理科実験を楽しむ会
 作用反作用(その4)  その他の問題       07年10月30日
 
 例1 学習指導要領の姿勢
 教育界にも、力の学習は、得に作用反作用は、難しいという「誤解」で<避けて通っている>雰囲気が感じられます。
 小学校の力学教材の一部について上述しましたが、中学校でも昭和53年ころまでは作用反作用を教えていました。ところが、昭和55年になると、作用反作用というテーマは中学から撤退します。僅かに、一部の教科書に ”力は一対になって働く”という形で残る程度になりました。
 平成10年に改訂された中学校学習指導要領の解説(理科編)には、運動のところで次のように述べられています。
  <物体に力が働くとき反対向きにも力が働くことに触れること>     
  これが唯一、作用反作用(の一部分)に触れた箇所ですが、力がはたらくものを示さない欠陥が、ここにも見えています。これを、この文章を借りて完全な文章にするならば、<物体に力が働くとき、これに力を及ぼした(他の)物体には、反対向きに力が働く> ということになります。< >は石井
 しかし、中学では、作用反作用の法則を、明確な形で指導すべきです。解説の一部で、不完全に触れる、というのではなくて。
 そして、ついに、高校物理の教科書の中には、前述のように、作用反作用の記述がないものさえ現れたのでした。物理の教科書にですよ!
 案ずるに、上記のように学者をはじめとする教える側の混乱が、作用反作用は難しいという錯覚を生み、これによる教育的配慮が、歯止めの効かない後退を生んだのではないかと思われます。理科の教員の中でも、ここの理解は極めてお粗末です。正しく教えを受けたことがないのですから当然です。それに加えて、学習指導要領にないという「大義名分」が、この重要な項目を<避けて通っている>様子が伺えなくもありません。
 
 例2 斜面上の物体にはたらく力                                                                                 E
 斜面上に静止しているブロックにはたりている力について、私がC図を最初に見たのは、科教協千葉支部の学習会だったと記憶しています。これまで、一般に描かれてきた、@図と比べて、何と美しいことか。  この図は、私が科教協大会や教育研究集会などでずっと勧めてきたものの一つです。今回、改訂された三省堂の教科書にはこの図が掲載されています。始めて目に触れるものです。ちなみに、摩擦力に配慮したA図では、トルクがはたらいてブロックは転倒します。垂直抗力と摩擦力の位置に配慮したB図は力学的にはOKですが、抗力を二つに分けて考えるのは、後で扱うべき事柄で、初めから、分力を考えるのは<考えもの>です。”初めにCありき” なのです。@は論外です。
 ところで、斜面上のブロックが、他の一つの物体(斜面)から垂直効力と摩擦力という二つの力を受けるのはおかしいと思いませんか。”一つの物体からは一つの力を受ける” と考えるのが妥当だと考えて、授業をそのように教えたところ、”地面に置いたものは、地球から、重力と抗力の二つをを受けるじゃないか” と生徒から詰め寄られましたことがあります。生徒は鋭いです。
 
 例3 入試の問題
 今年のセンター試験の物理Aの問題です。(図は示されていません)
 ”テーブルの上にりんごが置いてある。次の力(a〜d)の組み合わせで作用反作用の関係にあるものを、下の@〜Eのうちから一つ選べ。
  a 地球がりんごを引く力(重力)  
  b りんごがテーブルを下向きに押す力
  c テーブルがりんごを上向きに支える力
  d 地球がテーブルを引く力(重力)
@ aとb   A aとc  B aとd   C bとc   D bとd   E cとd ”
  答えはCです。 (1)の例3のアンダーラインの部分の記述のように、重力とそうでない力が作用反作の関係にある、などということはないので、a、dとb、cの組み合わせは意味がありません。だから、初めから@ADEは×なのです。
 この大学入試の問題を、1968年の千葉県高校入試の理科の問題と比較してみてください。隔世の感があります!                           F
 ”10gのおもりを加えごとに1cmのびるつるまきばねがある。このばねを2本並列に使って20gの滑車と20gのおもりをつるす。図の、F1は糸がつるまきばねを引く力、F2 はつるまきばねが糸を引く力、 F3はつるまきばねがつりわを引く力、F4はつりわがつるまきばねを引く力、であり、つるまきばねと糸の重さは考えないとする。
(1)F1、F2、F3、F4のうち、作用反作用はどれか。
(2)F1、F2、F3、F4のうち、つりあう力はどれか。
(3)F1の大きさはいくらか。
(4)右側のつるまきばねののびはいくらか。”
 大学入試の答えは答えC、高校入試の答えは、
 (1) F1とF2、 F3とF4(セットで正解)
 (2) F2とF4
受験生が全滅した問題です。図のばねから上の部分が、つりわです。 (3) (4)は省略します。
 
 例4 小学校でも力学を
 次のような文章があります。You cannot touch without being touched.   *
触れられることなしに、触れることはできない。作用反作用の原理を見事に表現しています。
 これを次のように言い換えてみましょう。You cannot pull  without being pulled. 
あるいは、                    You cannot push without being pushed.
 つまり、引かれないで引くことはできない。押されないで押すことはできない。
 ものに力がはたらけば、止まっているものが動き出したり、動いているものが止まったり、スピードが変わったり、方向が変わったりすることを、具体的な例で、子どもに実感させます。ネルギーなどというあやふやな概念は使わせません。
  自動車を止めるときにはブレイキをかけると、運動のエネルギーが熱に変わって止まる、などというのでは駄目です
 エネルギーは魔法の言葉です。運動するとエネルギーを使うから体重が減る、というように使えます。エネルギーには重さや軽さがあるのですか?”息や汗で物質が身体から出て行った分抱け体重が減った”といえないと駄目です。
 最後に
 先日、TVでの小柴昌俊さんの話を聞きました。アメリカにでは、一つのテーマについて討論をするときには、地位とか資格などには関係なく、徹底的に行うのだが、日本にはそういう雰囲気はなかった、と語っていました。
 作用反作用の問題については、多くの学者さんと意見を交換してきましたが、全くその通りで、自分の知識だけを専ら主張されて、こちらの意見は殆ど耳にも入らないといった雰囲気です。最後には、”今後、参考にさせてもらいます”は良い方(!)で、 ”見解の相違です”であったり ”つりあうという言葉を同じという意味に使っています” であったりして、話になりません。 物理の教授が、物理の本を書くに当たって、学術用語(テクニカル・タームス)を日常用語と混同して使用するなど、全くもって驚きです。
 今でも図書館で、物理の参考書や啓蒙書などには、広く目を通していますが、かなりの本が、積極的に間違っていたり、間違っていなくても不十分であったりで、困ったものです。高校の教科書が幾分良くなってきたのが、せめてもの救いです。
 
 先に触れたように、この一文は2000年の科教協千葉大会のリポートとして書いたものに、一部書き加えたものです。ご意見やご感想があったらお聞かせください。私が勘違いなどをしているところがあるかもしれませんので、気がつかれましたら、ご指摘くだされば幸甚です。   
                         
  * FUNDAMENTAL OF PHYSICS   HALLIDAY RESNICK   THIRD EDITION   p84
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