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1999.8.6〜8ランドゥーガ・ワークショップ山口県/秋吉台国際芸術村での配付資料です

1999.8.6〜8
RANDOOGA SEMINAR
参加者の手引き

by SATOH Masahiko

[I]RANDOOGAについて

RANDOOGAとは

老若男女、国籍、音楽経験の深浅、演奏技術の巧拙、音楽の分野、などの違いを一切気にせず、誰でも参加できて同じくらい楽しい。そんな音楽があったらさぞ愉快だろうな、という発想から生まれたのがランドゥーガです。

しかし、これは今まで世界のどこにもなかった音楽なので、当然のことながらお手本はありません。したがって、どのようにしたらみんなが楽しいか、それすらもわからないのです。 ただひとつ言えることは、何日も難しい練習をして、その結果なにか特殊な技術を覚えるというたぐいのものではないだろう。理想は、集まった人たちが誰かに導かれることも何の規制をうけることもなく自由に音を出し、そこから自然に何かが生まれる。このあたりではあるまいか。

自由に音を出す、とはつまり<即興演奏>のことです。

漢字が四つも並ぶと、なにやら偉そうで、「どうしたら良いのか」と思われるかも知れませんが、なんのことはない、思うままにふるまえばよいのです。ただ、多人数になればなるほど、各自が勝手に音を出したら、無政府状態の騒音になるか、あるいは互いに遠慮して無音になるか、どちらかに落ち着いてしまうことが多い、と私の経験から言えます。

そのような両極端を避けるために、ごく簡単なルールを設定してみようか。それから、「即興とは好きなように音を出すことさ」と言われても、「さて」と途方にくれてしまわないように、少々の手引きになることをやってみようか。

今回のセミナーでは、このあたりを気楽に追求してみることにしましょう。

余談ですが、
偏見を恐れずに言えば、
他の分野とランドゥーガとの位置関係は右のようなものではないかと思います。

RANDOOGAの楽しみ方

ランドゥーガの楽しみ方は大きくわけてふたつあります。

(1)二人か三人が一組になっての即興演奏。
これをソロと呼ぶことにしましょう。イタリア語だと、複数形でソリというのが正しいのですが、あまり厳密でなく、というのもランドゥーガですから。

なぜ複数で即興演奏をするかというと、たった一人だと途中でアイデアが湧かなくなったり、ひとりよがりになったりするからです。複数だと、たがいに触発されます。そしてなによりも大切なこと、<他人の演奏を聴く>という気持ちが生まれます。さらに、<他人の演奏にどう答えるか>を考えるようになります。 外国人であろうが、違った分野の音楽から来た人であろうが、その人が言いたいこと、表現したいことをまず聴く。ここから即興演奏がはじまるのです。自分と違った考えを嫌うのではなく、受け入れることによって、どれほど離れた音楽とも交流してしまおう、ということもランドゥーガの目的のひとつです。

(2)全員での合奏。
合奏には、大別してふたつの場合があります。

I)全員で音を出すなかで各々が楽しむ。
合奏は約束ごとで進行します。約束ごとはきわめて簡単で、しかもゆるやかです。
そのためにひとりひとりがいろいろと工夫をこらす余地が残されています。
むろん約束ごとにそのまま従っていても良いのですが、許容範囲内でどのようにでも変化させて楽しむことができます。
II)ソロを盛り上げるための合奏。
ソロの進行を聴きながら、「そうそうその調子」とか「もっと頑張れ」とか、囃したりノセたり、合いの手を入れるものです。指揮者か、グループ・リーダーの合図で音を出します。これをソロ裏の合奏と呼ぶことにしましょう。

世の中に普通にある音楽は、合奏といえばいかに正確に、乱れずに合わせるかを練習するものですが、ランドゥーガではそのことをあまり問題にしません。それよりも、合奏のような形を借りて、皆で楽しもうというわけです。

RANDOOGAでの演奏のかたち

ランドゥ−ガの演奏はどのように進んで行くかを説明します。

これまで何回かこのような演奏をやってみた結果、ある程度定型ができあがって来たのですが、当然のことながら「これでなくてはならない」というものではありません。もしみなさんがこういう形の音楽を面白いな、と感じ、自分もやってみようかと思ったら、そのときは独自の方式を作れば良いのです。

(1)合奏のための決まりごとをいくつか設定する。
(2)ソロのための小グループをいくつかきめる。
(3)人数が多い場合は、合奏をいくつかのサブ・グループに分け、それぞれにリーダーをきめる。
(4)指揮者の指示に従って演奏開始。
(5)指揮者は合奏部分、ソロ、ソロ裏の合奏、ソロ交代、合奏の強弱、速度などを指示する。

 

[II]<決めごと>について

よく使われる<決めごと>をいくつか取り上げてみましょう。他にいくらでも考える
ことができるでしょう。今回は、前もって用意した何枚かの指示板についての説明です。

1.定速
全員が基本的に同じ速度を感じつつ、各々が考えた音型(パターン)をくりかえす。だれかひとり(たぶんリーダー)が速度のもとになる単純な音型を示すこと。
2.高速
各自が<非常に速い>ということを表現する。全体で見ると、高温の星雲ともいうべき状態になるはず。
3.一息
各自一息の長さだけひとつの音を続ける。打楽器や撥弦楽器は細かく同じ音をおよそ一息の間くりかえす。(トレモロという)
4.一発
合図で一音を短く。
5.まばら
各自自由に時々音を出す。一度に一音ないし二音ほど。強さもまちまちになのがよい。人数が多くなればなるほど、各自が出す音の間隔は長くなるでしょう。
6.ゆったり
各自のんびりとおだやかな旋律を演奏してみましょう。打楽器や撥弦楽器はトレモロの強弱で表現してみる。
7.リーダーに続く
リーダーの演奏を再現してみましょう。
8.音のウエーブ
説明するまでもないかな。
9.ソロ開始
この合図でソロの順番にあたる人は<ソロの座>に移動します。10.ソロ交代
次のソロのグループと入れ替わります。
10.ソロ交代
次のソロのグループと入れ替わります。

[III]即興演奏の手がかり

即興演奏に慣れるための簡単なトレーニングをいくつか考えてみました。楽器がなくてもできるようなものがあります。気軽に楽しんで下さい。

ほとんどがA、B二人となっていますが、工夫すれば三人でも四人でも可能です。

1.打楽器または拍手で、
A:数個の音のパターン(同じ形のくりかえし)を続ける。
B:Aの打つ音と音の間をねらって、なるべく重ならないように、またなるべく繰り返しの音型にならないように打つ。
2.打楽器または拍手で、
A:音三個、休み一個ほどの割合でパターンを作り、続ける。
B:Aの休みの場所に自分のパターンを作って入れて行く。
3.管楽器または声で、
A:長い音1、短い音1、休み1のパターンをつくり、繰り返す。タイミングを変えずに、音の高さを毎回変えてもよい。
B:Aの休みの間に、長い音ひとつで応答する。
初めの段階ではAの出した音のどちらかと同じ音で答えるようにし、慣れてきたら違う音を出してみる。
4.管楽器または声で、
A:ほぼ一息で歌いきれる程度の簡単な旋律を歌う。繰り返しである必要はない。
B:初めの段階では、少し遅れてできるだけ忠実にAを追って行く。
慣れてきたらAの雰囲気だけをたよりに自分の旋律を作って行く。
5.管楽器同士でも、打楽器同士でも、声や楽器の混成でもよい、
A:不規則に、パターンにならないように短い音を出す。
B:Aが音を出したらなるべく間を置かずに短い一音かニ音の応答をする。
AはBが応答するまで次の音を出さない。
6.管楽器または声で、
5と同じように、ただし今度はAは長い一音でも短い一音でも任意に出せる。またBもニ音のうちどちらか、または両方が長い音となってもよい。
7.もしも興が乗ってきたら、
ABが瞬時に入れ替わるような実験に進んでみる。入れ替わりは、手で合図することもできるし、アイ・コンタクトでもよい。
 
8.三人以上の場合、
輪になって、誰かが簡単な音型をひとつ示す。隣の人はそれをわずかにかえて演奏する。さらに隣の人がもう少し変える、というように順次送って行く。
慣れてきたら、ひとまわりしないうちに最初の人が新しい音型を出して、ふたつの音型が形を変えながらぐるぐる回るようにしてみよう。
9.管楽器または声で、
自分の出しやすい、あるいはすきな高さの音をABが同じ個数決めておく。それらに下から1.2.3.…のような番号をつける。AB以外の人になにかの方法でたとえば1322354562のように一連の番号を出してもらい、それに従って演奏する。各音の長さは自由。

[IV]完全即興について

即興演奏は、世界中のいろいろな音楽のなかにあります。今の西洋音楽、つまりクラシックにも以前はありました。インドやアラブの音楽では、かなり高度な段階になったものにのみ即興演奏が許されます。ジャズは即興演奏が重視される音楽ですが、ひとを納得させる演奏のためにはジャズ特有ないろいろな言い回しを知る必要があります。

西洋音楽でも、20世紀に入っていわゆる現代音楽とよばれるものになったあたりで、演奏者に自由に解釈してもらう<偶然性の音楽>が出現しました。そこでももちろん、現代音楽にふさわしい解釈というものを知っていることが前提となります。

このように即興演奏は、どのような分野においてもなんらかの決められた道筋の上に立って進められるものでした。つまり、即興演奏は見知らぬ人が入って来て、いきなりできるものではなかったのです。

さて、音楽のいちばんはじめの姿を考えてみましょう。音楽はいつごろ出現したか。たぶん、地球上に姿をあらわしたとき、人間はすでに歌ったり踊ったり木や石をたたいたりする動物だったのではないでしょうか。そして、そのときの歌は当然即興だったはず。

してみると、人間にとって即興は、原初から備わった権利、基本的人権にも匹敵するようなものといっても良いものです。

つまり、即興をするためには<しきたり>とか<技術>は必要ない、ということになりはしませんか?

必要なのは即興をしたい、という<気持>と、しきたりとか技術を一度捨ててみるという<勇気>でしょう。

このように、なにものにも制約されず、事前に何の準備もしない即興を完全即興と言います。英語では<total improvisation>とか<free form improvisation>です。

さて、ランドゥーガでみなさんが演奏するソロ部分は当然<完全即興>であるわけで、ならばなにも心配ないではないか、というとそうではないところが面白い。

複数での即興演奏は、<人間と人間のつきあい>あるいは<会話>に似ています。むしろそのものと言ってもいいかもしれません。相手が友人であるか、恋人であるか、家族であるか、会社の同僚であるか、どのようなときにも<つきあい><会話>があるはずです。

たとえば、一方がべらべら喋り続けたあげく「じゃ、さよなら」とか、「ふろ、めし、ねる」の三語で十年間。これを<人間と人間のつきあい>とは言えないでしょう。

互いが対等で、互いに相手の立場を尊重し、一方的にならず、相手の考えや発言を注意深く聞き取り、真摯に応答する。ときに対立し、ときに討論し、ときにうなづき、ときに勇気づけ、ともに心配し、ともに笑い‥‥多少キザですが、こんな関係だったらかなり理想的だと思いませんか?

ランドゥーガでの理想的な即興演奏は、まさにこれです。

では、具体的にどのような点に着目すれば、相手の言いたいことが見えてくるのでしょう。ひるがえって言えば、どのような点に気を配れば自分の発言が明確になるか、です。
さらに、それがわかったとして、どう対応すれば会話が成立するか、時間が許せばこのあたりまで踏み込んで考えて見たいと思います。

参考までに、ごく重要なポイントをあげておきます。

着眼点
発言を瞬間的にさまざまな要素に分解する。たとえば
質感:音の密度、強さ、高さ等
速度感:速い、遅い、アクセントに周期性があるか、呼吸等
応答
要素に分解できれば、それに対する対応を考えることができる。たとえば、対立するなら強→弱高→低上昇→下降速→遅のように。
さらに、それらの総合として
表・裏、肯定・否定、表裏の交代、継続・転換なども視野に入ってくる。
注意点
楽器の違いによる音量差
相手の発言を促す<間>

最終更新04/01/01
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