作用反作用(その2) 舟の問題 07年10月10日
《新・パズル物理入門》(ブルーバックス 2002年10月20日発行
写真
いまだに<舟>の問題です。この本を目にしたのは02年11月早々のことでした。
帆前船(ママ)の問題は、既に議論し尽くされている筈なので、この期に及んで…というのが驚きでした。本書の著者とは、前にも意見を交換したことがあったのですが、理論に関するやりとりでは、”意見の相違である”という切り札を投げられると、もう、最後の障碍をクリアすることはできないのでした。
実験で決着するしかないのです。そこで…。 著者に次のような手紙を書きました。
ブルーバックスの《新・パズル物理入門》を拝見しました。
イントロの帆前船の話です。
p16 ”さて、こうして帆と、風を起こす装置を積んだ舟ははたして前進するか…という問いは、物理パズルの代表的な問題の一つとされているのである。実際に人の乗れるような舟を考えてもいいし、おもちゃの舟にこのような装置をとりつけたのもを想定してもかまわない。大きくても小さくても話は同じであり、要は前進すかどうかを考えてみるといころにパズルとしての面白さがある”
100円ショップで、<ザ・扇風機>という小形のファンを買ってきました。マニキュアを乾かすもので、単3乾電池(別売)1個で回ります。
15cm×25cmのトレイ(スーパーで使うプラ容器)を舟にし、これに16cm×20cmのトレイの帆を立て、ファンを台に乗せて、帆の後に据えました。帆と扇風機は、両面接着テープで舟にとめてあるので、簡単にその位置を変えることができます。洗面台に水を満たして、舟を浮かせ、扇風機を回しました。舟は前進しました。
トレイの帆は、外側(風が当たる反対側)に膨らみがあるように置いたので、風に当たった帆のような形をしています(p17の絵もそうなっています)。
もちろん、帆の形や大きさや位置(扇風機の大きさには別にしても)などで、舟は前進も、後退もしますし、動かないようにさせることもできます。
参考のために写真を同封しました。この工作は15分でできます。是非、追試を。 02年12月2日 石井信也
著者の住所を確かめようと、講談社に電話をすると、この本が出た前後に、著者は亡くなったというのです。
そこで、代わりに、ブルーバックスの担当者のS・Hさんに、手紙を見てもらうことにしました。
12月16日に返事が来ました。実験をしてみたら、前にも進んだというものです。弁解的なことがいろいろ書き添えてありましたが、問題になりません。
本の記述はこうなっているのです。
p20
”(解答) 帆掛け船は後退することはあっても、決して前進はしない”
私としては、実験で舟が前に進めばそれでもう十分なのです。
本書では、解答の後に、舟が決して前進しないということを、作用反作用を使って延々と説明しているのです。もちろん間違った理論で。その記事は、p15からp27の13ページにも及びます!
おもちゃの舟でやってもよい、と書きながら、ご本人はやってみようとはしないのでした。この問題が、科学クイズの本に、広く掲載されているのは、子引き、孫引きの結果だと思われます。教育の現場では、この誤りが常識になっているのを、提案している大学の先生はご存じないようでした。
編集者からの返事は
”一部に関しては、修正をほどこす必要があるかと思っております”ということでした。私としては、実験は同じ土俵に乗る(見解の相違とは言わせない)ためのイントロであって、作用反作用の説明の部分の誤りを正して貰うことが目的だったのですが…。著者本人でないと説明しても無理かと思い
”改訂する場合には慎重に”ということを、アドバイスしておきました。その後、改訂されたかどうかは知りません。
ちなみに、少々の理屈を述べておきます。ファンや帆と相互作用をしているのは空気です。作用反作用の問題では、間に介在するものを省略乃至は無視して論ずるということがよく見受けられます。ここでは、空気が舟の一部ではないことに気づいていない点が問題なのです。
堀江健一さんの映画をTVで見たことがあります。無風の日に、船の上を歩いて船を進ませようとするシーンがありました。気分はわかります。人は船の一部なので及ぼし合う力は内力です。船は少し動いたように見えますが、人間をも含めた重心は移動していません。人が船から跳び込むとたんに、人と船は別のものになるので、船は「動いた」ことになりそうです。
自動車を止めるときには、どうしますか? ブレイキを踏む! ブレイキは自動車の一部なので、ブレイキの力(そんな力があるとすると)は内力です。自動車に力を及ぼすものは、自動車以外の何かです。それは地面で、自動車を止めるのは地面しかありません。転がり摩擦を滑り摩擦に変えて、地面から止めて貰う装置がブレイキなのです。