弐〇〇壱年四月八日 於常楽寺「森の芸術館」
「虚空粉砕」



羅宇屋、二十一世紀の第一本目の興行は、なんと山梨のお寺にて行われました。
新宿から電車とバスに揺られること二時間半、
緑に囲まれた其処、
常楽寺は其処彼処に妖怪変化の姿あり、
実に羅宇屋に相応しきロケーションといえましょう・・・。


祭壇の前に設置されたピヤノとマイクスタンド。
どうやらそのセッティングだけ見ても、この日の羅宇屋は
一味違う舞台を見せてくれる模様・・・と、期待せずにはいられません。
其処へ現れる御三方。
しぐれ嬢は青い着物に、可愛らしい髪飾り。
きよ嬢は悠然とした振袖姿にいつものマスク。
名和眠嬢は薄桃の着物に、こちらもしぐれ嬢とおそろいなのか、
可愛らしい髪飾りを左右にあしらっておられます。

しぐれ嬢がピヤノの前に腰を据え、ギターの音で始まったのは、耳慣れぬ曲。
どうやら棚卸期間中に作られた新曲のようです。
しぐれ嬢の奏でるピヤノが、ファルセットが、
時折重なる名和眠嬢のコヲラスが否応なしに切なさを煽っていきます。

続くは、名和眠嬢が初めてメインヴォーカルを執った
「夢十夜」。
いつもと幾分表情の違うおなじみの曲は、
しぐれ嬢のそれとはまた違う落ち着きを払って、
まっすぐに違和感なく、空気の中に解けていきます。
続いても新曲。情念こもった先程の曲とは打って変わって、
こちらは戯れる時のおさなご・しぃちゃんの表情で。
四季折々を淡々と歌い、名和眠嬢のリコーダーの音色が其処に潜む不安を
浮き彫りにします。

ここで、はじめてしぐれ嬢の肉声による
「ふつうのおしゃべり」が!
羅宇屋の興行においてもしやこのことがいちばん
画期的であった気がします。
お寺のそばに鎮座まします妖怪たちのこと、
イヴェント前に行われた「密教瞑想会」のことなどに少しづつ触れ、
「次はしっとりとアカペラの曲を」と
「母狐」そしていまだタイトル非公開の「新曲」を披露。
機材が持ち込めない、などの理由から
ほぼ生音のみのステヱヂをここまで展開、場所柄当然とはいえ
音響の不備などでいささか不安もあったのですが、
やはり人の声は音楽にとって最強の武器。御三方の流麗な歌声は
やわらかく空気を包むのです。

続いてはあまり耳慣れぬ、でも何処かで聴いたことのある懐かしい歌が
耳に染みてきます。
これは昨年九月、「プランク草子」たるイヴェントに
しぐれ嬢とヨモギマオ嬢がご出演された際、「潮満つ崎」の劇中曲として歌われた曲。
あのときの光景・物語がありありと甦ります
(尚、「潮満つ崎」は小冊子「讀本羅宇屋 いの一番」にてご覧頂けます)。

「最後の曲となりました」
と、再びしぐれ嬢のごあいさつ。
きよ嬢が、ステヱヂ前方に設置された太鼓の前に準備、
名和眠嬢がギターを抱え、しぐれ嬢がタンバリンを鳴らし始まったのは、
戸川純の往年の名曲「諦念プシガンガ」!
基本の生存本能を肯定した無常観漂う詩をアンデス民謡に託した
この曲は、そういえばどこか羅宇屋の世界には共通点を覚えます。

「お粗末さまでございました」とのご挨拶とともに
この日の興行はすべて終了。
新曲あり、カヴァーあり、肉声のおしゃべり(こだわる)ありと、
異例尽くしの新装開店・羅宇屋さん。
これより行われる通常の興行も今から期待を禁じ得ません。

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