エイコ

epilogue


坂の下からパトカーがノロノロと車を先導しながらやってきた。エイコはさっきまで立っていた車道に目をやった。車道はヘッドライトに照らし出され、何千、何万もの光の粒が透明のバリヤを作ろうと、跳ねるように坂の途中で光っていた。坂の上ではその光によって作られた様々な影達が互いにくっついて、バリヤに対抗するかのようにいくつもの真っ黒の輝く輪のようなモノになった。輪のようなモノはグルグルとまるで踊っているかのように回り、溶けあいながら次第に一つの生き物になっていった。それはとても懐かしく、とても逞しく見えた。その生き物はエイコを見るとニヤリと笑った。そして坂の下へと顔を向け小さくうなずくと、長い耳を揺らしバリヤに向かって弾丸のように一直線に飛んでいった。「キィ!」と声を発しながら。

「どうエイコ?」
エイコは暫く「生き物」の声を反芻していた。そしてその声が頭に焼き付いたところで口を開いた。
「私? そりゃ、当然でしょ」



通り過ぎたパトカーから落とされたアナウンスが車道に横たわり、風がそれを引きちぎっていく。
「今日の歩行者天国は終了しました。車道に出ている歩行者は危険ですから歩道に上がって下さい。繰り返します。今日の歩行者天国は終了しました………」







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