「いい意味でも悪い意味でも、
何もかもがクリアに見えた2年だった」

――ついに始動するわけだけど、CRAZEを脱退してもうどのくらいになるんだっけ?
慎一郎
 2年近くになるね。発表されたのは2000年6月17日になってたと思うんだけど、実際に脱退(の話を)したのは2000年6月12日だから。未だに携帯電話のフリー・メモに書いてあるんだ。“6月12日、CRAZE脱退。胸が痛い”って……。
――あらためて聞くけど、その間ってどんな生活を送ってきたの?
慎一郎
 とにかく曲はすごく作っていたよね。それはべつに意識してないし、CRAZEを脱退した次の日から自然に作っていたけど。それと、サポートしてくれるメンバーを探しに走ったりとか。あとは……家で悶々としてた(笑)。
――(笑)。慎一郎くんは自他共に認める曲作り中毒だからね。
慎一郎
 俺? 大好き。だって、(取材用のテープ・レコーダーを指して)こんなテレコに吹き込んで作ってるんだけど、思いついたままボンボン入れていくじゃない? ドンドン消えていくわけ(笑)。
――(笑)。録りだめしておくことはしないわけ?
慎一郎
 うん、テープ1本しか使わない人だから(笑)。そこでテープを入れ替えて、時期とかをメモして分けて保存しておくってことが、B型で几帳面じゃないからできない(笑)。だから、つねに一本のカセットテープしかないわけ。例えば60分テープが、いずれ両面録り終わるでしょ。そうするとA面に戻らなければならない。そこでA面を聴き直して、“こんな曲、けっこう前に作ったな〜”とか思いつつ、それを消して、また新しい曲を作る(爆笑)。だからドンドン、もうグルグル回って、曲数は増えないんだけど、ちょっとずつ変化していってる、みたいな。
――それは自分にとって、時間を置いて以前録ったものを聴いてみて、ふるいにかけた上で残った曲を進化させていってるのかな?
慎一郎
 それもあるし、その曲が選ばれる運命みたいなものもあるかな。結局、全部聴いたりしないの、B型だから(笑)。60分テープを最初から最後まで聴いて、“どれを使おう? あれを使おう”とかっていうのは面倒くさいからやらないのね。だけど、適当にルーレットみたいに巻き戻していって、ピタッと止めて流したのがよければ、それを使ったり。すごい気まぐれだから。
――B型だから(笑)。
慎一郎
 そう(笑)。でも、逆にそういう作業の中で、昔の曲がすごくよかったりして新鮮な発見があったりする時もあるのね。それを手直ししたりとかもするし。事実上、何曲作ってるかわからないほど、すごくたくさん作ってるんだけど、つねに60分テープに収まってる。それでタチが悪いことに、松田樹利亜のプロデュースもやり始めて、彼女の曲もそこに入ってるから、もうグッチャグチャになってた(爆笑)。だから、さすがにその時は“これは俺の曲で〜す”って曲の最初に吹き込んでやっていた(笑)。
――そんな中、自身のホームページを通じてデモMDを配付したよね。あれはどういう意図から?
慎一郎
 あれは、ファンの人達が待ち焦がれているのをBBSで知ったから。デモ・テープのクオリティも意外と低くなかったっていうのもあるし、俺のファンだったらデモ・テープから本チャンのレコーディングまでの過程というのを知れるし、レアなわけじゃん? そのデモMDの意味が。そういうアーティストってあまりいないし。俺、尾崎 豊のデモとか、じつは聴いたことがあってさ。“本チャンだと、こういう風になっちゃうんだ!?”みたいな発見があったりとか。みんなも楽しいかなと思って。だから、自腹切ってあげたの。
――ダビングも自分でやったの?
慎一郎
 もちろん! 発送もすべてね。
――自分のホームページを開設してみて、ファンの反応はどう感じている?
慎一郎
 カウントを取ってないから、どれぐらいの人が訪れてくれてるのかわからないけど、BBSとかは毎日見てるよ。今まではこんなにダイレクトにファンの気持ちがわかったりする手段はなかったから、すごく新鮮だった。今もすごく楽しみではあるね。だからといって、逆に否定的な意見とかを書き込めなくなるのはイヤだな、っていうのはある。みんな、俺のことが好きな人が来るんだろうけど、ファンにもいろいろ意見があるわけじゃない? そういうのは何でも書けばいいと思う。誰が見てもあまりにも気分を害するヒドい書き込みは削除してもらうしさ(笑)。
――ソロ時代も含めて、この音楽業界での活動も19歳からだから長いでしょう? その中でも、CRAZE脱退後のこの2年近くっていうのは一番いろんな人に会った時期なんじゃない?
慎一郎
 うん、一番いろんな人に会ったけど、一番苦しかったよ。自分自身で苦しかった。もういろんなことでね。だって、今まで絶対に何とかなると思ってきたわけ。俺には才能があるし、運もあるし、べつに何かを壊して次に行くことって、自分自身の努力ももちろんあるんだろうけれど、意外と今までスンナリ来たから。今考えると、すごくナめてた部分があってさ……。でも、ここへ来て……、2年前にCRAZEを脱退してさ、ホントに何もなくなったもん。例えば、CRAZEを脱退するまでは連絡を取っていた人が、これ、ウソみたいな話なんだけど、急に連絡取れなくなったりね。今まで普通に仲良くて、気にしてるような素振りを見せておいて、いざこっちが相談を持ちかけたらトンズラかましたりとかさ。そういうことがけっこうあって、いろんなものがなくなって、アレ? って思った。それで2年近くずっと……、今もけっこう日々悩むことはあるけど、いろんなものがなくなった時にさ、側にいる人ってすごく大事じゃない? だって、俺と付き合ってても利益があるわけじゃないじゃん? だから、普段は面と向かって言うのが照れ臭いから言えないんだけどさ、的場さんも含めて、そういう人達、そしてファンのみんなが、数少ないかもしれないけど、いてくれたっていうのは本当に嬉しかった。まぁ、いい意味でも悪い意味でも、何もかもがクリアに見えた2年だったよね(笑)。

「松田樹利亜をプロデュースしたことで、
なんか吹っ切れたんだよね」

――自分のプロジェクトを進めつつも、先に表面化したのが、さっきも話に出た松田樹利亜のアルバム『DIVE』のプロデュースだね?
慎一郎
 そうだね。彼女はCRAZEがすごく好きだったんだよね。ああいうサウンドや曲調がすごく好きで、俺がいた時のアルバム(『ZtsG〜code_number_7043〜』)もすごく好きだったみたいでライヴにも来たりしていて。かつて事務所が一緒で顔見知りではあったし……それ以上聞かないでよ(笑)。実際、すごくロックに対してピュアな人だからね。
――彼女から曲調のリクエストみたいなものはあったの?
慎一郎
 それは常にあった。曲を作る上でね。曲を作ったらすぐに聴かせたし、たぶん、それは30〜40曲ぐらい作ってたと思うんだけど、聴かせた時点でキー合わせをやったりとか。それで1曲仕上げた段階で、“次はこういうタイプの曲はどう?”みたいに俺が提案して。提案は全部、俺がやったけども、“いや、そういう曲はいらない”とかハッキリ言われるし(苦笑)。ぶっちゃけた話、“こんなカッコいい曲を作っちゃったよ”って、自分が歌おうと思って作った鈴木慎一郎用の曲も、試しに聴かせてみたら“それ、くれへんかな?”って。こっちは“はぁ?”みたいな(笑)。“これはちょっとなぁ……”って言いながらあげた曲も何曲かある。だから、ホントは俺が歌うはずだった曲もあるんだよね。
――自分が作った曲を彼女が歌う前のヴォーカリストとしての印象というのは?
慎一郎
 同じ事務所の先輩だったりしたこともあるから、いろいろ知ってるけどさ……。キツいこと言うと、ライヴ・アーティストではなかったし、ロック・アーティストではなかったよね。そんなに軽いイメージもなかったけど、いわゆる商業ベースがまずあってのアーティストのイメージはあった。だけど、それを彼女は事務所を辞めたりとか、紆余曲折して、彼女も彼女なりにすごく悩んでいたのも知ってるし。俺は俺で、ソロを止めてバンドを作っては解散して……とか、先が見えないとスパッと止めてしまう性質だから。そういう生き方がいいとは言わないけど、そういう部分に、ないものねだりで彼女は憧れもあったらしくてね。だからこそ作れる音楽ってあるじゃない? こういう俺だからこそ作れる音楽って、たぶんあると思うんだけど、そのエッセンスが欲しいっていうことだったのよ。だったら、俺は何のストレスもないし、あまり他人の曲だからとか自分の曲だからとか区別しないところでやれるじゃない? だから、絶対いいものが作れるなって思ったしさ。
――なるほどね。実際、そこでどういうふうに彼女をプロデュースしようとした?
慎一郎
 まず最初に彼女は歌がすごいから、たぶん今まですごく押さえつけられてた部分ばっかりだと思ったのよ。キレイにまとめ上げられてたっていう部分がすごくわかるから、それを取っ払ったところで俺がやったら、すごくロックになるじゃない? 何がロックかっていうのは語れば長くなるんだろうけどさ、俺の価値観の中でも、ロック・ミュージシャンとかロックっていうところにすごく拘ってるし。その内面っていうのは絶対、彼女の中にもあるって俺は思ってたから。だから、“べつにセールスとか意識せずに、やりたいことやろうよ”って。それでやってみて、“今までのファンが離れようがべつにいいじゃん。カッコいいことやろう”と。ホント、それだけ。だから、自主制作的な……、そこには何の計算もなくて、メーカーのスタッフにも何も言わせなかったしね。プリ・プロやるまで、曲も聴かせなかったから(笑)。出来上がって初めて、“こういう曲だったんですね”みたいな(爆笑)。そういう感じでやれたから楽しかったよ。
――プロデューサー的な仕事っていうのは初めてのことだよね?
慎一郎
 うん。でも、俺、プロデューサーって言葉の響きはすごく嫌いなんだけどね。偉そうでさ。べつに俺は偉いわけではないし、二人でやったってことだから。でも、それがたぶん、外から見ればプロデューサーなんだろうけど。じつは俺はこういうミュージシャン稼業についてから、そういうプロデュースの知識は得たい、作業は覚えたいと思って勉強はしていたんだよね。ただ、女性アーティストをプロデュースするのっていうのは、いろんな誤解や偏見を招くじゃない? 今は特に。俺が見てても、そう思う人はいっぱいいるしさ。だけど、それとは明らかに違うんだよね。たいしたギャラじゃないしさ、べつに。金のためだったら、もっとポップな曲を書いて、売れるっていうところを意識してやるさ。でも、そうじゃないところで、ホントに純粋にやった。だから、今後も首切られない限りやりたいよ。
――実際、いろんなミュージシャン達の手によってアルバムが構築されていったわけだけど、プロデュースする上での管理具合いは?(笑)
慎一郎
 (笑)。管理具合いは俺が知ってるミュージシャンばかりだから。横関(敦/G./THE SLUT BANKS)さんは彼女も昔から知ってるからお願いしたし。横道坊主のヨシトさんとかは、メールで“ハーモニカなんですけど、吹きに来てくれませんか?”って頼んだら、二つ返事で“いいよ”って。すごくアバウトなノリ(笑)。あと、注目すべき点としては、俺がギターとベースをいっぱい弾いてることだね(爆笑)。けっこう、イけてると思うんだけどなぁ……。
――(笑)。客観的に見て、仕上がりはどう思ってる? かなりヘヴィな印象だけど。
慎一郎
 サウンドとか“やりすぎた?”って感じはする(笑)。でもさ、こういうのがあってもいいと思うよ。俺、すごい好きだしね。たぶん、今までの彼女のイメージを追ってる人達にもヘヴィ過ぎるだろうし、世の中のガール・ポップっていう部類を聴いてる人達にもヘヴィ過ぎるだろうけど、俺も彼女もそんなつまんない、誰が決めたかわからないちっぽけな括りの中でやってないから。どっちかと言うと、自分にとってもプラスにならないと嫌なわけで。だから、ある種、俺のファンにも聴かせるために作ったようなところもあるしね。
――なるほど。今までの彼女を考えるとサウンドはヘヴィかもしれないけど、逆にメロディは今まで以上に立ってるし、キャッチーだと思う。要はリスナーがどこを見てるのかなんだよね。アーティストを自分の好みの中に押し込めたいのか、そのもっと先でアーティストの本質や変化まで見てるのか。ま、前者で留まれば個人の主観でしかないから、その人の好き嫌いだけであって、いい悪いまでは言えないからね。それは、どのアーティストにも言えることだけど。
慎一郎
 そうなんだよね。俺も今まですごく狭く考えてたんだよ、音楽とかロックとかっていうことを。“あれやっちゃいけない”とか“これやっちゃいけない”とかさ、勝手に自分で自分を縛っていたんだよね。それに今まで歩いてきた道のりもあるわけで“そこからハズれちゃいけねぇか”とかさ、すごくモヤモヤ考えてた。だけど、松田樹利亜をプロデュースしたことで、なんか吹っ切れたんだよね。“べつにカッコよけりゃ何でもいいじゃん!”ってさ。ホント、音楽やロックに対して、広い意味で考えられるようになった。だから、自分の活動も、べつにいい加減なわけじゃなくて、実際にやってみてダメだったら止めちゃえばいいしさ、他のタイプの曲を歌いたくなったらそれを歌えばいいんだし。そういう自由なところに、今いれるんだよね。だから、いい具合いになった気もする。
――松田樹利亜として考えても濃い部分が出てるよね?
慎一郎
 濃いね。寝起きにはツラいよ(笑)。でも、詞の内容一つ取ってもさ、今回はどうでもいいことって歌ってないからさ。人間的な部分がすごく出てるよ。“こんなヤツはイヤだよ”とか思う人もいると思うし。べつに万人に向けて書いた詞でも曲でもないから、そういう賛否両論はあるんだろうけど、逆にそれがネライっていうか。そんなの、ホントに正直にやったらそうなるに決まってるじゃない? だから、反応はすごく聞いてみたいんだよね。俺が詞のことで彼女に言ったのもそういうことでさ、“どうでもいいことだけは歌ってくれるなよ”って。絶対何かしら意味がある詞……、それは自分自身だけの意味がある詞でもぜんぜんOKだし、それを人に“共感して”って言わなくてもぜんぜんいいから、“とにかく吐き出してよ”っていうことは伝えた。そうじゃないと面白くないからさ。でも、どうなんだろうね〜? 俺はこういうのがすごい好きだけど。ま、あえて不満を言うと、自分のコーラスを小っちゃくし過ぎたかな? 最初は“ちょっと恥ずかしくないか? これ”みたいな(笑)。それで自分のコーラスをけっこう下げたんだけど、後から聴いてみたら、もうちょっと出してもよかったかな、と(笑)。
――(笑)。彼女の新しい一面がすごく引き出されたような感じもするよ。
慎一郎
 そうだね。“こういうことより、ああいうことのほうがよかったんだな”っていうこともあったりするけどね(苦笑)。あと、ヴォーカル・ディレクションしていて、“えっ!?”みたいなさ。それは良くも悪くも発見があったし。
――慎一郎くん的にも今までの発表してきた音源があって、『DIVE』での曲調を聴くと“こんな曲も書けるの?”っていうのも感じられるね。懐の奥深さも出てきたかな、と。
慎一郎
 なるほど。だから、ヘンな話、ここまで深く音楽をやったことがなかったわけじゃん? バンドだったら四人四様の個性もあれば、責任があってさ。自分がやるべきことって限られてくるし。その昔、ソロでやっていた時もプロデューサーっていうのがいたから、その人のジャッジで全部が行なわれてたわけで。イチから、曲が生まれる瞬間からパッケージになるまで、ここまで責任持ったことってないから。自分のことでもないから、すごい疲労はあったんだけど、この楽しみを知っちゃったらさ、もっとすごいやりたくなっちゃうんだよね。自分のことでもそうだし、カッコいい人がいたら、協力していいものを作りたいなとかさ。そういう気持ちはあるよ。
――鈴木慎一郎としてはさ、どうしてもCRAZE時代のイメージであったりとか、DEAL時代のイメージがあるから、どちらかと言うと“初期衝動”的なイメージが強いよね。もちろんメロウなものも歌えるんだけどさ。そういう意味では、慎一郎くんが歌う姿は見えても、曲を作る姿は見えなかった。いい意味で覆されたというか。
慎一郎
 初期衝動っていう部分はすごく意識しているんだけどね、じつは。でも、それって自分だからできることだよね。だけど、自分じゃない人間が歌うことに関してはやっぱりさ、いろいろ客観的に考えなきゃいけないこともあるし。一つのパッケージになった時に、絶対的にバランスが取れてないと……とかっていうことも考えるわけじゃない? ロックって、べつに初期衝動でムチャクチャやりゃいいってもんでもないと思うけど、自分のことに関しては、俺は逆にそういうのが好きだたりするんだけどさ。だけど、その反面、そういうキチンとパッケージとして認められる、かつ、すごく自分でも納得できてカッコいいロック・ミュージックっていうのも好きなわけだよね。それができるんじゃないかなってずっと思ってきて、やったらできた。だから、自分のこととそういう(プロデュースなどの)活動とが、今けっこう混ざってるじゃない? そのバランス感覚も気持ちいい。自分で自分を好きになったりもしたしさ。“こういうことってできたんだ、俺”っていう発見があったりするからね。あとは、一番感じるのはね、自分用の曲だとさ、産み落とした瞬間にもう完成形じゃないけど、ある程度は見えるでしょ? どういうアレンジにするかとか、ここの歌い回しはこういう感じで、詞の内容はこういう感じで……とか。だけど、今回プロデュースしてみて、やっていくうちにドンドン変わっていったりとか、バックのオケが出来上がって、彼女が歌を吹き込んだ瞬間にウワーって感動したりね。そういうことって、自分の時にはないじゃない? もう俺が歌えばこういうものになるってわかってるから、そういうことでドキドキしたりすることはないんだけど、彼女のプロデュースをして、それはすごく楽しかった。ファンで“なんだよ〜”って思ってる人もいるかもしれないけど、全員に聴いてほしいよ、ホントに……。
――次の松田樹利亜の音源の予定は?
慎一郎
 もうレコーディングは終わってるよ。マキシ・シングルなんだけどね。まぁ、楽しいよ。彼女のプロデュースとかで、自分の叶わない夢を叶えるっていうかさ。子供じゃないけど(笑)。絶対的に自分でできないことってあるから、それを形にしていくっていう楽しみもあるんだなぁって。

「俺は、大きな意味で、
カッコいい音楽をやっていきたいだけ」

――自身の活動としては、1月にBLOOD名義でシングル「LOST」をリリースしたけど、当初は昨年11月発売予定だったんだよね?
慎一郎
 そう。そこは強く言っておきたいね。当初はメジャーからリリースするつもりは微塵もなかったんだよね。そんな2年だったから(苦笑)、リリースできるとも思ってなかったし。本当は自主制作で去年の11月に発表するつもりだったんだけど、“お前はそんな小さいところでやってるはずじゃないだろう”って言ってくれる人もいたっていう……。ホントは頑なにインディーズでやろうと思ったけど、レーベルの人と話してみたら、すごく物をハッキリ言う人でさ、ホント、ロックが好きなんだなって思えた人でね。こういう人だったら、インディーズとかメジャーとかこだわることなく、一度乗っかってみるのもいいのかなと思えた。ただそれが、もう録り終わってミックスまで終わった段階でその話になって、一回ストップがかかった、と。
――レコーディングしていたのはいつぐらい?
慎一郎
 去年の9月ぐらいかな。レコーディングのラインナップは、石垣(愛:G./ex. THE MAD CAPSULE MARKETS)さんと大山(正篤:Dr./ex. ZIGGY〜Shammon)さんで、ベースには以前インタビューでも話した新人のコを使ったんだけど、ちょっと追いつかない部分が多くてさ……。
――仕上がってみての感想は?
慎一郎
 じつは俺はあんまり詳しくはないんだけど、“ハードコアですね〜”って、よく言われちゃうんだよね。でも、ハードコアのヴォーカルの人とは絶対的に違うところがあるし、影響を受けてきたものも違うと思うんだけど、うまい具合いにそういった要素もミックスされてるような気もするよ。だから、曲調とかはそうかもしれないけど、ハードコア系のサウンドとはイメージが違うし、かといって、ロックン・ロールでもないし……。微妙な感じだと思うよ。だけど、素で聴いて、カッコいいねって思ってもらえると思うんだけどなぁ……。ハードコア好きの人も“カッコいいね”って言ってくれるかなぁ?
――デモMDに収録されていた2曲も収録されているね。
慎一郎
 うん。でも、当然ながらぜんぜん違うよね。デモは俺が個人的に作ってきたものだから、俺の想いしか入ってないけど、大山さんと石垣さんと俺でアレンジし直したから、ガラッと変わってる。だから、レコーディング作業自体はすごく楽しかった。
――結局、形態的にBLOODというのはソロ・プロジェクト・バンドになるのかな?
慎一郎
 ……う〜ん、そうなるかな。すごく曖昧なところで申し訳ないんだけど、今はそれがすごく心地いいのね。なぜかって言うと、もちろん4人でバンドとして、みんなでやっていくっていうのもすごく素晴らしいと思うし。ある種、それが理想でずっと来たけれども、今の時点で俺は自分の生み出すものを全部やりたいのね。誰に何を言われることなく……っていうのはちょっと違うけど、自分が吐き出したものは全部やりたいし、自分の想いを全部詰めたいの。そうなった時に、バンドだと絶対にいろいろとしがらみが出てくるし、“これはやっちゃいけないのかな?”っていう制約が出てきたりするじゃない? でも、今の時点ですごくボンボン曲が生まれてきたりするから、全部を形にしたいとなったらさ……。かといって、完璧にソロで一人だけのものになっちゃうのもイヤなんだよね。そう考えた時に、このソロ・プロジェクト・バンドっていう曖昧なところがすごく心地よかったんだ。俺が生み出すものをそのまま、みんなでもう一回練り直したりとか、“ここはこうしようよ”ってメンバーが言ってきたりとかさ。それが今回、ぜんぜん良くなっていく方向だったりしたから、すごくいい具合いだと思う。
――でも、それだけのメンバーだったら、みんな、自分は曲げないでしょう?(笑)
慎一郎
 そうだね。でも、それこそ向かってるベクトルがさ、気持ちいいんだよ。もちろん、みんな自分を曲げないし、どっちかって言うと、本来なら俺が一番曲げるぐらいのもんでさ。だけど、誰も曲げずに済む状態? 石垣さんもドンドン、アイディア出してくるし。だから、ギター録りの時とか、わざとブースに入らなかったりしだんだよね。もうカッコよくなるのはわかってるから、全部録り終わった時に聴きたかったりしたからさ。それで1曲たりとも不満には思わなかったし。だから、作業自体はぜんぜんいい具合に進んだと思う。そういう部分ではホント、自由なスタンスでやりたいねっていう話はしてたから。ロックだっていうことに関しては筋は通すけれども、その中でいろいろ揺れ動いたりするわけじゃん? そういうところに忠実にやりたいんだよね。けっしてハンパな気持ちではなく、なるべく人を傷つけないようにさ。だから俺は、大きな意味でカッコいい音楽をやっていきたいだけなんだよね。べつに自分が歌うっていうことではなくて、プロデュースとか、協力できることも含めてさ、自分で興奮できることをやりたいんだよ。だから、自分が歌っているBLOODのシングルも、自分が曲を書いてプロデュースした松田樹利亜のアルバムも、比重は変わんないの。両方、愛着があるし。
――今回、レコーディングされた3曲を選んだ理由は?
慎一郎
 「LOST」と「RED GANG」はデモMDに入っていたけど、この2曲はライヴを意識して作った。ほら、本来はメジャーから出すつもりはなかったからさ。ああいう曲をレコーディングしておこうという理由で、激しいの2曲をまず決めて。もう1曲の「情魂」は自分のためでもあるけど、ファンのことも思って、“こういう曲も聴きたいかな?”って誠意の部分で入れた感じ。
――「情魂」も、2000年11月にはもうデモを聴かせてもらってたから、けっこう前からある曲だよね。
慎一郎
 うん。楽曲的にさ、CRAZE脱退後の心境とかを書いてる曲はあの曲しかなかったから。だから、ケジメの意味でも……かな。
――レコーディング・メンバーはどういう感じで決めたの?
慎一郎
 それはまず、俺がCRAZEにいた時に大山さんとラジオで会って。もともと、以前はZIGGYと一緒の事務所だったこともあったから、そういう話とかで盛り上がったりして。CRAZE脱退後、何度か電話をくれたりもしていたのね。でも、俺、その当時はノイローゼ気味で電話にも出なかったり、留守電も聞かなかったし……。電話をかけたりもしなかった。それで脱退して半年ぐらい経ったぐらいに、また留守電が入ってたから、それじゃ連絡を取ってみようかということになって、飲みに行って盛り上がって決めたんだよね……。石垣さんは大山さんのつながりで、ENDSを一緒にやっていたから、それで“やろうか”って……。
――実際のところ、仕上がりに関しては自分の思ってた以上のものが、かなり引き出された?
慎一郎
 う〜ん……、あのレコーディングの機材とか日程とかの限りでは最高のところを頑張ってやれたと思うけど、やっぱり満足できてない部分はいっぱいあるし、どこをどうしたらよかったなっていうのは明確にあるんだ。いかんせん、下世話な話だけど、予算的な部分とかさ(苦笑)、日程的な部分でやれるだけのことをやった結果が「LOST」であって、当然ながら満足はしてないよね。もちろん、もう次を向いているわけだしさ。
――「LOST」がリリースされて、自身のホームページの掲示板等でリアルな反応が返ってきてたけど、自分が思ってたのと比べてどう?
慎一郎
 微妙って書き込んでる人もいたけどね。……う〜ん、どうだろう? まぁ、みんながみんな、“最高です”っていう反応でも、“ホントかよ!?”って思うタイプだからなぁ……。まぁ、賛否両論あっていいじゃん。だから。その結果っていうか、ファンの反応には満足してる。ただ、掲示板ってさ、書き込むのって10人に一人くらいじゃない? だから、本来潜伏してる人達の反応も聞きたいね。
――けっこう辛辣な意見もあったね?
慎一郎
 あったね(苦笑)。たぶん、「LOST」のことだと思うんだけど、声は加工しないものが聴きたかったとか。まぁ、あれで生声だったらおかしいけど。これも下世話な話さ、ホントはいい音でなるべくやりたかったんだけど、いかんせん、ちゃんとしたプロ・ユースのスタジオでミックスできたわけではなかったし、ホントはストイックに一つ一つの音をやりたかったりもしたんだけどね。グシャっとさせて一体となった荒々しい感じで聴かせたかったりもしたし。だから、ガレージ・パンクみたいなサウンドって言われるんだけど、そうせざるを得なかったりもして(苦笑)。やっぱり世の中、銭か? みたいな(笑)。
――でも、全体的にオーバー・レベル気味なところが、またカッコよかったりもするんだけどね。
慎一郎
 うん。だから、今回の3曲に関しては、今までもそう思ってきたけど、ライヴで育てていくしかないなって思ってるのね。今までもライヴがすごく大事で、そのための音源だっていう意識でやってきたところがあるんだけど、今回はよりライヴで成長させていくしかないなっていう感覚はある。
――次はライヴっていうことになるけど、シングルの時とは違うラインナップでやることになったけど、それはどうして?
慎一郎
 まず最初に価値観の違いだね。芸能人が価値観の違いを理由に離婚するっていうのをよくテレビで見るけど、それがわかったよ(苦笑)。やっぱり、俺と大山さんとの価値観ってあるから。すごく単純に言うと、今後のBLOODとしてのヴィジョンっていうかさ、BLOODとしてじゃなくても、鈴木慎一郎個人の将来的なヴィジョンとしては、もちろんこのまま終わりたくないわけじゃん。この今の何百人の動員をキープして、目先しか見ないで短い期間でメシを食うとかさ。そういう考えは、まったくないのね。もう一回仕切り直しで、もう一回ちゃんとレールに乗ってさ、いいメシ食えるようになったりとかしたいわけじゃん? やっぱり。だから、今まで俺はいくつも止めてきたけど、いい意味でリセットして新人のつもりでやってきたから。そのつど“もう一回這い上がってやるぞ”っていう気持ちでやってきたから、今があると思ってるのね。もちろん今回もそういう気持ちでやってるわけだし……。そういう部分でこれから俺は、事務所に所属したりとか、メジャーのフィールドでレールに乗っかって……やっぱり認められたいわけじゃん? 俺が好きでやってるロック・ミュージックというものをメジャーにもしたいわけだし。それは“売れたい”っていう言葉に置き換わるのかもしれないけど、それなら俺は“売れたくない”なんて言いたくはないし。まぁ結局、そういう部分での価値観の違いだよね。これは別に否定してるわけではないんだよ。
――うん、人それぞれの価値観の問題だからね。ただ、そればっかりは同じ方向に向いてないといかんともし難いものでもあるよね。
慎一郎
 そうなんだよね。レコーディングが終わった後に今後のことを話し合った時、だんだん意見も食い違ってきたし、何度か話し合ったんだけど、結局、その部分はお互い分かりあえなくて……。大山さんはZIGGYやShammonで第一線でやってきた人で、もちろん今もすごく尊敬してる。でも、活動面で向かってるベクトルが違い過ぎて、このままライヴをやるのもお互いにどうか? と。それで一度会議をして、お互い別々に頑張りましょうということになったのね。そこからは俺が全部一人でやってきた。
――結局のところ、BLOODという名義があった上で、絶えず変わっていったりするの?
慎一郎
 そう……なるかな。ホントはメンバーを固定してやっていくほうが、すごくやりやすいし、いいのかもしれないんだけど、悲しいかなメジャーでのリリースが決まってからこうなってしまった……。それなら、せっかくこういう状況になったりしてるから、いろんな人とやったりしてみたいなって。
――ライヴの日程もすでに発表しちゃっていたし、そこからも忙しかったね。
慎一郎
 そうなんだよね。大至急メンバー探し(苦笑)。結局、愁(Dr./ex. AION)さんとDEAN(B./AION)さんは的場さんに紹介してもらってね。
――そうでした(笑)。まぁ、僕もしつこくて未練がましいのかもしれないけど、おそらく誰もが思い浮かべるであろう理想のメンツはもう成しえないわけで……。そこで、本業の活動には差し支えない人が大前提で、今まで慎一郎くんがやってきた人達にはプレイ的に劣らないレベルと音楽指向で考えると、愁とDEANしか浮かばなかった。リズム隊はすごく大事だからね。でも、たぶんみんなは“えっ?”と思うような気がするけど。
慎一郎
 そうかなぁ? でも今思うと、昔はレコード会社も一緒だったこともあるんだけど、レーベルは違ったから接点はなくて。実際、愁さんとかDEANさんとかとスタジオで合わせてみて、ホント、すごいと思った。こういうリズム隊っていたんだ!? って思ったんだよね。ある意味、直球というか、“これでどうだ”っていう感じでさ、それがすごく気持ちいいし、歌っていて背中を押してくれるビート感があるんだよね。
――背中を押すだけじゃなくて、追い越していきそうな勢いだけどね(笑)。
慎一郎
 そうそう(笑)。そういう関係が好きなんだよね、俺。お互いに、追いつけ追い越せっていう、なんか闘ってる感じがいいんだよ。ホント、自分よりもすごい人とやってみたいって思っていたからさ。若いヤツでもすごいヤツはいるんだろうけどさ、俺が求めるレベル以上のヤツとは出会えなかった。それで結局、落ち着いたところは先輩ミュージシャンであり……。そういう人とやるのが、すごく勉強になるし、気持ちいいし、アドレナリンが出るからさ。
――ISAO(G.)くんは、どういう経緯で一緒にやることになったの?
慎一郎
 俺のソロ時代からの友達のヴォーカリストがいて、今は体調を崩して地元に戻ってしまったんだけど、そいつが地元で可愛がってたバンドのギタリストがISAOなの。で、バンドが東京に出てくることになって、その友達から託されてさ。それで今、俺が預かってるっていう。実際にバンドの音を聴いてみたら、ISAOはこっちに伝わってくるいいギターを弾いていたし、“じゃあ、今回一緒にやってみるか”って。
――ようやくメンツも揃って、ひさびさのライヴだけに燃えてきたんじゃない?
慎一郎
 うん。CRAZEを脱退してから何回かスタジオに入って音を出してきたけど、今回はひさびさに燃えてきた。やっぱり大事なのって、やる気じゃない? いくらサポートとはいえ、やる限りはサポートとは思ってほしくないし、そういう感覚が見えるから嬉しいよね。今回、すごくいいなぁと思えたし、絶対にこのメンツでライヴやったほうが、よりカッコイイと思えたからやるわけで。そういう刺激が今は欲しい時期かな。
――2002年はライヴをガンガンやっていこうと思ってる?
慎一郎
 やりたいね。だけど正直なところ、ライヴが一番好きだしさ、絶対にやっていきたいんだけど、このままライヴだけを連打するのはちょっと危険かなって思ってて。だからもう一回、2月17日のライヴが終わってから状況を整えて、ちゃんと土台を作った上でライヴをやっていきたい。このままライヴをやっていっても、それこそ今あるものでメシ食っていくような感覚だから。そうじゃなくて、ちゃんとキッカケを作ったりとか、ビジネスとしてもちゃんとやりたいし。
――アルバムも、それからって感じ?
慎一郎
 そうだね……。曲はたくさんあるし、いつでも作れるんだけど、あとは周りの状況っていうか……、大人な事情をね、しっかりしないと(笑)。じつはもう作業に取りかかってるからさ、次はその取材をしてよ(笑)。
■ end ■

DISCOGRAPHY

「LOST」
(MAXI-SINGLE)
BLOOD
CROWN/CRCP-86/\1,200 (税込)
NOW ON SALE

『DIVE』
(ALBUM)
松田樹利亜
Tricycle/TNCH-8/\3,000 (税込)
NOW ON SALE

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鈴木慎一郎 Official Site BAD BLOOD

BLOOD Official Site BLOODonWEB


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