おとなのための科学の話(6)  作用反作用           2011年7月16日

                                 

  はじめに

  ものとものとは力を及ぼしあいます.触れていても,いなくても,動いていても,いなくても,これが,力に関する大原則です.

 接触している場合,机とその上のリンゴを考えてみると,その力の及ぼしあいが見えそうです.リンゴは机を押しています.机はリンゴを押しています.これが作用反作用の力です.ものとものとは同一の場所を占められないので,机とリンゴのように, 接触すると反発しあいます.不加入性とでもいっておきましょう.

 触れあっていなくても,離れている地球とリンゴのように,ものとものとは引きあっています.この力を万有引力といいます.しかし,机とリンゴが引き合っている力は小さいのでわかりません.この力が感覚的に把握できるのは,相手が地球のように大きいものの場合だけです.リンゴが地球に引かれる重力がリンゴの重さです.机が地球から引かれる力が机の重さです.    

  これで,力に関することはすっかり終わりなのですが… 

 

  作用反作用

  ばねに吊るされたおもりがあります. おもりはばねを引いています. ばねはおもりを引いています.

  机の上い置かれたリンゴがあります. リンゴは机を押しています. 机はリンゴを押しています.

  触れあっている2つのものは, いつでも, 押しあうか引きあうかしています. これを作用反作用といいます. 片方の力を作用といい,他方の力を反作用といいますが,どちらを作用,どちらを反作用と呼んでも,かまいません. 

  練習です. (  )内は具体例です. 読者は異なった物体で表現してください.

  目的の物体を一つ決めて,その名前を言ってみましょう(例えばみかん, 以下同様)

これに触れているものの名前を言ってみましょう()

この二つのものは力を及ぼしあっています.具体的に力関係を述べてください(みかんが皿を押している, 皿がみかんを押している). 

 直に触れていなくても力を及ぼしあうものがあります(地球とみかん). [地球と皿もそうですが, 目的がみかんなので, 皿に関しては省略します]

 その力の及ぼしあいを言ってみましょう(地球がみかんを引いている. みかんが地球を引いている).

  目的の物体,みかんにはたらいている力を言ってみましょう(みかんが皿から押される力, みかんが地球から引かれる力).

 このとき, みかんにはたらくこの2力がバランスしているので, みかんは静止しています. この状態を, みかんにはたらく2力がつりあっている, といいます.

  今回, 目的の物体としてみかんを取りあげたのは, みかんの運動を調べたいからでした. そのためには, みかんにはたらく力を確認しなくてはなりません. 作用反作用は, ものにはたらく力を探す, 一つの方法でもあります.

  ものにはたらく作用と反作用には量的な関係があります. “作用反作用の二力は, 同時に, 同一直線上にはたらき, その向きは逆で, 大きさは等しい” というものです. これを, 作用反作用の法則といいます.  

 

  重力

 ものにはたらく力を矢印で表します. ものにはたらいていない力なんて存在しません. 地球上のものはすべて地球から引かれています.これを重力といい, この力は, ものの中心あたりにははたらいているとして, この点を作用点といいます. 作用点はグリグリと丸く描き, これから, 鉛直下向き(地球の中心に向う方向)に力の矢印を描きます.重いものには大きい矢印を, 軽いものにはは小さい矢印を描きます. 大きさは自由に決めます. 例えば, 100gの重さを1cmにする, とか.

  先に述べたように, 地球上の物体には, 重力がはたらいています. 質量60kgの人には60kgの力がはたらいています. これを60kg(キログラムジュウ)といいます. 正式な力の単位でいうと, これは600N(ニュートン)になります. 質量の単位はkg, 力の単位はN, kg重は質量の単位を借りた力の単位です.

  重力は地球と物体の相互作用なので, 地球が600Nでこの物体()を引いていると, この人は600Nで地球を引いています. 

  質量60kgの人と, 質量6×10^24(6,000,000,000,000,000,000,000,000)kgの地球が, 600Nという同じ大きさの力で引きあっているということです. どうしてそうなるの? そんなことは誰にもわかりません. そうなっているのだ, と納得するのです.  ものとものとは触れあうことで力を及ぼしあうのですが, 重力は離れていても力を及ぼしあいます. 電磁気力もそうです. これらは, しばらくは例外としておきましょう. 最後に述べます.

 

  力のつりあい

  物体には, 他の物体から力がはたらきます. 机の上の木片は, 地球から引かれていて, 机から押されています. この二つの力を描いてみましょう.

  重力は木片の重心(中心あたり), グリグリと作用点を描きます.

  机のような面から, 物体が押される力を抗力といいます. 机からの抗力は, 木片が机に触れているすぐ近くの木片の中に, グリグリと作用点を描きます(作用反作用の). この力が木片にはたらいていることをはっきりさせるためです. 抗力は机から木片にはたらいていて, この力は木片の「所属」になります. 

  机にはたらく力は, 木片が机を押す力で, その作用点は, 机の表面近くで, 木片のすぐ下にグリグリと描きます(作用反作用の図の2). この力には重力とか抗力とかいう名前はついていません. この力を重力だと思っている人がいますが, そうではありません. 力のつりあいの図の3と, 作用反作用の図の2の相違を確かめておきます. この力は抗力(作用反作用の図の1)の反作用です.

  木片にはたらいている力は, 重力(力のつりあいの図の3)と, 机からの抗力(作用反作用の図の1)です. この2力が木片の所属になります.木片にはたらいているこの2力は,ちょうど, 打ち消し合うようにはたらいていて, 木片は, 力がはたらいていないのと同じ状態(ここでは木片の変形は考えません)になっています. このような力関係を <木片にはたらく2力はつりあっている>といいます(力のつりあいの図). 

  生活用語では, 等しいという意味を, つりあっている,と表現することがあります. その意味でいえば, 作用と反作用の2力も, 等しいので, 「つりあっている」ことになりそうですが, 学術用語には厳密な定義があります.

  作用反作用の力の一つは木片に, 他の一つは机に, はたらいています(作用反作用の図). 二つの力は別のものに所属している(1は木片, 2は机)ので, 比較しても意味がありません. 2力をたすとプラス, マイナスで0になる?  Oh, No! この二力は<たせない>のです. 隣の家の財産と,自分の家の負債を足してどうなるのですか!        

  作用反作用は如何なるときにもなりたっている, 力の大原理です. 例外なんていうものは存在しません. これに比べて, 2力のつりあいは, たまたまそうなったという特殊な場合であって, 単なる法則です. 格が違います。

  少々, くどい述べ方をしましたが, この両者の区別がつくようになったら, あなたの力学観は1級です.     

 

  作用反作用の問題点

  作用反作用には種々の誤解があります. これらを, 正しく理解している物理学者は少いようです. 作用反作用に関しては,学習指導要領(COS)や教科書も不十分です. 民間団体の主張にも問題があります. 確実に理解しているのは, 千葉科教協の物理サークルと群馬理科サークルの他には, 殆ど見あたりません(筆者の認識の狭さであればよいのですが…).

  作用反作用に関して以下の事柄を理解できれば, あなたの力学観は特級です.

  この問題点を4つにまとめてみました.

 

  (1) 同等性

  作用と反作用には, どちらが作用で, どちらが反作用で, という区別がありません. 高校物理の教科書にもどちらを作用, どちらを反作用と呼んでもよい”と書かれているものがあります.

  人が壁を押す場合には, 人が壁を押す方が作用で, 壁が人を押す方が反作用であると考えがちです.

  生徒が掃除で机を運んでいます.この場合,生徒が机を運ぶことには目的的に意味がある(その生徒は当番で, 教室をきれいにしなければならない)ので,生徒が机を押す力が作用で, 机が生徒を押す力(机が生徒に押される力ではない!)が反作用で…,と考えがちですが,そうではありません.

  原因だとか経緯だとかをいえば, 作用と反作用には区別のようなものがあって,  同格とはいえません.しかし, 物理的には力のはたらきは同等なのです. 上の例でも, 掃除の生徒は机に押されることなく机を押す”ことはできません. 一人芝居はできないのです.

  アメリカの物理の教科書に, You cannot touch without being touched. というステイトがあります. 触れられることなく触れることはできない, のです.押されることなく押すことはできない, のです.touch には 触れる, の他に, 押すという意味もありす.                           

 

  (2) 同時性

  同等性は同時性をも内包しますが, この辺には, 特に誤りが多いので, 項を改めて解説することにします.

  ばねにおもりが吊るされています. “おもりに引かれて伸びたばねは, 元の長さに戻ろうとしておもりを引き返す” という「解説」を見かけることがあります. この表現の<引き返す>に問題があります.これでは,おもりに引かれてばねが伸びる, という現象がまず起き,そのことがおもりを引く力をばねに誘起する” ことになります.これでは,作用が先にあって, 反作用は後からはたらく…と, 両者の間にタイムラグ(時間のズレ)があることになります.作用と反作用は同時に起きるのです.

  上のように書いた教科書を出版した会社に,このことを述べたところ,“こうすると, 生徒さんにわかりやすいので…”という回答がありました. 「教育的配慮」がこうさせたことになります. でも, この主張は学問に対する冒涜であり, 生徒に対する侮辱である”と思われます.    

 しかし, これは日本だけのことではなさそうです. 英国で物理の教科書にはこうありました.

  Newton's Third Law states that if one body pushes on a second body, the second body pushes back on the first with the same force.

Physics(CAMBRIDGE COORDINATED SCIENCE) p45

  push(押す/作用)によって, push back(押し返す/反作用)が起きる, ということになります.“ケンブリッジよ, お前もか!”といったところです.

 

  (3) 直接性

  地上の人が, 綱でボートを引いています. このとき人とボートの引っぱりあいが作用反作用”である, と絵を添えて説明している教科書や参考書を見受けます.  この人は, ボートを引き寄せようとしていますが, 人がボートに力を加えた, と言ってはいけないのです. 力学的には<人と綱>は作用反作用の関係で, <綱とボート>は作用反作用の関係ですが, <人とボート>は作用反作用の関係にはありません. 人はボートを引いてはいないのです. この種の誤用例は多数見受けられます.

  動力学での典型的な誤りを紹介しておきます.

“大型の扇風機を積んだ帆掛け船で, 扇風機の風を帆に当てて船を前進させられるか?” という科学クイズがあります. “扇風機と帆が及ぼしあう力は作用反作用なので, それはできない” が正解だというのです.

  玩具の模型でやってみればわかる, という丁寧なコメントを添えた参考書がありました. そこで…, 百均で小型ファンを購入し, 大小のトレイの大きい方を船に, 小さい方を帆にして,水槽で実験してみました.

  帆と扇風機の位置関係で, 船は前進も後退もし, 微妙な調整をすれば, 風を送りながら船を止めておく, こともできました. このことを, その出版社へは連絡しましたが…, さて, どうなったと思いますか. 

 

  (4) 原理性

  ものとものとは, 同じ大きさの力を及ぼしあいます.

  このことは, 自然の原理ですから, 他の事柄から説明できないのです. どうしてそうなるか, ではなくて, そういうものだ, と経験を通して納得することなのです. 

 ニュートンは1665年に万有引力を発見しました. 大きな地球と小さい物体が,同じ大きさの力で引き合っているのです.

 接触した二つの物体でも, 同じ大きさの力を及ぼしあう作用反作用の法則は, 運動の法則の第3則として, 1687年に, これもニュートンによって記述されました. 前の発見から, 発展的に誘導されたのでしょう.

  これらは科学的原理の発見です.

  万有引力の原因は, 他の何かから誘導されるものではありません.

  二つの物体の, 押し合いや引き合いが, 同時に, 同じ大きさで作用しあうという作用反作用を, 他の法則などから説明できるものではありません.

  “伸びたばねは元の長さに戻ろうとして, 引っ張り返す”という説明的な解説は無意味(ナンセンス)なのです. しかも, このような擬人的な記述は, 科学のそれとしては, 全く不適切です. 

 

  認識の変化                                                   

  伸びたばねは 元の長さに戻ろうとして縮む,  という表現は,

  高所のりんごは元の位置に戻ろうとして落ちる, というアリストテレス式の「理論」と似ているとは思いませんか. この論理によると,りんごのように, ものにとっては地上が本来の存在位置であって, 物体は自ずからの立場でそうなるのです. (民衆の地位・状況は決まっているとする思想です!) 

  ニュートンによると, りんごが落ちるのは, 重力に引かれるのであって, 彼は, 物体の運動の変化は力によって起きる, ことを解明したのでした.

  アインシュタインによると, 地球とリンゴのように, 離れているものが力を及ぼしあうのは不合理なのです.地球の周囲には重力場が存在して, 物体は, 離れている地球からではなく, この接触している場から力を受けるのだ, というのです. 

  更に, 量子力学になると. 物体同士は「無数の」グラビトンという量子(粒子)の交換によって重力が媒介される, ということになります. リンゴとグラビトンが作用反作用し, そのグラビトンと地球が作用反作用して, リンゴと地球の相互作用(重力)が起きるというのです. 量子の作用なので, 重力も確率的にはたらくのです.  このように, 重力の理論(説明)も変化していきます. 前の学者の理論は, 後の学者の理論によって改訂されるのです.

  アインシュタインは6歳の時, 父親から与えられた羅針盤が, 何にも触れていないのに動くのを不思議に思った, ということを, 寺田寅彦が随筆に書いています. それを「契機に?」相対論に到達したアインシュタインも, 量子力学は理解できなくて神がサイコロをふることはない”(事象が確率的に起きることはない) , マックス・ボルンへの手紙に書いています.

 

  おわりに

  この講座のはじめの方で, 物体同士は接触することで力を及ぼしあい, 離れていても力を及ぼしあう重力(と電磁気力), 例外として扱うことを述べました.

  しかし, 今日的視点では, 例えば, グラビトンという粒子が, 万有引力を媒介し,フォトンという粒子が電磁気力を媒介するというのが, 量子力学的見解です.  

  16万光年もの距離にある大マゼラン星雲の超新星の爆発を, 地球上の人間が目撃できる(もちろん, 増幅器を使って)というのは, これらの天体間にはたらく電磁気的な力を光子(フォトン)という量子が結んでいるということになるのです.

  星雲-光子(フォトン)-地球(の人間の目)    [電磁気力] 

  地球-重力子(グラビトン)-地上の物体     [重力]

  このように, 力はものとものとが直に触れ合っている時にのみ作用することを強調して, この稿の締めくくりとします.

理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

作用反作用
2力のつりあい

理科実験についてのお問い合わせ等はメール・掲示板にてお願いいたします。
掲示板 石井信也