ライヴ・アンダー・ザ・スカイで,その全貌を現した佐藤允彦のスーパー・プロジェクト「ランドゥーガ」が早くもライブ盤で登場。 そうそうたるメンバーが日本の雅楽や民謡を素材にしたリズムにどう反応していったのか。その舞台裏をこぶ平師匠が聞き出した。
こぶ平:ライヴ・アンダーでのステージ,すごい反響だったそうですね。 ぼくも本当は行きたかったんですが,仕事の都合でどうしても行けなくて……それだけに早くライヴ盤が出ないかと楽しみにしていたんですよ。
佐藤:師匠,来れなかったんですか。そりゃ残念だったナ。ぜひ,あのステージは見てもらいたかったんだけど。
こぶ平:そりゃ大変な盛り上がりだったそうですね。 ウェイン・ショーターも,バリバリだったそうですし,他にも,梅津さんやレイ・アンダーソン…すごいメンバーがよくここまで揃った。
佐藤:今回のランドゥーガは,ぼくが長年温めて来た企画で,一番演りたかったことの集大成なんです。 それでいつか演るチャンスを,と思っていたときに,うまくライヴ・アンダーの話が来て,どうせやるならブワ〜ッとブチ上げようと,このメンバーになったんです。
こぶ平:でも,アレでしょう。ウェイン・ショーターとかレイ・アンダーソンとか外国のミュージシャンに,佐藤さんのサウンドを理解してもらうのって大変だったんじゃないですか?素材が民謡というのもあるし。
佐藤:音を聴いてもらって,自由に発想してもらえばいいワケで,別に理解云々は問題なかったですね。 逆にぼくとしては,ウェインなりレイなりが,日本のメロディを感じて,どのようにそれを昇華させ,音にしていくか,その方がおもしろかったですね。 ジャズってインプロヴァイズ・ミュージックでしょう。だから本当は形式にこだわる必要もないし,モトの素材だって自由に選んでいいと思っているんです。 アメリカにブルースという素材があって,そこから発生したのもジャズなら,日本の民謡を素材にしたジャズがあってもいいはずですよね。 それも,日本人だけじゃなくって,他の国のミュージシャンが,それまで何もなかった素材に触発されて,新しい音を産む。このハプニングさもジャズの魅力ではないでしょうか。
こぶ平:トータルのサウンド枠が先にあるんじゃなくて,各個人のインプロヴィゼイションが集まって,ひとつの音になる,という手法ですね。
佐藤:何でもそうだけど,自由に演るっていう方が難しいワケで,ダメな演奏になる可能性もあるけど,うまくノリが合えばスゴイものになることもある。どうせ演るなら,この方がいいじゃない。
こぶ平:リハーサルなんかはどうしたんですか。これだけの大所帯だと,全員集まってとかでは無理ですものね。
佐藤:リハーサルは全部で4日間でしたが,師匠のおっしゃる通り,全員が揃うのは無理でした。 ウェイン・ショーターなんか1日だけで,それも簡単に済ませただけでした。
こぶ平:それで,これだけの音が作れてしまうんだからすごいですね。ウェイン・ショーターって人は!!
佐藤:前もって曲の骨格のようなものは送っておいたのですが,きっと目なんか通してなかったでしょうね(笑)。 で,1日のリハーサルで,こっちの演りたいことを理解して,パッと演奏できちゃうんだからサスガです。ステージの上で,横で吹いていた梅津さんも感心して,さらにいっしょに出来たことを感動してました。
こぶ平:かなりミーハーですね(笑)。でも,ぼくが梅津さんだったら,やっぱり感激しちゃうナ。 ところで,オーディエンスの反応はどうだったんですか。
佐藤:いちばん受けたのは,同じ日に出演する他のグループのメンバーに。デヴィッド・サンボーンなんかには大受けでした。 それから,客席の外人客にも受けが良かったみたいで,みんな途中から前の方に来て踊ってました。
こぶ平:日本人の観客はあまり敏感じゃなかったんですか。
佐藤:いきなり雅楽や民謡だから,とまどったみたいですね。どう,リズムにノッたらいいのかよくわからなかったみたいで。
こぶ平:日本の観客より外国人の観客の方に違和感がない,というところがおもしろいですね。 ランドゥーガのようなワールド・ワイド・ミュージックに,母国の人の方がノリが悪いなんてシャレにもならない。
佐藤:馴れていないんですね。外から入ってくるリズムに対するアンテナはいいのに,自分たちの源にあるリズムがワールド・ワイドになるとうまく対応できない。
こぶ平:スタイルにこだわる,みたいな国民性があるのかも知れない。それに佐藤さんが素材として使う雅楽や民謡のメロディは,これまで対象外のものだったでしょうし。
佐藤:ヘンに和風のジャズっぽく捉えられたくないんですが,ちょっとメロディが日本風だと誤解されちゃうのかナ。
こぶ平:でも,決してコレ,ジャパニーズ・サウンドじゃないですよね。 パーカッションの高田みどりさんもそうですが,まったく国籍不明。まさにワールド・ワイドです。 民謡とかの節が出て来るけど,ちょっとしたエッセンスであって,それがすべてじゃないもの。 やっぱ,これからの日本のワールド・ワイド・ミュージックは,佐藤さんの肩にかかってるんだナ,と実感するサウンドですよ,コレは。
佐藤:それほどの気負いはないけど,これからもランドゥーガの形を変えながら自由なスタイルで活動していきたいと思っているのです。 メンバーも固定させないで,今度は東南アジアのミュージシャンたちにも参加してもらったりしてね。おもしろくなるんだったら,何でもアリですよ!
w ランドゥーガ研究会 http://sound.jp/randooga/index.html