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掲示板 | 石井信也 |
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(6)実践記録 作用反作用 M-114 No336 2011年12月8日(木)
ある日の授業で
図1のような装置を見せて質問しました.(図1略 以後同じ 鉄製スタンドにゴムひもが吊るされています。ゴムひもの下の方は紙筒で覆われています)
T ゴムひもは何にひっぱられていますか.
P 物体.
P おもり.
P 重力.
P 引力.
T 重力と引力は違うの?
P 重力はおもりが自分で落ちようとする力で, 引力は地球がひっぱる力.
T 地球が何をひっぱるの?
P おもり.
T じゃあ, おもりには2つの力(重力と引力)が働くの?
P (黙っている)
T では, ゴムひもが何にひっぱられているかというときの, おもり, 重力, 引力というのはみんな同じような表現だと思ってもいいの?(どうやら, 重力というのは質量といったニュアンスのようです).
P
まあネ.
T
じゃあ, 当面, ゴムひもをひっぱるのはおもりだということにしておこう.
ところで, ゴムひもをひっぱっているのはおもりだけ?
P
重力(笑い).
P
ア, 天井.
P
天井? 天井は支えているだけじゃねーか.
T
支えているっていうのは, ひっぱっていることじゃないの?
P
(発言がない).
T
天井にひっぱられていないとゴムひもは?
P
落ちちゃう.
T
では, ゴムひもに働いている力を書いてみよう(図2) 力の矢印はゴムひもの両端から書きます.
力にはその説明を書き添えることにしましょう.(クラスによっては)「ゴムひもの重さは?」という質問がありましたが, 小さいので省略しようということにしました).
T
この2つの力でひっぱられて, ゴムひもは…
P
のびている.
P
ゴムが縮もうとする力は?
T
それどこに働くの?
P
ゴムの中.
P
両方からひっぱられているところから.
T
こんな具合かな?(図3)
P
それがつりあっている.
T
それじゃあ, 力が働かないのと同じになっちゃう.(生徒が言っている内容な内力のようなものかと思います.
これについては触れないほうがよいと思ってほこさきを躱しました).
T
おもりの代わりに手でひっぱってみよう.グッと伸ばすと, ゴムひもは縮まろうとして何をひっぱるの.
P
手. (また, 天井は無視されたが).
T
ゴムひもは縮まろうとして手をひっぱったんだよ. では, 次の問.
おもりは何にひっぱられていますか?
P
ゴム.
T
それだけ?
P
おもりの重さ.
P
重力(ちょいと笑い).
T
(笑えないところなんだが, えーイッ, パスしてしまえ!)おもりに働いている力は, ゴムひもがおもりを引く力と, おもりに働く重力だね.(図4)
重力の矢印はおもりの真ん中から書こう.
次に天井は何にひっぱられている?
P
おもり.
P ゴムひもを通しておもり.
T (図5のような装置を見せて)天井の代わりにひごを使ったんだが, ひごは何にひっぱられている?
P
中はどうなっているの?
T
ノーコメントだ.
P
じゃ, クイズになっちゃう.
T 何でもいいや. 答をノートに書いて.
(次のような答が出ました).
・糸の先にういているおもり(多数).
・重力(2人).
・中を見ないと答えられない(1人).
筒を除くと糸の先は下の台にセロテープでくっついています).
P
ナーンダ.
P
揺れないんでおかしいと思った.
T でもさ, 中を見なくてもひごにはちゃんと力が働いていただろ. だから, ひごをひっぱっていたのは?
P
糸(ツメバラを切らせた感じ).
T
糸の先に何がついているかなんていうことに関係ないんだ. ここが大切.
ものはじかに触れている他のものから力を受けるということです.
P
(発言はない).
T
何か文句ないかな?
P
磁石は?
T
ウッ. それは例外だ.
P
重力は?
T
ウッ! (困ったふりをして)それも例外!
P
(ウサンクサソウニ)変ナノ.
T
もう文句ないか? (電気力は出てこない) では,
ノートに書こう(下記).
ものはじかに触れている他のものから力を受ける.
例外 (じかに触れていなくても力を受ける場合):磁石の力, 重力(または引力)
じゃ,さっきの問いに答えを図に書こう(図6).
天井の重さは考えないことにする. 最後に一つの図の中に力をみんな書こう. ここで, 互いに引き合っている(押しあっていてもよい)2つの力を作用反作用といいます. 作用反作用の関係にある力をノートに書きなさい.
答 ゴムがおもりを引く力 と おもりがゴムを引く力
糸が天井を引く力 と 天井が糸を引く力
作用と反作用の大きさはいつでも等しいことがわかっています. 力の向きは一直線上にあって, 互いに反対です. これを作用反作用の法則といいます. ノートに書きましょう.
この後, ここで出てきたおもりの重さは重力のことで,
地球がおもりをひっぱっているので引力ともいうこと(万有引力の話は後日)を説明し, だけど,
これから当分 "地球が物体(おもり)を引く力" と呼ぼうと約束しました.
いくつかの問題点
この授業にかかわって, いくついか付記しておきます.
@ まず,磁石の力と重力を例外として取扱ったことに関して.このことについては科教協旭川大会で批判を受けました.私としては,この「直達力」が場という概念によって例外ではなくなるという物理学の発展を指導の流れの中に位置づけたいと思っています.すべての力をうまくひろいあげるのに,この取り扱いは効果的です.
A “糸がおもりを引く力” はおりに働き,“おもりが糸を引く力”
は糸に働いているというのは自明だと, 私は思っていましたが,
そうではなさそうです. 「AがBを押す力, という力はどこに働いていますか」とう問に関して, 一つの集団(準看護学校の生徒,
50名, 中卒:高卒=1:2)から得た答えは,Aに働いているが1/3, Bに働いているが1/3, AとBの間に働いているが1/3でした.
放課後, 特別指導をした生徒の一人 N
のノートには次のように書かれていました.
「AがBを引く力と,
BがAに引かれる力は同じだけれど, AがBを引く力と, AがBに引かれる力は別ものだ」
B
“どこまでを一つの物体とみるか”ということは,
はっきり教えなければなりません. おもりにフックがついている場合, 必要があれば, おもりとフックを別々に考えてもよいわけです. 上記の授業の例で, おもり,
ゴムひも, 天井,
を一つの系として捕らえれば, それは単に地球とのひっぱり合いだけになるとうことです.
かって, 次のような指導をしたことがあります.(図8)
上の例(おもり,ゴムひも,天井)から,
ゴムひもを糸に変える. 次に黒糸と白糸をつないだものを使う.
次に白糸の半分をマジックインクで黒く塗る. 最後に白糸の半分を黒く塗ってあると思う(思うだけ). 内力(または応力)−糸の各部分はひっぱり合っているということを教えることは,どこまでを一つのものとみるかということを捕まえさせるためにも役立ちそうです.(今ではこの部分は止めています) ただし,
この辺が, 作用反作用と2力のつりあいをごちゃごちゃにさせている一つの原因にもなっていることは否めません.
教研のレポートの中にはこの種の混乱がいつでもみられます.
C “天井は支えているだけ”
という生徒のことばに生徒の “力観” がうかがえます.生徒たちは力を発揮するものとして, 人間, 動物,
モーター, ばね, 地球等を考えています. 力を動力というイメージでとらえている者が多いということです.
机や天井が他のものに力を及ぼすということを「チートモ知らなかった」という状況です.「気分が悪い」という生徒もいます.
D 重力を “地球が物体を引く力”といいますと, その反作用 “物体が地球を引く力”が,見えてきます. ですから,
名詞化された力をもとの言葉で言い直すことには意味があります. さて, 次の言葉はどういうことになるでしょう.
反作用が見えてくるでしょうか.
浮力, まさつ力, 抗力,
磁力, 遠心力, ローレンツ力, …,
私は生徒にこのような○○力という言葉はなるべく教えないようにしています.(アリストテレス的な○○しようとする力はもちろんです)
もう一つ, 力の働き方についての日常的な表現は, 支える, おさえる, まげる.
打つ, 蹴飛ばす等々多様ですが,
これらも押すと引くにわけて言い直すことにしています.
E 授業の例で, ゴムひもをひっぱっているのはおもりであって,
おもりに働く重力ではない(天上は考えない)ということをわからせるには時間がかかります. 詳しいことは第2則が出てきてからということになります.
ここでは装置を横にすることで, ある程度の理解は与えられます(図9),
作用反作用は運動状態で
作用反作用の法則は,
静止状態にある物体間の力の及ぼし合いで成り立つだけではなく,運動状態にある物体間の力の及ぼし合いでも成り立っていることを確認させることが大切です.この点,大津教研で私教連から出された実験(『理科教室』221号)はすぐれています.私の学校では,これを生徒実験でやらせますが,子どもがむきになってやるときには教師の想像を遥かに越えたことをやらかすことは,私たちがいつも経験するところです.
さて,各班に力学台車2台を与え,
別にたくさんのレンガを用意しました.
「いろいろなやりかたでやった班がチャンピオンだ」という励ましの言葉の後は全く自由にやらせました.
この実験の原理を説明しますと,台車に仕掛けた棒が,衝突によって押し合うことによってばねが縮み,その縮みを棒に嵌めた紙の移動で測ろうというものです.つまり,ばねが一種の押しばかりになっているのです.ですから,2台の台車に用いるばねは同じ強さのものでないと駄目です.
さて,この実験の結果はといいますと…
1977 6/8
1C 1班 青木賢・猪瀬・今井
パタン 回数 A B パタン 回数 A B
@ 1 36 37 D 1 18 19
2 42 41 2 17 18
3 36 36 3 24 24
A 1 30 28 E 1 7 7
2 34 29 2 10 11
3 37 36 3 7 8
B 1 15 14 F 1 10 10
2 21 20 2 16 15
3 30 30 3 13 13
C 1 27 28
2 30 32 距離は単位mm
3 30 28
<まとめ>
だいだい数値がA・Bとも同じだった.
どんな条件でやっても同じだった.
<感想>
みんなよく協力してできた.
この実験で,作用反作用の性質がよくわかった.少し誤差が出たが,よくできた.
これは一つの班のレポートです.班によっていくらかのニュアンスが違います.
9班は20種類のやりかたでやっていますが, データは1種類について1つだけです.
一方の台車(たとえばA)を固定してしまって実験した班がいくつかあります(図11). もちろん結果は同じです.
ところが, 同じ設定ですが, ぶつける方の台車(たとえばB)をぶつけるのではなくて,
手でぐっとAに押しつけた班があるのです.
"静力学は動力学に含まれる" ことを私は教えられたような気がしました.
次は2班. 2つのばね(棒もその一部と考えて)は直接に触れ合わなかったので, 作用反作用の法則は成立していないように見えます. ところが, これをみんなに紹介すると, 小熊が言いました. 「でも,Bの棒と台車Aの間では成立しているよ, きっと」「そうだね. それからAの棒とバリケードの間でもね」と私はつけくわえました.
6班にはこんな感想が書かれていました.
「自動車事故を考えると,A, B同じ力を受けるのはおかしいように思えるが,
大型ダンプと小型車がぶつかった場合, 受ける力は同じだが,
大型ダンプはあまりこわれないのに,
小型車は作り方が弱いのでめちゃめちゃになってしまうのだと思う
ちっともむずかしくない
ご存じのように, 小, 中,
の学習指導要領が改訂されました.
中学の新旧指導要領の力の部分を比較してみますと,
新
旧
(2)力
(3)力とエネルギー
観察や実験を通して, 力の基礎的な 力と熱の基本的な性質を理解させ,
エ
性質, 2力又は3力が1点にはたらくとき
ネルギーがいろいろなすがたに移り変
の力のつり合いの条件及び圧力の強さ
ることについて初歩的な見方を養う.
や伝わり方について理解させ, 力の量
的な見方を養う.
ア 力のはたらき
ア 力
(ア) ばねの力を加えると, ばねが変形
(ア)物体を押したり引いたりするとき,
すること.
その物体からも力を受けること.
(イ)帯電体どうし及び磁石どうしは, (イ) 帯電体どうしは,空間を隔てて互
空間を隔てて互いに力を作用しあう に力を作用し合うこと.
こと.
(ウ)以下略 (ウ)以下略
(ア)の部分を見比べてもらえばわかるように, 接触力についての作用反作用は指導要領から姿を消してしまいました.
今までも不当な扱いを受けて来たのですが, 遂に,
葬り去られてしまったという感じです. 教科書などで,
とかく問題にされたところなので「配慮」されてしまったのでしょう.
教室には,大きな石ころやレンガやブロックをたくさん用意しましょう.g級, kg級のばねばかりを各種とり揃えましょう.
吊りばかりだけでなく, 押しばかりも用意しましょう.
体重計(ヘスルメーター)は理科室では必需品です.
「4kgの力で黒板を押してみよう」「10kgの力で友達をひっぱってみよう」なんていう課題を出して1時間ゆっくり遊ばせたらどうでしょう. 「ひっぱられることなしに,
ひっぱることはできない」「押そうと思ったら押されなければならない」という作用反作用はやさしい原理です.原理が一般にそうであるように…
中学校ではもちろん,小学校でもやさしく教えられることを実践で示して,この歴史に残る学習指導要領の失態を弾劾したいものです.