赤い蛇 特別篇

しな、おろしあ、えけれしあ。
でぇっかい海を越えますと、そこには「はらいそ」あるそうな。
「はらいそ」は、極楽浄土の別天地。
めりけん帰りのおじさんが、でぇっかい人形持っていて、
あたしはそれが欲しくって、
おじさんの後をつけまわしたのさ。
「はらいそ」から来た、きれいなきれいなお人形。

勝って嬉しいはないちもんめ
負けて悔しいはないちもんめ
あの子が欲しい、あのこじゃわからん
この子が欲しい、このこじゃわからん
相談しよう、そうしよう
相談しよう、そうしよう

きれいなきれいなお人形は、どことなく寂しそう
遠いふるさとを想っているような…
泣かないで、
私が唄ってあげるから…

どこまでも続くような淡雪桜
黄色い月の夜が明けて
はかなくまざらない
早く昔になればいい
水色の涙 水面に映る
水色の涙 優しい唄

おじさんとお人形と
あたし
すっかり仲良くなった頃、
おじさん遠くへ行っちまうって言う。
「そんなのやだよう」…って言ったら、
おじさんがこう言った。

「ならばお嬢ちゃん、一緒に来るかい?」

いざゆかん!極楽浄土のべってんち〜!

幾年月かを夢のように、ふうわり暮らしてみたものの、
色即是空の世の習い
あま〜いばかりは落とし穴
くら〜い、さむ〜い、いた〜い、こわ〜い。

ここは命の育たぬところ。
売られたわが身にふと気づきゃ、ああ懐かしきことばかり。

優しい優しいおじさんは、
ほんとはひと買い、ひとさらい。
次はあたしを人形にして、どこかの町へ売り飛ばすって!
逃げよう!逃げよう。
ほんとのひとでなしにされちまう!

仲の良かったフランス人形
連れていこうかいくまいか
「私はそとでは生きられぬ
私を置いていくのかえ?」

そして涙が燃え出した。

暗転。