弐〇〇〇年神無月弐拾壱日 於横濱セヴンスアヴェニュウ


本日の演目

座敷牢の数え歌

母狐 エログロきつね
夏蝶
水色の涙
夢十夜
明鏡止水
我三界に棲み処なし
新曲(アカペラ)

 およそ一月ぶりの横浜興行は不思議な賑わい。
羅宇屋の御登場は夜も更けて五つ目。
今宵も眩惑的なSEにのせて、メンバアが舞台に現れます。
ステヱヂ狭しとかくれんぼの如く顔を覗かせてみる静暮嬢。
童女の悪戯に目を瞑っているのか、
微動だにしない名和眠嬢、きよ嬢。
静暮嬢が手にした鈴の震える声音と共に始まったのは新曲「母狐」。
「赤い蛇 第三巻」に続き
耳にするのは二度目のこの曲。
以前よりも耳に馴染んだ所為か、
子を守り寒流に曝される「生けるもの」の愛が
情景と共にありありと目に浮かびます。
今宵の演目は晩夏の横浜で演ぜられた「座敷牢の子守唄」。
ひい、ふう、みい…と寂しげな口上が場内に響き、
「エログロきつね」「夏蝶」とお馴染みの二曲。
マイクスタンドに下がる千羽鶴を取り上げる静暮嬢。
いつにも増して悪戯っぽいその仕草は、
無垢さの中に企みを秘めているようにも見えます。
再び口上、そして
「水色の涙」「夢十夜」をしっとりと演じて
その空気を覆す「明鏡止水」「我三界に棲み処無し」。
濃藍の世界は一瞬にして燃え盛る赤へ。
情感込めて歌い上げる静暮嬢と、
あくまで淡々とした名和眠嬢、きよ嬢の動静のヴァランス。
それがゆっくりと混じりあい、
やがてすべて静に呑まれた所で合図のように響く静暮嬢の鈴、
そして三重唱が尚更の感動を生むアカペラの曲へ。
一度、いま一度と演ぜられる回数が増える度に
絡み合う御三方の旋律が端正に成っていくのが解ります。
うっとりと聞き入っていると、終わりを報せるSEが。
次々と舞台を去るメンバア。
いつまでも去り難くかくれんぼを続ける静暮嬢。
このところ興行の最後を彩る「かごめかごめ変奏曲」はおあずけ。
余韻を引きずりながら、
何だか置き去りになった寂しさとそれでも忘れ難い
アカペラのやさしさを肌に覚えながら
秋の夜長の公演は幕を下ろしたのでした。

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