。リミックスであればなんでもよかったんですね。流行っているものは必ず廃れるのが世の常。J-POPを世の中に送り出す音楽業界の人間がそのように低レベルな認識だったのだから、そのうちリミックス作品の収録が激減してもおかしくなかったわけです。
もちろん旬なサウンドは時代によって移り変わって当然だと思います。今更聴きたくないジャンルもあるでしょう。しかしリミックスの存在意義に関しては、流行に左右されるべきものではないと思います。作品やリミキサーが飽きられるのは致し方ないことですが、リミックスという概念自体が衰退していることが嘆かわしい。
時代を先取る有効なツールがリミックス
──では、そういう音楽業界の経営陣はリミックスに対してどのような考えなのでしょう。
【ME-YA】レコード会社の立場からすると次のような言い分になります。
「リミックスを収録しても売り上げが変わるわけじゃない」
確かにそうです。ほとんどの人はタイアップなどで耳にしたオリジナル曲を聴きたくて購入するわけですから。しかし別の角度からお気に入りの曲を聴くことで、リスナーの新たな興味を開拓することに繋がる効果もあります。合理的にリミックスを切り捨てることで、次世代の感性を犠牲にしている気がします。時代を先取る有効なツールがリミックスなのです。
──まさにその通りです!常に先の音楽を探し続けるにはリミックスが最も有効なんですよね。作る側も・・・聴く方も!
【ME-YA】もっと単純な話、購入したCDに別バージョンが収録されていれば、単純に嬉しいじゃないですか!お得な気がするじゃないですか!(リミックスが邪魔なら聴かんでよろしい!)
私はこれからもリミックスを推奨します!
そう、リミキサーはアーティストなんです。
──リミックス衰退の1つの理由として個人的には、2,3年前リミックスがJ-POPのCDにかなりの割合で収録されていた頃第一線で活躍していたリミキサーが、ME-YAさんのように現在は若手の育成やマネージメント側の仕事に移行されているので、現在はちょうど「世代の移行期間」に入ってきているのかなっと思っているのですが、そうなると今の若手アーティストさんに期待がふくらみますよね。ME-YAさんは若手にどのような音作り、リミックスを期待していますか?
【ME-YA】若手にはこれまで聴いたことのないようなサプライズを感じさせてくれる作品を期待しています。まあ、これはリミックスに限ったことではないですが、アーティストたるもの人に感動を与える作品を創るべきですよね。そう、リミキサーはアーティストなんです。編曲家ではないんです。だからこそリスナーからシビアなレスポンスが返ってきます。リミックスが衰退している理由の一つに、「目新しいリミックス」が少なくなっている、というクリエーターサイドの問題もあります。今はヒップホップやハウスやトランスなどというサウンドは目新しいものではありません。ジャンル自体が新鮮だった時代とは違うのです。
「アーティストを名乗るなら文化を創れ」
これは私の運営しているレーベル「DAY
TRACK」に所属している若手ラッパーに説いている言葉の一つです。既存の固定観念に縛られた「ありきたりのサウンド」は誰も求めていませんよね。リミキサーも同じ。リミキサーのキャラクターやオリジナリティーを、リスナーが作品を通して感じ取れるようなリミックスを期待しています。
──目新しいが少なくなってきた・・・となると、リミックスが存在するためにはリミキサーが変わらないといけないですよね。今まではリミキサーが得意分野のジャンルにリミックスするスタイルがほとんどでしたが、今後はジャンル関係なしのオールラウンドリミキサーとか、従来のオリジナル曲あってのリミキサーではなくて、自らからリミックス付きのオリジナル曲を提供していくクリエーターなどなどいたらおもしろいのではと個人的に思っているのですが、今後のリミキサーどうあるべきだと考えていますか?
【ME-YA】リミックスはダンスミュージックに限る必要もありません。DJである必要もありません。ダンス系は「リミックス」、アコースティック系は「リアレンジ」などと勝手な定義を決めているレコード会社の人間は多いですが、別の解釈で再構築された楽曲すべてを「リミックス」と呼んでいいと思います。リミックスに必要な要素はジャンルではなく、リミキサーの個性です。前述したようにリミキサーはアーティストですから、自由に音楽を生み出す権利と義務があります。自ら表現に制約を設けるのではなく、ジャンルに縛られずに新たなサウンドを提案すべきですね。
私なども「ヒップホップ系」というイメージがあると思いますが、作品にヒップホップを意識したことはありません。たまたまヒップホップで育ってきたので、そこからインスパイアされたアイディアをDJ
ME-YAの作品に盛り込んでいるだけです。
リミックスは「ひとつの文化」、全てのリスナーはリミキサー
──ジャンルなんて関係ない自由な表現と制限を設けない発想こそがリミキサーの条件、というわけですね。ME-YAさんにとってリミックスとはどんな存在ですか?
【ME-YA】音楽家として唯一の自己実現の場です。
──最後にリミックスファン(?)に一言お願いします。
【ME-YA】リミックスは身近で遊び心溢れる「ひとつの文化」です。特別なものではありません。風呂場で好きな曲のメロディーを口ずさみながら風呂桶を叩く、これだって立派なリミックスです。楽曲は、生み出したアーティストだけのものではなく、全てリスナーが共有する権利があります。シングル曲のA面に収録されているオリジナル曲は、無限の可能性を秘めた楽曲の魅力における一解釈に過ぎません。全てのリスナーは、すなわちリミキサーなのです。リミックスを楽しんでください。
──ME-YAさん、ありがとうございました! |